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木の中の山

 ズンタッタ達ヒト族だけでなく、皆が驚いていた。

 それくらい、あり得ないと思われたからだ。

 だが、実績がある半兵衛の言葉だ。

 現実味がある話だった。


 頭がおぼつかない皆を落ち着かせる為に、まずは滝川一益の件から話し始めた。

 彼を救出する為に、又左と太田。

 そして僕の影武者として、ラビが参加する事になった。


 そして帝国の国王についてだが、まだ幽閉されているであろう場所がハッキリしていない。

 水上か草津という村に居るのでは?

 というドランの話に、両方とも調べる事になった。


 作戦の内容はこうだ。

 ズンタッタ達が陽動を仕掛け、先に潜入している猫田さんと僕が密かに忍び込む。

 そして国王を救出して脱出する。


 しかし陽動に関しては、少し心許ない。

 なので、同じヒト族の佐藤とロックをズンタッタの配下に入れ、更にコバのサポートも決定した。


 会議が終わり、長らく領地を空けているベティ達の見送りをしていた。

 コバの作った双剣は餞別として渡し、その使用方法も伝授。

 そして彼等は、去る直前に忠誠を誓ったのだった。





「行ってしまったであるな」


 暗くなった空を見上げ、彼等が飛んでいった方を見ていた。


「越中国ってどの辺なんだろう。今度はこっちが行ってみたいな」


「彼等だから来れたと言っても、過言じゃないぞ」


 コバの説明によると、帝国を挟んだ向こう側に越中国はあるらしい。

 空を飛んで行かないと、大きく遠回りをするか、海路を使うのが早いとの事。

 しかし海路は、この地上と違ってかなり危険が伴う。

 未だに海を制した者は、魔族でも居ないらしい。


「じゃあ、空を飛べる何かを作れば良いんじゃない?」


「簡単に言ってくれる!だが、それも面白いのである」


 頭を掻きながらもその野心的な目は、いつか飛行機でも作ってやるぞとやる気に満ち溢れていた。




 翌日、ゴリアテによる軍の再編が行われ、防衛部隊と遠征部隊が分けられた。

 そんな中、どちらにも属さないコバ部隊というモノが作られる。


「うーむ、自分の名前が付いた部隊とか。むず痒いのである」


「まあまあ。部隊と言っても、ただの護衛ですから」


「逆に戦闘になっても困る部隊だよな」


 ハクトと蘭丸がコバの言葉に答えていると、ロックがすぐにやって来る。


「二人とも!あの後もボイストレーニングはしてたかな!?楽器の練習は!?勿論、この旅の最中も練習してもらうからね?」


 ハアハア言いながら近づいてくるロック。

 地球なら間違いなく、ポリスマン案件だ。

 同じ事を日本でしていれば、今頃は両手を前にして輪っかが掛けられていただろう。


 ちなみにコバのボディーガードと言いつつ、ロックはこの部隊に入っていない。

 なので部隊の隊長は、蘭丸になっていた。

 初めて隊を率いる立場になった蘭丸は、少し入れ込み気味でもあった。


「俺は俺の仕事を、全うしないといけない。だからそんな余裕は無い!弓の練習に戻る」


 立ち去る蘭丸を見ながら、ロックは一言だけ呟いた。


「心に余裕が無いなぁ。それだと、俺っちなら簡単に投げられるよ」





 出発当日になった。

 ドランはドワーフ達をまとめ、既に安土の外で待機している。

 そして長浜からやってきたネズミ族の連中も、今回はドランの指揮下に入ってもらっている。


 また又左と太田は、独立部隊になっていた。

 率いているのは、慶次とハーフ獣人の女性達だ。

 彼女達はその辺の獣人よりも強く、格闘技術に優れているからだ。

 暴れ回るなら、彼女達の力も大きな戦力となる。


「ドワーフ達の装備も、全部ミスリルですかな?」


「どうだろう。どちらにしても、潰す事には変わりないけど。私としては、強い者が居る事を願う」


「兄上より強い者など、そうそう居ないでござる!」


「確かに。ワタクシもそう思います」


 三人の会話は、ドラン達を心配させている。

 何故、そう自ら危険な方へ行きたがるのかと。



 そしてもう一つの軍。

 ズンタッタ達、帝国兵だ。

 彼等は再びミスリル装備を手にしていたが、以前よりは少し不格好な形だった。

 理由は、まあ僕が作ったからなのだが。

 やはり専門的な鍛治師ではないので、見た目で差が出ていた。


「ごめんね。こんな感じになって」


「見た目だけですので。刃が潰れているとかありませんし、気になりません」


「えぇ・・・。コレ、ダサいですよ」


 シーファクにダサいと言われた僕は、魔王人形を作った時の事を思い出す。

 あの時も、せっかく作った人形をブサイクと言われたんだった。

 今思うとコイツ、ストレートに言い過ぎだろ!


「シーファク!武器は見た目じゃない!性能だ!」


「俺もそう思う」


「だな」


 ラコーンとチトリ、スロウスはシーファクとは違う意見のようだ。


「じゃあアンタ達、見た目はケーキだけど、めちゃくちゃ美味いカレー味が出てきたら食べる?」


「・・・食べない」


 おぉい!

 いきなり言い負かされるなよ!

 もう少し何かあるだろう。

 目を瞑れば食べれるとか。

 そんなの誰が作るんだとか。


「見た目もやる気に変わるのよ」


 駄目だコイツ等。

 大人なのに、一番若いシーファクに言い負ける。

 だからシーファクがリーダーなのかな?


「そんな事より、何で今回は馬なんだ?俺、馬なんて乗れないぞ?」


 佐藤さんはドラン達が車なのに対して、自分達が馬なのが不満のようだ。


「半兵衛から言われたのは、車だと向こうでは目立つからだとか。それと長距離だから、魔力を燃料にしないと駄目だって。途中でガソリンスタンドなんか無いからなぁ。ガス欠になったら、魔力が無いズンタッタや佐藤さん達は、立ち往生する事になるよ?」


「ぐぬぬ!正論過ぎて何も言えないじゃないか」


「荷馬車に乗ってゆっくり行きましょうよ」


 諦めた佐藤さんは、ため息を吐きながら荷馬車に乗り込んでいった。



「それじゃ、出発しよう。まずは長浜へ」





「結局、車も馬に合わせた速度なんだな」


「そりゃ、別々で行っても向こうで待機するだけだからね。だったら一緒に行動して、同じ時に着いた方が良いかなと思うけど」


「阿久野くんは先に行って、猫田さんと合流しても良いんじゃない?」


 佐藤さんの言葉に、僕は少しだけ考えた。

 それも間違っていない気がする。

 でも、魔王が一人だけで行動するのは、どうなんだろう?


【別に良いんじゃない?ツムジと一緒に、空飛んで行っちゃえば】


 なるほど。

 空飛んで行けば問題無いか。


「佐藤さんの言う通りかも。ちょっと先に行ってくる。ツムジと一緒なら、長浜からこっちに合流も出来るしね」


 その後、半兵衛にその事を伝え、僕は先に長浜へと向かうのだった。





 空の旅を始めて数日。

 僕は人形の姿になり、三人での旅を満喫していた。

 そんな中、休憩中にツムジが変な物を発見する。


「あの木と向こうの木、同じ傷がある」


「本当だ。何だろう?」


「あ、向こうにもあるな。何だ?引っ掻き傷?」


 数本おきの等間隔で、木の幹に傷があるのが分かった。

 ガリガリと削ったようで、幹は剥げていて、下には剥がれた表皮が落ちている。


「魔物かなぁ?」


「でも、そんな気配無いわよ」


 魔物ならツムジがすぐに気付く。

 しかし、近くにはそんな大きな気配は無いという。

 そんな時、兄がいきなり大きな声を出した。


「あー!」


「何よ!?ビックリさせないでよ」


「僕も結構ビックリした。何かあった?」


「思い出した。気配が無いアイツの事を」


「アイツ?」


「最近、見てなかったからな。ツムジと会った時も、出てきただろ?」


 その一言で、僕も思い出す。

 今思えば、その傷はかなり低い位置にあった。


「ツムジも見回せ。近くに猫が居るはずだ」


「猫?」


「召喚獣、まねき猫だ!」





 静かに周りを見回していると、ツムジが何か聞こえると言い出した。


「カリカリ言ってる。これ、削ってる音じゃない?」


「どっちから?」


「こっち!」


 すぐさま二人でツムジの背に乗り、音のする方へと向かった。


「い、居たあぁぁ!!」


 兄の大きな声に、猫はビクッと身体を動かす。

 そしてこっちを確認して、ニャアと鳴いた後、走り出した。


「追いかけてくれ。そのうち止まると思うから」


「まっかせなさい!」


 ツムジはゆっくりと後ろを追いかけていくと、段々スピードが上がっていく。


「は、速くない?」


 兄はツムジの飛ぶ速度が速くて、目が開けられないようだ。

 人形の姿だと、そういうのが気にならないのは利点だと思う。

 しかし、それにしても速い。

 周りの景色が一瞬で変わっていく。


「あ、アイツ、速いわね!」


 ツムジが言うほどだ。

 相当な速さなのだろう。

 幸い、一直線に進むので木にぶつかったりはしないようだが。


「あ、止まりそう」


 まねき猫はゆっくりとスピードを落とし、最後にはこちらを振り返って鳴いた。


「誰も居なくない?」


「だな。でも、大体何かあるか誰か居るはずなんだけど」


「猫、消えたわよ」


「何っ!?」


 って事は、此処が連れて来たかった場所なわけか。

 でも、何も見当たらない。


「仕方ない。手分けして周りを探そう」




「おーい!何か見つかったかぁ!?」


 兄の声が左の方から聞こえる。


「何も見つからなーい!」


 ツムジも返事をしてきた。

 勿論、僕の方にも何も見当たらない。



「駄目だわ!何も手掛かりが無い!」


「今までで一番不親切だな」


「ツムジの時だって、こんな難しくなかったぞ?」


 もう一度集まってみるものの、やはり何も見つからなかった。

 少し疲れたので、再び三人で座り込む。


「どうする?諦める?」


「諦めていいものなの?」


 ツムジの質問は、僕等にも答えられない。

 だって諦めるも何も、今回ほど苦労してないし。


「もう少し探してみよう。ツムジの速さで飛んできてるから、半兵衛達に追い抜かれる事は無いし」


「それもそうね。えっ!?あ、ちょっと待って!」


 ツムジは周りを見回すと、ある事に気付いた。


「ねえ、あの木だけ、傷が無いわ」


「あの木だけ?」


「よく見て。気付いたら周りの木、全部に傷があるもの」


「ほ、本当だ!」


 言われるまで気付かなかった。

 僕は立ち上がり、その木の前へ行ってみた。


「普通の木?」


「何の変哲もないな」


 後ろには兄も立っていた。

 やはり気になったらしい。

 そして横には、ツムジもやって来た。


「触ってみたら?何か分かるかもしれないわよ?」


 ツムジに言われた通り、兄が木に触れてみたが特に変わった様子は無い。

 僕もなんとなく、まねき猫が引っ掻いていた辺りを触れようとしてみた。


「うぇ?あわわわ!」


「お、おい!?」


 触れたつもりが何も無く、階段で足を踏み外したように木の中へ落ちた。





 落下しながら周りを見るも、どうやら木の中では無さそうだ。

 明らかに違う空間で、周囲は真っ暗。

 正直、頭の方へ落ちてるのか、足の方へ落ちてるのか。

 方向感覚がサッパリ分からなくなっていた。

 そんな感覚も終わりを告げる。



「うわああぁぁ!!ねも!」


 ようやく地面が見えたと思ったら、顔から落下する。

 くそぉ、頭の方が下だったか。

 この身体は痛みとか無いので特に問題無いが、生身だとしたらかなり怖い。


「おーい!大丈夫か!」


 兄がツムジに乗って降りてきた。


「怪我は無いよ!降りてこれる?」


 ツムジが地面へ着地すると、早々にこう言った。


「何処よ、此処」


 ツムジが驚くほどの景色。

 僕も立ち上がり見てみると、驚く理由を理解した。





「山頂?」

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