魔王トークタイム
オカマは浮かれていた。
よく分からないが、ロックの話を聞いて面白いと思ったからだ。
この世界のオカマキャラのパイオニア。
需要があるのか分からないが、それは彼等にとってとても意味がある事なのだろう。
その頃、別の部屋ではまだ戦っている者も居た。
その一人が太田だった。
彼は傷を負う事を恐れず、愚直に圧を掛け続け、隅へ追いやると一撃でトドメを刺していた。
倒せば回復してもらえるのが分かっているゴリアテは、太田は問題無いと太鼓判を押した。
そして中央通路。
僕はモニターで確認をしながら、目の前のボタンをタイミング良く押していた。
罠を避けて安心したところを、また違う角度から罠が襲い掛かる。
ナメた事をしている相手には、トコトン馬鹿にしながら罠に嵌めた。
最後に残る右通路は、本当に少人数しか来る者は居なかった。
十人からなるその一団は、右通路の偵察が任務だった。
しかし任務に託けて、本当に投降をしようとする者達も居た。
偵察が任務の彼等は、通路で案内をしていた女性達を捕虜にすると言う。
彼女達が何者かも知らずに。
今までの顔とは一変。
冷たい表情に加え、セリフまでその表情に合うものとなってしまった。
彼女達は後ろの六人に狙いを定めて、前に座っていた俺達四人には、笑顔で応対している。
逆にそのギャップが怖い。
「貴方達は本当に、投降を希望しているようですね。後ろのクズはすぐに片付けますので。少々お待ち下さい」
すぐに片付ける呼ばわりされた後ろの連中は、怒りに震えている。
その怒りの矛先は、予想通り俺達にやって来た。
「お前等、本当に裏切っていたのか!この底辺共が!女達を始末したら、貴様等も裏切りの代償を払ってもらうからな!」
「アンタ等さあ、現実見えてる?本当に、あの魔王に勝てると思ってるの?俺は、あの炎の惨劇を真横で見てたから分かるけど。上空から一方的にやられたら、うちら全滅よ?それをしなかった魔王は、本当に投降希望者を募ってるんだよ。俺は強さで言えば底辺だけど、この帝国の遠征部隊は泥舟だね。悪いけど、そんなのに乗って沈む気はないから」
俺は魔族側に付くのが露呈した事で、本音を全てブチ撒けた。
六人の中で誰か動揺して、心変わりする奴が出ないか期待したのだ。
結果は失敗。
まあ俺達と違って、戦闘もそこそこ出来るBクラスの連中だ。
無理にこの安土という場所に縋る必要も無い。
「貴様等底辺の考えは分かった。後でどうなるか、震えて待っていろ!」
嫌です。
だったら彼女達の手伝いをします。
何て事をわざわざ言うつもりも無く、俺達は素直に彼女達の後ろへと下がった。
「さて、随分と威勢の良い事を言ってくれたが。お前達だけで何が出来るんだ?」
彼女達は素手、もしくは腰に少し長めのナイフを持っているくらいだ。
服装も鎧なんか着ていない。
ほとんどがシャツにズボンやショートパンツ姿の、所謂普段着に近い格好だった。
「殺る前にヤる事やってからにしようぜ」
下衆な考えを普通に口に出す男達。
しかしその考えは、六人共通らしい。
誰も非難どころか否定もしない。
そして一人の男が、とうとう一番近い女に襲い掛かった。
「お前が俺の相手だ!」
持っていた剣で斬るのではなく、無理矢理に抱きつきに行った。
まあ確かに、この女性達では振り解けないと思った。
普通の女性なら。
・・・普通の女性?
魔族の都市に?
今更になって気付いたのだ。
彼女達の見た目が、普通のヒト族と変わらない事に。
「大人しく俺に抱かれて、死んでいけ」
「死んでもお断りだ」
抱きつかれた女性だったが、売り言葉に買い言葉で返している。
そして、その異変は起きた。
「な、なんだと!?」
彼女はその抱きつかれた腕を、力で解いたのだ。
彼女は気付くと、腕や一部肌が見える場所が毛で覆われていた。
この姿は知っている。
獣人だ。
「お前、獣人か!?」
「正確にはハーフだけど」
そう言うと、腰のナイフを顔面へと突き刺した。
その力は男達を振り解く程だ。
深く突き刺され、彼は痙攣しながら倒れた。
ナイフを抜くと、顔から血が噴き出す。
その返り血を浴びた彼女は、笑いながら言った。
「アンタ達、血祭りって知ってる?こういう事を言うんだよ」
いや、こういう事ではないと思うんだけど。
後ろで見ていた俺達は、多分同じ考えだったと思う。
横を見ると、胸や尻をガン見して嫌がられていた鈴木達。
その顔は引きつって青くなっていた。
「速い!」
女性達の本性を知った他の五人は、すぐさま武器を構えた。
さっきまでの下卑た顔は無い。
生き残るのに必死な形相だ。
「こ、コイツ等、普通の獣人より強くないか!?」
「連携も取れて、対応しづらい!うっ!うわあぁぁ!!腕が、腕があぁぁ!!」
話している間に、ナイフで腕を斬り落とされた。
足元に落ちた左腕を見て、泣き叫んでいる。
俺達には全員、ミスリルの装備が用意されていた。
しかし、その装備はマチマチだ。
得意な武器やクラスによって、装備の良し悪しが変わる。
俺達Cクラスの連中には、大した物は与えらない。
Bクラスも強さによって変わるし、全身を覆うような物じゃない。
彼は動きやすさ重視の装備だったからか、胸等の急所以外は守っていなかった。
その結果が左腕の喪失だ。
「許さん!絶対に許さない!お前達、楽には死!」
そんな事を言っている間に、首を切り裂かれた男。
振り返ると、彼女の爪には血が滴っている。
首を抑えるが、既に遅い。
勢いよく血が噴き出して、死ぬのも時間の問題だろう。
「ウフフ。さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」
「弱い。弱いわ。これが召喚者って奴等なの?」
「数で負けなければ、そこまで脅威は感じない。これ、左通路はもっと悲惨な結果なんじゃない?」
彼女達は余裕がある。
対して目の前の男達は、自分達の死を覚悟し始めた。
死にたくない。
だからこその命乞い。
「わ、悪かった!俺達も投降する!」
「この装備も全て渡します!だから命だけは助けて下さいぃぃ!!」
必死に頭を下げる姿を見て、彼女達の口調は少し変わった。
しかし変わったのは口調だけだった。
「そうですね。始めからそうしていれば良かったのに」
「じゃ、じゃあ助けて・・・」
「でもダーメ。もう貴方達の命は無いの。投降者は丁重に。そして歯向かう者には残虐に。それが魔王様からの指示だから」
魔王こえぇ!
あんなナリして、そんな冷酷なのか。
最初から投降希望して良かったぁ。
心底そう思った俺達は、彼等が死んでいく様を後ろから見ているだけだった。
「少し時間が掛かりましたが、予定通り。このように投降すると見せかけて襲ってくる輩が出てくるなど、見越してないわけないでしょう。だからこそ、私達が此処に派遣されているというのに。召喚者の指揮官は無能ですね」
ニコッと返り血を浴びた顔で話してくる。
あ、はい。
俺達はそう言うしかなかった。
「右通路、凄惨さだけは一番ですね」
「彼女達は一体?」
二人とも、この女性達が何者かは知らなかった。
むしろ、安土に住んでるヒト族だと思っていたくらいだ。
「えーと、又左殿の近衛部隊になるそうです。あ、全員がハーフ獣人みたいですね」
「皆、綺麗なのに・・・。怖い」
男達の力を振り解く程の筋肉を持ち、そして素早く動けるしなやかな筋肉もある。
オーガにとっては優良案件なはずなのに、彼は引いてしまった。
「あ!中央通路でとうとう突破者が出ました!」
「魔王様と御対面するわけか。さて、どうなる事やら」
来ない。
誰も来ない。
罠を作り過ぎたかもしれない。
今更ながら暇になってしまった僕は、後半の罠をわざと見過ごしたりした。
【余裕ぶっこいて負けたら、お前タダのアホだからな。それだけは気を付けろよ】
分かってるよ。
だって此処が一番、罠として大規模なんだから。
誰か来てくれないと、周りに居る連中も待ち損だよ。
この大きな部屋の周りには、十人の魔法使いが待機している。
全員が、水と風系統の魔法が使える者達だ。
暇だ暇だと思っていると、ようやくお客さんがやって来たようだ。
遠くから走ってくる音が聞こえる。
こっちに向かって来ているから、変な罠に引っかかって死ななければ、確実に来るだろう。
あ!この部屋の目の前に、落とし穴作ってたわぁ。
少し目線より上の方に部屋の案内板作ってて、視線を上にやった途端に作動する落とし穴。
まあ、ここまで来る連中だ。
引っ掛からない事を期待して待っていよう。
「うわあぁぁ!!」
あ、これ引っ掛かったわ。
絶対一人落ちた。
また一人脱落か。
何人入ってくるかな?
バァン!
勢いよく開いた扉。
目の前には高い壁で覆われた何も無い部屋があった。
何も無い部屋で唯一目立ったものがある。
「魔王!?」
「はい正解。ようこそ僕が待つ部屋へ。遅いから、暇で暇で仕方なかったよ」
僕は金ピカに彩られた豪華な椅子から立ち上がり、彼等を確認した。
男五人に女三人。
八人しか居ない。
す、少ない。
「これだけ?まだ後ろから来る気配ある?」
「これだけって、お前がこの迷路作ったんだろうが!」
楽しく作らせていただきました。
そして早く質問に答えやがれ。
「もう一回聞くけど、まだ誰か来る?ちゃんと答えてくれたら、少し休憩させてあげるけど」
その言葉に彼等は話し合い、ちゃんと教えてくれる事になった。
「大半が死んだ。私達の後ろには残り六組しか居ないはずだから、全員来ても三十人ね」
って事は、四十人に満たないか。
ここの罠、要らない気もする。
まあ最初だから、効果を確認するのに試してみるけど。
「じゃあ、あと一時間くらい待ってみようか。全員揃うまで休憩してて良いよ」
ヤバイ。
やらかした。
休憩を許可したものの、僕の居場所が無い。
部屋から出ていこうとしたら、逃げてるみたいだし。
彼等が座って話しながら、こっちをチラチラと警戒しているのが分かる。
気まずい。
何か時間を潰す手立てはないものか。
そう考えていると、勝手に口が動いた。
「魔王トークターイム」
いきなり喋った僕に、下の連中はビクッとしている。
そして全員の視線がこっちに向いた。
「はい、というわけでですね。待ってる間に暇なので、初めて突破した貴方達の質問に、答えてあげようと思いまーす。何か聞きたい事ある?」
兄さんが勝手に話している。
余程居心地悪かったんだな。
【あの中を一時間居るのは堪えられない!だから、会話して時間潰すしかないだろ!?何か情報得られるかもしれないし】
まあ、やってしまったものは仕方ない。
何か聞いてみよう。
「何でもいいよ?じゃあ、そこの三つ編みのキミ。何か聞きたい事ある?」
いきなり指名されて、驚きを隠せない。
「わ、私!?え?えっと、年齢は?」
「うーん。身体の方は分からないかな。中身はもうアラサーだけどね」
「あ、アラサー?もしかして日本人?」
「中身は日本人だ」
アラサーという言葉から、僕達が日本人だという事を知って全員が驚いていた。
そして態度が急に変わった。
得体の知れない奴から身近な奴になって、急に馴れ馴れしくなったのだ。
「何故同じ日本人なのに、帝国と敵対するんだ!だったら召喚者達と協力するべきじゃないのか?」
「じゃあ聞くけど、この見た目でアンタ等すぐに受け入れられた?帝国が魔族をどういう扱いしてるか知ってて、それ言ってるんだよね?」
「そ、それは・・・」
急に口籠る男。
勢いだけで言っているのが分かる。
「同じ日本人として、ちゃんと庇ってくれるんだよね?帝国と、王子と反目して守ってくれるって事だよね?」
そう言うと、誰も喋らなくなった。
結局は、自分の都合しか考えていない。
「聞くけどさ、アンタ等どうして此処に来たの?命令されたから?それとも生活がかかってるから?魔族を殺したいから?」
「生活がかかってるからに決まってるだろ!」
「その生活の為には、魔族を捕まえたり殺したりしてもいいと?」
「・・・仕方ないじゃないか」
「仕方なくないね。生きていくだけなら、契約が終わった時点で帝国から出ても問題無かったはすだ。それをしなかったのは、帝国の傘下に居れば良い生活が出来るからに他ならない。帝国というレールに乗っかっていれば、下手に死ぬ事は無いからね」
誰もが無言で聞いている。
だから僕は自分の考えを話した。
「帝国という巨大な会社に守られて、上からの命令を聞いて給料を貰う。それは日本なら間違っていない。だけど此処は異世界で、その命令が命のやり取りだ。僕はアンタ等に何度も言った。自分の行動は自分で考えろって」
足音が少し聞こえてきた。
遅れて来た連中もそろそろ到着する。
これが最後だろう。
「自分が搾取する側だと思ったら大間違いだ。搾取される側の立場になって、考えてみると良いよ」