輝くベティ
太田バーニング。
彼はこの言葉を数度言いながら、バルディッシュを振り下ろす。
一度目は井上に通じず、彼の嘲りを受けた。
しかし、回数を重ねる毎に威力は跳ね上がり、三度目で重傷を、四度目で井上は灰と化す事になった。
太田の武器を見た兄は、とても興奮していた。
というか、僕も同じ気持ちだった。
自分達にも、専用の武器が欲しい!
率直にそう思った僕達は、いつかクリスタルが採れるという場所へ行く事を、固く誓ったのだった。
太田が井上を倒した頃、もう一人のAクラスである菊池が居る戦場では、鳥人族が続々と撃ち落とされていた。
その危機を感じ取ったベティは、半数近くの鳥人族が犠牲になった頃に到着。
静かに怒りを秘め、狙撃兵への攻撃を開始した。
味方がやられる様子を見た菊池は、腕が無いなら足で攻撃しろと喚きながらやって来る。
激しい舌戦の末、お互い怒りに燃えながら相対した。
目にも見えぬ速度で移動するベティだったが、菊池はそれを全て先読みして狙撃。
ベティは双剣で弾くだけで攻撃を出来ずにいたが、彼女の能力を見破った。
「だから何?アンタがアタシの能力が分かったら、何か変わるの?」
自分の能力が看破されたにも関わらず、不遜な態度で反論する。
ベティはその様子を見て、鼻で笑いながら答えた。
「アナタもお馬鹿さんね。敵に自分の能力を教えちゃうなんて、余程自信があるのねぇ」
「馬鹿はお前だ。アタシの眼からは逃れられないんだよ!」
再び銃を構えて放つ。
それを無造作に双剣で弾いた。
その様子を見た菊池は、珍しく向こうから質問をして来る。
「お前は剣の達人か何かかい?」
「達人!?アッハッハッハ!むしろ剣の修行なんて嫌いだわ。先代からは怒られていたけど、逃げてばかりだったわよ。アタシを見て達人なんて言ったら、本当に強い人に失礼よ?」
「じゃあアンタは何者なんだい!」
「アタシ?越中富山の領主、佐々成政よぉん!ベティって呼んでも良いわよ?」
「領主!?」
菊池の顔色がみるみる変わる。
領主を捕らえれば、領地も配下も全部頂ける。
Sクラスに上がるのは確実だ。
彼女はベティの事が、舞い降りたお宝に見えた。
彼女の能力ならば、ベティの超スピードも特に苦にならない。
逃がさないように慎重に事を成す。
彼女は心の中で、絶対に倒すと決めていた。
一方、その頃の表側の攻防。
正面はもはや小人族の嫌がらせで、ほとんど全滅していた。
コバから教わったコンピューターの扱い方もマスターして、今では片手間にお茶を飲みながら、罠を作動させているくらいだ。
そして肝心の左通路だが、此方でも動きがあった。
魔王によるまとめて一掃作戦を、帝国側も見ていたのだ。
それを見た召喚者達は、部屋の入り口を破壊して大挙して押し寄せた。
その数は五十人を超えて、部屋の中は召喚者で溢れかえっている。
更には部屋に入りきれていない召喚者も、まだ外で待機していた。
その中にはAクラスである清水も、大将として控えている。
「なるほど。一人ずつ招いていた理由が、複数での暴行だったか。魔族め!汚いぞ!」
後ろの方に居る偉そうなおっさんが、三人を見下すように言った。
佐藤は、これまた前回のように自分が召喚者だと話すと、裏切り者だなんだと、罵りを受けていた。
そこに慶次が割って入る
「一つ聞いてもよろしいか?」
「魔族が私達に何を聞きたいというのだ!命乞いか!?」
「あぁ、それは無駄なので結構でござる。何故、帝国に与していないと裏切り者なのだ?以前会った者には、契約満了すると自由意志になると聞いたのでござるが。なのに裏切り者扱い。どういう事でござるか?」
慶次の言葉は的を射ていた。
誰もが反論出来ず、静まり返る部屋の中。
「ほれ、そこの女子。あのおっさんの言った事、正しいと思ってるのでござるか?」
「うぇっ!?私!?いや、それはちょっと・・・」
「じゃあ、そこの背の高いお兄さん」
「・・・」
「誰も答えられないのでござるか?じゃあ裏切り者じゃないと、認めるって事でござるな?」
「ヒト族は魔族より上!それなのに魔族と与した時点で、ソイツは裏切り者だ!」
さっきのおっさんが、喚き散らしながら前に出てくる。
「なるほど。それもまた其方の考える道理。我々の道理とは、交わる事は無さそうでござるな。だから!」
慶次は持っていた槍を捻りながら伸ばし、出てきたおっさんの顔面を貫通した。
血を噴き出しながら倒れるおっさん。
周囲の者は悲鳴を上げ、前に居た者達は武器を構えた。
「どちらが正しいなどと説いても、仕方ないでござる」
「よく言った慶次!佐藤殿は、やはり同郷の者と戦いづらいと思われる。だから二人でやるぞ!」
「えっ!?俺、そんな事は一言も・・・」
「二人でござるか!なかなか楽しそうな、いや大変な戦いになりそうでござる」
「あぁ、そういう事。まだ外にも居るので、体力残しておいて下さいよ?」
二人は犬歯を剥き出しにして、笑いながら槍を振るった。
「予定とは大きく違ってますよね・・・」
「あの二人は!」
半兵衛は諦めを。
ゴリアテは怒りを感じながら、前田兄弟を見ていた。
「それでも何とかしちゃうのは、どうなのかと思っちゃうんですけどね」
「強いから、あまり言えないのが悔しいです。魔王様に言ってもらうしかないか・・・」
ゴリアテも、自分より強いと思われる二人には強く言えなかった。
ある意味、弱肉強食の世界が此処にもあるようだ。
「しかし太田殿の武器、凄かったですね!」
「アレか!あんなに凄いとは思わなかったぞ!コバ殿の事、改めて見直したわ」
半兵衛は、前田兄弟の事で落ち込むゴリアテの気持ちを汲んで、話を逸らす事に成功した。
「クリスタルがあれば、あの武器も量産出来そうです」
「そうすれば安土は、鉄壁かつ最強の戦闘集団が作れるであろうな!しかし、クリスタルの産地ははるか東の領地と聞く。丹羽殿が魔族連合を作ると言っていたが、そんな所まで連絡が言っているのだろうか?」
「流石に魔法では難しいでしょうね。門を閉ざしたままの領地ですし、もしかしたら連絡が取れていないかもしれません」
「むぅ。クリスタルの輸入だけでも、お願いしたいのだがなぁ」
二人は太田の武器の性能を見て、武器の増産を願った。
しかし、そんな武器にも当たり外れがある事を知らない。
ベティはまだ、菊池と会話をしていた。
「アンタ、一応聞いておくけど。帝国に降る気はないのかい?」
「帝国に?それをして私に、何の利益があるのかしら?」
「利益?そりゃあるだろうさ!アンタの命に部下の命。上手くいけば、領地も残るかもしれないねぇ」
二人が喋っている間に、菊池はハンドサインでベティの周囲に狙撃兵を張り巡らせていた。
そしてベティの背後に回っていた男から、配置完了の合図が送られる。
菊池はそれを見て、勝利を、そしてSクラスになる事を確信した。
「それ、利益とは言わないわね。越中国の繁栄こそが、アタシの全て。それが先代から託された、アタシの仕事。アンタの言っている事には、それが全く無いわね。悪いけど、お話にならないわ」
「そうかい?それは残念だねぇ!」
すぐさま自らが銃を構えて、引き金を引く。
その音が合図かの如く、ベティを四方八方から銃弾が降り注いだ。
「や、やったか!?」
誰かが倒れている。
それを見た菊池は、大きな声で喜んだ。
「Sクラスだ!」
菊池が喜んでいるその頃、上空ではシュンがベティと話していた。
「アレでよろしいですか?」
「そうね。問題無いわ」
ベティは無傷で空に居た。
では、下で撃たれたのは?
それは、シュン達が捕まえた帝国兵の一人だった。
いくら菊池の視力が良くても、目の前のベティを見ながら、上空の他の鳥人族の動きまでは確認出来ない。
彼等はベティから合図を貰い、外に居た帝国兵達を捕らえていたのだ。
そしてベティの真上で待機して、次の合図で帝国兵を落とした。
落とした勢いで舞う砂煙。
それに乗じて飛ぶベティ。
彼女の視界がスコープに集中した時、それは視界が狭くなった事を意味する。
まさか味方が空から落ちてきたとは、スコープ越しでは気付かなかったようだ。
「馬鹿みたいにはしゃいでるわね。そろそろバレる頃だし、アタシもあの女を始末しないとね」
違う!
土煙が晴れた時、そこにあったのは味方の死体の山だった。
「あのオカマ!逃げやがった!」
菊池は自分の出世が無くなったと憤っていた。
「誰がアンタなんかから逃げるのよ」
「逃げてなかったのか!?何故?」
「だから!逃げる必要なんか無いでしょ?」
空から聞こえたその声に、まだチャンスがあると喜ぶ菊池。
しかも、逃げる必要が無いと言っている時点で、彼女の出世は決まったと勝手に思い込んでいた。
「そろそろアンタを倒すわ。佐々、シャイニング!」
「何!?」
双剣を前に翳して、何かをしようとしている。
菊池はそれを見て、一挙手一投足を見逃さないようにしている。
「・・・あら?」
何も起きなかった。
菊池もベティの様子を見て、虚仮威しだと判断する。
「ハッタリかい!つくづく魔族は奇襲とかそういうのが好きだねぇ!」
「むっ!佐々じゃなくて下の名前の成政なのかしら?成政!シャアイニング!」
やはり何も起きなかった。
「どういう事よ!コバの奴、やりやがったわね!?」
「なんだい?不良品でも掴まされたのかい?こりゃあいい!」
双剣をブンブン振りながら、ベティは文句を言っている。
それを見た菊池は、逆に警戒を解いた。
これならば、負ける要素も無い。
彼女は勝ちを確信し、ライフルを構えた。
「終わりだよ!」
「だから、当たるわけないでしょ!」
避けながら双剣を見回すベティ。
銃弾を弾いている最中に壊れたかと思ったが、そういう様子も見られない。
「うーん、何故?あっ!」
「ベティ様が危ないのでは!?」
「我々が盾になった方が、勝利する可能性が上がります!」
シュンの率いる部隊が、離れた所からベティの様子を見ていた。
双剣を翳しながら、何かを言っている。
何も起きない。
今度はブンブン振りながら、また何かを言っている。
やはり何も起きなかった。
「あの方は何かを試している。おそらくは、あの双剣だろう。あの武器は、先程上がった火柱と同等の性能を持っているらしいからな」
「おぉ!」
「それは凄い!」
「我々はベティ様の勝利を祈りつつ、あの憎き女を倒した後に備えようではないか!」
シュンは皆にそう言って、残った爆弾と敵の狙撃兵の位置を確認した。
「分かっちゃったわよぉん!」
満面の笑みで菊地を見るベティ。
それを気持ち悪そうに見返す菊池。
「オカマの笑顔ほど、気持ち悪いモノは無いな」
「年増の若作りも、似たようなモノでしょうに」
「この野郎!」
年増扱いに怒りで乱射する菊池。
ベティは笑いながら避けていた。
「オーホッホッホ!怒るのは、自分が認めている証拠ね」
「クッ!このオカマ、本当に人を怒らせる!」
「お褒めの言葉、ありがとう」
「褒めてない!」
「やあね、冗談が通じないババアは」
こめかみに青筋を立てながら、彼女は深呼吸した。
落ち着きを取り戻すと、静かな口調で言った。
「アンタの手は、怒らせて冷静さを失わせる。そして自分を見失わせる事。そうなんだろう?」
「・・・そうかもしれないわね」
「もうアンタの言葉には耳を貸さない。だから、死ねぇ!」
「そう。アタシも終わらせるわ」
ベティはそう言って、ライフルを構える彼女に向かって、再び双剣を翳した。
「ベティィィィ!!シャアイニィィング!!」
双剣から放たれた黄色い光が、ベティ全体を覆っていく。
その光は爆発して、周囲を飲み込んだ。
「目が!目がぁ!」
その眩いくらいの光を直視した菊池は、完全に目をやられてしまう。
「見えなくなったアナタは、もう終わり」
自分の背後からベティの声が聞こえ、すぐさま持っていたライフルを振り回す。
しかし当たらない。
「そう簡単に目が見える事は無いわ」
今度は前から聞こえる。
両手でライフルを振り回すが、何にも当たる気配は無かった。
「そろそろやりましょうか?」
持っていた双剣で彼女の両腕を斬り落とす。
しかし、彼女はその痛みに耐え、喚きもしなかった。
「あら?アナタ、凄いわねぇ」
「う、うるさい!泣き喚いたら、アンタの思うツボでしょうが!」
「そんな事は無いんだけど」
「一体、何をした!?」
「アタシも詳しく分からないけど。光っただけ?」