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山越え

 太田から伝記について聞かされた僕達は、その多さに呆れる事になった。

 一緒に旅をした人達から必ず話を聞いて、尚且つ話が盛られていたのだ。

 その点に関しては要注意した際、コバの小型カメラに目を付ける太田。

 プライバシーを考慮して断ると、全てを残したいと心の叫びをぶちまけられる。

 身体の大きさから、連れて行かれない旅もある。

 その事を悩んでいた太田に、蘭丸は魂の欠片を使った変身を使えば良いのではという助言をする。

 ハクトも賛成し、今後はその方法を使って連れて行く事もあると、こっちが折れる事になった。


 いよいよ作戦を開始。

 長浜から上野国へ向かうと、道中で帝国兵の襲撃に遭った。

 ズンタッタ達なら勝てると読んでいたのだが、その装備に苦戦する事になる。

 その装備とは、ミスリルの鎧にクリスタルが埋め込まれていたのだ。

 無傷でのクリスタル回収を命じたが、難易度は高い。

 しかし佐藤のクリスタル内蔵の武器を使えば・・・。

 今回は光魔法が入っていると言われ、早速使ってもらった。

 が、グローブの光り方ってどうなんだ?と思っていた僕は、普通に直視してしまった。




「目がぁ!眩しいぃぃぃ!!」


「・・・ホント、何やってんの?」


 佐藤さんから、呆れられた声が掛けられる。

 自分でもアホだったと反省している。

 本人から直接聞けば良かっただけなのだ。

 それを見ようなんて考えた結果がコレだ。


「クウゥゥゥ!!やってしまったものは仕方ない。佐藤さん?ちょっと来て?」


「横に居るけど」


「え〜と、分からないな。グローブ何処?僕の手の所に持ってきて」


「これで良いかい?」


 手のひらの上に、革製品を置かれた感覚がある。

 グローブが乗せられたようだ。


「よし!少し待ってて」


 僕はある魔法を、詠唱破棄でグローブへと込める。

 正直、見えないのでどうなっているか分からない。

 佐藤さんがストップと言うまでは、そのままグローブに込め続けるしかなかった。


「な、なんか、さっきよりヤバイような?もういい!ストップ!ストップだよ!」


 焦り気味にストップが掛けられたので、慌てて魔法を止めた。


「帝国兵達はどう?」


「流石だね。向こうは目が見えてないから、ズンタッタさん達が一方的に攻撃する展開になってる。だけど、ダメージ量は相当少ないと思うよ。目が見えないなりに、剣を振り回して反撃してるし」


 やっぱりか。

 おそらくクリスタルに入っているのは、身体強化や硬化といった種の魔法だろう。

 だから攻撃を食らっても、耐えられるのだと思う。


「佐藤さん、今回の魔法はコレだ。確か慶次と同じ使い方をするなら、地面をぶっ叩くと良いはずだよ」


「慶次くん?あぁ、アレね。全員逃さずに奴等を倒すなら、確かに便利かもしれない」


 慶次の名前を出しただけで、すぐに分かったらしい。

 だったら、もうやる事は一つ。


「ズンタッタ!全員こっちに下げろ!巻き添えを食らうぞ!」


「巻き添え?ハッ!全員、佐藤殿の後ろへ退避!」


 ズンタッタとビビディは、コバへの試験運用の結果を、一緒に聞いている。

 魔法の種類は分からずとも、何かするという事だけは理解出来ていた。


「退避完了しました」


 ラコーンの声が聞こえ、それに合わせて佐藤さんが叫んだ。


「佐藤ぉぉぉ!!フリイィィィジング!!!」





 グローブをしている点は少し違うが、某格闘ゲームの超必殺技みたいに、地面を殴りつけた。

 すると、放射状に足元が凍りついていく。

 そのスピードは、慶次の時よりもはるかに速かった。


「なっ!?ここまで物凄い威力なのですか!?」


「私も初めて見たが、これ程とは思わなんだ」


「こんな攻撃が連発されれば、小国なら滅ぼせそうだな・・・」


 ラコーンの驚愕の反応に、話だけは聞いていたズンタッタとビビディも、驚きを隠せなかった。

 だが、僕は見えないのでどんな様子か分からない。


「全員逃がさないように捕まえた?」


「捕まえたというか・・・」


「何よ?ハッキリ言って。まだ駄目なら追加で魔法入れるよ?」


「それはオーバーキルってヤツだよ!もう俺に近い位置に居た奴等は、全身が凍りついてる。離れている連中も、足が凍りついて逃げられないんじゃないかな」


 全身氷漬け!?

 どういう事だ?

 慶次とは中に込めた魔法が違ったかな?


「逃げられないって事は、魔法は成功?」


「成功だと思うよ。むしろ威力が大き過ぎて、全力じゃない方が良かったかも」





 ようやく目が見えてきた。

 話に聞いていた通り、手前に居る十数人は全身が凍っている。

 遠くに行けば行く程凍っている範囲は狭いが、それでも膝下は凍りついていた。


「今、胸のクリスタルを回収させてます。抵抗すれば命の保証は無いと言っているので、ほとんどの者が動かずに差し出している状況です」


 中には抵抗する馬鹿も居たようで、足首が固定された変な倒れ方をしている帝国兵も、見えたりしている。


「大体の大きさは同じだね。これは大きさを合わせる為にカットしているのかな?」


「どうでしょう。佐藤殿の物と比べると、かなり小さめな気もしますが」


 確かにその通りだ。

 佐藤さんのグローブと違って、親指の爪程度の大きさしかない。

 ただ、そのサイズでも普通の剣を弾くという効果は、此処に居る誰もが実感したはず。

 敵として対峙したからこそ、クリスタルが如何に必要か理解していた。





「回収作業、完了しました」


「ズンタッタ。コイツ等どうする?」


 凍りついて動けない連中を見て、問い掛けた。


「後々、敵として復帰されても面倒だ。殺しましょう」


「それは早計だぞ!命の保証をすると言ったのを破るのか!?」


「ここで見逃して、また敵として現れた時に逆に斬られても、文句は言えんぞ!」


「そう簡単に我々はやられはせんよ。命の保証を約束しておいて殺したら、魔王様の風評にも影響があるやもしれん。お前はそれでも構わないと言うのか?」


「むぅ・・・」


 ズンタッタとビビディの意見が真っ二つ割れた。


 ズンタッタは約束通り、命だけは取らない。

 クリスタルを回収した今、再び敵として現れたとしても、撃退出来ると考えている。


 対してビビディは、此処で全員を倒すべきだと言った。

 生かしておいたとしても、後々に禍根を残す事になるから、今のうちに始末しようという考えだ。


 双方、間違ってはいないと思う。

 ズンタッタは甘いとも言えるし、ビビディは苛烈だとも言える。


「それで、決定権は魔王様にあるのですが。どうされますか?」


 うおっ!

 最後にとばっちりを食らうのは、結局は僕じゃないか!

 こういう選択が面倒だから、ズンタッタ達に任せているというのに。

 面倒だから・・・。


「面倒だから、このまま放置で良いよ。力があれば自力で脱出出来るし、最悪、自ら鎧を脱げばいいだけ。このままだと、魔物の餌になるだけだと思うから、大半は鎧を脱ぐ羽目になるとは思うけど」


「なるほど!命も奪わずに戦力低下も行える。素晴らしい考えですな」


「その考えに異論は無い」


 二人とも、賛成してくれるようだ。

 何やら命の保証はどうしたとか、喚き散らしている奴も居るが、直接命のやり取りをするわけじゃない。


「脱ぐも地獄、脱がぬも地獄。後はお前等が決める事だ。どうせだから、脱いで足掻いて、命が助かるかもしれない地獄の方が、オススメだけどね」





 アレから数回、帝国兵と遭遇したが、全員がクリスタルを持っているわけではなかった。

 やはり大半は通常のミスリル装備で、ズンタッタ達に任せておけば番狂わせが起きるわけでも無く勝利していった。


「まもなく、水上へ到着します」


「猫田さん」


「はい、確認してきます」


 少し離れた場所で隊を待機させ、彼は一人で水上へと向かった。



「お待たせしました」


 チトリの影から出てきた猫田さんは、中の様子を説明する。


「おそらく、此処にはいらっしゃらないかと。兵達の警戒も薄く、注意も散漫でした」


「となると、草津が本命という訳だな」


「水上は攻め落とすのですか?」


「いや、時間が惜しい。それに水上のような辺境が襲われたとなると、こっちの狙いがバレる可能性もあるからね。静かに離れて、草津へ向かうとしよう」


 ズンタッタ達もその意見に異論は無いようだ。

 国王を助けるという目的の方が彼等には重要だと、僕達も理解しているけどね。


「水上から草津は近い?」


 地図を見ながらシーファクが説明を開始した。


「山を二つほど越えれば、草津は見えてくるはずです。ただしこの山が難所らしく、遠回りして行くのが定石のようですね」


「これは迷うな」


 山を越えるのに体力を使えば、肝心の草津攻めに影響を及ぼすかもしれない。

 しかし遠回りをしている間に、厩橋の方が戦闘を開始する可能性も否めない。

 同時に攻める必要は無いにしろ、時間が大きくズレれば警戒される事も考える必要がある。


「どうしましょう?」


 猫田さんはその判断を僕に委ねるつもりだ。

 だが僕は、自分よりもズンタッタ達の考えを優先させたい。


「ズンタッタとビビディは、この状況をどう考える?」


「私は山を越えるべきだと判断します」


「私も同意見です」


「そうか。なら、山越えを選択しよう」


 何も聞かずにそう答えたのが意外だったのか、二人はお互いの顔を見合った。


「そんなに意外?僕は今回の件に関しては、ズンタッタ達の意見を最優先にさせるつもりだよ。僕は安土の領主って扱いだけど、皆はあくまでも帝国の人間だ。そして助けるのは帝国の国王。だったら僕よりも、自分達の判断を信じた方が良い」


「なるほど。それでは、我々は山越えに入る!魔王様も申し訳ないですが、よろしくお願いします」





「ところで、何故この山越えが難しいんだ?」


「この付近は方角を狂わせる磁場があるようです。太陽の位置だけが目安になるので、夜間の行動はほぼ不可能。そして山賊の根城があるとも言われています」


 山賊?

 山賊なんか居るのか。


「山賊って軍よりも強いの?」


「それが、妙な術を使うとの噂があります」


「妙な術?」


「何でも、戦っていると眠くなるとか」


 戦ってる最中に寝不足ってわけじゃないだろうし、そういう術があるのだろう。


「どんな連中かは分からない?」


「何故か命までは取らないと聞いてますが、所持品は全て奪われるそうです。この人数ですから、向こうも仕掛けてこないとは思いますが、万が一の時は全力で倒さないといけないでしょう」


 所持品全部奪われたら、草津攻めなんて夢のまた夢だな。

 僕としても、頂いた大量のクリスタルがあるし、全力で抵抗させてもらうけど。





 山に入って数日、なかなか難しい。

 まず、太陽の位置だけで方角を確認しなければならないのだが、山の天気は変わりやすい。

 雲に隠れると、途端に進むべき方向を見失うのだ。

 そして日が暮れると、そこで一日の進行は止まる。

 天気が悪ければ、全く進めない事もある。


「これ、遠回りした方が早かったりしない?」


「何事も無く山越え出来ると、一ヶ月は山越えの方が早い計算になります。だから少しくらいの足止めは、そこまで問題ではないです」


 そう言われると納得出来るけど、何もしない時間があるのは、少々苦痛だ。

 暇っていうのは、家でゴロゴロしている時に必要な事で、山奥で必要な事ではない。


「それでも、山の幸が大量に採れるとはありがたいですな」


「確かに。山菜やキノコ、肉も結構獲れるし、我々のような大人数には、幸いかもしれない」


 ズンタッタとビビディは、そこまで悲観的ではないらしい。

 むしろ、この状況で山越えを楽しむ余裕がある。

 僕も見習わないといけないな。

 そんな暇な僕に、刺激的な内容が届いた。





「山賊が出たぞ!」

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