表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
177/1299

草津へ

 眠瞳術という術でやられた僕の代わりに、兄が立ち上がった。

 兄は変身して戦おうとするが、失敗に終わる。

 その理由は、僕が寝ているからだと思われる。


 普通に身体強化で戦った兄は、襲ってきた山賊を眠瞳術を使う少年以外倒してしまった。

 少年は再び眠瞳術を使おうとするが、サングラスを掛けた兄には通用しなかった。


 気絶して縛り上げた山賊達を集め、起きている少年に話を聞くと、彼等は元長浜の住人だと言う。

 キツネ族の獣人と少数のヒト族で生活をしていて、自分達を追い出した秀吉を恨んでいた。

 しかし彼等を追い出したのが、以前秀吉を幽閉していたアナトリーの仕業だと判明する。


 秀吉を恨んでいた彼等は、長浜から来るネズミ族とヒト族だけを襲い、一般人には手を出さなかったらしい。

 それを聞いた兄は、長浜へ戻る事を提案する。

 しかし、目を覚ました山賊の頭領であるアニキと呼ばれる男は、その答えを渋っていた。

 その理由は、ヒト族の連中が路地裏生活していたという事だった。

 そこへズンタッタは、多種族が共生している安土への移住を提案した。





「それは良い!ズンタッタの考えも悪くないと思いますが?」


 ビビディがそんな事言い始めた。

 確かに安土なら、獣人だろうがヒト族だろうが、関係無いな。


「安土?」


「俺の領地だ」


「キミって領主様なの!?」


「俺は阿久野。これでも魔王だからな!」


「ま、魔王様だとは思いもしなかった・・・」


 縛り上げられながらも、何故か正座を始める一行。

 そんな事はしなくていい。


「まあ、安土ならヒト族だろうが獣人だろうが関係無いな。小人族だって居るし、若狭から妖精族もたまに来る。多種族が居るぞ」


「ちなみに我々も帝国の人間だが、今は安土で生活させてもらっている」


 ビビディの言っている事が信じられないのか、俺の方をアニキが見てきた。


「嘘じゃないぞ。ちなみにこのビビディが、俺達の為に城を作ってくれたからな。凄くデカイから、見応えあるぞ」


「まさか、そんな場所があるなんて・・・」


「アニキ!オレ達もそこでなら、皆で暮らせるんじゃないかな!?」


「別に今すぐ返事をしなくても良いよ」


 明日の朝にならないと、コイツ起きないし。

 勝手に話を進めると、うるさそうだしなぁ。


「いえ!我々を安土へ連れて行って下さい!よろしくお願いします!」


「お願いします!」


 アニキの声に合わせて、皆が頭を下げながらお願いしてきた。

 ヤバイ。

 明日まで待ってなんて、言える雰囲気じゃない。

 ええい!


「ユー、来ちゃいなよ!安土へ皆、来ちゃいなよ!」


「やった!」


 皆が喜びの声を上げているが、俺の心の中は複雑だった。

 明日、何言われるんだろう。

 それだけが頭の中を巡っている。


「ゴホン!ただし!問題が一つ残っている」


「問題?」


「魔王様、作戦中だという事をお忘れではないですよね?」


「作戦?お、おぉ!アレな、草津へ行って国王助けるってヤツな」


 ヤベェ。

 その為に山越えしようとしてたの、忘れてた。

 ズンタッタがジト目で見てきているが、見ないフリをしよう。


「草津へ行くんですか?道案内しますよ」


「お前等、方位磁石が使えないのに、山越え出来るの?」


「まあ、それなりに此処に住んで長いですから」


 ほっほう。

 思わぬ形で時間短縮出来そうじゃないか。

 これなら明日、コイツ等を受け入れた話をしても、文句は少なくなる気がする。


「キミ達!見事にやり遂げたまえ!」


「ハイ!」


 良い返事だ。

 怒られないように頑張りたまえ。





「そういえばお前等、名前無いの?」


「名前ですか?ちゃんとした名前持ってるのは、コイツとヒト族くらいですかね」


「コイツ?一人だけ?」


「オレ達別に、本当の兄弟ってわけじゃないので。路地裏生活してて集まった、孤児ってヤツですかね。それでもコイツは、服に名前が書いてあったんですよ」


「へぇ、それで名前は?」


「オレの名前は石川五右衛門。長い名前で呼びづらいから、ゴエモンって呼ばれてます」


「ご、五右衛門!?」


 おいおいおいおい!

 石川五右衛門って、誰が付けたんだよ!

 というか、石川五右衛門って信長とかと同じ時代なの!?

 それすら知らんがな。


「わ、分かった。ゴエモン、よろしくな!」





 縛っていた縄を解き、一緒にメシを食べた後に寝た。

 朝になり目を覚ますと、既に身体は動いていた。


「起きたか。ごめん、やられちゃったよ」


【オゥ!気にするな。それにお前が眠る直前に、目を見るなって言ってくれたから何とかなったんだ】


「そう。それなら良かった。それで、この状況はどういう事?」


 目の前には、昨日のキツネ族の連中と少数のヒト族が眠っている。

 横には見張りの帝国兵が居るが、大して警戒している様子は無い。


【あ、それね。仲間になっちゃった。テヘペロ!】


 テヘペロじゃねーよ!

 どういう事だか説明しろよ!





【というわけでして、彼等は悪くないんじゃないかなと思った次第であります!】


 なるほどね。

 話は分かった。

 それと石川五右衛門。

 名前からすると、どっちにしろ秀吉の所に居ても幸せにはなれなかったかもね。


【どういう事?】


 石川五右衛門って、秀吉に命じられた部下が捕まえて、最期は釜茹での刑にされて死ぬんだよ。

 ちなみに家族も磔にされて、全員死んじゃう。


【何だと!?】


 まあ歴史ではそう伝えられているだけで、彼等がそうなるとは限らないけど。

 でも秀吉と直接関わらないようにすれば、そんな心配も要らないと思う。


【それなら良かった。アイツ等、話をしたら結構良い奴だったからさ。これ以上酷い目に遭って欲しくないんだよ】


 それに今思うと、秀吉ってテンジ達の事を差別してたりしたじゃない?

 同じネズミ族でもそうなんだから、種族の違うキツネ族やヒト族じゃもっと酷かったかもしれないね。


【今は反省してテンジを代理にしてるけど、溝が埋まるのは遠そうだよなぁ】


 まあ、そのおかげで半兵衛が安土に来てくれてるんだ。

 秀吉様様って事で良いじゃない。


【そうだな。ゴエモン達も面白い能力持ってるし、安土でも仕事は沢山ある。長浜みたいな事にはならないだろうから、アイツ等も楽しく暮らせるだろう】



 それにしても、僕が負けるなんて。

 兄さんが居なかったら、本当に危なかった。

 今後はもっと、慎重に行動しないといけないな。






「それじゃ、こっちです」


「こっち?太陽の位置からして、もっと東に進むんじゃないの?」


「直線上ではそうなんですが、途中で崖崩れがあります。結局遠回りなので、こっちに向かった方が早いです」


 アニキの説明に納得した僕等は、彼等の案内を信じる事にした。


「アニキ!早く終わって安土行けるといいな!」


「バッカ!お前、魔王様達の仕事の方が大事なんだから、そういう事言うなよ」


 頭に拳骨を落とされたゴエモンは、少し涙目になっている。

 ズンタッタ達が気を悪くするかとも思ったが、それは逆に闘志を燃やす結果となった。


「そうだな。ゴエモンの言う通り、さっさと終わらせて安土に帰還しよう」


「おうとも!国王様も安土なら安全だしな。ゴエモン達も、応援してくれ」


「オレ達も出来る事があったら手伝うよ!」





 しかしこの連中、山賊という割にはあまりに人が良い気がする。

 特にこのアニキという人物。

 血が繋がっていないというのに、かなり慕われている。

 余程、信頼されているんだろう。


【というかさ、ゴエモンしか名前が無いのも不便だよな】


 何?

 名前あった方が良いっていうの?


【難しい名前を決めるのも面倒だから、簡単なのを決めれば良いじゃない】


 簡単な名前?

 人の名前をそんな気楽に付けられないだろ。


【別に大丈夫だろ。コイツが五右衛門なら、アニキは一右衛門。次に年上が二右衛門。次が三右衛門ってな感じ】


 なるほど。

 石川一家か。

 面白い。

 それで行こう。


「ゴエモン、アニキ達とは家族って事で良いんだよね?」


「そうだね。オレ達は家族だ!」


「分かった。じゃあお前達は今から全員、石川一家だ」


「石川一家?」


「オレ達も石川になるんですか?」


 アニキや後ろに居るキツネ族にヒト族も、全員が不思議そうな顔をしている。


「そうだ。アニキが一家の主で良いんでしょ?」


 ヒト族の中には、アニキよりも年上っぽい人が居る。

 だが、その人もアニキの指示に従っていたので、おそらくはアニキがリーダーなんだと思う。


「オレが主?」


「そうだよ!皆、アニキの言う事を聞いて付いてきたんだ。おかげで山の中の生活でも、誰も死んでない。アニキがオレ達の主だよ!」


 キツネ族だけでなく、ヒト族の人達もそうだと声を上げている。

 これなら誰も異論は無いだろう。


「決まりだね。アニキ、キミは今から石川一家の主だ。名前は石川一右衛門」


「オレがイチエモン・・・」


「次に年上になるのは、ヒト族の貴方ですか?」


「えっ!?あ、あぁ、そうです」


 まさか声を掛けられると思ってなかったようで、返事の声が裏返っている。

 アニキだけが、名前を付けられると思っていたようだ。


「じゃあ貴方が石川三右衛門ね。次に年上の人。というか、年齢順に一列に並んで」


 面倒になった僕は、全員を並べて順番に名前を与えていった。



「キミが最後か。キミは石川一家の末っ子、石川二十四右衛門だ」


 流石に十以降まで来ると、呼びづらい。

 ジュウイチエモン?


「ありがとうございます!」


 石川一家全員が、一斉に頭を下げてきた。

 小さい子も居るから、なんか学校の先生にでもなった気分だ。


「かなりの大所帯の家族だけど、皆で仕事すれば大丈夫だと思う。安土に戻ったら、イチエモン達に合う仕事を斡旋するよ」





 山に入って一週間が過ぎた。

 登り始めに天気が悪くて足止めをされたが、イチエモン達の案内のおかげでもうすぐ山越えも終わりそうだ。


「ちなみにオレ達も、この山以外は詳しくありません。ただ、草津は行った事があるので、それくらいなら道案内も出来ます」


「それは助かる」


 お礼を言うズンタッタだったが、イチエモン達も今では並んでいても違和感が無くなってきた。

 その理由は、イチエモン達が帝国兵から奪ったミスリル装備を加工して、石川一家全員に分け与えたからだ。

 小さい子にも身体に合うサイズにして、全員がミスリル装備で身を固めている。

 ちゃんとした戦闘訓練をしてないにしろ、山賊なんかやっていた連中だ。

 鎧が似合うのは、多少なりとも修羅場を潜ってきた証拠だろう。


「草津はどんな所なのかね?」


 ビビディがイチエモンに尋ねると、彼は困った顔をしている。


「すいません。オレ達も中には入った事無いんです。ただ、場所はすぐに分かります。独特の臭いがするので」


「独特な臭い?」


「行けば分かります」


 ビビディは、その遠回しな言い方に疑問を覚えた。

 ズンタッタは意地悪そうな顔をしている。

 多分、どんな場所だか知っているのだろう。




「もうすぐですね」


「そこまで臭いがしないが?」


「そりゃ、ヒト族よりはキツネ族の方が臭いに敏感ですよ」


 じゃあ猫田さんは?

 そう思って彼の顔を見たが、無表情のままだ。


【おいおい、ちゃんと見ろって】


 ちゃんと?

 あっ!

 眉間に少しシワが寄ってる!

 本当は臭いが分かってるんだ。

 それを堪えて、無表情を作っているのか。

 ちょっと笑える。


「見えてきましたよ」


「おぉ!アレは湯気かな?白い煙が至る所から見える」


 此処が草津か。

 確かに、僕達も知っている臭いがする。

 慣れればそうでもないが、初めてだと辛いかもしれない。


「ビビ。どうだ?何か分かったか?」


「いや、特には何も分からん」


「そうか」


 クックックと笑いを堪えるズンタッタに、ビビディは苛立ちを感じていた。


「何だ!ハッキリと言え!」


「言わなくても分かるさ」





「だからそういう言い方は・・・くっさ!何だこの臭い!?ガスでも充満しているのか!?悪臭じゃないか!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ