初めての戦争
くそ!人質とは卑怯な!
「よくやった!このガキは危険だ。まずは動けないようにしなくては」
隊長は人質を取った兵を見て、安堵の表情を浮かべた。
(ほら言ったじゃない。何かがあるか分からないんだから、手の内は隠しておくものだよ)
そんな事言われても・・・。
人質なんか取られるとは思ってなかったし。
「おい!お前の動き次第でコイツの命は無い。変な事を考えないよう気を付ける事だ!」
剣を更に子供の顔に近付けて、恐怖を煽る。
この野郎、さっきまで悲鳴上げて輪から逃げたくせに、子供相手だと強気かよ。
ホントに腐ってやがる。
あ、良い事思いついた。
(何するの?子供の安全の為に、変な事しないでよ?)
いや、これなら大丈夫だ。
距離的にもいつもと変わらないくらいだし、なんとかなる。
俺が動いたら、すぐに鉄球準備な!
(分かった。兄さんを信じよう)
「分かった、言う通りにする。しゃがんで動かないから、その剣を離せ」
俺はしゃがんで、両手を地面に付けた。
「この通りだ。何も持ってないし、何もするつもりは無い」
「ハッハッハ!建物の大勢よりお友達が大事ってか!?やっぱりガキはガキだな!」
俺が地面に手をつけて動かない事で、隊長が嘲り笑う。
人質を取った兵が隊長の横まで移動してきた。
ありがたい。これで隊長と子供の両方が確認出来る。
子供の様子を窺うと、剣を突き付けられた恐怖からか顔を青ざめさせたまま、動く気配は無い。
下手に暴れられると作戦が失敗に終わる可能性が高いのだが、これなら大丈夫。
もう少し待ってろよ!
「お前のせいで大半の連中がやられちまった。これはお前の死によって贖わなくてはならない」
ニヤニヤしながら、俺に死ねとほざいてくる。
いい加減調子乗ったその態度にうんざりしてきた。
しかしここは作戦の為に、敢えてもう少し踊ってもらおう。
「俺が死んだら、その子は助かるのか?」
「あぁ、助けてやるとも。お前が死んだのを確認したらな」
死んだらそのまま人質続行だろうよ。
そしてそのまま建物を守る連中との取引材料に使うんだろ。
そんなの馬鹿な俺でも分かるわ。
「ではお前には死んでもらおう。殺れ」
隊長が近くに居た兵に命令を出す。
俺は人質を取っている兵の様子を見る。
俺を斬ろうと剣を持って近付いてくる兵には気にも留めず、人質に突き付けられた剣の動きだけを確認する。
「ガキながらお前はよくやった。じゃあお別れだ」
そう告げる隊長の言葉に気が緩んだのか、人質から剣が少し離れ、ヤツの右肩が見えた。
今だ!!
俺は本塁から二塁に投げる送球モーションに入る。
そう、手をついてしゃがんだ位置から隊長達の位置まで、大体同じ距離なのだ。
本来なら盗塁阻止の動きなのだが、ヤツの肩目掛けて投げた。
「グアッ!!」
目標的中!右肩に当たった兵は、回転しながら後ろに吹き飛んでいく。
俺はその投げたモーションから、子供まで全力でダッシュ。
身体強化してれば本塁と二塁の距離である約40メートルくらい、数秒もかからない。
いきなり兵が吹き飛んだのを見た隊長は、訳が分からずに唖然としている。
我に返った頃には俺が人質だった子供を背負い、また距離を取っていた。
「え?お、お前何をした!」
さっき怒られたからな。流石にもう言わないよ。
「さあ?自分の手の内見せるほど馬鹿じゃないんでね」
イヤミったらしく言った後、子供を。背中から降ろす。
泣きそうだったが、うるさいと困るから我慢してくれ。
「さて隊長、貴方に同じセリフを返そう。町民の大半がやられた。そう、お前の死で贖わなくてはならない」
この言葉を聞いた隊長は、顔を真っ赤にしながら反論してきた。
「馬鹿か!まだ我が軍の方が優勢なのだぞ!?そんな事誰が聞くと思う!?」
自分の優位を疑わない隊長だったが、実は因幡くん達が治療した戦士団によって少しずつ戦況は変わっていた。
「お前こそ周りを見てみろ。治療した戦士団に圧されているのが確認出来ないのか?」
俺の言葉を聞いてようやく自分の立場が分かり、焦燥感に駆られ始めた。
「そうだな、確かこうも言っていたかな?えーと、お前が死んだら人質も助けてやるだっけ?じゃあお前が死んだら、部下は助けてやるよ」
「待て!お前達の勝ちで良い!私を此処から逃がしてくれるなら、将軍に頼んで此処の安全は保障しようじゃあないか!」
「じゃあお前を逃がす代わりに、此処に居る部下は全員死んでもらっても構わないと?」
ちょっと吹っ掛けてみた。
こんな条件で構わないとか言い出したら、後ろに居る部下に斬られてもおかしくないだろう。
(兄さんノリノリだね)
まあな。さっき蘭丸達の方見たら、倒れていた連中が全員立ち上がったのを確認出来たし。
なんか死人が出てないのを分かったら、余裕が出てきたんだよね。
それはそうと隊長の反応が気になるな。
「え?それは・・・副長や参謀連中さえ一緒に帰還させてもらえれば、後は構わん!」
おぉ!言い切った。
正にゲスの極み。
横に居る連中が副長や参謀なのだろう。
同じような事を口にしている。
「コイツ等、本当にクソだな」
蘭丸がこっちにやって来た。
因幡くんはアマゾネスさんや他の戦士団と、怪我人が居ないか探しに行ったらしい。
蘭丸は長可さんが心配なんだろう。
母親なんだから当たり前か。
「隊長さん、その言葉を聞いた後ろの兵達はどう思うんだろうね?」
敢えてニヤニヤしながら言ってみた。
隊長は慌てて振り返るが、そこはもう俺の知った事ではない。
(性格悪いな~。気持ちは分かるけど)
別にそこまで悪いとは思わないけどなぁ。
じゃあトドメにアレやっておくか。
「あれれ~?おかしいな~?隊長ともあろう人が我が身可愛さに、皆に死ねって言ってるように聞こえるんだよね~。僕の勘違いかな?」
めっちゃ可愛く言ってみた!
自分で言ってて恥ずかしくなるくらい、可愛く言ってみた。
(兄さん、それ結構好きだよね・・・)
まあな。だって身体が小さくなったんだから、やっておいて損はない!
さてさて、隊長さんはどうなったかな?
お~、かなり劣勢に立たされていますなぁ。
「お前等、待て!本当に殺されるか分からないじゃないか。私が将軍の元に戻れば、捕虜交換も・・・」
ドガァァァァン!!!
笑顔でその辺に居た兵に鉄球をぶつけてみる。
青ざめた様子の兵達は、隊長に怒気を強めた。
「この馬鹿共が!お前等と私では、価値が違うのだ!」
あぁ逆ギレだ。もう後には引けないと思う。
ほら、剣を抜いた兵が何人か出てきた。
「待て、お前等!まだ話し合いの余地はある!だから剣を・・・」
続きは聞こえなかった。
なんと副長が首を刎ねたのである。
暴動になりかねない状況を考えての事だろう。
後ろの兵達もそれを見て落ち着きを取り戻した。
「我等全員、投降する。願わくば寛大な処置を・・・」
随分調子の良いことを言っている気がするんだが。
自分等で攻めてきておいて、殺されそうだから寛大な処置をとな?
そんな自分勝手が許されていいのだろうか。
俺ならもれなく斬り捨てるけど。
「武装を解き、代表者を残し監視下へ置け!」
長可さんがそう言い放つ。
攻撃が止み帝国兵が内輪で揉め始めたのに気付き、こちらにやって来たのだ。
町の長である長可さんの言葉なら、俺達も従うほかない。
こうして初めての戦争を終えた。
子供である自分達は帝国兵との話し合いに参加は出来なかったが、会談を終えたアマゾネスさんが詳細を話してくれた。
まず大きな出来事が三つ。
一つ目は帝国のトップが変わっていた事。
国王が下剋上により暗殺され、第一王子が王に成り代わった。
元々魔族の領地に攻め入る事に反対していた国王は、水面下で魔族を襲っていた第一王子と仲違いをする。
王子は軍の上層部に接触を図り、下剋上を計画。
国王が体調不良で臥せったのを機に、下剋上をやり遂げたわけだ。
そしてここ最近の小康状態は、国王暗殺によって軍の制圧及び再編成によるものだったらしい。
二つ目は僕等にも関係しているのかな?
その第一王子が帝国掌握を機に、魔王を称した。
初代魔王である織田信長は、元々ヒト族である。
魔王を名乗るのは魔族ではなく、ヒト族の王である自分であると主張しているらしい。
魔法の魔の字も使えないのに魔王を名乗るとか、ちょっと違和感があるんだけど。
魔王である自分からしたら、別に勝手に名乗ってもいいんじゃない?という気持ちなのだが、周りはそうでもないらしい。
魔族からしたら魔王はやはり特別で、信長という存在も特別なのだとか。
信長に関しては一部の魔族からは、ほぼ神格化されているほどだから、これまた戦争の火種になるとの事。
おそらくは自分がこの世界の王であるという布告と、魔族に対する挑発行為も兼ねている気がする。
そして三つ目。
これも魔王に関するというか、信長に関するのかな?
魔王を称した事により、再び天下を統一すると言っているのだ。
というよりは、おそらくヒト族による魔族の支配だろう。
都合良く天下統一なんて言ってはいるが、魔族を奴隷化させて戦力もしくは労働力にでもするつもりだと思われる。
そういう理由から各地に攻め入っているとの事。
こんな帝国から離れた僻地から攻めてきた理由は、まずは大都市を攻める前に戦力拡大を、という作戦があったからだ。
なので小さな町及び村を落とす事から始まっているのだが、大都市に感づかれる前に攻めなくてはならない為、各町村にほぼ同時で攻め入っていると事。
この話が本当なら、能登村も攻められているという事だ。
以上がアマゾネスさんから聞いた大雑把な話だ。
「僕の村が襲われてるかもしれないって事だよね!」
「そうだね。因幡くんの両親も危ないかもしれない・・・」
「馬で戻れば一日で着くはず!僕は能登村に行くよ!」
自分の家族が心配なのだろう。
だけど馬だってそこまで多くはない。
それに戦闘で疲弊した町で大事な馬を、貸してもらえるとは限らないのもある。
僕一人なら、兄さんの身体強化で半日で戻れるとは思うけど。
「因幡、ちょっと落ち着け。俺も母に聞いてくるから」
「その必要は無いわ」
長可さんが戦士団を引き連れてやって来た。
「隊長の話によると、この町の近くには襲った部隊しか来ていないそうです。なので今は戦力を分散しても心配無いでしょう。しかし馬に限りがあるのも事実。ここは少数精鋭で、能登村に行く救出班を作ります!」