勝利の夜
佐藤は無慈悲な攻撃で、相手を斬り刻んだ。
本人も思いもよらない攻撃に、どうやってやったのかを検証してみると、聞いていなかった事がそこそこ分かった。
音声認識で発動するのかと思いきや、アナログでスイッチによる作動も出来るらしい。
そして佐藤を加え、最後に慶次が居るはずの部屋へ向かった。
慶次は傷だらけだった。
六人の男女が慶次を囲んでいた。
そのうちの一人、この中で最年少だと思われる少年が狼狽えている。
さっさと倒せと慶次に言うと、ぐうたらグセが出たらしい。
それを聞いた又左は、慶次にお前で最後だから早くしろと言った。
早くしないと飯が貧相に。
早く倒したら豪華になる。
絵に描いたような人参をぶら下げた結果、慶次のやる気は大きく跳ね上がった。
初めて使う新しい武器。
フリージングという言葉通り、清水という少年を除いた五人が凍りつく。
彼等は慶次に貫かれた。
そして清水は、慶次に必殺技という名の閃光弾を浴びせる。
逃げたと判断した慶次は、すぐさま槍を地面に突き立てた。
しばらくすると、遠くで叫び声が聞こえる。
「目がぁ!真っ白で何も見えねー!」
「おのれぇ!魔王様の目を潰しおって!許さん!」
又左は自分も見えないのに、清水の後を追おうと走り出した。
「じむぬと!」
ガン!という派手な音を共に、よく分からない声を出す又左。
その後、ドサッと何かが倒れた音がした。
「あぁ、何やってんのかね。この人はもう」
佐藤の声が明後日の方向から聞こえる。
「もしかして、佐藤さんは見えてるの?」
「あんなあからさまな攻撃、注意するに決まってるじゃない。ちゃんとグローブで顔を覆ったよ」
なんと!?
この男、やりおるわ!
俺の中で、この人の評価がグンと上がった。
だって、四人中三人は目が見えてないし。
「というか、早くこの魔法を解いてほしい。寒くて堪らないんだけど」
「魔法?」
「気付いてない?足下、凍らされてるよ」
佐藤さんに言われて気付いた。
なんか寒い!
「うーん・・・。寒っ!何だコレ!」
目を覚ました又左が、急に大声を上げた。
「前田さん、足下見ないで走ろうとしたから、そのまま頭から転んだんですよ」
「何て事だ!慶次!早く魔法を解除しろ!寒いし、動けないではないか!」
「ちなみに慶次くんは、急いで部屋から出ていったから。いつ帰ってくるか分からないんだよね」
「なっ!?もしかして、あの清水ってガキを追いかけて!?」
「ガキって・・・。その見た目でガキって言われると、お前が言うなって感じになるね。でもその通りだと思う」
逃さないように追いかけたのは良いが、せめて、俺達をどうにかしてからにして欲しかった。
(仕方ない。火魔法で溶かすから、代わろう)
あの部屋からは、だいぶ離れた場所まで来ている。
目も潰したし、そう簡単には追いつけない。
そう思っていたのに!
「足がぁ。痛い。痛いよぉ・・・」
僕の左足は氷漬けにされていて、足首から千切れていた。
右足も無理矢理に引き剥がそうとしたからか、足首から血が滲んでいる。
凍傷になるのも時間の問題かもしれない。
「ぐっ!」
小太刀で氷を削っていくが、焼け石に水だ。
こんな事をしていれば、音で居場所がバレる。
どうする。
どうすれば良い?
「どぉこぉだぁ!?」
ガンガン何かにぶつかりながら、段々と此処に近付いてくる。
あの様子なら、多少の音は問題無いだろう。
左足は諦めて、右足の周囲の氷を急いで削った。
「は、外れた!」
無理矢理に右足を抜くと、足首に大きな痛みが走る。
無理矢理剥がしたせいで、皮が剥がれたのだ。
だが、我慢出来ない程ではない。
左足はもう駄目だが、小太刀を左足にロープでくくり付け、義足の代わりにはなった。
「いっ!」
痛いけど、動けなくはない。
いつものスピードでは無理だが、我慢すれば一般人くらいの速さでは動ける。
よし!
逃げよう。
「みぃつけぇたぁ!」
叫び声が聞こえた事から、やはり部屋から出たのは間違いない。
急ぎ、追いかけよう。
だが、目が見えないからどうやって追うかが問題だ。
臭いを追うのが一番なのだが、拙者はあまり鼻が効く方ではない。
兄上は凄いのだが、その辺は個人差もあるだろう。
泣き言を言っている場合ではない。
とりあえず、分かる限り追うしかない。
「うなっ!」
「げる!」
「あみゃ!」
とにかく直進して、ぶつかったら左右のどちらかへ行く。
これで何とかなるはず。
「むばっぺ!」
この方法、とにかく痛い。
もっと速度を落とせばそうでもないんだろうが、そんな事をしていたら肉、もとい少年に逃げられてしまう。
「むばっぺ!」
ぶつかり過ぎて気にしてなかったが、段々と目が見えてきている気がする。
まだ全体が白っぽいが、輪郭はハッキリと見えてきた。
「どぉこぉだぁ!?」
輪郭が見えれば、ぶつかる事も無い。
落ち着いてくると、耳の方もさっきより聞こえる気がする。
何かを削っている音がするが、落とし穴でも掘っているのか?
「あっちだな」
しばらく進むと、削っている音が止まった。
「外れた!」
そこを曲がったすぐの所から、声が聞こえる。
顔を出してみると、血溜まりが出来た場所に、少年が立ち上がっていた。
「慶次、フリイィィィジング!!!」
槍を構えた慶次は、少年に向かって大きな声で叫んだ。
「・・・あら?」
何も起きない槍に、柄や穂先を見回して、壊れた箇所は無いか探ってみた。
しかし特別壊れたような場所は何も無かった。
「焦った!またやられる前に、逃げないと!」
「逃すわけないでござろう!慶次フリージング!」
やはり何も起きない。
「その武器、不良品?あんな威力が出たんだ。壊れちゃったんじゃないの?」
「確かに試作品だとは聞いたが・・・」
困ったような顔をしてどうするか迷っていると、その隙を突いて少年は走り出した。
「肉ぅ!」
慶次は槍を投げ捨てた。
そして腰にあるいつもの槍を取り出し、そして彼目掛けて伸ばす。
「うっ!」
背中から心臓を貫かれた清水は、その場で前のめりに倒れた。
動かない彼を見て、慶次はゆっくりと近付く。
「即死か。仲間を見捨てて逃げるような奴でござる。即死出来ただけ、ありがたいと思うでござる」
「それは僕も思うけど、ただ彼を肉呼ばわりは酷いと思うぞ」
三人が此方へ歩いてくると、魔王様がそんな事を言っていた。
「敵はこれで安土からは消え去ったな。裏の戦いが終われば、勝鬨を上げて良いと思う」
その夜、安土は勝利を祝う祭りをやっていた。
僕とノーム達を除いて・・・。
「ねえ、僕って魔王だよね?」
「魔王ですなぁ」
「何で魔王が夜に、土木作業してるの?」
「それは分からんですなぁ」
ノームのおっちゃんは、僕の言葉を流しながら作業していた。
作業とは、奇襲で破られた壁の補修である。
正面入り口には、僕が作った迷路や又左達が居た部屋があったので、特に大きな被害は受けていない。
だが、今居るこの裏側は、大きな穴が三箇所も空いていた。
此処は田畑があり、安土の食料を担う重要な場所でもある。
昼の戦いで荒らされた部分もあり、食料事情に影響があるかもしれない。
大打撃とはいかなくても、特定の野菜や果物が希少になるかもしれないのだ!
食べ物は大事。
異世界で楽しみっていうと、どうしても食べ物が多くなるんだよね。
それに、この穴を放置してスパイ等が入ってきたら、また被害が出るだろう。
ただでさえ、奇襲と呼べない奇襲で犠牲者が出たんだ。
これで本当に危険人物が知らぬ間に入り込んだら、僕はこれから先ずっと悔やむだろう。
だから・・・
「まあ、こうなるのも仕方ないよね」
独り言を零しつつ、壁の補修に集中する事にした。
「眠いな・・・」
なんだかんだで明るくなった頃、全ての壁の補修を終える事が出来た。
破られる前より強度は増してあるので、今度はそう簡単に壊れはしないだろう。
疲れた足でノーム達と祭りの残りを食べに行き、彼等は少し酒を飲んだら、やっぱり疲れでそのまま寝てしまった。
酒を飲んでいない僕だけが、城に向かって歩いている。
「おぉ、魔王よ。疲れているとは情けない」
「お前、ゲームっぽいセリフで弄るのやめてくれない?それにしても朝早いな」
「ハッハッハ!吾輩も寝てないのである!」
寝てないと豪語する男、コバ。
彼も城の近くにある建物から丁度出てきたらしく、鉢合わせした。
「起きてからで良い。彼等を呼んで、あの武器を使った感想を聞きたいのである」
「分かった。昼過ぎには起きるから、誰かに集まるように頼んでおくよ」
「改良して、もっと火力を。いや、使い勝手を良くした方が・・・」
聞いてねー。
自分で話を振ってきておいて、新しい武器の事で妄想が一杯みたいだ。
面倒なので、別れの挨拶もせずに城へ戻って寝た。
「おはよう」
今回は玉座の間ではなく、普通の会議室に集まった。
コバが話を聞きたい五人。
それとズンタッタとビビディにドラン。
それに今後の外交に関して、長可さんが加わっている。
今回は人形と分かれて参加ではなく、難しい話なので僕が主に話す事になっている。
「おはようという時間ではありませんが、昨晩はお疲れ様でした」
長可さんの労いの言葉から、会議は始まる。
「じゃあまず、昨日の戦果から聞こう」
「まず、敵の指揮官だと思われる連中は、軒並み倒しました」
「柔道家のおじさんとスナイパーのおばさん?」
「投降してきた者の話では、あの清水という少年も大将だったとの事です」
あの逃げたガキ、大将だったのか。
大将なのに見捨てて逃げる。
いや、大将だから自分の身の安全を確保する為に逃げる?
どっちが正しいんだろ?
「その下に就いていたのが、私が担当した軍の指揮官だったようです」
ズンタッタの対応したのが、副官だったのか。
その割には弱かったように感じるけど。
ズンタッタが強かったって方が、正しいか。
「Aクラスと呼ばれる者達が三人とも負けたので、彼等の戦意は喪失した模様。夜の間に八割は霧散しました」
「残った二割っていうのは?」
「森に隠れていますが、既に見つけています。何をするつもりかは分かりませんが、今も監視中です」
長可さんの説明で、スムーズに話が進む。
結局は、追い返したって事で問題無いだろう。
「それじゃ次。コバからの話」
「やっとである!もはや説明は要らんであろう。昨日の武器の感想を聞きたい」
コバが立ち上がり、その声にも熱がこもっている。
「じゃあ、まずはアタシよぉん!」
ベティが立ち上がり、前に双剣を置く。
「正直言って、あまり使い勝手は良くないわ。今回は、目が良いというおばさんが敵だったから有効だった。だけど、光るだけじゃ全く怖くないわね。初見の敵には有効かもしれない。でも、二度目は通用しないわ」
いきなりの辛口コメント。
ベティの顔を見るに、おふざけで言っているわけではなさそうだ。
コバもそれを理解してか、黙って聞いているだけだった。
「じゃあ、次はワタクシが」
太田もバルディッシュを前に置こうとするが、あまり大きいので後ろへ立て掛けさせた。
「ワタクシのバルディッシュは、大きな炎が上がりました。ワタクシの気合いに合わせて、その威力も増大。最後には大きな火柱が上がる程でした」
「何それ!アタシの光るだけの効果と違って、素敵じゃない。羨ましいわぁ」
身体をクネクネしながら話すベティ。
太田は無視して続きを話す。
「今のところは接近戦のみの使用でしたが、やり方次第で炎を前方に飛ばす事も可能かと。ただし、魔力消費は非常に激しいです。ワタクシの身体から、ゴッソリと魔力を持っていかれたのが分かりました」
なるほど。
威力は絶大だけど、魔力消費も同じくって事か。
コバは目を閉じて、神妙な面持ちで聞いている。
「次はじゃあ私が」
又左の槍も長いので、此処へは持ってきていなかった。
そして立ち上がり話始める。
「私の槍は雷を纏うという効果でした。槍に触れれば感電し、触れなくても雷が真っ直ぐ飛んでいく。左右に避けなければ、そのまま雷に直撃して大きな損傷を与えるでしょう。私の魔力が多いとは思いませんが、消費量もそこまで多くは無かったかと」
「確かに。見てたけど、そんなに疲れてなかったな」
又左は当然という顔で、僕に目をやった。
コバはまだ目を閉じて、軽く頷いている。
頷いている?
「ちょっと待て」
僕は話を止めて、皆に黙るように指示した。
すると、小さな音がコバから聞こえる。
「グゥ・・・」
「コイツ、寝てやがる!」