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国王救出作戦2

 温泉特有の、卵が腐ったような臭いにやられるビビディ。

 あまりの臭さに少しキレ気味でもあった。

 こんな所に国王は居るのか?

 ビビディの心配を他所に、猫田は草津へと偵察に向かった。


 戻ってきた猫田から、国王の無事を聞かされたズンタッタ達は、涙を堪えて喜びに浸る。

 しかし、やはり国王の周りには敵兵が多く、一筋縄ではいかない事が分かった。


 国王救出作戦はズンタッタ達の陽動の隙を突いて、僕達が国王を奪還するという事だった。

 ズンタッタ達に召喚者が多く集まる事を想定した僕は、道中で手に入れたクリスタルを大量に使用して、使い捨ての武器を作った。


 夜になり住民達が寝静まった頃、作戦は始まった。

 先に侵入した僕達が国王の居る宿に到着すると、ズンタッタ達の陽動が始まる。

 多くの兵が入口へと向かっていくのを確認した後、宿を守っている敵兵を兄が行動不能にしていく。

 全員を倒し、敵が立ち向かってこない事を確認した兄は、いよいよ宿の中に入る事にした。





 中に入ってみると、豪華というよりは趣のある宿だなという印象だ。


「誰か居ますか〜?」


 目の前にはカウンターのような所があった。

 中を覗いて受付嬢とか居ないか探そうとしたが、カウンターが俺の背より高い。

 行儀は悪いが、仕方なくカウンターに上った。


「誰も居ないのかな?」


 すると中から、小銭が落ちたような音が聞こえた。

 中に兵が居ても困る。

 いきなり無警戒に国王の部屋へ向かおうと、後ろや目の前の部屋からバッサリなんて事も無いとも言えない。

 あまりやりたくなかったが、従業員が待機する小部屋のような所へ入って行った。


「ヒッ!」


 暖簾を潜ったその先には、従業員らしきドワーフが二人、隅っこで縮こまっていた。


「あ〜、驚かせてごめんな。キミ等には抵抗されない限り、危害は加えないから」


「子供の声?」


 俺が話し掛けたからか、少し落ち着きを取り戻したようだ。

 こっちを向いて、少し驚いた顔をしている。


「キミは強盗?」


「強盗なんかじゃねーよ!俺、阿久野。魔王ね。此処に泊まってるというか、捕まってるというか。帝国の国王居るでしょ?」


「ま、魔王!?」


「そういうの良いから。ちょっと国王助けたいんだよね〜。連れて帰るから、抵抗しないでね?」


「この子が強盗っぽい魔王様で、お客様を連れて帰りたい?」


 あ、駄目だこの人。

 もう頭がテンパってるのが、俺でも分かる。


「そうだな。今度来た時には、国王の今回の宿泊費込みで、泊まりにに来るから。美味い飯でも用意しててよ」


「御予約でございますか?ありがとうございます。お名前は阿久野様でよろしいでしょうか?」


 テンパってる人の横で、もう一人がメモを取り始めた。

 なんとも商魂逞しい人だ。


「それで良いです。人数はまだ決めてないけど、この一件が片付いたら、必ず来るから。ちなみにもし部屋が破壊されたら、帝国の方に請求して下さい」


「かしこまりました。お客様の部屋は、二階の一番奥になります」


「ありがと!ついでに前払いで、このクリスタルあげる。クリスタルの値段知らないけど、多少は前金になるでしょ?じゃ、また今度!」





 二階に上がると、案の定というべきか。

 他の部屋には、かなりの兵が待機していた。

 大半が面倒だったので、鋼鉄製のハンマーでお腹をぶっ叩いたりして、行動不能になってもらった。

 運が悪ければ内臓破裂。

 良ければ骨が折れてる程度で済むだろう。


「あの部屋か」


「お待ち下さい」


 猫田さんが、俺の影から頭を出してきたり

 先回りして、王が連れ去られないか見張っているはずだが、此処に居るという事は心配無いという事か?


「手前の部屋に、召喚者が二人ほどおります。そのまま向かうと、背後から襲われるかもしれません」


 なるほど。

 最後の番人的な感じかな。


「強そう?」


「それは私に聞かれても・・・」


「強かったら、さっさと国王連れて逃げたいんだけど。分からないならしょうがないか」


 背後から襲われるより、先に相手にした方がマシ。

 だったらこっちから、その部屋に行ってやろう。





 この部屋だな。

 俺は三回ノックした後、返事が来るか待ってみた。


「どうぞ」


「おぉ!予想外に返事が来た!」


「罠じゃないですよね?」


「罠を用意するなら、返事しないで入れさせた方が確実じゃない?」


 猫田さんは心配そうにしているが、返事をしてくれたのに開けないのも失礼だ。

 このまま通り過ぎるというのは、ピンポンダッシュに等しいと悪戯だと思う。


「失礼しま〜ウェイ!」


 扉を開けると、そこには大きな斧が振り下ろされるところだった。

 驚きのあまり、ウェイ!とか言ってしまったじゃないか!


「チッ!ノックするくらいのアマちゃんだから、簡単に引っ掛かると思ってたのに」


「ほら!罠だったじゃないですか!」


 猫田さんは俺の行動に、少し不満があるらしい。

 まあこの人は、極力誰にも見つからずに行動するのが基本だから仕方ないが、俺はそういうの苦手だ。

 それに国王を連れてとなると、追いつかれる可能性だってある。

 だったら最初から、追手が来れないようにすれば良いのだ。


(脳筋思考とも言うがな)


 うるさいな。

 間違ってないだろ。

 それよりも戦闘に集中しないと。


「斧の二刀流か。ん?刀じゃないから二オノ流?そういうの何て言うんだろ?」


(全然集中してないじゃないか。それなら二本持ちで良いだろ)


 二本持ちか!

 分かりやすいな。


「おい。このガキ、絶対馬鹿だぜ。俺等を目の前にして、くだらねぇ事言ってやがる」


「後ろの獣人にも、警戒しておきなさい。何かしてくるかもしれないからね」


「それもそうだ」


 ふむふむ。

 このムキムキマッチョの色黒斧二本持ちが、前衛か。

 そして後ろの細身の嫌味ったらしい喋り方をする男が、後衛なんだろう。


「斧持ちは力自慢なのは分かったけど、アンタは何が出来るのかな?」


「馬鹿なんですか、この子は。相手に自分の手札を見せるはずが無いでしょう」


 うわっ!

 コイツ、めっちゃ嫌いなタイプ。

 溜息なんか吐きやがって。

 両手をポケットに入れたまま出さないし、完全に見下してやがるな。

 こっちも嫌がらせで、いきなり鉄球ぶち込んでやろうかな?


「テツ!この子、何かするつもりだよ!」


「おうよ!」


 後ろの男の声に、手前の色黒マッチョが斧を振り回してきた。

 このまま後ろに下がると、扉が破壊されてしまう。

 俺は不利を覚悟で、テツと呼ばれたマッチョの脇を潜り抜けて部屋へと侵入した。


「馬鹿だなぁ。自ら前後に挟まれる形を取るなんて」


 嫌味男が薄笑いを浮かべ、馬鹿にした目で俺を見ている。

 マッチョは逆に、脇を潜り抜けられた事で少し警戒心を持ったようだ。


「シゲ、気を付けろよ。俺の斧を避けて、中へ入ってきたんだからな」


「分かってる。でも、二人でなら何とかなるさ!」


 嫌味男が片手を、ポケットからサッと出した。

 すると、顔の横を何かが通り抜ける。

 避けた先には、糸のような物が伸びていた。


「鞭?」


「残念。間違いだ」


 背中の方で、何かがガリガリ削れている音が聞こえる。

 何だこれ?


「うおっ!あっ!懐かしい!」


 その削っている音がまた近付いてきたので、脇に避けると見覚えのある物が嫌味男の手元に戻ってきた。


「ヨーヨーかぁ。しかも、回り続ける新しい方ね」





 猫田さんは挟まれた俺を、ハラハラしながら見ていた。

 何か手助けをした方が。

 そんな事を考えていそうだったので、軽く手で制止しておく。


「斧二本持ちとヨーヨー使いね。なかなか面白いコンビだけど、アンタ等強いの?」


「手も足も出せないガキが、余裕こいてる暇あるのか?」


「答えてくれねーの?」


「教える必要は無い。それは身を以て知るべきだろう?」


 嫌味男は左手も出してきた。

 二人とも二本持ちって事ね。

 ヨーヨーがかなりのスピードで、俺の頭と脇腹を通り過ぎる。

 なるほど、回り始めると刃が出てくるのか。

 ギリギリで避けると、危ないのは分かった。


「ヨーヨーに気を取られてていいのか?」


 後ろから斧が、ブンブン振り回される。

 俺は二人とも見る為に、身体を半身の姿勢にした。





「それだけなら、ずっと当てられないけど。アンタ等、何クラス?」


「余裕ぶってるだけの事はある。だけど、まだ甘い!」


 振り回す斧が俺を叩き潰す動きから、何かを変えた。

 少し注意して見ていると、ヨーヨーが削った石を、斧がこっちに打ってきたではないか!

 片手で石飛礫を飛ばしてきつつ、片手は直接狙う。


 そしてヨーヨーも斧で弾かれたり、椅子の足に引っ掛けて軌道を変えたりして、今までと違う形で襲い掛かってきた。


 二人とも曲芸みたいな動きだけど、なかなか読みづらい。


「凄いな。日本に帰って公園でやってたら、お金貰えるレベルだぞ」


「何をアホな事を!」


「今更日本に帰れるわけ・・・日本?」


 嫌味男がヨーヨーを止めた。


「シゲ?」


「何故日本を知っている!?」


「俺、元日本人。現魔王。あーゆーおーけー?」


「なっ!?コイツが魔王!?」


「噂では聞いていたが、本当にガキだったんだな。しかも元日本人ときた」


 マッチョも斧を下ろした。

 もしかして、見逃してくれる系?


「テツ、俺達は運が良い」


「何がだ?」


「魔王を倒せば、貴族も夢じゃないぞ!」


「それもそうだ!」


 あ、結局はそうなるのね。





 再開された攻撃を避けつつ、俺はまだ新しい攻撃が来ないか注意していた。


「もうこれ以上は無さげ?」


 二人は返事もしてこなくなった。

 マッチョも嫌味男も、汗をかき始めた。

 余裕が無くなってきたのかもしれない。


「大体分かった。お前等、Bクラスってヤツだろ?」


「何故そう思う?」


「だって、前に見た柔道男とかやたら目が良いババアとかより、全然レベル低く見えるから」


 あと足が速い奴も居たけど、あんまり覚えてないな。


「でも、お前を倒せばAクラスは確定だ」


「ハッハッハ!夢を見るのは構わないけど、その為にはもっと強くなってから言えよ!」


 斧がヨーヨーを、こっちに向かって打ってきた。


「知ってる?俺が日本で何してたか。知るわけないよなぁ」


 避けたヨーヨーが、嫌味男の手元に戻る。


「今からヒント出すから。頑張って当てろよな」


 嫌味男から放たれたヨーヨーが、脇腹を再び狙う。

 俺は持っていた鋼鉄でバットを作り、咄嗟にそのヨーヨーを狙い打った。


「狙い通り、直球ど真ん中ぁ!」


 ピッチャーライナーの如く、今までの比じゃないスピードで戻るヨーヨー。

 回転が増してドライブが掛かり、本人にもその軌道が分からなかったようだ。


「シゲ!」


 嫌味男はヨーヨーを受け止めた。

 自らの顔面で。

 刃が顔に突き刺さり、彼は何も言わずに倒れた。

 大量の血が地面を濡らし始める。


「あちゃー、予想外にドライブ掛かったなぁ。まあヨーヨーなんか打った事無いし、仕方ないか」


「貴様ぁ!」


 斧が俺の頭を狙ってきたので、そのままヨーヨー男の方へとひとっ飛びで離れた。

 そしてヨーヨーを拾い、全力でマッチョに向かって投げた。


「え?」


 ヨーヨーは、投げたスピンで刃が飛び出す。

 その刃の影響か、全く予想だにしない変化をして、また思ってもみない事が起きた。


「も、もしもーし?いや、これもう駄目だよね・・・」


 何故か浮かび上がったヨーヨーは、嫌味男と同じように顔面に突き刺さる。

 軽く呻き声を上げた男は、そのまま倒れ、しばらく痙攣した後に動かなくなってしまった。


「流石です!」


 猫田さんは二人とも一撃で倒した俺に、称賛の声を掛けてくれた。

 ヤバイ。

 狙ってなかったのに、こんな結果になるとは。


「まあね!俺、魔王だから。これくらいはどうって事無いのよ」


「又左様や佐藤殿達も物凄い強者ですが、魔王様はやはり別格だと、改めて認識致しました。私如きが心配するなど、おこがましかったと反省しております」


「いや、心配してくれるのはありがたいので。全然良いです。それより、隣の部屋に早く行こうか」





 とうとうこの先に、国王が居る。

 俺からしたら全然知らんおっさんだが、ズンタッタ達はこのおっさんを探して、長年俺達に協力してくれていた訳だ。

 それを考えると、少しは思うところがある。


「よし、開けよう」


 中にもまだ敵が居るかも。

 少し警戒しながら開くと、そこには剣を持った女性二人とダンディーなイケメンおっさんが立っていた。


「誰だ!」


 メイド姿の女性が、剣を震わせながら構えている。

 強盗とかと勘違いしているのかな?


「俺は阿久野。魔王で安土の領主をやってる」


「魔王!?」


「ズンタッタとビビディは知っているな?俺達はアイツ等に協力を頼まれて、帝国の国王、そのおっさんを助けに来たんだ」


 その言葉に驚きを隠せない二人だったが、おっさん一人だけ堂々とした姿を見せている。

 二人の間を抜け、警戒もせずに此方へ向かって歩いてきた。

 そして俺の前で立ち止まると、俺ですら思いもよらなかった行動を取った。





「ハッハー!なんて可愛いトイフェルなんだ!」

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