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召喚者達

 帝国が誇るAクラスの三人は、戦争が終わった後の算段を考えていた。

 敵の主力を倒し、魔王を捕縛する。

 そうすれば更なる待遇が得られる。

 まだ始まってもいない戦いに、彼等は既に勝った気でいた。


 夜襲から戻ってきた車は、全員無傷だった。

 半兵衛の作戦では、今後も数度、嫌がらせとして行うと話していた。

 ゴリアテも半兵衛と付き合いは短いが、既に認めていた。

 容赦無く潰す半兵衛のやり方に、僕達は翌日に備え休養を取る。


 帝国からの降伏勧告から始まった初戦。

 ヒャッハー軍団は敵軍に迫るも、大盾を構えた部隊に勝機を見出せないでいた。

 そこへ投入された、魔族軍の新兵器。

 キャノンボールと呼ばれたその乗り物は、前線を混乱へと導いた。

 戻ってきたキャノンボールには、戦力としてほぼ認められなかった小人族が乗り込んでいた。

 彼等の活躍により、敵軍の前線の大盾部隊は数を減らした。


 ヒャッハー軍団はその隙を狙い、敵軍の内部を縦横無尽に走り回る。

 数に劣る魔族が一方的に攻撃を仕掛ける。

 これはほとんど趨勢が決まったか?

 そう思われた時に、敵側から新たな部隊の投入が始まったのだった。






 ミスリルで固められた部隊?

 ズンタッタ達みたいな連中かな。

 そんな事を考えていると、また新しい情報が入ってきた。


「異様な光景なのが、その者達の装備が皆バラバラなのです。全身を覆う者。右手だけ守る者や肩や頭、上半身だけの者等。様々な装備をしております」


 それってもしかして。


【アレだな。召喚者の集団だろ】


 だよね。

 という事は、なかなか強いかもしれない。


「こっちも一旦引かせた方が良くない?魔法使いの魔力壁も、ある程度薄くなってきてると思うし」


「しかし、此処で引くと安土に危険が及ぶ恐れが」


「僕が出ようと思う」


 そう。

 対多数なら、僕の方が戦える。

 そして、残った魔法使い達にも協力してもらおう。


【俺は出番無し?】


 いや、残った連中は相手にしてもらいたいかな。

 全身をミスリルで覆った連中は、ちょっとキツイかも。


【分かった。俺の新しい変身のお披露目もあるから。ちょっとは残ってると良いな】


 ゴリアテは少し心配そうに考え込んだが、半兵衛の問題無いという一言でそれも杞憂に終わった。

 それに護衛として、隣には太田が来ているし。

 盾役としての太田は、多分この中で一番強いからね。


「召喚者には、逆に降伏勧告を出してあげよう」





 ヒャッハー軍団が安土へと引き上げる頃、敵軍の方も様変わりしていた。

 前線に張っていた連中が下がり、違った装備の部隊が前線へと来ている。

 数は少ないが、全員がミスリル装備という豪華な仕様。

 威圧感は此方の方が上だろう。


 そして僕は、ツムジを呼び出した。

 久しぶりに乗るが、ちょっと大きくなった気がする。


「あの召喚者達の近く、攻撃が届かない上空に行ってくれ」


「任せて!」


 ひとっ飛びですぐに到着。

 やっぱり速くなってる。

 これについては、また今度聞いてみよう。


「あーあー、諸君。聞こえるかな?」


 僕は持っていた鉄塊や様々な素材から、拡声器を作り出した。

 大きく聞こえるその声に、彼等は上空を見上げた。


「僕は阿久野。魔王をしている」


 自己紹介の仕方が悪かった。

 下から悪の魔王だと散々な言われようだった。


「ゴホン!キミ達に降伏勧告をしに来た。帝国から抜け、僕等に害を及ぼさないなら、命の安全を保証する。そして新しい生活がしたいなら、受け入れる準備も用意している。その気があるのなら、この場から離れ、安土側の森へと入るが良い」


 決まった。

 わざと低めの声を出して、ちょっとだけ威厳があるように話してみた。

 これぞ魔王!という言動だったと思う。


「ガキが!調子に乗るな!」

「魔王を殺せば、報奨金たんまりだ!」

「ちいせぇ!」


 下から聞こえる罵詈雑言。

 しかし心が広い僕は、この程度では怒ったりしない。


「この童貞!」

「非モテ野郎!」

「お前の股間はミミズ以下!」


 うむ。

 なるほど。

 そういう事か。


「ツムジ。全力で炎を吐きなさい」


「え?降伏勧告じゃなかったっけ?」


「良いの良いの。もう燃やしちゃって」


「よく分からないけど、そう言うならやっちゃうよ?」


 奴等は言ってはいけない事を口にした。

 好きで童貞だったんじゃない!

 非モテ野郎とか、じゃあお前はどうなんだっつーの!


「確か、あの辺とあの辺。それとちょっと離れて彼処だったはず」


「真下じゃなくて、狙う場所決まってるのね。じゃあ失礼して」


 少し移動した後、ツムジは大きく息を吸い込み、思いきり吐いた。

 ゴゥッ!という音が耳に聞こえる。


「ほぁ?」


 あまりの強力な炎に、変な声が出た。

 炎が大きく燃え盛り、周囲に広がっていく。

 絶叫が聞こえ、焼け落ちる肉の臭いが煙と共に上へと舞い上がる。

 僕は少し咳き込んだ後、煙が来ない所は移動して続けて言った。


「ハーッハッハ!!見たか、これが魔族の力だ!降伏勧告に乗らないのであれば、全て敵と見なす。お前達に明日は来ないと思え!」


【完全に悪役だな】


 うるさいな。

 じゃあ許せというのか?


【いや、奴等は禁句を言ったのだ。死して償うべきだろう】


 分かっているじゃないか。

 モテない男の怒り、特と味わうが良い。






「な、何だよアレ!?」


「自分で降伏勧告しておいて、間髪入れずに虐殺に走ったぞ!?魔王ってあんなに残酷なのか?」


「でも、降伏すれば迎え入れるって」


 上空から急に浴びせられた炎。

 それを遠くから見ていた者達は、此方へ必死に逃げてくる連中を見て、三人組が話していた。

 降伏を受け入れるか否か。

 空からの一方的な攻撃に、彼等は驚きを隠せない。


「あのやり方を見て、魔王の言う事が信じられるか?」


「でも、俺達の力があんなのに通用するとは思えないんだけど・・・」


「おい!突撃命令が出たぞ!」


 悩んでいる男達に、前から指令が来る。

 後方からも、人が勢いよく走ってきている。

 もう立ち止まれない。

 流れに乗って攻めるしか無くなったのだ。


「ど、どうしよう!?」


「とにかく今は前に走ろう。俺達なんか、帝国に居たって居なくなっていい存在なんだ。何処かで逃げ出す準備だけはしておくぞ」


 頷いた二人は、同じく逃げ出す事を念頭に入れて走った。





 ツムジの炎が予想外に大きくなっていて、下は混乱していた。

 その混乱の勢いのまま、何か策があるのか分からないが、全員が前進して来た。


「ツムジも成長してるんだな」


「アタシだって、淑女を目指してるんだから。チカには負けないわ!」


 ツムジの淑女がどんななのかは置いといて。

 このまま成長が続くなら、頼もしいね。


「逃げ出す奴、出てこないな」


「皆が前進してるから、途中で抜けづらいんじゃない?」


「なるほど。じゃあ、逃げやすくしてみよう」


 僕は無線を繋げて、ゴリアテに連絡した。


「ノーム達を呼んでくれ」





 ノームやノーミードと呼ばれる妖精。

 彼等は土魔法が得意な者達だった。

 戦闘能力は低く、前線に出るのには向いていない。

 しかし、今回は彼等の得意な魔法が必要だった。


「適当で良い。三方向に分けてくれ」


「魔王様からのお願いだ。皆、やるど!」


 ノーム達は地面を盛り上げ、段々と通路のような物が形成されていく。

 帝国兵の前方には、クイズ番組にあるような三つに分かれた入り口が出来上がった。

 その完成を見届けた僕は、再び拡声器を使用する。


「ちゅーもーく!キミ達の前方には、三つの通路が分かれています。右側の通路は、投降を希望したい人が行ってください。正面の通路は僕が待ってます。左の通路は、とてもつよ〜い僕の仲間が居るよ」


 僕の声が聞こえたのか、ようやく前進が止まり、皆が耳を傾けた。


「今すぐ突入しても、行き止まりです。今から一時間後、その先を開放します。この時間を使って、何処へ向かうか決めてね。慌てずに、押さない駆けない、喋りは別に良いか。とにかく、自分達の行動に責任を持って決めてね?」


 また下から何か言っているのが聞こえるが、今回は放置して安土の方へ戻る事にした。

 これから、通路の先の準備もしないといけないし。

 ただ、言われっぱなしも癪なので、最後に一言だけ言っておいた。


「その選択で、お前達の運命が決まると思え」





 僕は正面通路の先の、大きく開けた場所で壁を作っていた。

 それは、入り込んだら逃げられないようにする為だ。

 そもそも奴等は侵略者だ。

 こっちがご丁寧に、奴等のやり方に乗る必要は無い。

 僕が待っているけど、僕だけが待っているわけじゃない。

 様々な罠を仕掛け、生き残った者は最後に一網打尽にして心をへし折る。

 僕に挑むという事は、そういう事なのである。


【やり方がズルイというか。性格悪いな】


 黙らっしゃい!

 アンタ、どっちの味方なの!?

 それはさておき、罠を設置しなくては。


 まずは定番の落とし穴。

 剣山を用意したので、落ちたら下で串刺しになる。

 死ぬ事間違い無し!


 これまた定番、踏むと大きな玉が転がってくる。

 これは勿論、鉄球で作る。

 踏み潰されれば、死ぬ事間違い無し!

 運が良くても、骨折くらいはするだろう。


 そしてやってみたかった。

 足を踏み入れると、横から槍が飛んでくるヤツ。

 赤外線センサーで、通り抜けたらその瞬間に飛ぶ仕組みだ。

 反射神経が良くないと刺さる。

 死ぬかは微妙だけど、怪我はするだろう。


 他にも大きな鉄球の振り子とか、迫り来る壁とか。

 このような物が作れるようになったのも、コバに色々と教わったからだ。


「こんなもんかな」


 色々作って満足したので、僕は戻って最後の仕上げに入る事にした。

 最後は他の魔法使いにも、手伝ってもらおうと考えている。



 あとは左側の通路。

 この先も作らないといけない。

 こっちは比較的簡単だ。

 各部屋に扉を作って、そこに来る連中を僕の仲間がお出迎え。

 ちなみに一部屋三人までしか入れない。

 エレベーターの要領で、それ以上乗ったら扉が開かない仕組みにするつもりだ。


 そして入った後は、更に一人ずつしか先には進めないようにしてある。

 此処には強い連中だけを用意する。

 又左や慶次、佐藤さんにイッシー(仮)。

 それとロックにも仕事してもらおう。

 彼の強さはどんなもんかな?

 あとは太田も、たまには身体を動かさせるか。


 ゴリアテも出したいけど、防衛責任者は無線の先で色々と指示出しがある。

 今回はお留守番という事で。


 連戦もあるだろうが、後ろには回復役の魔法使いも待機させるので、ダメージは持ち越さないだろう。

 気付け薬じゃないけど、若狭から持ってきた薬草も多々ある。

 こっちは人数少ないんだ。

 ちょっとくらいのドーピングに文句は言わせない。

 まあある程度作ったものの、左側の通路はそんなに来ないと思うんだけどね。


 ちなみに右側は、ノーム達に森まで直通の通路を作ってもらっている。

 森の中では、又左直属になっていたハーフ獣人達が出迎える手筈にしてある。

 理由は、彼女達は変身しなければヒト族とそう変わらない。

 少しはヒト族っぽい方が、彼等も安心出来るんじゃないかって思ったからだ。

 それに投降するフリをして、攻撃してくる奴も現れるかもしれない。

 彼女達なら、魔法使いや非戦闘員より抗える力もあるし、安心だ。


 ほぼ準備は出来た。

 後は時間になるのを待つだけだ。

 僕は再びツムジに乗って、召喚者達の上空へと向かった。





「は〜い!皆さんこんにちは。運命の選択の時間だよ〜」

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