帝国と上野国
目がぁ!
閃光弾によって何も見えなくなった僕等だったが、慶次は見えないながらも清水を追った。
慶次は壁に激突を繰り返しながら、臭いを辿り通路を進んでいった。
目がぼんやりと見えるようになった慶次は、進むスピードが大幅に上がり、そしてとうとう清水を発見する。
「慶次フリージング!」
間髪入れずに必殺技を叫ぶも、不発に終わる。
もう一度繰り返したが、どうやら壊れたと勘違いしたようだ。
どうにか清水を倒した事で、安土の都内から帝国兵を一層する事が出来た。
その夜、安土では勝利を祝う祭りが催された。
華やかな雰囲気の裏で、僕とノーム達は壊された壁の補修に精を出していた。
魔王なのに・・・。
翌日、戦果報告を行う為に会議を行う事になった。
三人のAクラスの撃破に加えて、ズンタッタ達の撃退。
犠牲者の数等の詳細を確認した後、コバ希望の新武器の感想を聞く事になった。
最初にベティから始まり、太田と又左の順で武器の性能や問題点を、使用者側からの指摘を話していた。
そんな中、ある異変に気付く。
コバは、自分で話を振っておきながら、爆睡していた。
バシっ!
「痛い!」
長可さんのハリセンがコバの頭に炸裂すると、コバはすぐさま起きた。
「皆さんが貴重な時間を割いて話をいるのに、貴方は何をしているのです!」
ガチ怒りの長可さんが、コバに対して文句を言うと、とんでもない言葉が返ってくる。
「吾輩、寝ながらも話は聞いていたのである!」
「寝ながら話を聞くって、そんな事出来るの?」
「出来る!」
自信満々に言い放つコバは、その証拠と言わんばかりに三人の指摘した点を話し始める。
これに関しては誰もが驚いてしまい、開いた口が塞がらないといった感じになった。
長可さんは紛らわしいとどちらにしても怒り、コバは聞いてるんだから良いだろ?と反論。
言い合いが続いていたが、無視して又左に話を続けさせた。
「私の個人的な意見としては、使い勝手も悪くないです」
「じゃあ、次」
「拙者が話すでござる!」
又左の次は自分。
どうしても順番が後が良いようで、物凄い勢いで立ち上がった為、椅子が倒れている。
「拙者が預かった武器は、冷気を発したでござる。槍を構えると放射状に冷気が発せられ、前方の敵が氷漬けにされたでござる。それと地面を突いたら、地面が凍りついたのも面白かった。しかし、急に壊れたのはいただけないでござるな」
「急に壊れた?」
コバが頭を傾げ、不思議な顔をしている。
「一旦此方に戻してもらったが、どれも壊れてなかったのである。どういう事であろうか?」
「でも、急に使えなくなったでござるよ?追い詰めて目の前で使おうとしたが、何も出なかった。アレ、不良品でござる」
「あ、それに関しては俺も良い?」
佐藤さんが手を挙げてきた。
何やら同じような話があるらしい。
「俺もあの言葉を言うのが恥ずかしくて、ちょっと勝手に弄っちゃったんだけど。そしたら急に効果が変わって、俺のも使えなくなっちゃったんだよね」
「なるほど。二人とも同じ事である。それはただの魔力切れ。クリスタルの中に封じられていた魔力を使い切っただけなのである」
「でも太田さんみたいに、自分の魔力を変換する事も出来るんじゃないの?」
「アレは威力が大きい代わりに、消費量も大きい。だから特別措置として、そういう風にしただけなのである。魔族が使えば絶大な力を発揮するが、魔力を吸い取って使うとなると、少し問題が発生する。それは、魔力を過多に吸い上げるかもしれないという点なのである」
「安全面を考慮すると、あまりオススメしたくないって事か。確かにその攻撃で倒せれば良いけど、もし倒しきれなかったら、逆に自分が動けなくなって、窮地に陥るからね」
「その通り。安全に使えてこそ、意味がある。試作品なのにダイヤルを弄ったりしたら、どんな反動があるか分からないのである!だから敢えて何も言わなかったのに。今後は勝手な行動は慎むように!」
コバの説明が終わると、二人は座った。
やはりまだまだ未完成のようだ。
魔族の事をちゃんと考えているコバなら、危険な武器を作る事は無いだろう。
武器の説明は大体終わった。
彼等の話を聞いて、改善点は多々見つかった事だろう。
「さて、次の話に移りたいと思う。次の話題は、今後についてだ」
そう。
現状、やらなくてはならない事が複数ある。
それを彼等に、説明しなくてはならない。
「まず一つ。ズンタッタ達の主君である、ドルトクーゼン帝国の国王救出」
「ついに、乗り出してくれるのですか!?」
ズンタッタが立ち上がり、大きな声を出した。
「慌てるな。まだあるんだ。そしてもう一つが、ドワーフ達の領主。滝川一益の救出。ん?救出って言うのか?」
「無論です!我が主君は、洗脳されています。だから、それを解いてほしいのです!」
という事は、救出で良いのだろう。
奇しくも両方救出って形になったな。
「お話は分かりました。それで、どちらを先にやるおつもりで?」
長可さんの言葉に、ズンタッタ達とドランの視線が此方へと向いていた。
血走ってるんじゃないかと思うくらい、熱い視線だ。
「帝国の方を先に・・・」
「お待ちください!もし洗脳が深くなればなるほど、解くのが難しくなるかもしれません!何卒、上野国へ」
ドランが立ち上がり、その意見に反対する。
しかしそうなると、ズンタッタも黙ってはいられない。
「いや、それを言うならば我が国王もかなり危うい。高齢の中、長く幽閉されておられます。このままですと、完全に王子の手によって帝国は乗っ取られてしまいますぞ!」
ズンタッタの言う事も分かる。
それに国王が崩御すれば、彼が安土に居る理由も無い。
国王救出の為、ズンタッタやビビディ達は滞在しているのだから。
どうしよう。
どっちも重要で選びづらい。
どちらかを選ぶと、どちらかから何か言われるし。
選ばなかった方の代表には、後々まで遺恨が残りそうな気もする。
『だったら、アイツの知恵を借りれば良いじゃんか』
半兵衛か。
それをすると、半兵衛が恨まれそうで嫌だったんだよね。
『アイツなら、どちらにも良い案を考えてくれるさ』
そうかなぁ?
とりあえず呼んで、こっそり話を聞いてみよう。
「どちらを、ですか?」
「そう。どっちか選ぶと、どっちかに恨まれそうだし。何か良い案ある?」
僕は休憩と称して、他の皆を下がらせた。
そして別の部屋に半兵衛を呼び、相談をしている。
「それは、必ずどちらかを優先して選ばなくてはいけないのでしょうか?」
「優先してというか。そうね。選ばないと駄目かな」
半兵衛の案でも、やっぱり選択する事になるか。
だったら僕がそれを言って、半兵衛には害が及ばないようにしないとな。
「そうですか。うーん、そうなると必ずどちらかには恨まれますね。おそらくは安土からも離れる事になるでしょう」
「そうだよなぁ。今まで助けるって言って、此処に来たりしてるのもあるし。ある意味、嘘ついてたって事と同じだよね」
「選ばなければ、恨まれずに済むんですけど」
「そうだよね。選ばなければ恨まれずに済むけど。そうなると、どっちの救出にも進展しないし。駄目かぁ・・・」
「えっ?進展はしますよ」
「そうか。進展はするのか」
進展はするにしても、何が進展するんだろう。
ん?
「どういう事?」
「選ばなければ、恨まれずに話は進められます」
「は?えっ!?ちょっ!」
僕は頭がついていけず、言葉足らずで何も出てこなかった。
落ち着く為に深呼吸をしてから、もう一度聞き直す。
「フゥ。どちらかを選ばなければ、両方とも上手くいくって事でOK?」
「桶?風呂桶ですか?」
「あ、大丈夫?」
「問題無いです。その為には、ある方々の協力が必要ですが」
半兵衛から詳しく聞くと、僕は自然と笑みが溢れた。
まさか、こんな方法があるとは。
「よし!半兵衛も次から会議に参加してくれ」
再び会議室に全員集まると、空気が張り詰めていた。
やはりズンタッタとドランが、ピリピリしているせいだろう。
「さて、さっきの話の続きをしようと思う」
「では、我々の領主がどれだけ重要かを話させていただきます」
「それを言えば我が主人は、国王ですぞ!」
開始早々に始まる言い合い。
さっきまで耳が痛かった話とは違い、今回はそれもあまり感じない。
何故なら、解決策が既にあるからだ。
「少しは黙りなさい!魔王様の御前ですよ」
長可さんの一喝で、黙る二人。
おかげで話がしやすくなった。
長可さんにお礼を言って、半兵衛から聞いた話を切り出す。
「どっちが重要じゃなく、どっちも重要なんだ。だから、二人とも助けようと思う」
僕の言葉を静かに聞いている。
しかし、理解はしていなかったようだ。
「それは分かりますが、どちらを先に?」
「先とか無い。同時に救出する」
「な、なんですとおぉぉぉ!!」
ズンタッタとビビディ、そしてドランが一斉に驚きの声を上げた。
三人とも大きな声を出し過ぎて、喉が渇いたらしい。
揃ってお茶をひと口飲んでから、話を聞く態勢になった。
「落ち着いたな?じゃあ続きを話す。半兵衛、頼んだ」
「では、その内容をお話しさせていただきます。まずドルトクーゼン帝国の国王様についてですが、これに関しては最低限の戦力だけでよろしいと思われます」
「それは何故?」
ズンタッタが最低限の戦力という言葉に、眉をひそめる。
その内容の理由如何では、怒るのが目に見えていた。
「まず先に聞いておきます。国王の居場所はご存知ですか?」
「・・・いや、まだ突き止めていない」
「そうですか。今回の安土攻防戦が始まる前に、ある方が帝国へと潜入捜査していたのは、ご存知でしたか?」
「知らないな。ビビディは聞いているか?」
隣に座っている男にも確認するが、やはり同じだった。
「その方が私に連絡をくれたのですが、おそらく国王陛下が居るであろう場所を推測する事が出来ました」
「な、何だと!?それは真か!?」
今まで見つからなかった国王の居場所が、推測だが発見された。
しかも実績を残している半兵衛の言葉に、二人は喜びを隠せない。
「おそらくです。中を調べたわけではないので、分かりません。だけど、ほぼ確実です」
「お、おぉ!!」
「そして滝川一益様の件ですが、此方は戦闘になると思った方がよろしいでしょう」
「な、何!?」
いきなり話が変わりドワーフ達の件になった。
しかも戦闘になるなどと言われては、ドランも慌てるしかない。
「ドラン様は滝川様の洗脳を解く事が出来れば、問題は解決すると思われていますか?」
「いや、それは無理だろう。洗脳されていると分かっていて、あの方を担ぎ上げている連中が居るわけだからな」
「そうですね。その方々をどうにかしないと、おそらくは無理でしょう。そしてその方々が何故、洗脳してまで担ぎ上げていると思われますか?」
「何故?それは都合の良いように、言う事を聞かせる為だろう?」
「その通りです。では、滝川様を都合の良いように扱って、得をしているのは誰ですか?」
「それは担ぎ上げている連中だろう?」
「違います」
ドランは違うと言われて、混乱している。
しばらく考え込んでいたが、やはり答えが分からずに、顔が真っ赤になっていた。
そして、その問いの答えを出した男が横から口を挟んだ
「・・・帝国だ」
「流石はズンタッタ殿。正解です」
「あっ!」
「そうです。ミスリル製の武器を大量に手に入れている、帝国が得をしています」
納得した顔のドランに、答えたズンタッタは少し気まずい顔をしていた。
ミスリルを提供している滝川一益の方が、重要だと判断されたと思ったからだ。
「ズンタッタ殿の顔色が優れないようですが、貴方の考えているような事は心配ありません」
見透かされたズンタッタは、その言葉に驚きつつも安堵していた。
「それでは話を戻します。ズンタッタ殿の同胞の方々が、国王陛下を探している場所は何処でしたか?」
「それは帝国内を隈なく探しているが、分からなかったという連絡しか来ていない」
「それでは質問です。ドワーフ達が統治する上野国は、ミスリル製の武具を提供する以外、帝国に利用価値は無いでしょうか?」
その言葉を聞いたズンタッタは、初めてその考えに至った。
「上野国に国王は居る!」