新しい武器
奇襲を受ける。
半兵衛の言葉によって、僕達は再び配置転換を行う事にした。
左通路は個人戦が得意な人物に任せて、イッシーやズンタッタ、ドラン達は奇襲に備えるという事に変更した。
その中で一人、ベティだけはどちらもこなせるという贅沢な悩みに頭を抱える。
結局、空を飛べる人員を遊ばせるのは勿体ないという判断から、奇襲に備えた遊撃部隊となった。
そして残った右通路。
投降者達の扱いは、長可さんに委ねる事にした。
面白そうだから対面に参加しようとしたが、魔王に相応しくない行為だとして却下されてしまう。
渋々モニターからの観察だけに切り替えたのだが、それはそれで面白かった。
彼等の投降理由は、やはり帝国での待遇だった。
戦闘能力の乏しい彼等は、帝国では大して優遇されない。
それならば、という考えがあったようだ。
話もスムーズに進んでいるように思えたが、とうとう問題が発生してしまった。
此方側には被害があるというわけではないのだが、投降者同士の喧嘩に発展してしまったのだ。
見かねた僕は、四人の仲裁をするべく、玉座の間へと迎え入れる事にした。
勢いで言ってしまったが、どんな顔して待ってれば良いんだろう?
やっぱり威厳があった方が良いかな?
【ビビって固まらない程度に、偉そうにしてれば良いんじゃね?】
フレンドリーにして、マウントを取る感じか?
それ、意外と難しい。
あ、悩んでる間に扉が開いてしまった。
「申し訳ありません」
長可さんが開口一番に謝ってくる。
おそらく、あの喧嘩を止められなかったからだろう。
でも、話を聞く限りでは、どちらの考えも間違ってはいないんだよね。
止められなかったのも、分からなくもない。
「ま、ま、魔王様!俺、いや、私達が止められなくて、ほ、本当にすいません!」
えーと、田中さんだったかな?
めっちゃ汗を流しながら謝ってきた。
脂汗かな?
冷や汗か?
それに続いて、他の三人も頭を下げる。
「話は聞いてたから別に気にしてない。それに僕は、二人の言い分がどっちが間違ってるとも思えなかったし」
とは言ったものの、まだ解決していない。
此処で僕が口を挟むと、それだけで決定となってしまう。
本来ならそれが正しいのかもしれないけど、異世界なんてこんな所に来てしまった同士としては、無理矢理は決めるのはあまり好ましくないと思った。
「じゃあ、二人の考えを聞こうか」
これが魔王。
飛んでいた時はハッキリ見えなかったけど、あの声通りに子供じゃないか!
エルフかダークエルフの子供か?
でも、あんな恐ろしい球を投げてくるんだ。
見た目で判断してはいけない。
「早く喋ってって」
急かされた二人は、顔を青くしながらどっちが先に話すかでまた揉めている。
それが怒らせる原因だと、何故分からないんだ?
「もういい!お前!えーと、鈴木さんだっけか」
「ひゃ!?は、はいぃぃ!!」
指名された鈴木は、声が裏返りながら姿勢を正した。
「長可さんは仕事は何か希望があるか、聞いたはずだけど。何故、言わなかったの?」
「はい。私は帝国で、スパイが得た情報を帝国へ運ぶ、運び屋みたいな仕事でした。魔物に認識されづらいという事だけで、私自身も戦闘能力は高くありません。というより、他の三人も似たようなものです」
他の三人は、ウンウンと大きく頷いている。
戦闘能力が無いって、鈴木に馬鹿にされてるんじゃないの?
なんとなくそう思ったが、三人とも自他共に認める戦闘力なのだろう。
敢えて突っ込まないようにした。
「こんな私達が、自分で仕事を選ぶ立場にあると思えません。それに投降した身で、自らが希望するなど。そんな贅沢は言っていられないと思うのです」
蘭丸はこの意見に賛成のようだ。
少し頷いている。
シーファクもそんな感じだ。
対して、石井の方はというと。
「私もそうは思います!しかし、せっかく希望職を提案されたにも関わらず、それを無碍に断るというのは、どうなのかと思ったのです。しかも我々は帝国で、微妙な仕事しか与えられていません。投降して新しい生活が始まるというのに、また自分に向いているかも分からない仕事に就くかもと思うと、希望くらいは言っても良いんじゃないか?そう思ったのです」
ハクトはこっち寄りっぽい。
そしてセリカも、自分がそういう立場だったからか、拍手までしている。
「要は、自分の立場を考えて言っているわけだ。片や、印象を悪くしたくない為。一方、新しい自分にチャレンジする為」
お互いが見合って、またそっぽを向く。
仲が良さそうに思えたが、彼等にとっては人生を左右する事かもしれないからな。
譲れないのは仕方ない事だと思う。
転職と似たようなものだろう。
「此処には色んな理由で滞在しているヒト族が居る。国王を助けたい連中に、助けた恩を返す為に残る連中。自分の研究の為や自分の夢の為に魔族をスカウトしてる奴まで。魔族に恋しちゃって帝国を裏切ったりした者もね」
セリカは顔を赤くして、両手で覆った。
四人はコイツか!という顔をしていたが、蘭丸が少し前に出て納得といった表情になった。
「皆、色々な理由で此処に居るけど、僕は強制なんかしてないから。やりたい事があるなら、それを言って欲しい。例えば、日本に居た頃にしていた仕事に似た職種でもいいし、日本に居た頃に諦めた事でもいい。野球選手になりたかったって言われると、まだ球場も何も無いから無理だけどね」
二人は顔を見合わせて、僕に問うた。
「それはどんな職種でも良いのですか?」
「料理人でも雑貨屋でも服屋でも良い。畑仕事もあるし、魔道具を作る研究職もある。知識も無いのに研究職は難しいかもしれないけど、研究所の所長がOKを出せば問題無いぞ」
それからは早かった。
四人が希望する職を聞き出し、そこへと斡旋する事となった。
城から出た四人は、暗くなった空を見て疲れがドッと出てきた。
魔族の都市へ侵攻すると思いきや、流れで投降する事になり、それから魔王と謁見。
全てが一日で起きた事だった。
「住まいまで用意してくれてるって言うし、此処って凄くない?」
「魔王、めっちゃ話が分かる子供だったな」
「魔王様な。他の人に聞かれたら、お前ぶん殴られるぞ」
「あの人、中身日本人だよ。さっきの会話で確信した」
高野くんの一言は、鈴木と石井を簡単に硬直させた。
でも、俺もそう思った。
あの場で日本人ですか?なんて聞く勇気は無かったけど、日本の事や野球なんて単語が出れば、大体の想像はつく。
「魔王様が日本人かどうかはともかく、明日からは新しい仕事が待ってるんだから。早く休んで明日に備えようぜ」
「それもそうか。俺達研究所で働けそうだし、頑張ろ!」
石井を除く三人は研究所へ。
石井はラーメン屋で働く事になった。
帝国の仕事なんかより、余程やりがいがありそうだ。
そう思っていたが、研究所の所長の変人ぶりに慣れるまでは時間が掛かりそうだと三人は思った。
翌日以降、帝国の手は緩んだ。
正面から来る者は少なく、中央通路に至っては少し進んで罠が作動したら戻り、地図を作成。
そんな感じでほとんど進入して来ない。
死亡者が出たら、その日は誰も進まずに戻るというのが決まりになっていた。
左も似たようなもので、強いて言えば疲労を狙って、全員が同じ部屋に入ってくるという事だった。
右に至っては、誰一人来なかった。
夜間になると、密かに投降希望の者達が複数人やって来たが、昼間はほぼ皆無となっていた。
「もはや正面からの攻撃は無いですね」
ゴリアテの報告を聞いて、半兵衛の言った通りに進んでいる事を実感する。
とりあえず反省点として、左の部屋は一つに統一。
部屋主というよりも、交代制に切り替えた。
一つの部屋に集中するなら、此方も同じ事をするまで。
中央も僕は不在にして、小人族に代理を頼んだ。
罠を作動させるだけなら、小人族達でも出来る。
悲しい事に、張り切って作った迷路と罠は、今では閑古鳥である。
そして帝国がやって来て五日経った頃。
とうとう正面から大軍がやって来た。
「これは陽動ですね。とうとう向こうも、重い腰を上げて本気を出してくるはずです」
「半兵衛殿の指示通り、畑のある裏手に軍を配備しておきました。背後からの奇襲も、問題無く対応出来ます」
これで対策という対策は終わった。
後は皆が頑張るだけ。
そんな時、防衛戦が始まってから顔を出さなかった男が現れた。
「ちょっと待つのである!」
コバは新たに所員として迎え入れた田中達を率いて、武器を数点持ってきていた。
リアカーに載せて持ってくるその様は、家電回収のおじさんのようだ。
「魔王、今ちょっと失礼な事考えなかったか?」
勘の良い男だな。
敢えて流したが、本人も気にしていない。
それよりも、後ろの武器が何か気になる。
「前々から試作していた、クリスタル内蔵の武器が完成したのだ!クリスタルの数が少ない為、完成品はこの五点しかない」
見せられた武器は、槍が二点とバルディッシュ。
鎖で繋がれた短剣が二本と、そしてボクシンググローブだった。
「グローブがあるって事は、これは俺専用の武器!?」
「その通りである。何度か映像で見させてもらったが、魔族と同等の強さを誇る佐藤に任せるのが良いと、吾輩が判断したのである」
これには誰もが驚いた。
戦闘には興味が無い素振りをしておきながら、主要なメンツの武器を確認していたからだ。
しかも日本人よりも魔族に肩入れしているのに、召喚者である日本人に渡すなんて。
誰も予想していなかった。
「詳しい話は後だ。残りは分かる通り、太田殿と前田兄弟の分だ」
三人は武器を受け取り、実際に持って確かめ始めた。
「悪くないでござるな」
慶次は、僕が作った槍よりも少し重さを感じる程度だと言っている。
クリスタルが追加された分だろう。
「それでは説明を開始する」
「ちょっと待て」
「何だ?魔王よ。今からが良いところなのに」
「いやいや、リアカーの荷台を見てみろって」
荷台を見ると、二つ武器が余っている。
というより、鎖で繋がれているから、これで一つなのか?
「アレ?こういう武器使う人、居なかったか?」
皆、顔を見合わせているが、誰も名乗り出ない。
コバは慌てて立候補者を探した。
「ちょっと!せっかく間に合わせて作ったのに、それはないのである!誰か、誰か使う人は居らんのか!?」
「誰も使わないなら、僕が使おうかな」
「お前は駄目!どうせ前線に出ないから、使用した感想が聞けないから!」
そんな強く言わなくても・・・。
どうせ使えないから、冗談で言っただけなのに。
「あぁ、作る武器を間違えたのである・・・」
凹むコバに、軽い同情の目が集まる。
普段は変人だが、今回は大きな仕事をしている。
流石に可哀想な気がした。
「仕方ないわねぇ。アタシが使うわ」
「ぬっ!?オカマ、じゃなくてベティか!オヌシ、引き受けておいて使えるのであるか?」
「鎖で繋がっているのはよく分からないけど、双剣なら使えるわよ」
両手で双剣を持ち、軽く振り回す。
最初は鎖を邪魔そうに扱っていたが、徐々に慣れて、武器を腰へと差した。
「これ、なかなか良いわね。双剣としても使えるけど、片方を持って振り回せば、遠くの敵も攻撃出来そう」
「使えそうか!?良かった」
コバは安堵の表情を浮かべ、ベティに感謝した。
コバは続けて、各武器の説明を始めた。
武器によってそれぞれ特性が違うらしく、説明には時間が掛かりそうだ。
しかし、敵はそれを待ってはくれなかった。
「畑側の壁が、三箇所破壊されました!」