救出作戦
寝ながら話を聞いているという変態のおかげで、報告は一時中断となったが、それを無視して続けた。
又左に続いて、慶次と佐藤が報告を始めたが、慶次の一言で欠陥品疑惑が浮かぶ。
慶次と佐藤の二人は途中で使えなくなったと話したが、結論は魔力切れだった。
むしろ安全を考慮して説明したはずなのに、勝手にスイッチやダイヤルを弄るという行動が、コバの怒りを買うのだった。
そして次の議題は、帝国の国王と上野国の領主について。
どちらを先に救出するか。
この話になって、ズンタッタとビビディ、ドランは大きく対立。
遺恨を残したまま、どちらかが安土を去る可能性もあると考えたが、どうしても良い案が浮かばなかった。
結局いつものように、半兵衛に頼る事にした僕だったが、そこでとんでもない事を聞かされる事になった。
半兵衛が三人を前に説明を開始したが、話は色々な方向に飛んだ。
三人はその話がどう繋がるのかよく分からなかったが、最後になってその結末を理解する。
上野国が、全ての鍵を握っていると。
ズンタッタの言葉が室内に響く。
誰もが考えてもみなかった答えだったからだ。
他国の国王が、魔族の領地に居る。
しかもその国は、魔族を襲っているのだから。
「は、半兵衛殿。その推測の当たっている確率は、如何程なのか!?」
「五割、いや七割は固いかと」
開いた口が塞がらない。
ズンタッタとビビディは、その言葉に頭が真っ白になっていた。
静まり返った部屋の中。
あの慶次ですら、話の内容の衝撃に驚きを隠せないでいた。
「ドラン。上野国には厩橋城以外に大きな町村、もしくは砦はあるか?」
「・・・」
「ドラン!」
「え?は、はい!」
駄目だ。
予想外の話に、ドランも浮き足立っている。
「分かった。一つずつ話を片付けていこう。まずは滝川一益だ」
半兵衛に視線をやると、その意味を理解したのか、すぐに頷き続きを話し始めた。
「滝川様の件ですが、こちらはドワーフから大きく抵抗されると思われます。それに対しては我々も大きな戦力で向かうのが良いでしょう。なので、厩橋には前田様と太田殿が攻城に参加して下さい」
「あ、あぁ。分かった」
「ワタクシも全力で頑張らせていただきます」
「それとこの厩橋攻めには、本来なら戦闘に参加しない方にも、参加していただく事になります」
「戦闘に参加しない者が参加?」
心当たりが無い連中は、各々で誰だか予想している。
各々でも分からない為話し合ってみたが、それでも結論は出なかったようだ。
そしてその者には、既に部屋の前で待機してもらっている。
「半兵衛。呼んでくれ」
扉の前に行った半兵衛は、彼を迎え入れた。
「えっ!?魔王様!」
部屋の中に居る僕と、扉から入ってくる魔王。
お互いを見比べていると、ドランだけがようやく気付いた。
「ラビか」
「お久しぶりです。ドラン様」
ドランに跪く魔王を見て、一同驚愕する。
「おい!お前が偽者なのは分かった。だが、魔王様の姿で跪くのは許さんぞ!」
「前田殿。ワタクシも、少々怒りを覚えました」
又左と太田が立ち上がり、ラビへ詰め寄ろうとする。
しかしラビは、そんな武闘派二人に動じなかった。
むしろ、その二人を前にして堂々とした姿である。
そして二人が目の前まで来た時、ラビはその目を見て言った。
「ごめんね!」
何やら、また可愛らしいポーズを取って二人に謝罪をした。
見る人が見れば、馬鹿にしているように見えるだろう。
「なっ!お前は!」
「ムウゥゥ!!」
顔を真っ赤にした二人は、続く言葉が出てこない。
「許してね?」
ラビの可愛いポーズ攻勢は続く。
というか、見てて気持ち悪い。
僕、こんな事しない。
「うぐぐ・・・」
「・・・」
歯を食いしばる又左と、目を閉じて考え込む太田。
そしてその目が見開いた時、二人は言った。
「うむ!魔王様とは違うが、良い!」
「アリですね!ワタクシ、この事も書き残したいと思います」
ん?
んん!?
何が良いのか分からんし、何を書き残すのかも分からん。
コイツ等、完全にラビが放つオーラにやられたな。
ラビの奴、僕よりオーラがあるから・・・。
そんなラビは、二人をちゃんと見据えて話を始める。
「二人に認めてもらえたのは幸いです。今回、私は魔王様の影として、二人と行動を共にしますので。戦闘にはお役に立てませんが、よろしくお願いします」
「という事です。ラビ殿は戦闘には参加しませんが、魔王様の影武者として、指揮を執ってもらいます。実際に指揮を執るのは、私ですが」
ラビの補足を半兵衛が行う。
「ドラン達も、勿論この戦闘に参加だから。大体の事は理解出来たかな?」
「はい!」
ドランは大きな声で返事をしてきた。
彼の納得のいく作戦だったようだ。
「じゃあ、これで一つは片付いた訳だ」
座ったドランに対して、ズンタッタとビビディが今度は立ち上がる。
「それでは、我々の作戦というのは?」
「まず、さっきの続きを聞きたい。ドラン。上野国には、厩橋以外に国王が居てもおかしくない場所はあるか?」
今度はちゃんと聞こえている。
しばらく考え込んだ後、彼はこう答えた。
「領内に利根と吾妻という場所があります。そこには水上と草津という村があり、他の領主達が訪れる湯治場として使われております。王族ほどの身分であれば、このどちらかが有力かと思われます」
「二つか。場所は近い?」
「それほど遠くはないです」
うーん、先に水上行って、その後に草津行けば良いかな?
(なんか、温泉出そうだな)
いや、既に湯治場になってるって言ってるから。
温泉湧いてると思うよ。
(なん・・・だと!?俺、この戦いが終わったら、両方行くんだ)
そういう発言やめて。
僕等、死んじゃいそうだからやめて。
「では、両方とも調べましょう」
「そんな事出来るの!?」
「出来ます。魔王様の力と、ある方の力をお借りすれば」
即答かよ。
凄い自信。
半兵衛も貫禄出てきたなぁ。
たまにお菓子を凄い勢いで食べなければ、だけど。
「それで、僕の力は分かったけど、ある方っていうのは?」
「猫田殿です」
「猫田さん!?」
まさかの答えに、僕と又左、そして長可さんも驚いた。
「猫田さんかぁ。でもあの人、何処に居るの?」
「上野国です」
「一人で先に居るのかよ!」
「そろそろ長浜に帰還しているかもしれません」
なるほど。
隣だから戻りやすいって事ね。
「猫田さんの力が必要なのは分かった。それで、こっちには戦力があまり必要無いって言ってたけど。誰が参加するの?」
「魔王様です」
「ふぇ?」
「魔王様と猫田殿に、潜入捜査をお願いします」
僕の変な返事は聞き流された。
そもそも、潜入捜査?
それって、今更だと思うんだけど。
「ズンタッタ殿達の帝国兵の方々は、魔王様達が調べた後に、其処を攻めていただきます。おそらくは他の町や村と違って、かなりの戦力を集めていると思われますが、これは陽動です。本命は裏の潜入班。つまりは魔王様に国王を救っていただきます」
「ほあぁぁ!?」
何故、全く顔も知らない僕がやるのかな?
おかしくない?
「顔を知らないとか思っていますよね?」
ギクッ!
何故分かった?
「まあ思ってるけども。だって、知らない奴がどうやって助けるのよ」
「その為にまず、ズンタッタ殿には魔王様のあのお力をお借りします」
「あの力?」
「そうです。誰でも変身出来る、あのお力です」
僕はズンタッタに魂の欠片を渡した。
「それではお願いします」
ズンタッタは目を閉じて集中し始めると、光が全身を覆い尽くした。
光が消えて中から出てきたのは、背の高い白髪混じりのダンディなおじさんだった。
白髪は混じっているものの、顔に目立ったシワは無い。
髪さえ染めれば、まだ若々しく見えそうだ。
離れた所にある鏡を覗くズンタッタ。
顔を触り、全身を見回していた。
「まさに、私が仕えた王そのもの!」
「というわけで、この方を探して下さい」
なんかこの辺は投げやりだな。
「いや!アレから随分と経っております。もう少し年齢に相応しい顔になられているかと」
ズンタッタの言葉通りなら、もう少しおじさんっぽいって事かな?
というより、軽くディスってるようにも聞こえるんだけど。
「というわけで、もう少しおっさんになったこの方を探して下さい」
もはや投げやりどころか、どうでも良い存在と化している気がする。
何故、こんなに扱いが酷いんだろう。
「話は分かった。それで、残りの連中は?」
「主には、安土防衛を担当してもらう事になると思います。帝国の王子は戦力を落としましたが、まだ王国や騎士王国、他にも敵味方の判断がつかない領主達も居られますので」
「分かった。その代わり、佐藤さんはズンタッタの指揮下に入って。同じヒト族だから、帝国が攻めてきたと思わせられるでしょ」
「なるほどね。了解した」
他にもヒト族で戦えそうな人は・・・ロック?
コバの横に立つロックを見ると、右手を顔の前でブンブン振っている。
コイツ、全然戦う気がねーな。
「吾輩も行くのである?」
「ハァ!?」
「彼等の武器を、現地で調整するのである」
言ってる事は分からなくもない。
だけど、結構危険な旅になりそうなんだが。
「それは決定事項?」
「自分の身は自分で守る。それまでに吾輩を守る、完全無欠の防御兵器を開発してみせる!」
「そんな物作るより、ロックに何か渡して強くした方が早くない?」
「へあ!?俺っち!?」
「こう言っては何だが、全く信用出来ん」
自分でボディーガードに任命しておいて、全く信用出来んとは。
ロックの扱いも相当に悪いな。
「ちょっと!コバを守るくらいなら、俺っちだって出来るよ!」
「じゃあ吾輩が戦場に行くから、お前も戦場へ行けである」
ロックは顔をみるみる青くして、自分が言った言葉を後悔した。
「冗談ではなく、本気だ。さっきも言ったが、自分の身は自分で守る。任せておけなのである」
胸をドンと叩くコバだが、少し頼りない。
でも、現地で武器の調整が出来るのは大きなアドバンテージだ。
全員の武器を見たが、かなり強力である事には変わりないのだから。
「ロックだけでは心配だから、蘭丸とハクトにコバの近くにいてもらおう。それだけで随分と安心出来る」
「彼等か!それはありがたいのである」
コバにロックよりも信頼されている蘭丸達。
彼等も実戦経験をもっと積んでもらう為にも、こちらとしては都合が良い。
「では、そんな感じで大丈夫かな?ズンタッタとビビディは、何かある?」
「半兵衛殿が七割だと言うのなら、私達は信じます。我々で直接お救い出来ないのは口惜しいですが、魔王様よりも信頼出来る方も逆に居りません。よろしくお願いします」
二人は半兵衛と僕に頭を下げて、作戦の成功を願った。
まさかの二つ同時作戦。
どちらかだけ成功ってなると、これまた揉めそうだ。
必ず二つ同時に成功させよう。
「本当はベティ達にも、作戦に参加してもらいたかったんだけどね」
会議が終わった後、鳥人族は越中国へ帰る準備をしていた。
だいぶ時間が掛かり、辺りは暗くなってきていたが、彼等は空を飛んで帰ると言う。
夜目に利く連中も居るので、問題無いのだろう。
「魔王様。この武器、本当にアタシが貰っていいの?」
「双剣が使える奴が、居ないみたいだからな。だったら使える奴に渡した方が良いだろ?」
「でもこの武器、相当な価値があるわよ」
「吾輩の痛恨の失敗作である。誰も扱えない武器など、手元にあっても必要無い」
「作った本人がそう言ってるしね。だから、受け取ってくれ」
「分かったわ。ありがとう」
ベティはコバにハグをして、お礼を言う。
しかしコバは、その鍛え抜かれた胸筋に押し潰され、ジタバタと暴れている。
「苦しいわ!さっさと行け!」
「イケズねぇ」
「・・・クリスタルに入れる魔法は、光魔法じゃなくても良い。自分に合った魔法を見つけろ」
最後の最後で、コバはアドバイスを送った。
ベティは頷き、そして僕の元へやって来ると、ベティを含めた鳥人族全てが跪いた。
「我等鳥人族一同、安土と協力関係を結び、魔王様の配下に入る事を誓います」