山賊の術
何をするか分かっていたのに、何故か光魔法を直視した僕は、目をやられてしまった。
何も見えない中、グローブのクリスタルに新たな魔法を封じる。
地面を殴りつけ、敵を一斉に凍らせた佐藤。
動けない敵に対して、クリスタルを渡せば命の保証を約束した。
グローブのクリスタルよりはかなり小さめだが、その数は百を超える量だった。
その後、動けない敵の対応で揉めたズンタッタとビビディだったが、そのまま放置するという事で双方納得。
そして水上へと向かった。
結論から言って、水上には国王は居なかった。
残るは草津のみ。
しかしその草津への道のりは、遠回りして時間の掛かる平坦な道か、危険だが短時間で着くと言われる山越えの二択になった。
山越えを選択した僕等は、その困難な道のりに手を焼く事になる。
しかしズンタッタ達は焦らずに、その道のりを楽しみながら進んでいた。
そんな中、予期せぬ珍客が僕等の元を訪れた。
山賊という、困った客が。
まさか、本当に襲ってくるとは。
僕等相手でも、勝てる自信があるって事だろう。
「相手の人数は?」
「確認出来たのは二十人前後です。しかし此処は、彼等のテリトリー。隠れる場所も多々あると思われます」
倍以上と見積もっても、五十人前後か。
こっちの方がはるかに多いのだが、それでも襲うメリットが向こうにはある。
まずはズンタッタ達のミスリル装備。
これはそう簡単に手に入る物ではない。
そして、そんな貴重なミスリル装備をしている軍なら、金も沢山持っていると思うのが普通だろう。
「右から敵が複数。武器は小刀やナイフといった模様」
「左も同様です」
「数が少ないのに、更に分かれて行動!?何を考えているんだ?」
数が少ないのなら、奇襲を掛けて相手の数を減らす。
もしくは、少なくても相手をするだけの実力を各々が持っているか。
前者は姿を確認出来ている時点で、その奇襲は破綻している。
後者は、まだ分からない。
戦ってもいないのに、それが分かるほど実力差がある可能性も否定出来ない。
しかし、ミスリル装備の軍人を大勢相手に出来るのなら、普通は山賊なんてやっていない。
故にその可能性も低いと思われる。
そう考えると、ただの無鉄砲な連中とも言えるが、さっき聞いた眠らせる術とかいう、謎の術だ。
これを誰もが使用出来るなら、少数でも対応出来るだろう。
「相手のペースに飲まれるな!注意しながら対処せよ」
「突っ込んでくる・・・いや、来ない?」
敵はある一定の距離を保ちつつ、僕等を囲むように布陣していた。
人数が少ない分、突っ込めばすぐに破れると思われた。
だが、それを試した結果が魔法による迎撃だった。
「奴等、火魔法で応戦して突破は困難です。無理をすれば可能ですが、手傷を負うのは覚悟しないと無理です」
「それはやめた方が良いな。まだ草津まで遠いとはいえ、こんな所で怪我をするのも馬鹿馬鹿しいし。それにアイツ等、山賊だろ?変な毒とかを塗ったナイフとか小刀で斬られたら、僕だって治せるか分からないし」
「魔王様の意見はもっともですが、このままですと相手の思うツボなのでは?」
それなんだよなぁ。
相手は金銭が狙いなんだろうけど、この人数でどうやってやるのかが気になる。
「そんなに危険なら、俺が倒してこようか?」
佐藤さんの声に、ズンタッタ達は振り向いた。
グローブを装着して、既に準備万端といった姿で、こちらの返事を待っている。
「そうですね。この包囲は不気味です。一点だけで良いので、お願い出来ますか?」
「承知しました!」
ズンタッタからのお願いで、佐藤さんは兵達の間を抜けて前進していく。
僕も気になったので、後ろから追いかけてみた。
最前線まで出ると、確かに少ない人数ではあるが、軽装の鎧を着た連中が囲んでいた。
夜なのでハッキリとは見えないが、年齢はバラバラのように思える。
「なんだ?子供も居る気がするんだが。流石に子供は殴りたくないなぁ・・・」
「いやいや!貴方、僕の事殴ろうとしましたよ?」
「アレは不可抗力でしょ!契約に縛られてたんだしさぁ。というか、今そういう事言わないでよ・・・」
苦笑いをしているが、彼等の事は目を離さずに警戒している。
気持ちに整理がついたのか、軽くステップを踏み、一気に前進を始めた。
「子供は嫌だから、あっちの大きい人で!」
飛んでくる火魔法をグローブで逸らしたり、ステップで躱しながら敵へと向かっていく。
いよいよ敵の目の前に辿り着き、攻撃を仕掛ける。
と思われたその時、佐藤は糸が切れたように膝から崩れて倒れてしまった。
「は?」
何か攻撃をされた様子は無い。
急に倒れたのだ。
向こうも倒れた佐藤に、危害を加える様子は見受けられなかった。
「何だ?何をしたんだ?」
サッパリ分からない僕は、頭が混乱していた。
半兵衛が居れば、何か対策を練ってくれたかもしれないが、それもおそらくは情報が少ないと完璧ではなかったと思う。
「えっ!?佐藤殿がやられた!?」
ラコーンが様子を見に来て、倒れた佐藤を見て驚きの声を上げた。
その後ろからやって来たチトリとスロウスも、声には出さないが驚いている。
「他の箇所はどうなっている?」
「シーファクとズンタッタ様からの話だと、たまに魔法で牽制してくるだけで、何もしてこないとの事です」
という事は、あの不思議な攻撃は、目の前の連中だけが使えるのか?
「向こうの敵は、子供とか居る?」
「子供?そういえば、目の前は子供のような小さな子も居ますね。家族かな?」
家族で山賊とか、そんな事あり得るのか?
ラコーンの馬鹿らしい答えに少し呆れたが、このままで居ても仕方ない。
「僕が出る」
「危険ですよ!相手が何をしてきたか、まだ分からないんでしょう!?」
「だけど、このままだとそのうち全員やられるんじゃないか?」
ラコーンが心配してくれるのはありがたいが、やはりこのまま睨み合っていても何も始まらない。
佐藤さんがやられる相手だ。
むざむざこの兵達を突っ込ませるのは、犠牲者が増えるだけ。
ならば、火力で押し切る方が確実だろう。
いざ前に出ようとしたその時、山賊側から声が聞こえてくる。
「置いてけぇ。金も装備も置いてけぇ。命が惜しくば置いてけぇ」
山の中に響き渡る声に、兵達は混乱に陥った。
中にはその恐怖に耐えられず、鎧を脱ぎ始める輩も現れる。
「クソが!山賊の思い通りになんかさせてたまるかよ!」
チトリが叫ぶと、佐藤同様に突っ込んでいった。
「おいっ!」
ラコーンの呼び止める声も虚しく、チトリは同じように魔法を避けて、相手の目の前まで辿り着いた。
剣を振り上げ、山賊を斬るかに思えた瞬間。
やはり、膝から崩れ落ちてしまった。
「チトリ!」
「やっぱり同じ攻撃か。あの攻撃方法が分からないと、対策しようもない。だけど、一つだけ気付いた事がある」
「何ですか?」
「接近しないと使えないみたいだ」
僕は無詠唱で、水魔法を相手に放った。
無詠唱だった事もあり、虚を突いたその攻撃は、相手を慌てさせる事に成功する。
「やっぱり。僕にはあの攻撃をしてこない」
「ですね!」
それならと、初級の火魔法や土魔法を連発して、相手の包囲を崩せば何とかなると思われる。
「魔王様!ちょっと!上!上!!」
「上?」
ラコーンの慌てた声に上を見ると、大きな巨人が立っていた。
若狭で見た、阿吽の二人が巨大化したくらいの巨人だ。
「ハァ!?相手はまさか、妖精族!?」
「ドワーフの領内にですか!?」
まさかの展開に僕が慌てたからか、後ろの兵達にも伝播してしまった。
混乱の最中に居ると、目の前から声が掛けられる。
「そうか。キミが首領か」
「子供の声?」
その声に反応して前を向くと、目と目が合った。
「ふあ?」
すると急激な眠気に襲われ、立っている事すら出来なくなってしまった。
「そ、そうか。これが倒れた原因か・・・」
「魔王様がやられた!?」
ラコーンはミスを犯した。
自らの大声で、他の箇所で見合っているだけの連中にも動揺を招いたのだ。
まさかの魔王敗北に、ズンタッタとビビディが担当している場所以外は、混乱の極みとなってしまった。
装備を投げ捨て、わざと山賊が開いた隙間から、山の奥へと走って去って行く。
そんな連中が続出したのだ。
「しまった!」
自分がやらかした事に気付いたラコーンだったが、時既に遅し。
自分の周囲の者達も鎧を脱ぎ捨てている。
「ま、待て!」
「待っていられるか!このまま此処に居れば、あの巨人にやられるのがオチだ!」
ラコーンに肩を掴まれた男は、その手で顔を殴り走り去ってしまった。
頬を押さえ、巨人を睨むラコーン。
佐藤にチトリ、そして魔王までも敗北してしまった。
だが、彼は自らが招いた混乱の失態を抑える為に、巨人を倒すべく走って行く。
「だりゃあぁぁぁ!!」
そろそろ足くらいは見えてもいいはず。
それなのに巨人の姿は見当たらない。
「何処だ!何処に移動した!?」
片手に持った松明を頼りに、周りを見回すラコーン。
その姿は、更に右方向へと移動していた。
「逃がさん!」
再び走り巨人へと向かったが、やはり何も居ない。
「クソッ!何処へ消えた!」
「落ち着け、ラコーン!巨人は居ない!」
「ズンタッタ様!」
巨人を追い、走って移動していたからか、ズンタッタ達の任されていた部隊の所まで来ていたようだ。
「お前のおかげで分かった。巨人の姿は幻術だ」
ラコーンは幻術という言葉を聞いて、少し安堵した。
本物の巨人に攻撃をされれば、魔王も佐藤も居ない今、絶対に無事では済まなかったからだ。
「だが、魔王様達がやられた理由が幻術とは思えない。とにかく今は、これ以上の混乱を招かないようにしろ!」
「申し訳ありませんでした!」
目の前には二人の男と、一人の子供が倒れている。
最初に来た男は危なかった。
あんなに俊敏な男は、今まで会った事は無い。
オレを子供と侮って、いきなり攻撃してこなかったのが幸いだった。
二人目は普通。
最後が一番恐ろしかったなぁ。
まさか子供が無詠唱で魔法使ってくるなんて、思いもよらなかった。
それに魔王とか呼ばれているし。
多分、次に会ったら全員殺される強さだろう。
「おい、ソイツ等の装備も剥いじまえ」
「分かってるよ。でもこの子供だけは、普通の服装だし別に良くない?」
「そうだなぁ。お前よりも小さいか?子供は可哀想だし、別に要らないか」
「この二人の鎧と服、あと手甲なのかな?これも貰っていこう」
兄と二人がかりで男が着けている鎧を剥がし始める。
「でもこの人達、いつもの連中とは違うね」
「だな。帝国兵もいつもの連中と少し違うし、それにドワーフが一人も居ない」
「あのさ、もしかしてこの人達、関係無い人達なんじゃない?」
「馬鹿言うな!この山を越えようとしてるんだ。長浜の関係者に決まってるだろ」
兄の言葉を聞く限り、確かにその通りだと思う。
でも子供なんか、今までこの道を通った事は無い。
何かが違う気もするんだよなぁ。
「アニキ、この子はどうしようか?」
「そうだなぁ。此処に置いてくと風邪引くかな?少しだけ暖かい物を掛けて、寝かせておこう」
「分かった!じゃあアイツ等の持ち物の中から、毛布持ってくる!」
オレよりも小さい子供だ。
魔法は使えるみたいだけど、やっぱり見殺しにするのは嫌な気持ちになる。
アニキが助けるのに、賛成してくれて良かった。
「焚き火の前で毛布掛けておけば、大丈夫だよね?」
「そうだな。朝になれば目が覚めるだろう。誰も居なくなってるかもしれないけど、この子なら魔法使えるし、生きて山から降りれるだろ」
少し寒いし、毛布を掛けてあげよう。
「ヒッ!」
今、何かに足首を掴まれた!
この小さな手は・・・。
「お前等、悪い奴じゃなさそうだけど。何者だ?」




