表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/1299

輝くベティ

 太田バーニング。

 彼はこの言葉を数度言いながら、バルディッシュを振り下ろす。

 一度目は井上に通じず、彼の嘲りを受けた。

 しかし、回数を重ねる毎に威力は跳ね上がり、三度目で重傷を、四度目で井上は灰と化す事になった。


 太田の武器を見た兄は、とても興奮していた。

 というか、僕も同じ気持ちだった。

 自分達にも、専用の武器が欲しい!

 率直にそう思った僕達は、いつかクリスタルが採れるという場所へ行く事を、固く誓ったのだった。


 太田が井上を倒した頃、もう一人のAクラスである菊池が居る戦場では、鳥人族が続々と撃ち落とされていた。

 その危機を感じ取ったベティは、半数近くの鳥人族が犠牲になった頃に到着。

 静かに怒りを秘め、狙撃兵への攻撃を開始した。


 味方がやられる様子を見た菊池は、腕が無いなら足で攻撃しろと喚きながらやって来る。

 激しい舌戦の末、お互い怒りに燃えながら相対した。


 目にも見えぬ速度で移動するベティだったが、菊池はそれを全て先読みして狙撃。

 ベティは双剣で弾くだけで攻撃を出来ずにいたが、彼女の能力を見破った。





「だから何?アンタがアタシの能力が分かったら、何か変わるの?」


 自分の能力が看破されたにも関わらず、不遜な態度で反論する。

 ベティはその様子を見て、鼻で笑いながら答えた。


「アナタもお馬鹿さんね。敵に自分の能力を教えちゃうなんて、余程自信があるのねぇ」


「馬鹿はお前だ。アタシの眼からは逃れられないんだよ!」


 再び銃を構えて放つ。

 それを無造作に双剣で弾いた。

 その様子を見た菊池は、珍しく向こうから質問をして来る。


「お前は剣の達人か何かかい?」


「達人!?アッハッハッハ!むしろ剣の修行なんて嫌いだわ。先代からは怒られていたけど、逃げてばかりだったわよ。アタシを見て達人なんて言ったら、本当に強い人に失礼よ?」


「じゃあアンタは何者なんだい!」


「アタシ?越中富山の領主、佐々成政よぉん!ベティって呼んでも良いわよ?」


「領主!?」


 菊池の顔色がみるみる変わる。

 領主を捕らえれば、領地も配下も全部頂ける。

 Sクラスに上がるのは確実だ。

 彼女はベティの事が、舞い降りたお宝に見えた。

 彼女の能力ならば、ベティの超スピードも特に苦にならない。

 逃がさないように慎重に事を成す。

 彼女は心の中で、絶対に倒すと決めていた。





 一方、その頃の表側の攻防。

 正面はもはや小人族の嫌がらせで、ほとんど全滅していた。

 コバから教わったコンピューターの扱い方もマスターして、今では片手間にお茶を飲みながら、罠を作動させているくらいだ。


 そして肝心の左通路だが、此方でも動きがあった。

 魔王によるまとめて一掃作戦を、帝国側も見ていたのだ。

 それを見た召喚者達は、部屋の入り口を破壊して大挙して押し寄せた。

 その数は五十人を超えて、部屋の中は召喚者で溢れかえっている。

 更には部屋に入りきれていない召喚者も、まだ外で待機していた。

 その中にはAクラスである清水も、大将として控えている。


「なるほど。一人ずつ招いていた理由が、複数での暴行だったか。魔族め!汚いぞ!」


 後ろの方に居る偉そうなおっさんが、三人を見下すように言った。

 佐藤は、これまた前回のように自分が召喚者だと話すと、裏切り者だなんだと、罵りを受けていた。

 そこに慶次が割って入る


「一つ聞いてもよろしいか?」


「魔族が私達に何を聞きたいというのだ!命乞いか!?」


「あぁ、それは無駄なので結構でござる。何故、帝国に与していないと裏切り者なのだ?以前会った者には、契約満了すると自由意志になると聞いたのでござるが。なのに裏切り者扱い。どういう事でござるか?」


 慶次の言葉は的を射ていた。

 誰もが反論出来ず、静まり返る部屋の中。


「ほれ、そこの女子。あのおっさんの言った事、正しいと思ってるのでござるか?」


「うぇっ!?私!?いや、それはちょっと・・・」


「じゃあ、そこの背の高いお兄さん」


「・・・」


「誰も答えられないのでござるか?じゃあ裏切り者じゃないと、認めるって事でござるな?」


「ヒト族は魔族より上!それなのに魔族と与した時点で、ソイツは裏切り者だ!」


 さっきのおっさんが、喚き散らしながら前に出てくる。


「なるほど。それもまた其方の考える道理。我々の道理とは、交わる事は無さそうでござるな。だから!」


 慶次は持っていた槍を捻りながら伸ばし、出てきたおっさんの顔面を貫通した。

 血を噴き出しながら倒れるおっさん。

 周囲の者は悲鳴を上げ、前に居た者達は武器を構えた。


「どちらが正しいなどと説いても、仕方ないでござる」


「よく言った慶次!佐藤殿は、やはり同郷の者と戦いづらいと思われる。だから二人でやるぞ!」


「えっ!?俺、そんな事は一言も・・・」


「二人でござるか!なかなか楽しそうな、いや大変な戦いになりそうでござる」


「あぁ、そういう事。まだ外にも居るので、体力残しておいて下さいよ?」


 二人は犬歯を剥き出しにして、笑いながら槍を振るった。





「予定とは大きく違ってますよね・・・」


「あの二人は!」


 半兵衛は諦めを。

 ゴリアテは怒りを感じながら、前田兄弟を見ていた。


「それでも何とかしちゃうのは、どうなのかと思っちゃうんですけどね」


「強いから、あまり言えないのが悔しいです。魔王様に言ってもらうしかないか・・・」


 ゴリアテも、自分より強いと思われる二人には強く言えなかった。

 ある意味、弱肉強食の世界が此処にもあるようだ。



「しかし太田殿の武器、凄かったですね!」


「アレか!あんなに凄いとは思わなかったぞ!コバ殿の事、改めて見直したわ」


 半兵衛は、前田兄弟の事で落ち込むゴリアテの気持ちを汲んで、話を逸らす事に成功した。


「クリスタルがあれば、あの武器も量産出来そうです」


「そうすれば安土は、鉄壁かつ最強の戦闘集団が作れるであろうな!しかし、クリスタルの産地ははるか東の領地と聞く。丹羽殿が魔族連合を作ると言っていたが、そんな所まで連絡が言っているのだろうか?」


「流石に魔法では難しいでしょうね。門を閉ざしたままの領地ですし、もしかしたら連絡が取れていないかもしれません」


「むぅ。クリスタルの輸入だけでも、お願いしたいのだがなぁ」


 二人は太田の武器の性能を見て、武器の増産を願った。

 しかし、そんな武器にも当たり外れがある事を知らない。





 ベティはまだ、菊池と会話をしていた。


「アンタ、一応聞いておくけど。帝国に降る気はないのかい?」


「帝国に?それをして私に、何の利益があるのかしら?」


「利益?そりゃあるだろうさ!アンタの命に部下の命。上手くいけば、領地も残るかもしれないねぇ」


 二人が喋っている間に、菊池はハンドサインでベティの周囲に狙撃兵を張り巡らせていた。

 そしてベティの背後に回っていた男から、配置完了の合図が送られる。

 菊池はそれを見て、勝利を、そしてSクラスになる事を確信した。



「それ、利益とは言わないわね。越中国の繁栄こそが、アタシの全て。それが先代から託された、アタシの仕事。アンタの言っている事には、それが全く無いわね。悪いけど、お話にならないわ」


「そうかい?それは残念だねぇ!」


 すぐさま自らが銃を構えて、引き金を引く。

 その音が合図かの如く、ベティを四方八方から銃弾が降り注いだ。


「や、やったか!?」


 誰かが倒れている。

 それを見た菊池は、大きな声で喜んだ。


「Sクラスだ!」





 菊池が喜んでいるその頃、上空ではシュンがベティと話していた。


「アレでよろしいですか?」


「そうね。問題無いわ」


 ベティは無傷で空に居た。

 では、下で撃たれたのは?



 それは、シュン達が捕まえた帝国兵の一人だった。

 いくら菊池の視力が良くても、目の前のベティを見ながら、上空の他の鳥人族の動きまでは確認出来ない。

 彼等はベティから合図を貰い、外に居た帝国兵達を捕らえていたのだ。


 そしてベティの真上で待機して、次の合図で帝国兵を落とした。

 落とした勢いで舞う砂煙。

 それに乗じて飛ぶベティ。

 彼女の視界がスコープに集中した時、それは視界が狭くなった事を意味する。

 まさか味方が空から落ちてきたとは、スコープ越しでは気付かなかったようだ。



「馬鹿みたいにはしゃいでるわね。そろそろバレる頃だし、アタシもあの女を始末しないとね」





 違う!

 土煙が晴れた時、そこにあったのは味方の死体の山だった。


「あのオカマ!逃げやがった!」


 菊池は自分の出世が無くなったと憤っていた。


「誰がアンタなんかから逃げるのよ」


「逃げてなかったのか!?何故?」


「だから!逃げる必要なんか無いでしょ?」


 空から聞こえたその声に、まだチャンスがあると喜ぶ菊池。

 しかも、逃げる必要が無いと言っている時点で、彼女の出世は決まったと勝手に思い込んでいた。


「そろそろアンタを倒すわ。佐々、シャイニング!」


「何!?」


 双剣を前に翳して、何かをしようとしている。

 菊池はそれを見て、一挙手一投足を見逃さないようにしている。



「・・・あら?」


 何も起きなかった。

 菊池もベティの様子を見て、虚仮威しだと判断する。


「ハッタリかい!つくづく魔族は奇襲とかそういうのが好きだねぇ!」


「むっ!佐々じゃなくて下の名前の成政なのかしら?成政!シャアイニング!」


 やはり何も起きなかった。


「どういう事よ!コバの奴、やりやがったわね!?」


「なんだい?不良品でも掴まされたのかい?こりゃあいい!」


 双剣をブンブン振りながら、ベティは文句を言っている。

 それを見た菊池は、逆に警戒を解いた。

 これならば、負ける要素も無い。

 彼女は勝ちを確信し、ライフルを構えた。


「終わりだよ!」


「だから、当たるわけないでしょ!」


 避けながら双剣を見回すベティ。

 銃弾を弾いている最中に壊れたかと思ったが、そういう様子も見られない。


「うーん、何故?あっ!」





「ベティ様が危ないのでは!?」


「我々が盾になった方が、勝利する可能性が上がります!」


 シュンの率いる部隊が、離れた所からベティの様子を見ていた。

 双剣を翳しながら、何かを言っている。

 何も起きない。

 今度はブンブン振りながら、また何かを言っている。

 やはり何も起きなかった。


「あの方は何かを試している。おそらくは、あの双剣だろう。あの武器は、先程上がった火柱と同等の性能を持っているらしいからな」


「おぉ!」


「それは凄い!」


「我々はベティ様の勝利を祈りつつ、あの憎き女を倒した後に備えようではないか!」


 シュンは皆にそう言って、残った爆弾と敵の狙撃兵の位置を確認した。






「分かっちゃったわよぉん!」


 満面の笑みで菊地を見るベティ。

 それを気持ち悪そうに見返す菊池。


「オカマの笑顔ほど、気持ち悪いモノは無いな」


「年増の若作りも、似たようなモノでしょうに」


「この野郎!」


 年増扱いに怒りで乱射する菊池。

 ベティは笑いながら避けていた。


「オーホッホッホ!怒るのは、自分が認めている証拠ね」


「クッ!このオカマ、本当に人を怒らせる!」


「お褒めの言葉、ありがとう」


「褒めてない!」


「やあね、冗談が通じないババアは」


 こめかみに青筋を立てながら、彼女は深呼吸した。

 落ち着きを取り戻すと、静かな口調で言った。


「アンタの手は、怒らせて冷静さを失わせる。そして自分を見失わせる事。そうなんだろう?」


「・・・そうかもしれないわね」


「もうアンタの言葉には耳を貸さない。だから、死ねぇ!」


「そう。アタシも終わらせるわ」


 ベティはそう言って、ライフルを構える彼女に向かって、再び双剣を翳した。


「ベティィィィ!!シャアイニィィング!!」





 双剣から放たれた黄色い光が、ベティ全体を覆っていく。

 その光は爆発して、周囲を飲み込んだ。


「目が!目がぁ!」


 その眩いくらいの光を直視した菊池は、完全に目をやられてしまう。


「見えなくなったアナタは、もう終わり」


 自分の背後からベティの声が聞こえ、すぐさま持っていたライフルを振り回す。

 しかし当たらない。


「そう簡単に目が見える事は無いわ」


 今度は前から聞こえる。

 両手でライフルを振り回すが、何にも当たる気配は無かった。


「そろそろやりましょうか?」


 持っていた双剣で彼女の両腕を斬り落とす。

 しかし、彼女はその痛みに耐え、喚きもしなかった。


「あら?アナタ、凄いわねぇ」


「う、うるさい!泣き喚いたら、アンタの思うツボでしょうが!」


「そんな事は無いんだけど」


「一体、何をした!?」





「アタシも詳しく分からないけど。光っただけ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ