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安土防衛戦、初日終了

 投降組の六人が、早速行動に出た。

 他の四人は女性達から認められて、安全な場所へ移動していた。

 襲いかかった六人は、女性達の異変に気付いた。

 全員が獣人へと変わっていたのだ。


 顔にナイフを突き刺され、また首を鋭利な爪で引き裂かれる。

 明らかに敵わないと判断した者達は、自分達も投降を希望すると言い出した。

 しかし彼女達は受け入れない。

 歯向かった者には死を。

 魔王はそんな事言ってなかったが、希望した四人は魔王の恐ろしさを体験する事となった。


 一方、中央通路では、とうとう迷路踏破した者達が現れた。

 しかし予想外にたった八人しか居らず、とても落胆した。

 最後の部屋の罠も確かめるべく、残りの踏破者を待つ事にした。


 あまりに暇なので、この八人との会話を試みた。

 質問という形を取って。

 彼等は魔王の中身が日本人だと知ると、何故協力しないと罵ってきた。

 それに対し、僕は自論を述べた。

 自分の生活の為と言いながら、他人の命を奪っている事を。





 言い終わったその時、また誰かが扉の前で落ちた声が聞こえた。

 意識を外に逸らして違う罠を作動させる。

 今までの罠を考えれば、分かると思うんだけど。

 学習しない連中だな。


「お仲間さん、到着したよ」


 今度は恐る恐る扉が開くと、七人の男女が入って来る。

 目の前に別のグループが居るのを確認して安堵したのか、走って合流した。


「後半グループは三十人中七人か。随分と優秀だね」


 その声に驚いた後半組だったが、誰か聞かされて更に驚いていた。


「何でそんなに生き残れたの?」


「わ、私達は罠が・・・」


「言うな!敵に自分の能力を話してどうする」


 少しは考えている奴が居るみたいだ。

 この中に、罠か何かを見破れる能力者でも居るんだろう。

 遮る前の言葉から、なんとなくそんな気がした。


「俺達は、死体の数を見て判断した。倒れている者達が多い場所には、何か罠があると考えて普通だろ?それを見て慎重に進んで来ただけだ」


「なるほど。貴重なご意見をありがとう。明日から、死体を片付ける係も導入しようと思います」


 お礼を言われた男は、少し驚いていた。

 まあ敵の首領から、こんな事言われると思ってなかったんだろうね。


「お前、この人数相手に明日まで生き残れると思ってるのかよ。それは考えが甘いんじゃないか?」


 ニヤけ面の男が、強気な発言をしてくる。

 でも、コイツも自分の都合の良い考えしかしていないらしい。


「生き残れるよ。だってモニター見た感じ、お前等弱いもん」


「Bクラスで固められた俺達が弱いだと!?魔族如きが俺達に敵わないクセに!」


「それって、少数を多数で嬲るからでしょ?同数なら勝てるの?」


「勝てる!安全を考慮して複数で対応してるだけで、実力でも負けてなんかいない!」


 おぉ、強気な発言だな。

 実際にタイマンしたわけでも無さそうなのに、何処からその自信が出てくるのやら。

 だから、ちょっとだけ兄さんにやってもらおう。


【アイツだけ、一撃で沈めれば良いんだろ?】


 流石は兄さんだ。

 何も言ってないのに助かるよ。





「じゃあお前、俺と一人で戦えるんだな?」


「魔王と!?願ってもない話だ」


 後ろで何か合図を出しているな?

 多分、俺が下に降りたら一斉に襲う算段でも立ててるんだろう。


(そんなの付き合わなくて良いよ)


 分かってる。

 だから、今終わらせる。


「じゃ、サヨナラだ」


 俺は会話中にさりげなく作っておいた鉄球を、座ったまま奴の頭目掛けて投げつけた。


「う、うわあぁぁ!!」


 急に頭が破裂した男の周りで、悲鳴が上がる。

 腰を抜かした女も居た。


「結局一撃で死んでるな」


「いきなり攻撃するなんて卑怯だぞ!」


「卑怯?いきなり攻撃する事が?じゃあお前等、魔族の町や村を襲う時に襲いますよ〜って言ってたのか?」


「それは・・・」


「あのさ〜、お前等ホント馬鹿。自分の都合良い事しか、考えられないように出来てるの?敵地に攻めてきて、敵の言葉を素直に受け入れて、それで騙されたら卑怯呼ばわり。何をどう考えたら、そんな甘い考えでいられるのかな?教えてくれよ」


 威勢の良かった男も、その言葉に黙り込む。

 兄のクセに、結構マトモな事を言っていた。


「お得意の沈黙ですか。結局お前等は、自分に都合の良い事しか考えてないんだよ。戦争を仕掛けてきたのはそっち。俺達は自衛をしているだけ。分かる?分かんねーよな。じゃあそろそろ終わりだな」





 兄の言葉に戦意が落ちたのか、動こうともしない。

 魔王が目の前に居るというのに、本当に馬鹿な連中だ。

 だからと言って、別に情けなんかかける気も無い。


 僕は右手をサッと上げた。

 部屋を覆う壁の外側から、魔法使いが多数現れる。

 彼等は水と風系統の魔法が使える。

 前以て詠唱していた水魔法を使い、部屋の中を胸の高さ辺りまで水を張った。


「何の真似だ!魔王が相手をするんじゃなかったのか!?」


「するよ。でも一人で相手するとは、一言も言ってないよね?」


「この卑怯者!一人で私達を相手に出来ないから、伏兵を準備してたんでしょ!」


「・・・自己評価が随分と高いね。今までの行動を見てる限り、お前等に負ける要素なんか無いから。それじゃ、生き残ったら相手をしてあげる」


 相手をするのは僕じゃないけどね。

 心の中でそう思いながら、再び右手を上げる。

 部屋の四方から、風魔法の系統である電気系の魔法が唱えられる。

 強い魔力を持つ者から、両手からバチバチと放電しているのを見て、ようやく何をしようとしているか分かったようだ。


「お前!そんなやり方で!やめろ!やめて下さい!」


「そう言って、魔族を襲うのをやめた人は居るのかな?やれ!」


 一斉にプールのようになった部屋へと、魔法を放った。

 阿鼻叫喚というのはこういう事を言うのかな?

 水から上がろうと必死に泳いだ奴も居たけど、結局は感電している。

 全ての魔法が放たれて数分。

 誰も動く者は居なかった。

 大半が水から出ようと前のめりになっていたから、顔が水に浸かっている。

 息はあっても呼吸出来ないかもね。


「生きてる人、居ますか〜?居るわけないか。ゴリアテ、見てる?」


「ハイ」


「後続は来てるかな?」


「いえ、もう突入はして来ないと思われます」


 今日はもう終わりだな。

 様子見の部隊だったのかもしれないけど、それにしても警戒感が無い。

 外国に行った日本人が、スリに遭うレベルじゃないんだけどな。

 とりあえず今日はお終い。


「皆、帰ろう。お腹減ったね」





「戻ってきた部隊は?」


 今回の指揮を任されているAクラスの三人は、誰かが戻って来ていると信じていた。

 初日にして魔王が作った迷路のような物に、召喚者の四分の一を投入。

 その結果、得られた情報が無く、全滅という損害だけが残ってしまった。


「確か、左は部下で中央が魔王。右が投降希望だったか?まさか部下にすら勝てないとは。いや、部下を倒して進んで、魔王に倒された?そうすると、左と中央は繋がっている?」


 小太りの男は独り言を呟きながら、自分の考えを整理していく。

 そこに入る横槍。


「その自分勝手な考え、やめたら?左通路すら帰ってこないという事は、全滅したんだよ。右もおそらくは全滅だろうね。都合の良い考えじゃなくて、最悪を想定してやるべきだよ」


 女がブツブツとうるさい男に言った。

 離れた所に座っていた若い男も、ウンウンと頷いている。


「認めましょうって。今回、僕達の作戦は失敗したんだって。だから、明日以降は攻め方を変えましょう」


「攻め方を変えるって。アンタ、考えがあるのかい?」


「考えという程のものじゃないです。ただ、向こうのやり方に、付き合わなくても良いんじゃないかなって思って」


 若い男が言った、向こうのやり方。

 小太りの男も、それを聞いて立ち上がる。


「正面突破は少数にして、裏手から一斉に攻撃を仕掛けよう。裏手にいきなり移動すると、すぐにバレる可能性がある。だから数日に分けて移動し、その間は少数を正面の三通路に行ってもらう。戻る事前提にして、被害が出たら即後退させれば良い」


「だったら僕が此処に残ります。二人は安土の裏手に回ってもらって、指揮を取って下さい。少数なら僕でも出来るから」


「アタシもそれに賛成。此処でグダグダやってるより、何か行動を起こした方が良いだろうね」


 小太りの男の発言に、二人も乗った。

 安土の裏側は森が広がっている。

 向こう側に出入りするような場所は無いが、爆薬で吹き飛ばすなりすれば、簡単に入れるはず。

 三人は明日からの作戦を綿密に相談し、夜は更けていった。





 僕は中央で活躍した魔法使い達を労いながら、安土へと戻った。

 その途中、左通路の太田や又左達とも合流し、軽く戦果を聞いた。


 城に戻った僕は、長可さんとゴリアテ、半兵衛に出迎えられた。

 玉座に座ると、今日の報告をゴリアテから受ける。


「まず中央ですが、それは魔王様がご存知の通りです。少々彼等には荷が重い罠の数々だったと思われます」


「あんなに引っ掛かると思わなかったんだよ。明日からちょっと考え直すから」


「そして左通路。本日、一番活躍したのは、慶次殿になります」


「えっ!?」


 僕と又左が同時に声を出す。

 二人揃って慶次を見たが、彼も自分だとは思わなかったらしい。

 少し驚いていた。


「慶次殿に関しては私が説明を。まず慶次殿は、部屋に入って来たと同時に仕掛けていました。そこで避けられないような敵は、瞬殺です。避けられた相手は、少々本気を出して倒していたと思われます。瞬殺した相手が多かった為、回転が早く、すぐに部屋へ迎え入れていたのです」


 なるほどね。

 面倒くさがりの慶次だからこそ、さっさと倒すって作戦だったか。

 他の部屋を守っていた皆も、納得していた。


「それと私の判断ですが、左通路は部屋の数を減らしてもよろしいと思われます。まずロック殿ですが、少々実力不足でして・・・。危うく負けそうになりました」


「負けそうになった?負けはしなかったの?」


「それが、途中で部屋主を交代しまして・・・」


 そこで立ち上がる、この男。

 もといオカマ。


「アタシよおぉん!張り切って倒してやったわ。久しぶりにアソコを滾らせて」


「アソコって何処だよ!」


「それは勿論、アタシの翼よぉ」


「あ、翼ね。なるほど」


 危ない危ない。

 危うくベティにハメられるところだった。


「翼ねぇ」


 コバはベティの言う事に、何か疑問があるようだ。

 特に突っ込みもしないので、流しておいても大丈夫だろう。



「それと太田殿も、血を流し過ぎると危険だと聞きました。彼は思いきり流血していたので、ちょっと考え直した方が良いと思われます。真イッシー殿も、自ら辞退を申し出てきました」


「じゃあ、太田とロックの部屋は封鎖かな。それと、真イッシーって何?」


「いや、本人から改名したからと言われたので」


 ちょっと前にアクト2だか何とか言ってたのに、今じゃ真かよ!

 本人は・・・ん?

 んん!?


「あの人がイッシー?」


「そうだけど」


「フサフサじゃないか!」


 久しく見ない間に、髪が増えていた。

 今は真ん中から分けたロン毛スタイルだ。

 何がどうしてこうなった。


「ありがとう。俺は今、安土増毛協会の会長をしているから、髪に困ったら言ってくれ。それと俺、今日はそこまで苦戦しなかったけど、やっぱりタイマンはキツイと思った。協会員を率いて戦うなら勝てる自信はあるが、俺には個としての強さは無いと思われる」


 安土増毛協会?

 会員を率いる?

 色々と聞きたい事があるが、敢えてそこは聞かないようにしよう。


「真イッシー殿の話は、的を得てまして。彼は一軍を率いて戦う方が強いと思われます。それに明日以降の事を考えると、彼の辞退は助かります」


「明日以降は助かる?どういう事?」





「おそらく数日後、裏手もしくは横から。奇襲を受けます」

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