オカマvsオバさん
ミスリル製の装備を砕いた太田は、井上からその力を認められる。
投げられた太田だったが、ダメージの影響は無かったように思えた。
しかし、無傷の井上に対して微々たるダメージを蓄積していく太田。
お互いに決め手に欠くように思えたが、井上は岩に叩きつけるという一撃で、太田の動きは止まった。
一方的に思えた井上の攻勢だったが、それも太田による攻撃で焦りを感じていた。
倒した事で再び前進を開始しようとしたその時、背後から暴走した太田が襲いかかる。
ダメージは無いものの、今度は太田が一方的に攻撃を開始。
バルディッシュを振り回して、めった打ちにしていた。
暴走の危険性に気付いた蘭丸達は、素直に応援出来ずにいた。
そこへやって来た僕達は、暴走を止めるべく、兄の愛のお仕置きをお見舞いした。
後頭部に鉄球を食らった太田は、一瞬気を失ったが、兄の大声ですぐに正気に戻した。
「燃えろぉ!太田ぁ!」
兄の言葉で思い出した新しい武器。
それを発動させるべく、太田は叫んだ。
「太田!バアァァニング!!」
その言葉に反応したバルディッシュは、全体が赤く光り始める。
そして光が先端へと集まり始め、刃の部分が赤く燃えていた。
「す、凄い!」
説明は受けていたが、実際に目にするとまた違ったのだろう。
敵が目の前に居るにも関わらず、驚きの声を上げていた。
「なっ!?ミノタウロスが魔法だと!?」
「正確には、ワタクシではないですがね。では、試し斬りといかせて頂きましょう」
太田は掴んでいる井上の腕目掛けて、バルディッシュを振り下ろした。
しかし、激しい金属音が響くだけで、まだ無傷のままだった。
「ふ、フハハハ!何だ、見た目だけの虚仮威しか。炎を纏っただけで、対して効果は無いようだな」
その見た目に危険を感じた彼は、咄嗟に手を離してしまう。
しかし、実際に食らってみると、大幅にダメージが上がったというわけではなかった。
「そうですね。一度では駄目という事ですか。ならば・・・」
太田は再度、バルディッシュを上段へ構えて、あの言葉を口にする。
「太田ぁ!バアァァニング!!!」
炎の勢いが増して、刃の部分が大きく見えた。
今度は片手ではなく、両手で全力の袈裟斬りをお見舞いした。
金属音ではなく、バチバチという爆けるような音に変わった。
「むぅ!まだ駄目ですか!ならばもう一度。太田ぁぁ!!バアァァニィィング!!!」
赤から青に変わった炎が、井上を襲いかかる。
「ま、待て!それは!」
左肩から真っ直ぐ一直線に振り下ろされたバルディッシュが、何やら焼く音を響かせる。
そして一瞬止まった肩から、そのまま腰まで振り切った。
「ぎ、ギャアァァァ!!熱い!痛い!熱痛いぃぃ!!」
太田の一撃が、とうとう井上の硬質化を超えた瞬間だった。
左肩から先は、既に燃えて炭化している。
片腕が使えず、既に投げる事も出来ない。
「無駄に苦しませないのも情け。すぐにトドメを刺してあげます」
太田はそう言うと、再び力を込めて上段へ構えた。
井上は逃げようと必死に穴の方へ走り始めたが、燃えた身体のせいでバランスが取れずに躓いてしまう。
「ま、待って!降参する!降参するから!」
「太田あぁぁ!!!ブゥアァァニィィィング!!!!」
頭に振り下ろしたバルディッシュは、硬質化されているはずの身体を突き抜け、一気に地面へと叩きつけられた。
そして大きな炎の柱が立ち上がり、一瞬にして井上を炭へと変えてしまった。
「あと一回、残っていたはずでしたが。どうやらそこまで必要無かったようですね」
バルディッシュを下ろした時、周りから大きな歓声が湧いた。
「ヨウ様!アレは化け物の類ですか!?」
上空から太田の戦いを見ていた鳥人族は、あまりの攻撃力に驚愕していた。
「な、何だありゃあ!すっげー!」
太田の攻撃を見た俺も、素直にそう思ってしまった。
最初の一撃は、あんまり強そうじゃないなという感想だった。
しかし二回目、三回目となっていく毎に、その威力は倍増。
まさか、あんなにカッコよくなるとは思わなかった。
「魔王様は、あんな隠し技を知っていたのですか?」
「あ、俺?知らない。今見て驚いてるところ」
「そ、そうなんですか?しかし、魔王様の所で作られた武器だと聞きましたが」
「ぶっつけ本番で試してるみたいだから、俺も初めて見たんだよね。ベティにも渡してるから、もしかしたら何処かで使うんじゃない?」
「うちの領主にもですか!?配下の者でもないのに、豪胆な方ですね」
だって、使える人が居ないんだもの。
そう言おうか迷ったけど、悪い印象じゃなさそうだからやめておいた。
(しかし叫んでから発動って、必殺技!って感じだよね)
それ!
それだよ!
自分の名前言ってから技名みたいな。
俺もやりてえぇぇ!!
(クリスタルが増えれば、僕等用のも作ってもらえるのかな?)
そういえば、数に限りがあるんだっけ。
何処かに産地があるとか言ってたけど、何処だか忘れちまったな。
(確か、東の方の門が開かない所だったかな?滝川一益の件が落ち着いたら、連絡を取ってみるのもアリかもしれない)
そうだな。
まずは此処の防衛。
それからドワーフ達の事を解決してからだな。
よし!
ちゃっちゃと終わらせて、俺用の武器も作ってもらおう!
中央で戦っていたズンタッタ達は、隣の戦場から歓声が湧くのが聞こえていた。
「お前達!隣では将軍でも討ち取ったようだぞ!?此処にはそんな奴居ないが、その分キッチリと倒せぇ!」
ズンタッタのその声に奮起する兵達。
ベティの言った通り、中央にはAクラスは不在で強敵と呼べる者は居なかった。
シーファクの指示で、既に帝国兵は外まで押し返され、後は掃討戦のみ。
一番無難に戦闘が続いていた。
一方、ドラン達が担当している箇所では、鳥人族が続々と撃墜されていた。
ドラン達も指を加えて見ているだけでなく、投石などで狙撃の邪魔を試みていたが、それほど効果は無い。
半数近くの鳥人族が撃ち落とされ、今また犠牲者が出ると思われたその時。
ソイツは現れた。
「なるほど。アレが原因ね」
「ベティ様!」
「シュン、貴方は無事だったの。それは良かったわ」
ベティは中央から全速で向かった先、それは狙撃され続けているこの左の戦場だった。
奇しくも到着したのは、右で同じAクラスの井上を討ち取ったのとほぼ同時。
しかし、それは左の戦場で魔族も帝国も、どちらにもまだ知られていなかった。
たった一人を除いて。
「ヨウが話しているわ。右の大将さん、倒したみたいよ」
「えっ!?ヨウがですか!?」
まさか、ベティの配下で同格のヨウが、敵将を倒したとなると、シュンの心は穏やかではいられなかった。
「慌てなさんな、お馬鹿さん。倒したのは魔王様の側近の一人、太田殿よ」
「そ、そうでしたか!それでは、先程の大きな火柱が?」
「おそらくそうじゃないかしら。まさか、あんな凄い隠し技持ってたなんてね」
二人とも、それが武器によるものだとは、まだ知らない。
そしてベティが、同等のスペックを持つ武器を持っている事も、まだ気付いていなかった。
「それで、下に落ちた連中は?」
「・・・申し訳ありません」
生きていない。
そういう答えだった。
一瞬だけ目を閉じ、何か瞑想のような状態に入るベティ。
ヨウはその間に狙撃されないか、注意深く警戒していた。
「もう良いわ。貴方達の仇、アタシに任せなさい」
下を見ながら呟くベティを見て、ヨウは背筋が凍るようなそんな気持ちになった。
「ヨウ、アナタは下のドラン殿達と連携しなさい。アタシは、あの狙撃兵全員を相手にしてくるから」
「えっ!?ちょっと!待っ!」
言い終える前にその姿は消えていた。
ヨウは指示通り、一度降下してからドランと合流を開始した。
「誰だ?アイツ?」
「あんな目立つ格好の奴、見落とさないよな?」
狙撃兵がスコープ越しに、動かない二人を確認。
しかし、そのうちの一人が誰だか、誰も分からなかった。
いつの間に来ていたのか。
疑問に思いつつも、動かない二人なら自分達でも撃ち落とせる。
目立つ方は良い的だと判断した彼等だったが、見ていたはずの目立つ方が、気付くと居なくなっていた。
「あ?」
「何処に消えた?」
「此処に来ただけよ」
スコープを覗いて空を見上げていた男達の間に、化粧をして原色のチカチカしそうな目立つ格好をした男が、知らぬ間に立っていた。
声に反応してすぐに横に銃を構えるが、ある男が気付く。
「あら?俺の銃は?」
「これの事かしら?」
銃を上に掲げ、その存在をアピールする。
ただ狙撃兵達は、銃よりも違う物に全員目が止まった。
「お、俺の腕!俺の腕がぁ!」
「あぁ、これ?取り上げるのに邪魔だから、一緒に斬り落としちゃった。別に良いでしょ?アンタ達、アタシの仲間殺したんだから」
静かな口調の中に、冷たい怒りを感じる。
落ちていった仲間の死体が、そこらに転がっていた。
何人もの兵に囲まれて、槍や剣で刺されている。
もはやこの怒りは止められない。
止める必要も無いと、ベティは思った。
「お前等も同じ事されろ!」
腕を斬られた男の叫び声以外、何も聞こえないその戦場で、静かに言ったベティの言葉。
恐怖を感じた狙撃兵達は、ライフルを構える者と腰に差していた剣を抜いた者で分かれた。
だが、その行為は一切関係無かった。
「うわぁぁぁ!腕!俺の腕!」
「痛い!痛いぃぃぃ!!」
ボトッ。
自分の腕が地面に落ちる音を聞いて、彼等は初めてそれに気付く。
腕を戻そうとする者。
口で咥えて後ろに下がろうとする者。
諦めて泣き喚く者等、様々な反応を示す。
「ギャアギャア煩いねぇ!銃が撃てないなら、足で爆弾でも蹴飛ばしておいでよ」
奥から一人、女が銃を持って歩いてくる。
さっきからずっと撃っていた女だった。
「このブサイクなオバさんが狙撃の隊長かしらね」
「あぁ!?オカマに言われたくねーんだよ!」
「あら、その本性はケバい化粧で隠しきれないのね。醜いったらありゃしない」
「筋肉ムキムキの化け物オカマに言われたくないね!それに化粧って言ったら、アンタ等にはその気持ち悪い色しか無いのかい?似合わない色しか持ってないみたいだけど、帝国とは大違いだねぇ」
「・・・これはアタシの趣味よ」
「趣味悪っ!もっと帝国みたいに種類があれば、そんな気持ち悪い化粧じゃなくて済むのに」
「そういうアンタも、種類がある割には似合ってないけどね。顔に塗りたくって、シワを誤魔化してるのがミエミエよ。歳を取るにしても、その歳に合った美しさがあるのに。無理矢理に若く見せようとしてる。逆効果って分からないのかしらねぇ。嫌だわ、こんなババアを相手にするのは」
「ぶっ殺す!!」
「それはこっちのセリフよ」
まさかの舌戦に、ベティを包囲しに来た帝国兵も固まっている。
二人の言っている事を、どっちもどっちだろ!と全員が思っていた。
「じゃあ死になさいな」
ベティは目にも止まらぬスピードで、菊池に襲い掛かった。
他の狙撃兵と同じように、預かった双剣で手を斬り落とそうとする。
しかし、予想に反した声が聞こえた。
「だから、アンタの動きは見えてるんだよぉ!」
逆に自分の直進している方に向かって、銃弾を撃ち込まれると、持っていた双剣で弾いた。
次の銃弾が飛んでくるかもしれない。
ベティは菊池へ向かうのを、一旦やめた。
そして彼女の周囲を飛び回る。
「無駄無駄!いくらアンタが動き回って隙を狙っても、アタシには無駄なんだよ!」
彼女が動く先々へ、ライフルの向きを変えていく。
全く分からない他の狙撃兵達には、明後日の方向へ撃っているようにしか見えなかった。
だが何も無い銃弾の先からは、金属音が何度も響いている。
双剣で飛んでくる銃弾を、弾いていたのだ。
どうせ飛んでくるならと、空の上で立ち止まり、ベティは見下ろして言った。
「アナタの能力というのは、その異常な視力かしらね」