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左通路の攻防

 清水の壮大な勘違いは、他の召喚者を巻き込んだ。

 残った召喚者を引き連れて、部屋に入ってくる清水。

 彼は佐藤を魔王だと呼んだ。

 ハッキリと人違いだと伝えると、彼は顔を赤くして頑として認めなかった。

 しかし、日本という名前に首相という言葉。

 異世界に馴染みの無い言葉を聞いた清水は、とうとう受け入れるしかなくなってしまう。


 キレそうになる気持ちを抑えた清水。

 挑発的に発した言葉は、又左の逆鱗に触れた。

 いきなり攻撃を開始する又左の長槍だったが、ある一人の棍棒がそれを阻む。

 長槍と棍棒。

 お互いに武器が長く、巻き込まれる事を懸念した佐藤と慶次は、他の召喚者達に移動を提案した。


 二人を相手にするよりも、連携を取らせない方向で個別に倒す。

 彼等は作戦通り、佐藤を足止めして先に慶次を倒す事に専念するようだった。


 佐藤は足止めの為の六人と対峙した。

 ドッジボールの要領で攻撃をしてくる児玉。

 彼の投げるボールを、他のBクラスの四人がカバーしていた。

 紅一点の西島は、いきなりベルトを外し始め、スカートが地面へと落ちる。

 その姿を見ていると、彼は変態偽魔王と呼ばれる事となった。





「お前、それは無いだろ!いきなりベルトを外してスカートが落ちたら、そりゃ男なら見るものなんだよ!」


「黙りなさい!この変態!」


 変態と呼ばれた佐藤は、必死に反論している。

 そして遂には、敵である他の男達にも同意を求めた。


「おい!お前等だって分かるだろ!?スカートを脱ぎ始めた女が居たら、そっちに目が行くのは自然だって。横のお前だって、見てたんだろ!?」


「俺っすか!?いや、あの〜」


「ほら!この反応は見てたって!俺がおかしいんじゃない!いきなりスカートを脱ぐお前がおかしい!」


「うるさい!このスケベ共!」


 西島は怒鳴りながら、手に持ったベルトを佐藤に向かって打った。

 すると、ベルトは一メートル弱の長さから急に伸び始める。


「うわっ!ベルトが鞭みたいになった!」


「おとなしく打たれなさい」


 ベルトを引くと、予想外の方向へ曲がる。

 佐藤は、パーリングの要領で鞭を叩いた。

 動きが止まったところに、児玉のボールが飛んでくる。


「おいおい!冗談みたいな攻撃だけど、かなり厄介だぞ!?」


 隙を見つけては他の四人も、石やら氷やら小さな礫で攻撃をするようになった。


「このまま釘付けにするぞ!」





 一方、慶次が入った部屋では、早々に戦いが始まっていた。

 理由は簡単。

 慶次が全員入ったのを見て、すぐに攻撃を開始したからだ。

 その不意を突いた攻撃で、又左同様に二人は倒している。


「卑怯者がぁ!それがお前等のやり方か!」


「何か以前にも、似たような事を言われたような?」


 慶次は興味の無い事や役に立たない事は、すぐに記憶から消し去るタイプだった。

 戦いに関しては忘れなくても、罵りなど覚えているはずが無い。


「こっちには数の有利がある。無理せず、隙を見て攻撃しろ」


 清水の統率力はなかなかだった。

 この中では最年少だが、皆も文句無く指示に従っている。

 彼等の中に、不意打ちで死んだ二人の姿が目に焼き付いているからだ。

 褒賞目当てに自分勝手に動くより、自分の身を最優先に指示に従った方が、生き残る確率が上がる。

 この敵は自分には勝てないと、誰もが認めていた。


「むぅ。面倒でござる」


 慶次は腰に持っていた今までの内蔵型の槍も左手に持った。

 二本の槍を肩と手首の力を使って伸ばし、Bクラスの召喚者達に攻撃を与える。

 数が多い相手に対して、有効に思えた。

 しかし慶次には、この方法は悪手だと感じたようだ。


「手傷を負わせられても、倒すまでにはいかないか。失敗でござる」


「そうだね。アンタ、攻撃に手一杯で、僕の事見てなかったもんね」


 後ろから聞こえたその声に、咄嗟に身体を前へ投げ出した。


「痛っ!」


 左肩に熱さを感じた。

 鋭利な物で斬られた痕がある。


「それは・・・脇差?それとも小太刀でござるか?」


「小太刀で正解。この武器、あんまり人気無いよね。でも僕には、テニスラケットに近い扱いが出来て、丁度良いんだ」


 清水は、重さと長さがラケットに近い、小太刀を愛用していた。

 太刀になると長くてバランスが悪く、脇差になると短く感じる。

 そういう理由から小太刀にしていたのだが、自己流のやり方で戦っていた。


「しかし、いつの間に後ろへ・・・」


「それは教えないよ。キミは此処で殺さなきゃならない。死ぬ間際になったら、教えてあげてもいいかな」


「ハッハッハ!見た目に似合わず、剛気な答えでござるな。だが、死ぬのは其方でござる!」



 左手の槍を腰に戻し、再びコバから与えられた新しい槍に持ち替える。

 新しい槍は魔王製と違い、ボタンを押すと長さが固定された。

 故に通常の槍の扱いも出来て、更に伸縮させられる。

 一本で二度おいしい槍となっていた。


「やっぱり、そう簡単には倒せないか」





「ぬぅん!」


「フン!」


「ハアァァァ!!」


「うおりゃあぁぁ!!」


 又左達の部屋は、とにかくうるさかった。

 お互いに力でぶつかり合い、気合を込めた声が部屋中に響き渡る。


「なかなかやるな!」


「アンタもやるのぉ」


 二人は間合いを取って睨み合い、お互いの力を認め合った。

 又左は軽く痺れた手を回復させる為、わざと会話を続けている。


「お主ほどの力の持っていても、さっきの少年の方が上なのか?」


「清水の事か?うーん、ワシとは相性が悪いけぇ。マトモにやり合えば、向こうの方が有利だろうな」


「ほう?それは慶次に渡したのは勿体無い気もする」


「慶次?あぁ、もう一人の獣人か」


「アイツは俺と違って、器用だからな。案外、良い戦いになってるかもしれない」


 又左は話しながら、槍を軽く握ってみた。

 握力が回復している。

 伸ばしていた会話を止め、彼は槍を突こうとした。


「そういえば、魔王は誰なんじゃ?」


「は?」


「いや、魔王を一度くらいは見てみたいけぇ。どんな人物なんかのぉ?」


 まさか、いきなり魔王の話をされるとは思わなかった。

 しかし、聞かれたら少し魔王の話をしたくなった又左。

 つい彼の言葉に乗り、話始めてしまった。




「というわけで、魔王様は凄いのだ!」


「なるほどのぉ!やっぱり聞くと、会いたくなった!」


「そうか?俺は別にお前みたいなむさ苦しい男に、会いたいとは思わないけどな」


 部屋の入り口から、子供の声が聞こえる。

 二人とも其方へ視線をやると、魔王がツムジと一緒に入ってきた。


「お前等、随分と仲が良いな」


「魔王様!いや、キャプテン!」


「キャプテン?」


 宇野は子供を見て、本物の魔王だと目を見開いた。

 そして、キャプテンという言葉に首を傾げると、又左はまた余計な説明を始める。


「魔王様は二人居るのだ!この方はキャプテン。俺なんかより、更に強いぞ」


「おぉ!それは凄い」


 又左の言葉を素直に受け入れる宇野。

 珍しく、子供じゃないか!みたいなツッコミは無かった。


「それで、何でそんなに仲良くなってるんだ?」


 二人とも会話が長過ぎた事に気付いた。

 槍と棍棒を構えて、再び睨み合う。


「・・・宇野と言ったか。貴様、何故帝国に加担する?」


「金の為じゃ。もうすぐAクラスに上がると言われとる。だからアンタ等の首を持って帰れば、もっと良い暮らしが出来るっちゅうわけやな!」


「もし、此方に味方をすれば、帝国より良い暮らしが出来るとしたら?」


「城は凄いが、見た感じでは民家はそんなでもないんじゃが。ワシの想像だと、それは無理じゃ!」


 そりゃ、豪華な家や幹部連中の家は、城の近くだしな。

 それに質素な暮らしの方が好きって連中も居る。

 見ただけじゃあ、そういう反応になるわな。


「敵対するしかないのなら、お前を殺すしかないが」


「それはこっちのセリフじゃあ!」


 宇野は棍棒で地面を叩き、割れた地面から瓦礫を器用に飛ばしてきた。


「大道芸人でも目指すのか?魔王様が来たからには、新しい槍の力を試させてもらう!」


「なんやと!?」


「お前には恨みは無いが、帝国側についた自分を恨め」


 又左は槍を大きく引き、そして叫んだ。


「又左!スパーキング!」


 大振りで突いたその槍には、紫色の稲妻が全体に帯びていた。

 しかし大振りだった為、簡単に棍棒で弾かれてしまう。

 弾いた宇野は、逆にその大振りの隙を狙って棍棒を又左の顔面に叩き込もうとした。


「アババババ!」


「なんと!?」


 槍は弾かれたが、帯びていた紫色の稲妻は、そのまま真っ直ぐに向かっていた。

 稲妻が宇野の身体に触れると、一気に全身を包み込む。


「き、汚ねぇ!武器にそんなモノ仕込むなんて」


「又左!スパーキング!」


「イギギィィィ!!」


 間髪入れずに同じ動きをする又左。

 宇野の言葉など聞きもせず、新しい武器の性能を試していた。


「なるほど。この武器は貫通するのか!」


「又左、それ結構カッコいいな。ちょっと羨ましい」


「えっ!?」


 カッコいいという言葉に大きく振り返る又左。

 もはや宇野の事は眼中に無い。


「それ、槍を当てずにスパーキング言うと貫通するけど。例えばドテッ腹に刺してスパーキングしたら、どうなるのかな?」


「そうですね!試してみましょう!」


「ま、待て!もう降参する!」


 棍棒を離し、両手を上げる宇野。

 又左の突きで既に、棍棒を振るのも辛くなっている。

 又左にすら勝てないのに、後ろには更に強いと言われた魔王が待機している。

 勝機は無い。


「又左、もう良いよ。トドメ刺しちゃって」


「ば、馬鹿な!?何故、降参している相手にトドメを刺す必要がある!?」


 まさかの返答に宇野は狼狽する。

 しかし答えは変わらない。


「あのさ、何で降参したら命が助かると思ってんの?」


「普通は降参したら、相手の事は助けるやろ!」


「普通の意味が分からない。つーかさ、お前等が戦争仕掛けてきたんだぞ?俺達がお前等に負けて降参しても、捕まって奴隷扱いなんだろ?それを負けそうになったから、ハイ降参します。命だけは助けて下さいって、どんだけ自分に甘いんだよ」


 正論を言われた宇野は、自分が助からない事を知った。


「ひ、ヒイィィィ!!」


 入り口の方へと走る宇野。

 ダメージの影響か疲労なのか、とても遅かった。


「又左」


「又左!スパーキング!!」


 背中を追い、その突進力も加えた一撃。

 腹を貫いた槍は、稲妻が身体の内部も駆け巡る。

 槍を抜いた後、パリパリと腹の穴から電気が走っていた。


(身体の水分で、電気が走ってるのかな?何にせよ、これはかなり強力だね)


 当たらなくても、貫通して感電。

 当たったら身体の内部から感電。

 これ、避ける以外に対応出来なくないか?


(武器に絶縁体が付いてたり、電気を逃がすアースみたいな役割があれば、多少は違うだろうけど。そんな物、普通は身体に装備しないからなぁ。結論、めちゃくちゃ強い!)



「見ていただけましたか!?」


「あぁ、この武器凄いな」


 途中までは、あの又左と実際に互角に見えた。

 だが、コバの武器によって形勢は一気に変わってしまった。

 太田の時も見てて思ったが、クリスタルっていうのはこんなに凄いのか?

 それとも、コバが作った武器が凄いのか。


(両方じゃない?)


 そうかもしれない。

 今思うと、クリスタルの産地って所が封鎖されていて、本当に助かったと思った。

 こんな物をコバが帝国で作っていたかもって思ったら、俺達に勝ち目は無かっただろう。


(確かにね。捕虜になった人達に魔法を唱えてもらえば、普通に使えるって事だし。コバがこっちに来て、本当に助かった)


 本人には言わないけどな。


(本人には言わないけどね)



「ところでキャプテン」


「どうした?」





「何故、此処に居るのです?」

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