それぞれの考え
召喚者が動き出した。
これを機に、押していた流れが変わるかもしれない。
ミスリルで作られた武具を装備した者達を見て、僕は前線を下げる事を決めた。
代わりに出るのは自分自身。
ツムジに乗って上空から、降伏勧告を行った。
心が広い僕は、少しだけ待ってツムジに攻撃を開始させた。
ツムジの攻撃は予想外に強くなっていた。
召喚者達は大きく混乱し、燃えている連中を避けて前進を開始。
降伏勧告が意味を為していなかったが、もしかしたら投降しづらい状況なのかもしれない。
それを考慮して、ノーム達を呼んだ。
ノーム達に頼み三つの通路を作ってもらった。
彼等の通路の先は投降希望と戦闘の二ヶ所。
投降希望者は森へと入っていく。
残りの二ヶ所は、僕の所と又左達の場所へと誘導される。
僕の所はマトモに戦うつもりは無い。
罠を仕掛けて数を減らし、生き残った連中は一網打尽の予定である。
それに対してもう一つは、一対一のタイマンだ。
負けないとも限らないが、強者と戦って初めて強くなる事もある。
結果に期待しよう。
そして、彼等を迎え入れる時間がやってきた。
上空から聞こえる僕の声に、下に居る連中が一斉に見上げる。
「待ちに待った時間がやって来ました。皆さん、どれを選ぶかお決まりですか?」
返事を期待したが、全く返ってこなかった。
コールアンドレスポンスが分かっていない連中だな。
「じゃあもう一度簡単に説明します。右の通路は投降希望者。真ん中は僕が待ってる。左の通路には僕の仲間が待ってるよ。右側が多い事を願うけど、戦いに自信がある人は左がオススメかな?真ん中は・・・死にたい奴だけ来れば良い」
僕はまた、少し低めに声を出して、魔王っぽいイメージを出してみた。
さっきと同じで反応が無いけど。
「これが最後のアドバイス。自分の命だ。他人に運命を委ねて死んでも、それは後悔しか無いよ?じゃ・・・」
最後に一言言おうとしたら、下から火縄銃らしき物で狙撃された。
まあそんな物は、魔力壁で全く通じないのだが。
しかしこれは許してはいけない案件だ。
兄さんに鉄槌ならぬ、鉄球をお見舞いしてもらおう。
「お前だな」
上空から狙撃してきた場所は分かっている。
戦争なのだから、不意打ちが卑怯とは言わない。
しかし、逆に殺されても文句は言えない。
俺は持っていた鉄球で、撃ってきた三人を狙い、投げた。
「ひ、ヒイィィィ!!」
火縄銃で狙撃した奴の頭が、急に爆発した。
地面には野球ボールサイズの鉄球が、大きく地面にめり込んでいた。
少し離れた場所からも、同じような悲鳴が聞こえた。
おそらく魔王からのお返しだろう。
あんな遠くから、ピンポイントに頭を狙い撃ちするなんて。
「俺、やっぱり中央じゃなくて右にしようかな・・・」
少し離れた所で待っている奴が、隣の奴にそんな事を言っている。
右の通路は罠だ。
そう言われているが、実際のところは不明だった。
しかし自分の考えでは、魔王は本当の事を言っているようにも思えた。
何度も何度も、自分の事は自分で決めろ。
そして投降希望者が多い事を期待している。
そう言っていた。
全員殺したいだけなら、さっきみたいに上空から攻撃をすれば、良いはずなんだ。
それなのに、わざわざ選別するようなやり方を取っている。
こんなまどろっこしいやり方をしておいて、右は罠でしたとはやらないと思うんだよね。
今の今まで悩んでいたけど、決めた!
右に行こう!
ありがとう、見ず知らずの人。
キミの右に行こうかなという声で、決心がついたよ。
「お仕置きも終わった事なので、そろそろスタートします。それじゃ、僕も戻るから。合図を待ってね」
ふう。
あんまり目立つ事は得意じゃない。
最近は魔王というのにも慣れてきたけど、知らない人達じゃなく嫌ってる人達から注目されるのは、良い気分でもないし。
「お疲れさまでした」
半兵衛とゴリアテが出迎えてくれた。
何故か左の通路に向かうはずの太田も、まだ居る。
「素晴らしいお話でした!彼等も目を覚まし、投降者続出間違い無しです!今のうちにメモメモ」
これから結構強いはずの召喚者と戦うはずなのに、コイツは直前になっても全然変わらない。
下手に緊張でガチガチになられるよりかは良いが、逆に緊張感が無さ過ぎるような気もする。
「それよりも、よろしいのですか?」
「何が?」
「あ、いや、その・・・」
ゴリアテが言い淀んでいる。
何が言いたいのか分からない。
【召喚者達の事だろ?最初の頃は極力助けたいってスタンスだったし。又左とか長可さん辺りから、その話聞いたんじゃないか?】
なるほど。
その話か。
「召喚者を殺して良いのか?そういう話?」
「えーと、ハイ。その通りです」
「僕がこの世界に来た時、初めて会った召喚者は佐藤さんだった。彼は強制的に戦わされていたんだよね。でもセリカの話を聞いて、考えが変わった。あの連中は精神魔法なんかで囚われていないわけだ。自らが希望して戦場に立っている。兵士として金も貰っているらしい」
静かに聞いている三人だが、あまり時間も無い。
「要は召喚者だろうが普通の兵士だろうが、理解して戦場に来ている以上、死んでも構わないって考えじゃないとおかしいだろって事。それが嫌なら此処に来てないし。考えが変わって投降してくるなら未だしも、こっちを殺しに来てる奴を助ける必要なんか無いから。ハッキリと言おう。自分の命が最優先!敵の命など気にしてる暇は無い!分かった?」
「承知しました!」
ゴリアテは悩んでたのかもしれない。
召喚者を殺すべきか極力助けるべきか。
敵を助ける為に此方が死んだら、元も子もない。
ハッキリとした答えが出て、方針が決まった事だろう。
「並べ!」
Bクラスの召喚者が、CクラスDクラスの連中を束ねていた。
Bクラス一人に対してCとD合わせて四人。
五人一組で行動する。
「左通路に行く者は全部で五十人。正面通路は五百人。右は罠か確認をしたい。斥候担当の者達十人で、行ってもらいたい」
右は十人!?
これは予想外に少ない。
俺達三人は、右側にどうしても行きたい。
希望しても良いが、どうせなら勘繰られる前に推薦で行きたいな。
「私が行きます!」
だ、誰だ!?
立候補するなんて、投降すると怪しまれてもおかしくないぞ?
「何故、立候補した?」
「単刀直入に言いますと、私の能力は戦闘向きではありません。でも偵察してくるくらいなら、出来ます。他の四人の足手まといになるくらいなら、右側で最悪捕虜になっても問題無いかと愚考しました」
うわあぁぁ!!
アイツ、頭良いなあ。
同じ手は使えない。
「我々も立候補します」
え!?
右隣から立候補するという声が聞こえた。
「我々は一人だとそこまで強くないですが、三人の能力の相性は良いです。右を確認して逃げ切れる自信はあります」
す、鈴木!
なんというデマカセ!
俺達の運命は、お前の頭脳が頼りだ。
「よし。お前等四人、右側を担当しろ」
やった!
心の中でガッツポーズをしていると、さっき一人で立候補した人と目が合った。
愛想笑いで返したが、俺には分かる。
あの人、同類だと。
左通路を進んでいくと、少し大きい扉があった。
扉には入場制限三人までと書かれていた。
その扉の先には、まだ道が続いている。
先にも扉か何かあるのかもしれない。
「三人って書いてあるけど、誰が入る?」
「おそらく、魔王の部下が中に居るんだろう。魔王の話だと強いって言ってたからな。Bクラスの俺と、Cクラス二人が入るべきだと思う」
「何で?五人で入っちゃえば良いんじゃない?」
軽く言うチャラい男が、相談せずに扉を開けた。
中は普通に五人入れそうな作りだ。
「ほら。入れるじゃん」
「本当だ。全員で入ってみよう」
中に入ると、また扉があった。
ご丁寧に椅子が二つ用意されている。
「あの先に居るんじゃない?」
「開けてみるよ」
チャラ男が扉に手を掛けた。
押しても引いてもビクともしない。
「駄目だな。開かねーわ」
「俺が開ける」
この中で一番身体の大きい男が再度試してみたが、やはり結果は同じだった。
「やっぱり三人じゃないと駄目なんじゃない?試しに二人、出てみれば?」
「あ、はい。Dクラスのうちらが出ます」
入ってきた扉から出て、また閉めてみた。
するとさっき気付かなかった物が青く光っていた。
「なんかランプが点いてますね。一人入ると、あぁ赤くなった。これ、人数制限の把握がされてます」
「よし。そのまま外で待っててくれ。俺達は三人で奥の敵を倒してくる」
そう言われて、扉を閉められた。
さっきの扉まで進んでみると、液晶に文字が浮かんでいた。
此処より先は一人ずつ。
多分、入り口と同じ仕様で一人しか入れないのだろう。
「誰から行く?」
「小手調べで、Cクラスの自分が行ってみる。入った後、扉がどうなるか確認してくれ」
「分かった。くれぐれも気をつけてな」
男が入っていくと、扉の上のランプが赤く光った。
トイレの使用中みたいだな。
緊張感も無くチャラ男がそんな事を考えていると、しばらくして、またランプの色が青に戻った。
「あ、開いた。アイツ、先に進んだみたいだな」
「次が入れるって事か。どうする?お前が行くか?」
「俺?うーん、先に譲るよ」
チャラ男がBクラスの男に譲った。
男は了承して、そのまま扉を開けて進んで行った。
「また青くなったか。そういえば戻れないのかな?」
元来た扉を開けようとしたが、また鍵が閉まっていた。
一度入ったら、先にしか進めない仕様のようだ。
「仕方ない。あんま戦闘とかしたくないんだけど。面倒だけど、俺の生活の為に行くか」
チャラ男は愚痴を言いつつ、奥へ進んで行った。
奥の扉も青いランプが点灯している。
扉を開けて中へ入ると、また扉。
その扉を開けると、ようやく広い部屋に辿り着いた。
「へぇ、一時間ちょっとでこんなの作れるんだ。魔王ってすげー」
チャラ男が部屋を見渡しながら、独り言を呟いている。
部屋の中は予想以上に広く、五十メートル四方の立方体くらいの大きさだった。
「あ、来た。これで三人目かな?」
「えっ!?」
目の前に居たのは、ヒト族だった。
手甲をしていて、装備は軽装。
明らかに魔族の見た目じゃない。
「アンタ、ヒト族?王国とかの人?」
「いんや、俺も日本人。元々は召喚者だよ。今は敵だけど」
「は?えっ!?ちょっ!何で日本人同士で戦うんだよ!?」
目の前の人を見て、明らかに動揺した。
だって、人と殺し合いをすると思わなかったからだ。
魔族ならまだ良い。
見た目がグロいのもいるし、俺達と違うって分かるから。
でも、同じ日本人と殺し合うなんて、そんな話は聞いていない。
「どうしても戦わないと駄目?」
「つーかさ、戦いたくないなら、何で右の通路に行かなかったんだ?今更だろう。それに俺は、阿久野くんに助けられた。日本人となんか戦いたくないけど、アンタ等は俺と事情が違うみたいじゃないか。それに魔族殺して金貰ってるんだろ?じゃあアンタは、俺の敵だよ」
話を聞くと、この人は元々Dクラスだったみたいだな。
俺の事を敵だって言ってるけど、魔族に負けたDクラスの奴が俺に敵うわけない。
「分かった。じゃあ俺の生活の為に死んでくれ」
その男は不意に、腰に隠していた短刀を四本投げつけた。
普通なら避けられないスピードだった。
しかし、彼は侮った。
昔はDクラスでも、今はどのクラスか分からない。
というより、召喚されたばかりだっただけで、元々Bクラス並みの強さだという事を。
「やっぱりさっきの人より大した事ないな」
短刀を避けられただけじゃなく、そのまま接近してきた。
手甲をしていた時点で、接近戦が得意な奴だとは思ったけど、こんなに速いとは。
「じゃあ、サヨナラ」
「ナメるな!」
俺は短刀を右手に持ち、目の前の男の首を狙った。
すると、奴の左手が目の前に現れた。
そこからは何度殴られたか覚えていない。
痛みも感じなくなり、最期に渾身の右ストレートを食らったのは見えた。
気付くと地面に倒れていた。
段々と気持ち良くなってきて、眠くなってきた。
そのまま目を閉じ、イビキを掻きながら寝た。
イビキが止まった時、俺の命の火も消えたらしい。
最期に相手が、こんな事言ってたのが聞こえた気がする。
「俺だから良かったけど、他の人達はもっと悲惨な目に遭ってるからな」