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勘違い魔王

 菊池の能力は超視力。

 ベティが看破して本人に言うと、それをすんなりと認めた。

 分かったところで、お構いなしと言った様子だ。

 そして菊池はベティが領主だと分かると、その目の色を変えて、必ず倒すと息巻いていた。


 その頃の又左達は、召喚者と問答をしていた。

 裏切りの定理は何?

 誰も答えないその問いに、おっさんがキレ気味に魔族と仲良くなった時点で裏切り者だと言う。

 交わる事の無い答えに、又左達はどちらも正しいのなら、戦うしかないのだと言った。


 そんな中、菊池はベティを倒す謀を巡らせていた。

 四方八方を囲んで、全員で一斉狙撃。

 そんな策だったが、簡単に見破られて、逆にベティの策に嵌められてしまう。


 お互いに相手の事を倒せる。

 そういう自信があった。

 菊池はその超視力という能力。

 ベティには、菊池の狙撃を避ける能力。

 更に、コバから渡された新しい武器があった。


 彼はその武器を使い、菊池の能力を封じる事に成功。

 両腕を斬り落としても喚かない菊池だったが、自分の能力を封じた手だけは気になっていた。





 光っただけ。

 ベティは確かにそう言った。

 攻撃能力があるわけでもなく、ただ単に全身が光るだけの武器。

 他の者なら、まず文句を言うだろう。

 しかし渡された五人の中で、唯一これが気に入る人物が居た。

 それがベティだった。

 元々、ベティの為に作ったわけではなかったのだが、何故かそのクリスタルの中に入っている魔法と、たまたまマッチしたようだ。


「まさか、全身が光り輝くとはね。滲み出るアタシの魔力みたいな感じで、カッコいいわぁ!」


「アタシにとっては最悪の魔法だったよ!」


「アナタ、両腕を斬り落とされたのに、元気ねぇ」


「斬り落とした奴が、何言ってんだい!痛くて発狂しそうだよ!」


 ベティの言葉に菊池が反論している。

 言葉だけ聞けば元気だが、実際は脂汗で顔色は相当に悪い。


「ま、アナタの弱点は分かっていたからね」



 菊池の弱点。

 それは先程のような、光に弱いという事ではない。

 彼女の弱点は、その身体能力だった。

 超視力によって、ライフル等を使って攻撃する事は出来る。

 だが肉弾戦が出来るかと言われたら、それは否と答えるしかない。


 彼女がAクラスになれたのも、相手の攻撃にカウンターで返していたからだ。

 攻撃をする為に接近してくれば、その並外れた動体視力で、攻撃しようとしている場所に武器を置く。

 それだけで敵は、自ら剣の鋒に向かい、勝手に自滅するという事だった。


 視力以外は並より少し上程度の力。

 筋力も大してあるわけではない彼女の攻撃方法は、必然的に自らの力に頼らない武器しかなかった。

 その中で最も適していたのが、銃だった。


 そんな力しか持たないのなら、自ら攻めなければ問題無い。

 話を聞けばそう思うかもしれないが、それを初見で見破られる者は、そうそう居ない。





「アナタは傲慢過ぎたのよ。自分の能力を戦場で敵にひけらかすなんて、そんなの愚の骨頂だもの。生死に関わるかもしれないのにね」


「あ、アタシは選ばれた人間なんだ!そんな事で屈したりはしない」


「自分の能力なのに、ホント何も分かっていない」


 見下すような、そして憐むような視線で、彼女を見る。

 まだ目が見えていない彼女だったが、声色で分かったのか、怒りを露わにした。


「お前がアタシの何が分かる!」


「馬鹿を通り越しているわね。敵の事を知らないと、戦うのに危険でしょうが。相手が何が得意か調べもせずに、いきなり自分の得意分野に持ち込めると思ってるの?アナタは相手が接近戦が得意だと知らずに、無策で近付いていく人?」


「アタシの能力なら、見切れるからねぇ!関係無いね!」


「じゃあ、アナタの能力よりも凄かったら?アナタの能力を封じる手を持っていたら?そういう危険性、考えないわけ?」


「そ、それは!」


「アナタの事を観察したわ。その視力以外に怖いモノがあるのか。筋力も洞察力も普通。練習したんでしょうね。その銃の腕前だけは認めてあげる」


 ようやく、かろうじて薄らと目が開けられるようになった。

 開いた目には、血が噴き出している両腕がハッキリと見える。

 普通なら叫ぶところだが、彼女はそれを良しとしなかった。

 敵の目の前で泣き叫ぶなんて、死んでもごめんだ。

 そういう精神が、彼女の正気を保っていた。


「観察したからって何?そんなんで勝てるって言うのかい!?」


「勝てる。というよりも、安全に勝てるかを確認したかった。さっきの効果、アナタも食らって分かったでしょう?」


「あぁ、アタシの天敵とも言えるねぇ」


「何故、これをすぐに使わなかったと思う?アナタの事を観察していたからよ。その視力は副産物で、他にもっと厄介な能力があるかもしれない。そういう事を調べていたの」


「随分と慎重なんだねぇ」


「自分の命、仲間の命が懸かってるもの。当たり前でしょ?」


 彼女はその言葉を聞いて、少しだけ負けた理由が分かった気がした。

 自分の敗因と彼女の慎重さ。

 そして、その武器を持っていた事。


「・・・アタシは詰んでいたんだね」


「そうね。この武器を渡されたのは、運命だったのかもしれない。ただ光り輝くだけの武器だけど、アナタにとっては破壊力抜群だった。アナタが本当に活躍するのは、仲間との連携だった。それをアナタは学ぶべきだったわね」


「こんな姿で今更だよ」


 長い間会話をし続けた結果、彼女の出血量がとんでもない事になっている。

 フラフラになった彼女を見て、ベティは言った。


「アタシはアナタとは違う。だから、すぐに終わらせてあげる」


「ハッ!感謝なんかしてやらないんだからね!」


「言ってなさいな。・・・アナタとのお話は、少しだけ面白かったわ。いつか地獄で会いましょう」


「アタシは二度とごめんだよ」


 その言葉を遺した彼女は、少しだけフッと笑った。

 双剣が彼女の首を刎ね、その直後に彼女の遺体には炎が上がった。





「相変わらず見えませんね」


「むしろ魔王様から、このサングラスなる物を用意していただかなければ、我々も目が潰れてたな」


 強烈な光を放ったベティだったが、それは監視カメラにも直撃している。

 勿論あの映像を見ていた二人も、その光を直視していたら危なかったかもしれない。


「しかしあの双剣。派手な割には微妙ですね」


「光るだけだからなぁ。他にも何か効果があるのか。後でコバ殿に確認してみよう」


 この防衛戦が終わった後にゴリアテはコバに尋ねたが、やはり答えは一緒だった。


 コバが言うには、双剣を扱うなら手数が多い人だろうと思った。

 その手数が見えないように目が眩めば、避ける事は不可能だと考えたのだ!

 などという、天才なのか馬鹿なのか紙一重な答えが返ってきて、ゴリアテはあの双剣が凄い武器なのか悩む事になるのだった。





 二人のAクラスが倒れ、裏側の戦闘の結末は、決まったも同然だった。

 ベティの活躍を間近で見ていたドランとシュンは、似たような真逆のような、そんな事を考えていた。


「流石は越中の領主だけある。将来、滝川領と領土争いが起きる事は無いと思うが、敵対するのは恐ろしいな」


「流石はベティ様!我等一同、貴方様の手となり翼となり、これからも働く所存でございます」



 そんな話をされている事を、ベティは聞こえている。

 性格なのか人間関係を円滑にする為なのか、自分が居ない所でされている話は、聞こえていない事にしていた。

 だから、ドランには警戒心を持たれた事を気付かないフリをして、シュンの忠誠も直接言われなければ聞いてない事にするつもりだった。

 しかし、そんな彼でも例外はある。


「光るだけなのに。アイツ、やっぱ凄い奴なんだな。まあ本人には言うつもりは無いけど」


 何処から見ていたのか。

 魔王の一言を耳にした彼は、この事は絶対に後でネタにしようと、固く心に決めたのだった。





 既に戦況は決まってしまった。

 裏側の攻防は、肝心なAクラスの二人が敗れ、既に残っている指揮官は凡庸なBクラスの男一人。

 それもズンタッタ達に徐々に戦線を押されている。

 敗北も時間の問題だと思われる。


 そんな事情も知らずに、表側の左通路では未だ激戦が続いていた。


「これで終わりだ!」


 又左の槍が、部屋に残る最後の一人を貫く。

 部屋に倒れる死体は、大体が恐怖や痛みで顔が歪んでいた。

 それほどの事を、この兄弟はやっていたのだろう。


「また足音が聞こえるでござる」


「はぁ、まだ残っているのか」


「そろそろ俺も手伝うから。あまり時間を掛け過ぎても、阿久野くんから怒られるかもしれないし」


「むむ!それはマズイですな!」


「兄上、此処からは佐藤殿にも手伝って頂きましょう」


 激戦が続く者達の会話には聞こえないが、二人の身体は傷だらけだった。

 この会話をしている最中も、後ろから回復魔法が二人に向かって唱えられているのだ証拠だ。


「申し訳ありませんが、そろそろ我々の魔力も心許なくなりました。これからは回復も、万全に行えないかもしれません」


 少し気まずそうに話し掛ける回復魔法の代表者だったが、彼等は問題無いと答えた。


 そもそもの話、何故こんなに回復役の魔力消費が激しいのか?

 それも全て、この二人が原因だった。

 扉を破壊されて大勢が雪崩れ込むようになった時、三人で戦えばもっと楽に事は済んだのだ。

 それを無理して二人で戦うから、傷が増える訳で。

 そんな二人が負けたら、回復役も命の危険が伴う。

 だから懸命に回復をしたのである。


「我々は、魔力を温存するのに専念します。ご武運を」





 残りは自分を含めて、二十人に満たない。

 まさか扉を破壊して、大勢で囲んでしまえば勝てると思っていたのに。

 左通路で命令を下していた、Aクラスの少年である清水。

 彼にはそれなりの考えがあった。


 年長者である井上と菊池。

 彼等には魔王を捕らえるという役回りを任せる。

 自分は敢えて、それに参加しようとしない姿勢を貫いた。

 何故なら、そうする事で疎まれるのを避けたのだ。


 他のAクラスが同世代や二十歳過ぎくらいの人なら、おそらくはそんな事を言い出さなかっただろう。

 しかし年長者からの愚痴は、聞くに耐えないと考えていた。

 それなら最初から第一功を譲ってしまい、自ら第二功である幹部の屈服。

 もしくは殺害を目標にしたのだった。


 だったのだが、予想以上に苦戦している。


「奥の様子は分かっているんだよね?」


 破壊した扉から戻る女性に、怒鳴らないように聞いた。


「は、はい。私は部屋に入りきれなくて覗いてただけですが、中に居るのは三人でした。だけど戦っているのは二人。一人は見ているだけです」


「見ているだけ?手助けしないの?」


「二人が傷付いても、特に気にする事も無く」


 何故そんな不利な事をするんだ?

 戦わない理由があるのか。

 戦わない理由・・・戦えない?

 怪我をしている?

 そして二人だけで戦うほどの庇う人物。


「魔王か!?」


 急に大声を出した清水に、話していた女性はビックリしていた。


「魔王という出で立ちではない気がしますけど」


「どんな人だった?」


「若い男性でした。若いと言っても、三十前後かと。ラフな格好で、武器は特に持っていないようでしたね。二人の獣人とは仲良さげに話しているのは見えました」


 二人の獣人か。

 魔王の側近だろう。

 裏側に大軍が押し寄せたから、正面に逃げてきたんだな。

 だから信頼している側近の方へ来た。

 そう考えると自然かもしれない。

 魔王は子供だって話だったけど、どうせ噂話だろう。

 エルフなら未だしも、オーガやミノタウロス。

 そして獣人といった連中が、子供の命令に従うなどあり得ない。

 やはりその男こそが魔王!





「僕が魔王を仕留めよう!」

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