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部屋主交代

 三人を仕留めた佐藤。

 自分の担当の部屋以外、どうなっているのか分からない。

 佐藤は部屋に入ってくる相手に、話し掛けては倒していくという行為を繰り返していた。


 一方、他の部屋で待機している慶次は、とにかく面倒に思っていた。

 だったらさっさと倒して、次の侵入者を待った方が早いと考えた。

 扉が開くなり即攻撃。

 佐藤と真逆で話す事も面倒。

 不意の一撃で大抵は死ぬのだが、とうとう避ける相手も現れた。

 強い相手は歓迎しようと考えていたので、楽しみにしていた。

 しかし彼女は、会話ばかりしてきて実際はそうでもなかった。

 腹に大穴を開けたのを確認して、偶然避けただけかと落胆し、すぐにトドメを刺した。


 そしてイッシー(仮)の部屋。

 彼はとにかく用心した。

 自分がそこまで強くない事を、自覚していたからだ。

 だからこそ相手の武器を確認し、それに合わせて使用する武器を変える。

 負けないように戦いながら、彼は気に入った相手には話し掛けていた。

 彼の中で気に入った相手は、大体同じ傾向だったが。


 大半の部屋は、そこまで苦戦していない。

 しかし一人だけ、様子がおかしい部屋があった。

 負けるかもしれない。

 ゴリアテ達にそんな考えが頭によぎった時、後ろから声を掛けられた。





 その声の主は、振り返らずとも二人とも気付いていた、


「あら〜、彼だけ苦戦しちゃってるじゃない!大丈夫なの?」


「あの、何故この場所へ?此処は一般人の立ち入りは禁止なのですが」


 ゴリアテは相手が他の領主という事もあり、多少なりとも気を使って話した。

 ベティ自身は全く気にしてないようだったが。


「そんな畏まらなくても良いのよ。アタシみたいなのに気を使っても疲れるでしょう?」


「それでは失礼して。もう一度聞くが、何故此処へ来たんですか?」


「なんとな〜く、かしら?」


 ベティのはぐらかすような言い方に、少し苛立ちを感じるゴリアテ。

 半兵衛もまだ彼の意図が読めていない。


「あんまり怖い顔しないでほしいわ。って、オーガは基本的にちょっと強面が多いか。もう仕方ないわね。良い男に免じて、話してあげる」


「そ、そうですか」


 良い男と呼ばれて嬉しいような気持ち悪いような、そんな複雑な気持ちが声に出た。

 しかし彼は気にしない。


「本当はね、聞こえたのよ。彼が苦戦する音が」


「聞こえた、ですか?」


 二人とも言葉の意味通り取って良いものなのか、図りかねている。

 顔を見る限り、嘘をついている様子は無い。

 だからゴリアテは信用する事にした。


「それで、聞こえて此処へ来たのには、何か理由があるはず。それは何ですか?」


「彼の事、助けてあげようと思ってね。アタシが代わりに行ってあげようかなって」


「は?佐々殿が代わりに?それはありがたい事ですが、私の権限で勝手に決めるのはちょっと・・・」


「じゃあ、アタシが勝手に行って助けた事にして頂戴。それならアナタもお咎め無しでしょ?」


「し、しかし!」


「よろしくお願い致します」


 決めかねるゴリアテを他所に、半兵衛は勝手に了承した。

 その言葉を聞くと、ベティはニッコリと笑い、手をヒラヒラと振りながら部屋を出て行く。


「一人しか入っちゃ駄目なんだっけ?アタシの勇姿、そこで見ていなさいな」


 扉が閉まったのを確認したゴリアテは、半兵衛に尋ねた。


「勝手に決めて良かったのか?」


「魔王様はゴリアテ殿に一任してますよ。これくらいの事で慌ててたら、もっと大事な時に決断出来ません。自信を持って!」


 うーん、慰められているのか勇気付けられているのか。

 年下の男に自信を持てとまでいわれるのは、オーガとして情けない。

 そう思ったゴリアテだった。





 場所を聞くのを忘れた。

 ベティは部屋を出てからそれに気付く。

 すぐに、また耳をすませば良いかと気を取り直した。


「さてと、まだ死ぬ程じゃないにしろ、結構辛そうね。早く行ってあげましょう」





 その部屋の中では、両手にブーメランのような物を持った男がロックを虐め抜いていた。

 近付けない。

 合気道を基本としたロックは、相手と接しないと何も出来ない。

 しかし相手は、不規則な動きをする武器を投げてきて、迂闊には近寄る事も出来なかった。


「あーもう!魔王様の命令でこんな所来たけど、俺っちはただのBクラスだっていうのに。相手が同じBクラスなら、相性で負けるって考えてないのかなぁ」


 頬に肩や背中、太腿等。

 様々な所に切り傷がある。

 幸い致命傷は避けられているものの、ジリ貧だった。


「おっさん早く死になよ。アンタ裏切り者だろ?だったら裏切り者を制裁した僕に、何か恩賞が貰えるかもしれないし」


 身体は小さいが反射神経はある。

 ニヤニヤしながら遠くから丸い輪のような武器を投げて、一方的にロックを切り刻んでいた。


「裏切り者って。俺っちカプセルに入れられて死ぬだけだったのを、助けられただけなんだけど。まあこっちに居た方が面白いし、裏切り者と言えば裏切り者か」


「自分で裏切り者って受け入れてるなら、さっさとトドメ刺されてよ。なんだかんだで僕のチャクラム、避けてるよね」


 避けてると言っても、血を流している事には変わりない。

 このまま流す量が増えれば、いつかは足が覚束なくなるだろう。

 その前に何とかしたいとは思っているが、慌てて飛び込めば死が待っている事くらい分かる。

 結局は致命傷にならないように、避け続ける事しか出来ないのだ。


 しかし、そんな時も長くは続かなかった。

 自分の流した血に足を取られた。

 それを見逃さず、飛んでくる鉄の輪。

 脇腹に深く刺さり、とうとう膝を着いた。


「やっと限界かなぁ?そろそろ僕のボーナスになってよ」


「い、嫌だね。俺っちはまだやりたい事がある。その為なら無様に生き残る事も恥ずかしくない!」


「ウザいおっさんだなぁ。さっさと死ねよ」


 苛つきがピークに達したのか、少し口調が粗くなり、その言葉通りトドメを刺しに来た。

 目の前に迫る輪っかを見ながら、自分が避けきれない事を悟る。

 走馬灯らしきものを見ると思い込み、自分の良い所が何か浮かべば良いなと考えていたその時。

 目の前には、大きな羽を持った化粧をした男が現れた。


「アナタ、なかなか良い事言うわねぇ。やりたい事の為に無様に生き残る。それは見る人によって、無様とは言わないの。選手交代よ」






「アンタ、誰?」


 トドメを刺す寸前に攻撃を防がれ、不機嫌になる少年。

 しかし、そんな事お構い無しの男、改めオカマ。


「フフ、アタシが誰かって?」


 シュタッ!

 スパパーン!

 クルッと回って、ビシィッ!


「ベティよおぉん!!」



「ま、間に合った」


 モニターを見ながらベティの姿を確認して、ようやく安堵の声を上げるゴリアテ。

 もうトドメを刺される寸前だったから、やられたら魔王に何て言い訳をしていいのか。

 そんな事ばかり頭をよぎっていた。


「僕もあの方の戦い、初めて見ます。どれくらい強いのか知らないんですよね」


 半兵衛の一言がちょっと気になるが、なんと言っても領主だ。

 大丈夫だと信じたい。


「とにかく!見て駄目そうなら、俺が行く!」


 ゴリアテは最後の手段として、自分が行くと明言した。





「ベティって!そんなツラじゃないよね。もしかしてオカマ?気持ち悪!アンタもこのおっさんと一緒に、死んでくれると助かるな」


 笑いながら間髪入れずに話してくる。

 その言葉を聞いて、ベティは嫌らしく笑った。


「アーハッハッハ!アンタ、身の程知らずも良いところね。雑魚が何人揃っても、雑魚に変わりはないのよ?その貧相な武器と同じでね」


 挑発には挑発を。

 言い返されると思っていなかった少年は、顔を真っ赤にしながらキレた。

 口でオカマには勝てない。

 そう思った彼は、無言でチャクラムを投げ放つ。


「オホホホ!そんな攻撃が、アタシに当たると思って?」


 彼は紙一重にチャクラムを避けていく。

 首を傾げ、半歩右にズレ、時には座る。

 完全に馬鹿にしていた。


「お、おのれえぇぇ!!オカマの分際でナメやがって!絶対に殺す!!」


「アンタじゃ、む・り。役不足ってヤツね。オーッホッホッホ!!」


 おちょくるベティを眺めながら、座り込むロック。

 なんだかまた、濃いキャラが現れたなぁ。

 脇腹の痛みより先に、コイツもプロデュースしたいなと考えていたのだった。



「人の事を馬鹿にするのも良いけどさあ。テメーには弱点があるの分かってるのかよ!?」


 避けられ続けるチャクラムを手に戻し、彼はベティにこう言った。

 弱点?

 コイツに見破られるような弱点は無い。

 あったとしても、そんな弱い部分を突かれるほど、自分は隙を見せていないはず。


「ハッタリはよしなさいな。アナタ如きにアタシは倒せない。自分でも気付いてるんじゃない?」


「ハッタリ?フフ、フハハハ!!ま、アンタくらい強かったら、気付かないかもね」


 その視線が、自分を見ていない事にようやく気付いた。

 彼の見ている先。

 それは壁に背を預けて座り込んでいるロックだった。


「遅いよ!」


 離れた所に座るロックに対して、チャクラムを放った。

 四枚の鉄の輪が、ロックに向かって襲いかかる!


「この下衆が!」


 その姿は消え、ロックの前へと現れる。

 両手には四枚のチャクラム。

 まさか、移動中に投げられたチャクラムを取られるとは思いもしてなかった。


「えっ!?」


「アンタが言った弱点って、コレね。そう、よ〜く分かった。・・・もう良い。死になさい」


 その姿は再び消えて、気付くと自分の少し後ろへ移動していた。

 慌てて振り返る彼に、ベティは言う。


「アンタ、もう死んでるわよ」


 何を偉そうに!

 そう言ったつもりだった。

 しかし声が出ない。

 気付くと、視界が反転している。


「自分がどうなってるか、優しいアタシが見せてあげるわ」


 ゆっくりと歩いてきたオカマは、自分を見下ろしていた。

 そして頭を持たれ、ゆっくりと首を回される。


「はい、アレがアナタの身体よ」


 首無しの死体が燃えていた。

 いつの間にか首を落とされ、残った身体は知らぬ間に火を放たれている。

 じゃあ、今の自分は?


「あら?ようやく気付いた?首だけのボクちゃん」


 叫びたい!

 けど声が出ない。

 声にならない声を出し、僕は気付くと意識を失った。





 マジかー。

 あのオカマ、めちゃくちゃ強いじゃないか。

 俺っちなんかより、はるかに上の存在だ。

 多分あの犬の獣人とかレベルだわ。


「怪我はどうかしら?」


「あ、大丈夫っす!倒すとあっちから、回復魔法使える人が来てくれるので」


 そう言ってる間に、魔法使いが到着。

 脇腹の切られた傷や沢山の切り刻まれた痕が、段々と無くなっていく。


「ありがとうございました。また回復してもらう事になると思いますが、何卒よろしく」


 丁寧に、回復魔法を使ってくれた女性にお礼を言うロック。

 それを見て、ベティはロックのお尻を触った。


「アナタ、なかなか良い男ね。少し惚れそうだわ」


「あ、いえ。そういうのは遠慮しております。というか、お触り禁止です」


「固い事言うんじゃないわよ!」


 何故か気に入られた俺っちは、ベティと名乗ったオカマから、お尻を揉みしだかれていた。

 助けてもらった手前、あまり文句が言いづらい。

 それよりも、だ。

 彼はなかなか面白い。

 これは是非、確保しておきたい人物だ。


「あの〜」


「何?」


「芸能活動って興味あります?」


「芸能活動?能なんか舞えないわよ」


「そういう芸能ではなくてですね。俺っち、いや私、こういう事をしておりまして・・・」


 ロックは、自分がマネージメントしていた芸能活動の内容を教えた。

 それを聞いたベティは、面白そうに笑う。





「アタシの時代が来たわね!」

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