動くAクラス
新しい武器を受け取った五人は、コバから使い方を教わった。
時間が無かったのもあり、本当に使い方だけしか教わらず、ほぼぶっつけ本番で使用する事となった。
新しい武器を持ち、太田を含めた四人は表の左通路へ向かった。
正面は最早、小人族が番人となっている。
どうせ辿り着ける連中などほとんど居ないのだから、誰が待っていようと関係無かった。
安土の裏では、大きな穴が三箇所開けられていた。
侵入に対処するべく、ドラン、イッシー、ズンタッタの三部隊が交戦を開始。
そのうちの一つ、ドランの部隊は焦っていた。
侵入は防ぐものの、倒す術が無かったからだ。
手詰まりで悩むドランだったが、援軍は空からやって来た。
三方向へ分かれた鳥人族の部隊は、穴に群がる帝国兵に向かって絨毯爆撃を始める。
彼等への対応に狙撃兵を準備したが、それも空回りに終わった。
鳥人族を排除出来ない事に苛立ちを覚えたAクラスの女、菊池。
彼女は鳥人族を倒さない限り、安土への侵入は不可能だと悟る。
そして鳥人族の排除には、自分で対応するしかないと立ち上がった。
菊池は空を見上げて、鳥人族の様子を観察した。
遠見筒も何も使わずに見上げていたが、彼女には見えるようだ。
「あの先頭の男が指揮官か。なるほど」
不敵な笑みを浮かべ、彼女はライフルを横の男から奪い取る。
「良いかい?そのまま居る場所に撃ったって、当たりゃしないんだよ!」
空へ向かって構え、彼女は引き金を引いた。
一方、真ん中を担当したズンタッタ達は、特に苦戦をする事無く敵を追い返していた。
シーファクが副官として指示を出し、ズンタッタの目の届かない場所もしっかりカバーしている。
「さっきの音楽は?ズンタッタ様は何か聞いていますか?」
「いや、何も聞いていない。おそらくだが、佐々殿かコバ殿が関係していると思うが」
二人は城の方角から聞こえた音楽に注意し、外の様子を伺った。
やはり穴の周辺には帝国兵がビッシリと囲っている。
それを見てうんざりした顔をしたシーファクは、後ろに気配を感じた。
「佐々じゃないでしょ、ズンちゃん」
振り返ると赤青黄など、原色で目がチカチカしそうなくらい派手な飾り羽を着けたベティが立っていた。
「い、いつの間に!?」
「アナタ!可愛い顔してるんだから、そんな眉間にシワを寄せてちゃ駄目よ。うんざりして良いのは、大勢から愛の告白をされた時だけ。それと、アタシは普通に飛んできただけだから」
普通は飛ばないから。
そう言いそうになったが、彼等は逆に飛ぶのが当たり前なのだと、口にする前に気付いた。
「ズンちゃんはやめて下され。部下が見ておりますので」
「まったく!そういうところは固いのね」
話をしていると、上空を通過して行く鳥人族の姿が見えた。
空では何を話しているか分からないが、何故かベティには分かるらしい。
「この箇所には、そこまで警戒する敵は居ないらしいわ。外の敵は上の者達が数を減らすから、アナタ達は侵入した連中の始末を頼むわね」
「数を減らすとは?」
詳しく聞こうとする前に、外から爆発音が耳に入った。
敵兵であろう叫び声と共に、爆発音は色々な場所から聞こえてくる。
「なるほど。承知しました。シーファク!」
ズンタッタから呼ばれたシーファクは、ラコーン達を率いて穴の周辺に陣を張った。
「ドランちゃんの所はノーム達が協力していて、穴を塞ぎに掛かってるみたいよ。アナタ達の所にも、ノーム達を呼ぶ?」
悩んだズンタッタは、それを固辞した。
幸いな事に、自分の担当している場所には強敵が居ない。
ベティから、そう言われたからだ。
「一番遠い場所へ向かった、イッシー殿が大変なのでは?我々は上空の方々の協力があれば、凌ぐのも可能だと思います。ならば、他の二箇所の手助けをお願いします」
「分かったわ。困った事が起きたら、アタシを呼んで。ベティ!って叫べば、すぐに飛んでくるわ」
そんな馬鹿な!?
とは思ったが、この人なりの気遣いなのだと思い、ズンタッタはお礼を言って戦場へと駆けて行った。
「キリが無いな」
イッシーは弓を引きながら、愚痴を零す。
イッシーが率いる部隊は、若狭へ向かった時の部隊とほとんど変わらなかった。
強いて言えば、人数が増えたくらいであろう。
元若狭遠征第三部隊。
又の名を安土増毛協会。
彼等は多種多様な武器を用い、そしてどの部隊よりも洗練された連携力で敵を撃破していった。
「右、前進を開始!左、更に壁寄りへ展開しろ。わざと逃げ場を作れ」
協会員による素早い陣の変化が、イッシーの真骨頂だった。
「今だ!網を投下!よし!左はその名の通り、一網打尽だな」
イッシーの片腕である獣人、メリクが左の指示を出した。
中へ侵入してきた帝国兵は、全員が網のせいで身動きが取れなくなっていた。
そこへ剣や槍などが襲い掛かり、ほぼ全ての帝国兵が絶命していく。
「会長!我々の圧倒的優位ですな」
「油断するなよ。まだまだ外には敵が沢山居るらしいからな」
イッシーは気を引き締めて、外の様子を伺った。
「ん?音楽?」
「何でしょう?城の方からですが」
「俺も何事かまでは聞いてないな。どうせコバ辺りが何かやったんだろう」
イッシーの中で、コバの信頼度が低いらしい。
とんだ誤解を招いていたが、当の本人も身を乗り出す程楽しんでいたので、あながち間違っていなかった。
「違ったな。ベティの方だった」
空を飛ぶ小隊が頭の上を過ぎ去って、穴の外へと飛んで行く。
飛んで行くのを見送った後、外から激しい爆発音が聞こえる。
「上の連中に手柄を持っていかれるぞ!俺達も侵入してきた奴等を殲滅しろぉ!」
イッシーの檄に会員の連中は、更に力を込めた。
「上から見ると、部隊によって強みが違いが分かるな」
ヨウと呼ばれた鳥人族が、周りの鳥人族に話し掛ける。
爆撃で穴の周辺には敵が減っている。
それを見越していたのか、下の連中が大岩を運び、穴を塞いでいた。
完全に塞げたわけではないが、中へ入るには、少数ずつに限られた。
「此処は指揮官が素晴らしいな。これだけ多種族が集まっているのに、全く乱れが無い。我々も見習わなければ」
空の上でヨウは感心していた。
しかし彼は、何故こんなに統率が取れているのかを知らない。
毛が薄い。
ただ一つの共通点を持つ彼等は、イッシーというカリスマが結果を出した事で、その想いは全員が同じ方向を向いている。
それを知ったら、ヨウは何を思うのか。
そんな事は安土増毛協会にとって、関係の無い話だった。
「空からの攻撃とは、なかなか手強い!」
小太りの男は味方が吹き飛ぶ様子を、本陣から見ていた。
爆撃の音は、他の場所からも聞こえる。
おそらく、三箇所全て同じ事をされている。
そう判断した男は、これ以上の被害を出さないように、自らが出撃する事を伝えた。
「全員、爆撃の範囲から下げろ。中の指揮官を叩く」
彼は軽装のミスリル製の装備で、一人戦場へと出向いた。
「井上さんが出る!?」
前線の指揮を任されていた男は、Aクラスである井上と呼ばれる小太りの男が向かっていると報告を受けた。
全員を下げろ。
爆弾の脅威に曝されていた彼等は、上からの願ってもいない指示に、一目散に下がって行った。
「頼みましたよ!井上さん!」
片手をグッと上げた井上は、ただ一人、穴の方へと向かって行く。
「前線を下げたか。賢明な判断だろう。いや、違うな?」
ヨウは、下がる敵兵の中で一人、逆流している男を見つけた。
その男を避けるように二つに分かれる敵兵達。
ヨウは、それだけ彼が危険な人物だと警戒した。
「あの男の周りに爆弾を落とせ」
「残りの数を考えると、あまりオススメしませんが?」
「雑兵よりも危険な相手だ。奴を仕留めた方が、確実に有利に進むはず」
「かしこまりました」
指示に従い、彼等は下の小太りの男を囲むように、爆弾を一斉に落とした。
「何だと!?」
今まで下から、スナイパーに狙われていたのは分かっていた。
しかし、単調や狙いの彼等の腕では、自分達を傷つける事は出来ない。
そう高を括っていた。
それがたった一人、自分達に当てた人物が居る。
「あの女か!?」
「チィッ!当たりはしたが、丁度鎧の硬い部分とはね。全く、ツイてないったらありゃしない!だが、もう分かった。次は落とすよ。アンタ等、落とした鳥はキッチリと仕留めるんだよ!」
「姐さん、アイアイサー!」
「姐さんって呼ぶんじゃないよ!」
怒りながらも、次の狙いに定めをつけている菊池。
再び、そのライフルが火を吹いた。
「スイ!?」
シュンは銃声が聞こえた後、左後ろを飛んでいた仲間が落ちていくのを見つけた。
今までは当たらなかった銃弾が、一人の女の登場で一変する。
「気を付けろ!アイツだけ異常に上手い。単調に飛んでいると、簡単に狙われるぞ!」
ヨウは自分の小隊なら、この一言で通じる。
そう信じていた。
そして緊急回避と言わんばかりに、バラバラに飛び始める。
これなら狙いは定まらないだろう。
しかし、その考えは間違っていた。
「甘いねぇ。そういうんじゃないんだよね。この力はさ!」
三度放たれたその時、次の鳥人族が落下していく。
「所詮は鳥も鳥人族も変わらないのさ。アタシにとっては、喋る鳥か喋らない鳥かくらいの差でしかないんだよ!」
更に撃墜数を増やす菊池。
残りは半分といったところか。
「落とした連中は、ちゃんと殺したんだろうね?」
「姐さんの指示通り、囲んでボッコボコです!」
「鳥なんだから、焼いたら食えるのかねぇ?」
冗談なのか分からないその言葉に、聞いていた男は愛想笑いしか出来ない。
下手に刺激を与えて、トバッチリを食いたくなかったからだ。
「まあ良いさ。さっさと終わらせて、中の連中も始末するよ!」
「馬鹿な!?無傷だと!」
たった一人に向かって、爆弾を十個は投下した。
過剰攻撃かもしれないとも思っていたヨウだが、煙が晴れて見えたその姿に、驚きの声を上げた。
「アイツ、本当にヒト族なのか!?」
ミスリル製の装備でさえ、少し壊れている。
それなのに、装備している本人は無傷だった。
見下ろしているのに気付いたのか、向こうも見上げていた。
何か言ったようにも見えたが、そのまま穴へと向かい歩き始めた。
「一人ならば、中の部隊に任せても良いのでは?」
「爆撃して無傷の男だぞ!?たった一人だとしても、それは脅威だろうが!」
軽く見ていた小隊員に、焦りから怒鳴り声を上げる。
しかし爆撃が通じない相手となると、あとは接近戦しか手立てが無かった。
そしてその接近戦は、自分達の利を捨てる事になる。
悔しいが、自分達に出来る事は無い。
ヨウはそう判断し、他の敵の殲滅に切り替えた。
「あの指揮官の部隊なら・・・。勝てるか?」
「うむ。裏は畑だったのか。此処ならまだ暴れても問題無いが、このまま接収するとしたら壊し過ぎるのも考えものだな。そう考えると、自分が中へ入って正解だったか?」
ただ一人、穴の中へ侵入した井上は、安土の領内を見回した。
遠くに街が見えるが、此処は畑の端。
存分に暴れても問題無いと判断した。
「たった一人で入ってきただと!?」
「弓隊撃てぇ!槍も投げろ!」
遠距離攻撃の雨霰が彼を襲ったが、やはり爆撃に耐える男には通じない。
一切の攻撃は通じず、ただ歩きながら近付いてくる。
「接近戦に切り替えろ!斬れ!」
歩兵部隊が何十人と、剣を構えて襲い掛かった。
彼はそんな剣を頭から受け止め、その腕を掴んだ。
「セイヤァ!」
地面へと頭から落下させ、首がおかしな方向へ曲がる。
「柔道家か!」