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鳥人族の出撃

 召喚者四人を引き連れて、長可さん達がやって来た。

 喧嘩の原因はなんとなく分かってはいるけど、本人達の考えを聞きたかった。


 ハッキリしない態度を見かねた僕は、鈴木を名指しして考えを聞いた。

 その後に石井の考えを。

 鈴木は、投降したからには選択権は無い。

 与えられた仕事を精一杯やるという考えだった。

 対して石井は、投降して新天地に来た。

 せっかく希望を聞いてくれるのだから、チャレンジしたいと言う。


 結局、僕の一声で彼等は希望を言い出した。

 それなりにやりたい事があったようだ。

 石井だけ違う職種を選んだが、ラーメン屋になりたかったのかな?

 それともラーメンが好きなだけ?

 どちらにしても、日本人がラーメン屋をやるのも楽しみだなと思った。


 帝国がやって来て五日。

 本気になったらしく、正面から大軍が攻めてきた。

 陽動だとは分かっているが、かなり多い。

 既に対策済みなので各自出向こうとすると、コバが新たな武器を持ってきた。

 数は少ないが、彼我の戦力差を考慮すると、とても貴重な物だった。

 しかし、帝国は待ってくれない。

 武器の説明をする前に、安土の裏側から破壊活動が行われたのである。





 こうなる事は分かっていた。

 既に奇襲に備えて、真イッシーとズンタッタ。

 それにドランが待機している。

 裏側に関しては、問題は無いのだ。


 そう。

 問題なのは、表側の左通路を守る存在。

 前田兄弟と佐藤さんの三人だった。

 現在、左通路の部屋主は全員不在となっている。

 このまま突入されると、無条件で通過となってしまう。


「というわけだから、コバ!説明早く!」


「どういう訳だ!?あー、じゃあこっちを教えておく」


 コバは一人一人にある一言と、武器に使われているクリスタルに入っている魔法についての説明だけをした。

 後は、所有者がどう使うか。

 これは個々の判断に委ねられた。


「と、とにかく!これで使える。使用回数は五回。クリスタルに魔法を再度封入すれば何度でも使えるが、戦場でそれをやる時間は無いだろう。各々、使うタイミングは慎重に考えるのである」





 裏手から煙が上がっている。

 森が広がっており、何かの能力を使ったのであろう。

 正面の人数が変わったようには見えなかった。


「既に交戦している模様。未だ此方へやって来る様子はありませんが、街中には住民の方々もいらっしゃいます。避難勧告を出されますか?」


 報告に現れた獣人から、状況を知らされた。


「敵の総数は分かりますか?」


「ハッキリとは分かりませんが、おそらく主力は此方です。昨日まで正面に居た人数と、大差ないと思われます」


 裏は数で押し切り、正面は精鋭って感じかな。

 どちらが抜けて来ても、街に被害は出そうだ。


「正面は、太田殿も追加で参加して下さい。一部屋と言わず、二部屋を使用して交代で。怪我をしたら必ず回復して下さい」


「分かった!」


 太田を含めた四人は、急ぎ左通路へ走っていく。


 正面通路は小人族の一人に任せているので、問題無いと思われる。

 昨日のうちに罠の仕掛けを大幅に変更したので、頑張って作った罠の配置図も無に帰すだろう。


 右通路はどうせ来ないだろうから、壊して封鎖。

 おそらく今日中に、帝国は決めに来るはずだ。





「ドワーフの意地を見せろぉ!」


 ドランが檄を飛ばし、周りの男達は大槌を振るう。

 彼等は壊された三箇所のうち、一番近かった左側を担当した。

 理由は一つ。

 トライクに乗れない為、最短で行ける場所になっただけだった。

 しかし向こうの数は、一つの穴に一万は群がっている。

 戦力比は向こうが五倍近くある。

 一人でも欠けると、一気に崩されかねない。

 そこで彼等は、ノーム達と協力して壊された壁を塞ぐ事を最善とした。

 全戦力を投入して、壊された穴まで押し返す。

 そこからは、穴から入ろうとした者をモグラ叩きの要領で、左右から大槌が襲う。

 無防備に入ろうとした者は、骨を砕かれ外へと弾き出される。

 防げたとしても、大槌と盾や鎧が当たった衝撃や音で、彼等の脳は揺さぶられた。



 数に勝る帝国側は、焦れていた。

 奇襲という形で裏側を破壊して、内側から崩す作戦だったはず。

 それなのに魔族はすぐに現れ、街の中に入る事は許されない。


「行け!早く入り口を広げろ!」


「しかし、中へ入ろうとするとドワーフ達の抵抗が!地面から壁が盛り上がり入り口を塞ごうとしていて、それを壊すのに精一杯です!」


「大盾部隊を前に出せ!無理矢理にでも押し込んでしまえ!」



 ドワーフ達の作戦は、今のところ効果が出ていた。

 中に入れない事には成功している。

 問題があるとすれば、敵が入ってこないだけで減っていない事だった。

 壊れた壁から見えたのは、何処までも続く帝国兵の列。


「ドラン様。このままですと、いつかは突破されます。何か相手へ大打撃を与えないと、我々の人数では押し切られます!」


 前線からの連絡に、参謀は頭を抱えた。

 外に居る連中を攻撃する術など、ドワーフには無いのだ。

 弓なら壁上から狙う事は出来る。

 しかしドワーフには、弓が得意な者が少ない。

 ドランもそれが分かっていた。

 内心では焦っていたのだ。


 奇妙な事に攻める側も守る側も、お互いの様子を知らずに焦っていた。

 しかしその焦りも、とある人物の登場に、解消される事になった。





「行くわよ」


 いつもと少し雰囲気が違うベティは、一言だけ言い残して部屋から出て行った。

 僕は何をするのか気になり、後を追っていた。


 城の外へ出ると、大勢の鳥人族が待機している。


「魔王様。ではなく、キャプテンだったわね。アナタに言った事、覚えてるかしら?」


 って言ってるけど、覚えてる?


【覚えてる。気持ちだか気分が大事って言われた】


「気持ちが大事でしょ?覚えてるって言ってるよ」


「今からそれを見せてあげる」


【変わってもらっていいか?】




「何をするんだ?」


「見てなさい。これがアタシの出撃よ。チュンチュン隊!」


 ベティが大きな声を出すと、鳥人族の中から歌声が聞こえ出した。


「な、何だ!?」


 すると小柄な男性、男の子達が十人ほど前へ一列に並んだ。

 並び終えると、今度は楽器の音が聞こえてくる。

 ブラスバンド?

 学生時代に聞いたような音楽が聞こえ、これまた前の方へ出てきた。

 少しして曲が終わった。

 ようやく行くのかと声を掛けようとしたら、曲が変わり今度はベティが動き出した。

 優雅にバレエ的なダンスでも踊るのかと思いきや、ラグビーとかで見た事があるような踊りだ。


(ラグビーのニュージーランド代表が踊る、ハカに似てるね)


 そう!

 それそれ!


 一人でやるのかと思ったら、徐々に鳥人族全員でやり始めた。

 踊ってないのは、歌ってる人と楽器を弾いてる人だけだ。

 俺達は何を見せられているんだろう?

 そんな事を考えていたが、弟が突然驚く事を言い出した。


(全員の魔力が上がってる・・・。何故だ!?)


 あ、ホントだ。

 しかもベティなんか、上昇率半端ないな。

 このまま上がり続けると、二倍くらいになるんじゃないか?


(いやいや!それは上がり過ぎだよ。そこまで上がらなくても、相当だな。又左達と同じくらいまで、上がるんじゃないか?)


 それも凄いな。

 又左と太田、ゴリアテクラスは、魔族では最上位に当たる。

 ベティって変人だけど、戦士としてそこまでは強くないと思ったんだけどな。

 あ、踊りも終わった。

 とうとう行くか?


「お疲れさん。じゃあ行って・・・」


「野郎共!」


「オゥ!」


「男は!」


「度胸!」


「女は!」


「愛嬌!」


 あ、これたまに聞く言葉だ。


「オカマは!」


 オカマ!?


「最狂!」


「行くぞぉらぁ!!」


 言い終えると、物凄い勢いで空へ上昇して行った。





 何か凄かった。

 言葉に言い表せないくらい凄かった。

 流石に楽器でガチャガチャ鳴らせば、他の皆も気付く。

 城を見上げると、大勢がこっちを見ていた。

 特にコバとロック。

 二人とも興奮して、落ちそうなくらい身体を乗り出していた。


「凄かったですね」


「ゴリアテさあ、お前と同じくらいベティの魔力上がってたの気付いた?」


「アレは私なんかより、もっと上でしたよ。又左殿に近い魔力量でした」


 自分より上。

 そう言い切るくらい、ベティの魔力は高くなっていた。



(歌ったり踊ったりしただけで、何故あんなに強くなったんだろう?)


 最初に言っただろ。

 気持ちが大事。

 冗談かと思ったけど、本当に思い知ったわ。





「シュン、シュウ、ヨウ。三方向に分かれて、穴に群がる兵に素敵な贈り物をしなさい」


「御意!」


 ベティが指示を出した三人は、各々の部隊を率いて飛んで行った。



 彼等が持っているのは、多くの爆弾。

 魔法で着火して、落とす作戦のようだ。

 先程見せたような綺麗な列に並び、指示を待った。


「作戦開始!」


 シュンと呼ばれた男の合図で、彼等は落とし始めた。

 これまた凄いのは、一糸乱れぬ動きというか。

 爆弾を落とすタイミングも、全員が同じなのだ。

 等間隔に並び、等間隔に落としていく。

 まさに絨毯爆撃と呼ぶに相応しい攻撃だった。





 ドラン達は、城の方から聞こえる音に耳を傾けていた。


「ドラン様。あの音楽は一体?」


「ワシにも分からん。しかし、この短時間で敵に侵入を許す程、どの連中も甘くない」


 となると、味方か!?

 彼は遊撃部隊を任せられたベティの事を思い出す。


「持ち堪えろ!味方の援護がやって来るぞ!」





 城から音楽が聞こえる。

 外で指揮をしていたAクラスの三人の耳にも、聞こえたらしい。


「アレは何だったんだ?」


 正面で指揮をしていた若い男が、他の召喚者に尋ねた。


「分からないが、どうやらこっちにはあまり関係が無いようだ。鳥人族らしき連中が、裏側に飛んで行くのを見た奴が居る」


 年上の男性からそう報告を受けた彼は、自分と関係無いのならと、通路への侵攻を開始した。




 そして裏側のAクラス二人はというと、その対応に追われている。


「何なんだい全く!あの音楽が聞こえてから、急に被害が増えたじゃないか!」


 三方向で時間差はあれど、空から爆弾を落とされたという報告が上がってきた。

 中へ侵入しようと穴の前で詰まっていた兵は、爆弾の餌食となり、死傷者が多数出ていた。


「一旦下がりな!固まってると、また爆弾の餌食になるよ!」


 三方向のうち、左側を指揮していたAクラス。

 菊池という名の女が、とうとう軍を下げた。

 穴から兵を下げると、たちまち穴が塞がっていく。

 それを見て、チッと舌打ちした。


「大砲でもぶっ放してやりたいねぇ!」


 大砲もあるにはあるが、そんな物を構えていれば、上からまた爆撃されるのは分かっている。

 だからこそ、先に倒すべきは上の厄介な鳥共だと判断した。



「スナイパー部隊はこっちに来な!アイツ等を撃ち落とせ!」


 彼女の指示で、スナイパー達は一斉に空を見上げた。

 狙撃隊の隊長が、合図を出す。


「撃てぇ!」


 響き渡る銃声に、彼等はその銃弾の行く先を見据えた。


「なっ!?誰も当たっていない!?」




「ん?」


 シュンは下を見ると、何か光る物を見つけた。

 それはスナイパー達が構えるスコープが、太陽の光で反射した物だった。


「お前達!下から狙われているぞ。奴等の銃口に目を向けろ」


 彼等は下を見ながら、銃口の先を確認した。

 誰が狙われているか、自分が狙われているか。

 銃弾より音の方が速い。

 銃声を聞いた彼等は、すぐさま回避行動に入り、そして全員が当たる事は無かった。


「森の中から撃たれれば危うかったが、あんな目立つ所で撃ってくれればな。指揮官も、そんなに頭が回る人物ではないようだ」





 誰も当たらない。

 それを聞いた菊池は、怒り心頭となった。

 今までの侵攻と違い、思い通りに事が進まない。

 普段なら下の連中に任せても問題無かったのに、あまりに結果が伴わないからだった。


「アンタ等、Bクラスは本当に使えないねぇ!そんなんだから、Aクラスに上がれないんだよ!」


 八つ当たりとも取れる言い方に、Bクラスの連中は無言だった。

 何かを言えば、更なる八つ当たりが来るのが分かっていたからだ。

 このババアはそういう女だ。

 皆、経験があるから知っていた。






「もういい!自分で始末する!」

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