表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/1299

魔王トークタイム

 オカマは浮かれていた。

 よく分からないが、ロックの話を聞いて面白いと思ったからだ。

 この世界のオカマキャラのパイオニア。

 需要があるのか分からないが、それは彼等にとってとても意味がある事なのだろう。


 その頃、別の部屋ではまだ戦っている者も居た。

 その一人が太田だった。

 彼は傷を負う事を恐れず、愚直に圧を掛け続け、隅へ追いやると一撃でトドメを刺していた。

 倒せば回復してもらえるのが分かっているゴリアテは、太田は問題無いと太鼓判を押した。


 そして中央通路。

 僕はモニターで確認をしながら、目の前のボタンをタイミング良く押していた。

 罠を避けて安心したところを、また違う角度から罠が襲い掛かる。

 ナメた事をしている相手には、トコトン馬鹿にしながら罠に嵌めた。


 最後に残る右通路は、本当に少人数しか来る者は居なかった。

 十人からなるその一団は、右通路の偵察が任務だった。

 しかし任務に託けて、本当に投降をしようとする者達も居た。

 偵察が任務の彼等は、通路で案内をしていた女性達を捕虜にすると言う。

 彼女達が何者かも知らずに。





 今までの顔とは一変。

 冷たい表情に加え、セリフまでその表情に合うものとなってしまった。

 彼女達は後ろの六人に狙いを定めて、前に座っていた俺達四人には、笑顔で応対している。

 逆にそのギャップが怖い。


「貴方達は本当に、投降を希望しているようですね。後ろのクズはすぐに片付けますので。少々お待ち下さい」


 すぐに片付ける呼ばわりされた後ろの連中は、怒りに震えている。

 その怒りの矛先は、予想通り俺達にやって来た。


「お前等、本当に裏切っていたのか!この底辺共が!女達を始末したら、貴様等も裏切りの代償を払ってもらうからな!」


「アンタ等さあ、現実見えてる?本当に、あの魔王に勝てると思ってるの?俺は、あの炎の惨劇を真横で見てたから分かるけど。上空から一方的にやられたら、うちら全滅よ?それをしなかった魔王は、本当に投降希望者を募ってるんだよ。俺は強さで言えば底辺だけど、この帝国の遠征部隊は泥舟だね。悪いけど、そんなのに乗って沈む気はないから」


 俺は魔族側に付くのが露呈した事で、本音を全てブチ撒けた。

 六人の中で誰か動揺して、心変わりする奴が出ないか期待したのだ。


 結果は失敗。

 まあ俺達と違って、戦闘もそこそこ出来るBクラスの連中だ。

 無理にこの安土という場所に縋る必要も無い。


「貴様等底辺の考えは分かった。後でどうなるか、震えて待っていろ!」


 嫌です。

 だったら彼女達の手伝いをします。

 何て事をわざわざ言うつもりも無く、俺達は素直に彼女達の後ろへと下がった。





「さて、随分と威勢の良い事を言ってくれたが。お前達だけで何が出来るんだ?」


 彼女達は素手、もしくは腰に少し長めのナイフを持っているくらいだ。

 服装も鎧なんか着ていない。

 ほとんどがシャツにズボンやショートパンツ姿の、所謂普段着に近い格好だった。


「殺る前にヤる事やってからにしようぜ」


 下衆な考えを普通に口に出す男達。

 しかしその考えは、六人共通らしい。

 誰も非難どころか否定もしない。

 そして一人の男が、とうとう一番近い女に襲い掛かった。


「お前が俺の相手だ!」


 持っていた剣で斬るのではなく、無理矢理に抱きつきに行った。

 まあ確かに、この女性達では振り解けないと思った。

 普通の女性なら。


 ・・・普通の女性?

 魔族の都市に?

 今更になって気付いたのだ。

 彼女達の見た目が、普通のヒト族と変わらない事に。





「大人しく俺に抱かれて、死んでいけ」


「死んでもお断りだ」


 抱きつかれた女性だったが、売り言葉に買い言葉で返している。

 そして、その異変は起きた。



「な、なんだと!?」


 彼女はその抱きつかれた腕を、力で解いたのだ。

 彼女は気付くと、腕や一部肌が見える場所が毛で覆われていた。

 この姿は知っている。

 獣人だ。


「お前、獣人か!?」


「正確にはハーフだけど」


 そう言うと、腰のナイフを顔面へと突き刺した。

 その力は男達を振り解く程だ。

 深く突き刺され、彼は痙攣しながら倒れた。

 ナイフを抜くと、顔から血が噴き出す。

 その返り血を浴びた彼女は、笑いながら言った。


「アンタ達、血祭りって知ってる?こういう事を言うんだよ」


 いや、こういう事ではないと思うんだけど。

 後ろで見ていた俺達は、多分同じ考えだったと思う。

 横を見ると、胸や尻をガン見して嫌がられていた鈴木達。

 その顔は引きつって青くなっていた。





「速い!」


 女性達の本性を知った他の五人は、すぐさま武器を構えた。

 さっきまでの下卑た顔は無い。

 生き残るのに必死な形相だ。


「こ、コイツ等、普通の獣人より強くないか!?」


「連携も取れて、対応しづらい!うっ!うわあぁぁ!!腕が、腕があぁぁ!!」


 話している間に、ナイフで腕を斬り落とされた。

 足元に落ちた左腕を見て、泣き叫んでいる。


 俺達には全員、ミスリルの装備が用意されていた。

 しかし、その装備はマチマチだ。

 得意な武器やクラスによって、装備の良し悪しが変わる。

 俺達Cクラスの連中には、大した物は与えらない。

 Bクラスも強さによって変わるし、全身を覆うような物じゃない。

 彼は動きやすさ重視の装備だったからか、胸等の急所以外は守っていなかった。

 その結果が左腕の喪失だ。


「許さん!絶対に許さない!お前達、楽には死!」


 そんな事を言っている間に、首を切り裂かれた男。

 振り返ると、彼女の爪には血が滴っている。

 首を抑えるが、既に遅い。

 勢いよく血が噴き出して、死ぬのも時間の問題だろう。



「ウフフ。さっきまでの威勢はどうしたのかしら?」


「弱い。弱いわ。これが召喚者って奴等なの?」


「数で負けなければ、そこまで脅威は感じない。これ、左通路はもっと悲惨な結果なんじゃない?」


 彼女達は余裕がある。

 対して目の前の男達は、自分達の死を覚悟し始めた。

 死にたくない。

 だからこその命乞い。


「わ、悪かった!俺達も投降する!」


「この装備も全て渡します!だから命だけは助けて下さいぃぃ!!」


 必死に頭を下げる姿を見て、彼女達の口調は少し変わった。

 しかし変わったのは口調だけだった。


「そうですね。始めからそうしていれば良かったのに」


「じゃ、じゃあ助けて・・・」


「でもダーメ。もう貴方達の命は無いの。投降者は丁重に。そして歯向かう者には残虐に。それが魔王様からの指示だから」


 魔王こえぇ!

 あんなナリして、そんな冷酷なのか。

 最初から投降希望して良かったぁ。

 心底そう思った俺達は、彼等が死んでいく様を後ろから見ているだけだった。



「少し時間が掛かりましたが、予定通り。このように投降すると見せかけて襲ってくる輩が出てくるなど、見越してないわけないでしょう。だからこそ、私達が此処に派遣されているというのに。召喚者の指揮官は無能ですね」


 ニコッと返り血を浴びた顔で話してくる。

 あ、はい。

 俺達はそう言うしかなかった。





「右通路、凄惨さだけは一番ですね」


「彼女達は一体?」


 二人とも、この女性達が何者かは知らなかった。

 むしろ、安土に住んでるヒト族だと思っていたくらいだ。


「えーと、又左殿の近衛部隊になるそうです。あ、全員がハーフ獣人みたいですね」


「皆、綺麗なのに・・・。怖い」


 男達の力を振り解く程の筋肉を持ち、そして素早く動けるしなやかな筋肉もある。

 オーガにとっては優良案件なはずなのに、彼は引いてしまった。


「あ!中央通路でとうとう突破者が出ました!」


「魔王様と御対面するわけか。さて、どうなる事やら」





 来ない。

 誰も来ない。

 罠を作り過ぎたかもしれない。

 今更ながら暇になってしまった僕は、後半の罠をわざと見過ごしたりした。


【余裕ぶっこいて負けたら、お前タダのアホだからな。それだけは気を付けろよ】


 分かってるよ。

 だって此処が一番、罠として大規模なんだから。

 誰か来てくれないと、周りに居る連中も待ち損だよ。


 この大きな部屋の周りには、十人の魔法使いが待機している。

 全員が、水と風系統の魔法が使える者達だ。



 暇だ暇だと思っていると、ようやくお客さんがやって来たようだ。

 遠くから走ってくる音が聞こえる。

 こっちに向かって来ているから、変な罠に引っかかって死ななければ、確実に来るだろう。


 あ!この部屋の目の前に、落とし穴作ってたわぁ。

 少し目線より上の方に部屋の案内板作ってて、視線を上にやった途端に作動する落とし穴。

 まあ、ここまで来る連中だ。

 引っ掛からない事を期待して待っていよう。


「うわあぁぁ!!」


 あ、これ引っ掛かったわ。

 絶対一人落ちた。

 また一人脱落か。

 何人入ってくるかな?





 バァン!

 勢いよく開いた扉。

 目の前には高い壁で覆われた何も無い部屋があった。

 何も無い部屋で唯一目立ったものがある。


「魔王!?」


「はい正解。ようこそ僕が待つ部屋へ。遅いから、暇で暇で仕方なかったよ」


 僕は金ピカに彩られた豪華な椅子から立ち上がり、彼等を確認した。

 男五人に女三人。

 八人しか居ない。

 す、少ない。


「これだけ?まだ後ろから来る気配ある?」


「これだけって、お前がこの迷路作ったんだろうが!」


 楽しく作らせていただきました。

 そして早く質問に答えやがれ。


「もう一回聞くけど、まだ誰か来る?ちゃんと答えてくれたら、少し休憩させてあげるけど」


 その言葉に彼等は話し合い、ちゃんと教えてくれる事になった。


「大半が死んだ。私達の後ろには残り六組しか居ないはずだから、全員来ても三十人ね」


 って事は、四十人に満たないか。

 ここの罠、要らない気もする。

 まあ最初だから、効果を確認するのに試してみるけど。


「じゃあ、あと一時間くらい待ってみようか。全員揃うまで休憩してて良いよ」




 ヤバイ。

 やらかした。

 休憩を許可したものの、僕の居場所が無い。

 部屋から出ていこうとしたら、逃げてるみたいだし。

 彼等が座って話しながら、こっちをチラチラと警戒しているのが分かる。

 気まずい。


 何か時間を潰す手立てはないものか。

 そう考えていると、勝手に口が動いた。


「魔王トークターイム」


 いきなり喋った僕に、下の連中はビクッとしている。

 そして全員の視線がこっちに向いた。


「はい、というわけでですね。待ってる間に暇なので、初めて突破した貴方達の質問に、答えてあげようと思いまーす。何か聞きたい事ある?」


 兄さんが勝手に話している。

 余程居心地悪かったんだな。


【あの中を一時間居るのは堪えられない!だから、会話して時間潰すしかないだろ!?何か情報得られるかもしれないし】


 まあ、やってしまったものは仕方ない。

 何か聞いてみよう。


「何でもいいよ?じゃあ、そこの三つ編みのキミ。何か聞きたい事ある?」


 いきなり指名されて、驚きを隠せない。


「わ、私!?え?えっと、年齢は?」


「うーん。身体の方は分からないかな。中身はもうアラサーだけどね」


「あ、アラサー?もしかして日本人?」


「中身は日本人だ」


 アラサーという言葉から、僕達が日本人だという事を知って全員が驚いていた。



 そして態度が急に変わった。

 得体の知れない奴から身近な奴になって、急に馴れ馴れしくなったのだ。


「何故同じ日本人なのに、帝国と敵対するんだ!だったら召喚者達と協力するべきじゃないのか?」


「じゃあ聞くけど、この見た目でアンタ等すぐに受け入れられた?帝国が魔族をどういう扱いしてるか知ってて、それ言ってるんだよね?」


「そ、それは・・・」


 急に口籠る男。

 勢いだけで言っているのが分かる。


「同じ日本人として、ちゃんと庇ってくれるんだよね?帝国と、王子と反目して守ってくれるって事だよね?」


 そう言うと、誰も喋らなくなった。

 結局は、自分の都合しか考えていない。


「聞くけどさ、アンタ等どうして此処に来たの?命令されたから?それとも生活がかかってるから?魔族を殺したいから?」


「生活がかかってるからに決まってるだろ!」


「その生活の為には、魔族を捕まえたり殺したりしてもいいと?」


「・・・仕方ないじゃないか」


「仕方なくないね。生きていくだけなら、契約が終わった時点で帝国から出ても問題無かったはすだ。それをしなかったのは、帝国の傘下に居れば良い生活が出来るからに他ならない。帝国というレールに乗っかっていれば、下手に死ぬ事は無いからね」


 誰もが無言で聞いている。

 だから僕は自分の考えを話した。


「帝国という巨大な会社に守られて、上からの命令を聞いて給料を貰う。それは日本なら間違っていない。だけど此処は異世界で、その命令が命のやり取りだ。僕はアンタ等に何度も言った。自分の行動は自分で考えろって」


 足音が少し聞こえてきた。

 遅れて来た連中もそろそろ到着する。

 これが最後だろう。





「自分が搾取する側だと思ったら大間違いだ。搾取される側の立場になって、考えてみると良いよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ