揺れる投降者
残りの召喚者も到着した。
総勢で十五人。
予想以上に少なかったが、馬鹿がこの人数で勝てるのかと挑発してきた。
降りてきた所を全員で襲うつもりだったんだろうが、鉄球で一撃で殺しておいた。
卑怯者呼ばわりされたりもしたが、あの兄にすら言いくるめられて、奴等の空気は重くなった。
自らの行いを思い返しているのか、動かなくなったところに合図を出した。
四方から一斉に現れた魔法使いに、部屋全体をプールと化してもらった。
そこへ放つ必殺の魔法。
電気系統の魔法をプールへと放ち、彼等は感電死もしくは溺死となった。
城へ戻った僕は、ゴリアテ達と合流して反省会へと移った。
問題点として大きく上がったのは、左通路の数人。
特にロックは相性というか、実力不足が否めないという事となり、部屋主を降板。
太田も暴走の危険性を考慮して、降板の可能性を示唆した。
そして真イッシーとなった斎田も、自ら辞退を申し出た。
半兵衛は彼の頼みを受諾して、部屋主を降板。
その裏には、数日後にやって来るであろう奇襲に備えてとの事だった。
そっかぁ。
奇襲されるんだ。
寝耳に水だった。
「えっと、それは何処の情報なのでしょう?」
「私の推測です」
ゴリアテは推測と言われて、悩む仕草をしている。
防衛責任者としては、そんな不確定要素だけで決めつけるのは良しとしないのだろう。
だけど、半兵衛の頭脳には絶対の信頼を置いている僕としては、備えないわけにはいかない。
「ゴリアテが悩むのは分かる。だけど、お前も半兵衛と一緒に居て、コイツの凄さは分かってるんだろ?だったらどうするべきか、お前が決めて良いよ」
敢えて決断は、ゴリアテに任せる事にした。
おそらく間違う事は無い。
「・・・左通路の部屋数を減らします。集より個の方が力を発揮出来る人物、慶次殿や佐藤殿達に任せます。そして部隊を率いて活躍出来る、イッシー殿やズンタッタ殿達には、奇襲への備えをお願いします」
うん。
僕が言いたい事は、ほとんど言ってくれた。
そこに、自分はどっちが良いのかと尋ねてくる者が一人。
ベティである。
「アタシ、部屋主をロックちゃんと交代したけど、遊撃部隊もあるのよ。どっちが良いのかしら?」
「俺っちじゃあ、もうBクラスが来たら勝てないんだよね。役立たずで申し訳ないけど、後方で控えさせてもらいたいな」
ロックはお手上げといった感じで、両手を上げて首を振っている。
ベティは顎に手を当てて、自分でも考えているようだ。
「佐々殿には遊撃部隊を任せます。空を飛べるのは、此方の優位です。部隊で動ければ尚更。部屋主は、任せられる人に任せましょう」
「そうですな。それが良い。ベティ殿には補給や遊撃にと、存分に活躍してもらう予定です」
半兵衛とゴリアテの決定で、ベティの方針は決まった。
中央通路も下手したら、もう僕がやる必要も無い気がする。
誰かに罠の作動とか教えちゃって、最後の部屋に来そうになった時だけ行けば良いかな。
「では、少し話を変えまして。投降者の件についてです」
俺達は六人が倒された後、安土へと案内された。
正直なところ、あんなの見せられたら抵抗するつもりも起きなかった。
するつもり自体無かったけど。
「少ないですが、ヒト族の方々も生活しております。皆さんが奇異な目で見られるような事はありませんので、ご安心ください」
森の中を歩いていると、一人の女性にそう告げられる。
魔族の都市に、ヒト族が住んでいるとな?
一体誰が住んでいるんだろう?
「此処が魔都安土になります」
案内された門は、帝国でも見た事無いくらい大きかった。
中へ入ると、綺麗に整備された街並みが見える。
一直線に見えるのは、とても大きな城だった。
「デカイな」
「というか、綺麗じゃない?」
後ろで鈴木と石井が話している。
高野くんと俺もキョロキョロと見回しながら歩いていたが、高野くんの足が急に止まった。
後ろを歩いていた鈴木は、そこへぶつかる。
「急に止まるなよ!何か興味あるのでもあったか?」
彼は目を細めてジーっと見ていたが、俺達には遠くて見えない。
すると案内をしていた女性が、行ってみますかと声を掛けてくれた。
見ていた方を歩いていくと、俺も分かった。
これは興味が湧くわ。
「ラーメン屋ですか?」
「よくご存知ですね。神の国の食べ物として、魔王様が普及して下さったのです」
神の国の食べ物?
どういう事?
覗いてみたが、今はまだ食事時になってもいない。
店も休憩中で誰も居なかった。
「長可様が待っていますので、城へ早く向かいましょう」
「田中さん。僕、気付いたかもしれない」
小声で話し掛けてきた高野くんに、俺も小声で返した。
「何か分かったの?」
「魔王の正体」
「ハァ!?」
いきなり大きな声を出したので、案内をする女性はおろか、周りに居た魔族からも注目を浴びてしまった。
頭を下げながら、何でもないですと言って、また歩き出す。
「どういう事?」
「多分だけど、日本人じゃないかなって思うんですよ」
「それは何故?」
「さっきから街中を見てると、飲食店がありますよね?どれも見覚えありませんか?」
ラーメン屋にカレー、中華料理に蕎麦屋。
あ、言われると確かにそうかも。
「少し建物は中世的な所も見えますが、店構えは日本で見た建物に近くないですか?」
「これを魔王が作ったと?」
「そう考えると自然な気がするんですよ。それにアレ」
アレと言ったのは、安土を守る防衛隊だった。
案内の時に防衛隊と言われたのだが、俺達には世紀末雑魚軍団にしか見えなかった。
「アレなぁ。魔王の趣味っぽいよなぁ」
「あんな装飾、戦うのに付ける必要無いし。絶対にノリでやってますって」
「魔王と会えるのかな?会えば分かる気もするけど」
「どうなんだろ。僕達はまだ、完全に信用されたわけじゃないと思うし。そのうち会う機会があるかもしれないですね」
長可さんが投降者の相手をするようだ。
能力や名前等の記載には目を通したが、これがまた戦闘にはあんまり役に立たない。
セリカに聞いた話だと、戦闘にあまり使えない能力者は、そこまで優遇されないんだった。
おそらくはそういうのもあって、投降希望したものと思われた。
「蘭丸とハクトが、長可さんの護衛?」
「他にも、シーファクとセリカ殿が対応します。シーファクは帝国の人間として。セリカ殿は元召喚者として、彼等の間に入ってもらう事になっております」
ズンタッタの説明では、そういう事らしい。
あんまり強そうじゃないにしても、長可さんにシーファクとセリカ。
女性ばかりではと、蘭丸がハクトを誘って護衛を買って出たようだ。
本当はセリカが心配なだけな気もするが。
それを言ってイチャつかれてもムカつくから、敢えて言わない。
城門を通ってからすぐの一室。
そこに投降者達は居るらしい。
この反省会の最中は待たせているので、まだ誰も会っていない。
「じゃあ、僕も行こうかな?」
「やめて下さい」
即答されてしまった。
別に弱そうだし、何かあっても問題無い気がするんだけど。
「魔王様が下の階に降りて行って、此方から出向くなど。もう少し自分の事を自覚して下さいませんか?」
「そうですな。せめて玉座の前に呼び出すなら未だしも、自らが会いに行くのは、王としての行動には相応しくないと思われます」
長可さんの言葉に、ドランも賛成する。
うーん。
王様って面倒くさい。
「じゃあ、モニターで見てるのは良い?」
「それくらいは構いませんよ」
反省会もこれで解散しても良さげだし、面白そうだからそっちを観察してみよう。
「じゃあ、明日以降の事はゴリアテと半兵衛が決めて。ドランやイッシー、それとベティも二人と一緒にゴリアテ達の軍議に参加。又左と慶次、佐藤さんは負けないように、身体休めちゃってほしいかな」
皆が頷き、各自行動を開始した。
僕は一人この部屋に残り、大きなモニターで投降者が居る一室を覗くとしよう。
と思ったら、太田も残ると言ったので、二人で食事をしながら見る事にした。
「長くない?」
鈴木がシーンとした部屋で口を開く。
外の音は少し聞こえる。
色々な魔族が忙しそうに動いているからだ。
今は帝国と戦っている最中だし、忙しいのも分かる。
だけど、もう一時間くらいは待たされている気がする。
「お待たせしました。長可様が到着しました」
扉が開くと、案内してくれた女性が担当者が来たと告げた。
続けて入ってきたのは、エルフの凄い綺麗な女の人だった。
「森長可と申します。よろしくお願いします」
「好きです。付き合ってください」
鈴木がいきなり告白をしていた。
そして石井から殴られる。
二人がズルイだ何だと言っている間に、他にも数人入ってきた。
すると一人のイケメンエルフが、驚愕の事実を口にする。
「彼氏さんですか?」
「俺の母親なんだけど。お前等みたいなのが父親になる事は、天地がひっくり返ってもあり得ないな」
蔑みとも思えるその目に、二人は萎縮する。
息子と知って顔を見比べたが、どっちもただの美形だとしか思えなかった。
確かに綺麗だけど、いきなり告白は無いだろ。
「蘭丸も下がりなさい。それじゃ、投降した理由等、詳しく聞かせてもらっても良いですか?」
「ヒィーヒィー!アイツ、馬鹿だ!」
いきなり告白する奴、初めて見た。
蘭丸が前へ出た時の二人のビビリ具合と良い、なかなか良いものを見せてもらった。
「魔王様も笑い過ぎですよ。あの人も本気だったかもしれないのに」
「本気なら、蘭丸にビビってちゃ駄目だろ」
太田の真面目な発言も流しつつ、投降者の話を聞いてみた。
やはりセリカの言っていた通りの答えが返ってくる。
能力が大した事無い四人は、あの投降しろって言葉にすぐ飛びついたらしい。
それと、兄がツムジの上から投げた攻撃。
アレが決定打だったようだ。
一方的に攻撃出来る者が、わざわざ投降しろと言うのは、罠ではないと判断したとの事。
「あの攻撃に、そのような意味が!」
太田は投降者の話を聞いて、実に奥深いと言ってメモを取っている。
「元々、日本で何をしていた連中なのか。それが知りたいな」
「何故です?」
「職によっては、コバの役に立つかもしれないし。違っても、戦闘に関係無い得意分野ってのがあるかもしれないだろ?」
「なるほど」
別に何も出来ないなら、それはそれで畑仕事とかあるんだけど。
それはそれで重要な仕事だし。
「まあ、それも彼等の希望した仕事があれば別だけどね」
やりたい事をやった方が、働き甲斐もある。
帝国で微妙な仕事しかしてないなら、尚更だ。
「あら?魔王様、何か揉めてませんか?」
「あ、本当だ。さっきの告白馬鹿と違う奴が揉めてるな」
丁度今さっき言った事で揉めてるらしい。
出来る事とやりたい事。
どっちをやるかって話だ。
日本でも変わらんけど。
野球選手になりたい!
って言ったところで、上手くなければなれないし。
頑張って、スコアラーとかだろう。
そんな現実的な話を、異世界に来てまで持ち込むのか。
二人が揉めているのは、そんな話だ。
「長可さんも、少し迷っていますね。どうしましょう?」
うーん。
出しゃばると長可さんにも悪いし。
シーファクとセリカも、少し困惑気味だ。
【でも、長可さんや二人に危害が及ぶかもしれないぞ?】
それは駄目だよ。
それなら、長可さんから怒られた方が良いや。
「おい、お前等。玉座の間で待ってるから、四人とも来なさい」