表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
176/1299

山賊の正体

 襲ってきた山賊は、確認出来るだけで二十人前後。

 数の上では圧倒的に有利だった。

 魔法で牽制してくるので、無理に行くと怪我をする恐れがある。

 草津までの道のりを考えると、あまり無理出来ないと判断した。

 打開策が見出せずにいると、佐藤が突破を試みた。

 佐藤の強さなら余裕だろうと思われたその時、彼は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。


 佐藤がやられた事は大きな誤算だった。

 この中では一番と言っていい、戦闘力の持ち主だ。

 そんな彼が、何をされたか分からぬままに敗北。

 見かねた僕は、彼等の包囲を抜けるべく、前線に出た。

 無詠唱の魔法で相手を驚かす事には成功したが、ただ驚かせただけだった。

 佐藤が敗れただけでなく、更には謎の巨人の出現に、現場は混乱の一途を辿る。

 そして次に敗北したのは、魔王だった。


 自らが招いた混乱を収める為に、暴れるラコーン。

 しかしそんな事をしている最中に、佐藤やチトリの身ぐるみは剥がされていた。

 子供の姿の魔王だけは丁重に扱われ、防寒対策までしてくれる始末。

 そんな優しい?山賊に、魔王はどうやってか小さな山賊の足を掴んだのだった。





「えっ!?何で?どうして!?オレの眠瞳術が効かないんだ!?」


「そうか。コレ、眠瞳術って言うのか」


「何で何で何で!?」


「落ち着け!もしかしたら掛かったフリをしてただけで、もう一度やれば大丈夫かもしれないだろ!?」


 佐藤さん達の装備を剥がしていた男が立ち上がり、俺の後ろを塞いでいる。

 なるほど。

 今度は確実に眠瞳術とやらに掛ける為に、俺を囲もうってわけだ。


「だけど残念。俺はアイツほど甘くない」


「アイツ?」


「気にするな。今度はお前が寝る番だから」


「馬鹿にするなよ!軍人よりは弱いかもしれないけど、そう簡単にやられないからな!」


 話し方を聞く限り、本当に子供みたいだな。

 俺達みたいに中身は大人とか、背が低いだけの大人ってわけじゃなさそうだ。

 だが、さっき見たくらいの魔法なら、苦になる事も無い。


「とくと見よ!へん!しん!トゥ!」





 俺はいつものように空中で一回転し、カッコ良いポーズを決めた。

 これはアイツ等が難しい話をしている時に考えていた、セカンドポーズだ。

 ちなみに新しいポーズは、あと五個は用意してある。


「キャプテ〜ン!」


 ビシィ!

 パァン!


「ストライク!」


 き、決まった!

 ラコーン達も、俺の新しいポーズに釘付けだ。

 これならさっきのような混乱も収まるはず。


「ハッハッハ!俺のカッコ良さに声も出ないか?分かる、分かるぞ!俺もこのポーズを考えるのに、半日掛かったからな」


 アニキと呼ばれていた男に向かって、俺は頷いてみせた。

 後ろのガキンチョは分からんが、前の男は目をパチクリしながら俺を見ている。

 キャプテンの格好は、こっちの世界じゃ珍しいからな。

 その格好良さに凝視するのも仕方がない事なのだ。


「な、なぁ」


「何だ?この格好が気になるのか?売ってないぞ?」


「あ、いや。そうじゃなくて。お前、その場で空中一回転して、何がしたかったんだ?」


「は?」


「だって、カッコ良いとかなんとか言ってるけど、何も変わってないぞ」


「何ぃぃぃ!!」


 両手を見た後に胸や足を見ると、確かにいつもの格好と変わってなかった。

 もしかしてと思い顔を触ってみたが、やはりマスクなんかしていない。

 という事はだ。

 俺、その場で一回転しただけで、ただドヤ顔でポーズ決めてただけ?


「は、恥ずかしいぃぃ!!」


 その場で蹲る俺に、アニキと呼ばれる男が慰めの言葉を掛けてくる。


「ま、まあ、子供だからな。そういう事もあるよ。次を頑張れば良いじゃない」


「うるさい!あ〜もう!何で変身出来ないんだよ!」


 しかし本当に理由が分からん。


 あ、アレか?

 弟が寝てるからか?

 変身の出来る魂の欠片って、アイツのだからな。

 そう考えると、なんとなく説明がつく気もする。

 きっとそうだ。

 そうに違いない。


「変身やめ!今から普通に、お前等全員ぶっ飛ばす!」





 なんか、性格が一気に変わったような?

 足首を掴まれた後のこの子、口調が乱暴な感じがする。


「お前等全員ぶっ飛ばす!」


 さっきまで蹲っていたのに、何故か急に元気になって、ぶっ飛ばす宣言をしてきた。

 流石にアニキも、この言葉にはカチンと来たらしい。


「お前、自分の事分かってるんだよな?ガキが粋がっても、可愛げは無いぞ」


「アンタはさっき、慰めようとしてくれたしね。だから後にしてあげよう」


「あぁ?何をふざ・・・アレ?」


「えっ!?居なくなった!」


 二人で囲んでいたはずの子供が、急に姿を消した。

 オレ達二人とも、視線を外したわけじゃないのに。


「ぐわあぁぁ!」


「なっ!」


 隣の方から声が聞こえる。

 誰かがやられた?

 声が段々と遠くなっていく。

 そして数分後、反対側から打撃音が聞こえてきた。


「それで、アニキが最後と」


「ウッ!」


 気付いたらさっきの子供が、アニキの腹を殴っていた。

 アニキはその一撃で、悶絶しながら腹を押さえている。


「あら?アニキ、他の人より頑丈?手を抜き過ぎたかな?」


「やめろ!」


 その言葉も虚しく、アニキは顔を殴られて気絶してしまった。


「残るはお前。そう、眠瞳術とかいうのを使うお前だけだ」





「あ・・・うぅ・・・」


 怖い。

 こんな子供が、一人でアニキ達を全員倒せるなんて。

 オレが殴られたら死んじゃうよ。

 どうにかして、アイツの目を見ないと。


「俺は子供は殴る趣味無いから。そんなに警戒しなくても大丈夫だぞ?」


「お、お前だって子供じゃないか!」


「まあ、そう言われたらそうなんだけど」


 アイツ、無防備に近付いてくるぞ!

 これならもう少し近ければ、術が効くはずだ。


「それでお前等、何でこんな事してるの?」


「それは・・・」


 もう少し。

 もう少しで掛かる。


「つーかお前等、ドワーフじゃないよね。獣人?ネズミ族でもなさそうだし。何でこんな山奥に居るの?」


 目が合う距離まで来た。

 行ける!


「夢の中で考えな!」


 オレの眠瞳術からは、目が合えば逃れられない。

 これで、恐ろしいガキンチョともおさらばだ。

 と思ったのも束の間だった。

 何故、眠らない!

 というより、これは何だ?


「ハッハッハ!こんな事もあろうかと、サングラスをしてみました。夜で暗くて何も見えないから、声のする方に歩いてるだけだけど。術が効いてないなら、結果オーライだ」


「クッ!」


 見えてないなら、その顔に装着してるのを外しにかかっても、分からないだろ。

 数歩で届く距離まで歩いてきてる。

 これなら・・・


「動くな」


「え?」


 知らぬ間に、誰かに背後を取られた!


「こっちを向くな。今、お前の首にはナイフが向けられているのは分かるな?」


 刃物特有の冷たさが首筋を撫でる。

 駄目だ。

 動いたら殺される。


「術を発動させるな。それと先に言っておくが、お前の仲間は縛り上げてはいるが、誰一人死んでいない。安心しろ」


「もう縛ったんだ。猫田さん、仕事早いなぁ」


 誰も死んでない?

 確かにアニキも殴られただけだ。

 チラッと横を見ても、血が流れているような様子は無い。


「分かった。オレの負け」





「さて、これで全員なのか?」


 二十四人が縛り上げられ、一箇所に集められている。


「全員だ」


「なるほど。じゃ、ズンタッタ達に後は任せるわ」


「かしこまりました」


 正直、尋問とかそういうのは、俺じゃ出来ない。

 さっさと、この馬鹿が起きてくれればいいんだけど。


「ちょっと聞いていい?眠らされた奴は、いつ頃起きるんだ?」


「半日もすれば起きるけど。ただ、術に掛かっている間は、水をぶっ掛けられても起きないよ」


「なるほど。分かった」


 じゃあコイツ、朝になるまでは起きないって事だな。

 それって、アイツからしたら普通に寝てるだけじゃねーか!

 朝になったら、おはようとか普通に言いそうだな。

 後で文句言ってやる。



「それで、まずお前等は何者なんだ?」


「オレ達はキツネ族の獣人だ」


 キツネかぁ。

 頭に手拭い巻いて、耳が見えないから分からなかった。

 尻尾も出てる奴と出てない奴が居るな。

 どういう事だろう。


「全員がキツネ族ってわけじゃないんだ。ヒト族も数人居る」


「ほう、珍しいな。それで、何故こんな山奥に居る?」


「別に居たくて居るわけじゃない。居場所が無いから、此処に居るんだ」


 居場所が無い?

 確かに此処はドワーフ達の領地だ。

 だけど他の領地に行けば、獣人なんか沢山居るだろうに。


「ちょっと口出していいか?」


「何?」


「何でお前等は、獣人達の町や村に行かなかったんだ?」


「オレ達だけで行ったら、残りのヒト族はどうするんだよ?良い町や村だったら、受け入れてくれるかもしれないけどさ。駄目だったら、そこで別れ離れになれって言うのか?それならオレ達も一緒に出ていくよ。オレ達は家族だからな」


 獣人とヒト族が家族か。

 それも、コイツ等は自分達の事だけ考えているわけじゃない。

 ヒト族も帝国や王国に行けば良いのに、別れるって事をしなかったみたいだし。


「なるほどね。ズンタッタ、話を遮って悪かった」


「いえ。とりあえず此処に居る理由は分かった。では、何故山賊をしている?」


「別に誰彼構わず襲ってないよ!長浜から上野国に向かってくる連中だけ、襲ってるんだ!それもヒト族とネズミ族だけね」


「ドワーフは?」


「ドワーフ達は襲わない。別に何かされた訳じゃないから」


 ドワーフ達には何もされてないけど、ヒト族とネズミ族には何かされたって訳か。

 ん?

 何か引っ掛かるな。


「少しよろしいですか?」





 猫田さんが、少年の前に立った。

 ナイフを突きつけられていたからか、ビクッ!として少し怖がっているようだ。


「もしかして、秀吉様に何かされたか?」


「そうだ!秀吉の命令で、ネズミ族とヒト族以外は長浜から出てけって言われたんだ!」


「この数人のヒト族は?」


「その人達は帝国兵じゃないから。路地裏で生活してた人達で、そういう人達も追い出された」


「それは秀吉様が直接言った言葉か?」


「いや、秀吉の部下って人のお触れ書き」


「その部下って、アナトリーって名前じゃないか?」


「そうだけど」


「アナトリー!」


 思わず名前を呼んだけど、誰だっけ?


「アナトリーは、魔王様達が倒したネズミ族の男ですよ」


 小声で猫田さんが教えてくれた。

 何故、オレが忘れてる事が分かったんだ?


 でも、言われて思い出した。

 秀吉を砦の地下に閉じ込めて、自分勝手に振る舞ってた奴だな。


「アナトリーはもう居ないぞ」


「えっ!?」


「アイツ、本物の秀吉を閉じ込めて、自分のやりたい放題やってた奴なんだよ。俺達がぶっ飛ばして、今は本物の秀吉が領主に戻ったぞ。と言っても、今はテンジってネズミ族が領主代理だけどな」


「じゃあ、オレ達を追い出したのは、秀吉じゃなくてアナトリーだったのか。それじゃあ、オレ達が襲っていたのは・・・」


 ズンタッタ達を見て、気まずそうな顔をしている。

 だがズンタッタとビビディは、逆に彼等を褒めていた。


「いやいや!それに関しては良くやった!お前達が襲っていたのは、おそらく王子派の連中。我々の敵だからな」


「そうともよ!アイツ等の装備とか剥いでくれてるなら、それはこっちとしても助かるって事だ」


「はぁ?」


 何故か同じ帝国兵なのに褒められた少年は、素直に喜べないでいた。


「簡単に言うとアレだな。お前等は、自分達を追い出した秀吉達を恨んで、ネズミ族とか帝国兵を襲っていたわけだな?」


「そうだよ!商人とか一般人には手を出してない」


「そうか」


 悪い奴ではないって事は分かった。

 それなら俺が出来る事をしてあげよう。


「お前、いやお前達だな。長浜へ戻るか?」


 気絶させていた連中が何人か意識を取り戻した。

 アニキと呼ばれた男も起きたようだ。


「アニキ!」


「長浜へ戻れるのか?」


「テンジに頼めば戻れるぞ」


 アニキは考え込んでいる。

 長浜へ戻るのに、何故そんなに悩むんだ?


「悩む必要あるか?」


「あ、いや。キツネ族のオレ達は良いんだ。だけどな、ヒト族の連中が・・・」


 路地裏生活だって言ってたっけか。

 またあの生活になるかもって、考えもあるのか。

 うーん、難しいな。






「それなら、いっそのこと安土へ招いては?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ