安土防衛戦
Eクラスとはただの使い捨てのエネルギー源。
その事を知った魔族達は、帝国の非道な行いに怒りを発した。
そしてその行いの矛先が、自分達に向くのでは?という疑問に変わっていく。
その問いに答えたコバは、もしかしたら更に非人道的な実験がされているかもと言った。
魔族は帝国と完全敵対すると決めたのだが、半兵衛がこの防衛戦の直後に逆侵攻を掛けるべきだと言い出した。
話の内容を聞く限り、不可能ではないと判断し、僕達は作戦の成功を祈った。
とうとう眼前まで迫った敵連合軍。
半兵衛は人数差を埋める為、夜襲を掛ける事を提案してきた。
コバの新たな発明品として、車が用意されている。
魔法使いはこれに乗り込み、敵陣へと最大火力の魔法を叩きつけて一撃離脱を図った。
そんな中、敵の召喚者三人は夜襲を受けているにも関わらず、ただ会話をしていた。
又左達兄弟と佐藤が強敵らしい。
その三人を抑えるべく派遣された三人。
更に彼等はこう言った。
魔王の正体が子供だと。
若い男のその声に、女が反応する。
「子供なら物とかで釣って、魔族を懐柔させた方が早いんじゃないのかい?」
「いや、外見で騙されてはいけないらしい。見た目は子供だが、中身はしっかりしているという話だ。それにかなり強力な魔法を、無詠唱で使うとも聞いている」
小太りの男の説明に、二人は驚きを隠せない。
詠唱短縮すらしてくる魔族は少ないのに、無詠唱で使ってくる魔法使いなど、見た事が無いのだ。
「それ、めっちゃ強いじゃん!というか、子供なのは本当だったんだ」
「話を聞いた時は、自分も耳を疑ったさ。だが、上から来た話だ。間違いはない」
「アタシ達の敵は、この四人って事で良いのかしら?」
「そうだな。おそらく他の二人も、魔王の近衛だろう。他にも何人か強者の存在はあるだろうが、Bクラスが複数集まれば問題無い」
「じゃあ、最初の三人と魔王さえどうにかすれば簡単だね。そしたら僕等もSクラス入りかぁ。何しよう?」
彼等は既に勝った気でいた。
今までの経験から、負けるわけがないという自信になっていたのだ。
抵抗する魔族を倒し、そして自分の強さに変えていく。
多くの魔族を倒した彼等には、報告された三人もちょっと毛が生えた程度の強さだろうと考えていた。
「魔王捕まえたら、抵抗する魔族なんか少ないでしょ。そしたら長めの休みでも貰って、何処か遠くに遊びに行きたいな」
「アタシはエルフで遊ぶかね」
「俺もそうする」
若い男は遊ぶ事を考えていたが、他の二人は下卑た顔で違う事を考えている。
それを見て、大人は嫌だねと思ったりした。
しかし彼等は知らない。
ただでさえ魔力がある魔族に、鹵獲されたミスリルで強化され、更にコバが現代技術を駆使した武器や道具を持っている事を。
奇襲は成功。
戻ってきた車から、そう報告を受けた。
門を潜る車に、多くの歓声が浴びせられる。
軽い戦勝の宴が始まり、そして翌日に備えてすぐに解散をした。
「どのくらいの兵が減ったかな?」
少し考えたけど、総勢五万近い敵だ。
最大火力とはいえ、一撃離脱しかしていない事を考えると、二千人くらいが良いところだと思う。
「数は別に良いのです」
「良いの?」
「自分達が既に標的とされていると分からせる行動でしたから。それにこの夜襲、今夜だけで終わらせるつもりはありません」
「なるほど。何度か繰り返し、夜も気を抜けない状況を作り出す作戦か」
ゴリアテは半兵衛の意図に気付き、感心していた。
まだ来て間もない半兵衛だが、その立場は多くの者が認めている。
「逆に夜襲を掛けられる可能性もありますが、此方には夜目に利く者達がおります。それを知っていれば、わざわざ仕掛けてくる事も無いはず。知らなければ、むざむざやられに来るようなものです」
「凄いですな。これは是非、魔王様の伝記に入れるべき話。ワタクシの筆も止まりません!」
太田はメモを取り出し、半兵衛の言っている事を書き出していた。
多分、半兵衛は僕の伝記に沢山出てくるんだろう。
半ば半兵衛公記にもなりそうだ。
「明日からが本番。向こうも陣が割れている事は、奇襲を受けて承知済み。なので、正面からやってくるでしょう」
「だな。じゃあ明日に備えて、僕達も休むとしよう」
翌日、安土から数キロの距離に、安土を囲めるくらいの敵兵が集まっていた。
埋め尽くさんばかりの敵兵から、少数の兵が安土へ向かってきた。
「降伏勧告?」
白旗を持った敵兵は、門の上に居た兵に書状を渡しに来たらしい。
その内容は要約すると、抵抗しなければ魔王を含め、全員の命の安全は保証する。
しかし、領地から技術、戦力を帝国に差し出す事と書かれていた。
「何と返答致しましょう?」
「何様のつもりだと返しておけ。どうせ命だけ助かっても、死ぬより辛い生活が待っている可能性もある」
伝令役はすぐさま帰って行った。
最初から降伏なんかしないのは、昨日の夜襲の時点で分かっていた事だ。
伝統なのか決まり事なのか知らんけど、無駄な時間掛けさせるなと言いたい。
「ゴリアテ、頼んだぞ」
「門を開けろ!前線部隊、出陣だ!」
え?
打って出るの?
てっきり篭城戦を選ぶのかと思ってたんだけど。
トライクに乗った獣人が、どんどんと門を潜り抜けていく。
後ろには幌が無いキャリアカーが連結されている。
こうやって見ると、昔の騎馬戦車みたいだな。
機動力で騎馬とかに負けていったはずだけど、トライクの機動力ならそんな事にはならないはず。
前線部隊の隊長は、総隊長が又左になっている。
大きく分けて右翼と左翼、そして中央の三つの軍団で構成されている。
右翼と左翼はズンタッタとドランが隊長格だったが、敢えて敵方の編成を見て逆に配置をした。
これはゴリアテなりの配慮なのかもしれない。
そして中央の隊長は慶次になっていた。
三人ともキャリアカーに乗り、トライクの運転とは無縁なので、安心して攻撃に専念出来る。
というよりは、三人とも運転出来ないと思われる。
「相手への攻撃よりも、自分達の損傷被害を最小限にした方が良い。どうせこっちは回復魔法がある。向こうは怪我をしたら、薬以外で回復する手立てが無いからな」
「そうですね。兵糧攻めも、塀の内に畑を持つ安土では不可能。彼等は逆に、支援物資が大量に必要な程の大所帯です。本来なら援護の来るアテの無い篭城は愚策なのですが、今回は向こうが先に根を上げるでしょう」
半兵衛も同意見だし、あまり無理にしない方向で行こうとなった。
「後は前田殿達にお任せしましょう」
「行くぞ野郎共!ヒャッハー!血祭りだぁ!!」
なんとも物騒な号令で動き出す魔王軍。
こんなの日本で聞いたら、どっちが悪者か分かったもんじゃない。
此方は機動力重視のトライクが主力。
対して向こうは、大型の盾を装備した歩兵部隊が最前線だった。
敵方の武装を見ると、最前線の大盾の背後には又左が持つくらいの長槍が構えていた。
おそらく盾で怯んだ相手を刺すか、突っ込んできたトライクに構えて、自爆を誘うような仕組みだろう。
「敵方も前進を開始した。トライクは不利かもしれないな」
「何を言っている。吾輩が作った物が、このような事で負けるわけがなかろう」
トライクを作ったのは僕だから!
コバの奴、さも自分が全て作ったみたいな言い方をして。
手柄横取りか!?
「トライクが無理でも、他がある。半兵衛から事前に相談を受けていたのである」
「他?」
「吾輩の力作、キャノンボール。今が使いどころである!」
無線でコバの言うキャノンボールを伝えると、トライク達の間をすり抜けて出てきた乗り物があった。
その乗り物は、トライクよりも全体的に低くしてあり、大きな特長として流線形になっている。
全体を何かで覆い、タイヤすら外側からは攻撃出来ない感じだった。
「弾丸みたいな形だね」
「そのように作ったのである」
さて、どのような効果を発揮するのか。
少しドキドキしてきた。
「何だアレ?」
敵の鉄騎馬戦車が下がったと思ったら、その間をすり抜けて随分と低い乗り物が出てきた。
その見た目がよく分からない乗り物は、大盾目掛けて突撃を開始してきた。
「馬鹿め!」
最前線の屈強な身体をした大盾持ちは、身体全体で吹き飛ばされないように踏ん張った。
ところがその乗り物は、盾と盾の間を狙い無理矢理に割って入ってきた。
そのスピードはそこまで速くない。
しかし、予想だにしない声が上がる。
「足が!足があぁぁ!!」
その乗り物は下の部分から刃が左右に出ており、大盾持ちのスネや足首、太腿を切り裂いていく。
後ろの長槍が突き刺しても、先端が丸みを帯びていて刺さらない。
そこまで速くないなら、無理矢理にでも止めてしまえばいい。
そう考えた連中が盾を捨て、目の前に立ち塞がった。
「ぎゃあ!」
「くっ!重い!」
「刃は折ったぞ!」
数人がかりで止めたキャノンボール。
横から出ていた刃を、上から踏み付けてへし折った。
しかし、そこから更に驚く事になった。
「は?」
バァン!という大きな音が、最前線に響き渡った。
それは銃声。
前に立ち塞がった者達に向かって、その曲線の一部が開き、弾丸が発射されたのだ。
「弾丸のような形の乗り物から、弾丸が出る!?」
勿論キャノンボールを止めていた者は、頭に銃弾を浴びて倒れた。
そしてそれを踏み潰すように再度動き出した。
「刃が伸びている!?」
「いつの間に取り付けを?」
再び動き出したキャノンボールは、最前線をジグザグに動き大盾持ちを切り裂いていく。
ようやくキャノンボールが敵の最前線から居なくなった頃、少しホッとした連中が多数居た。
そしてキャノンボールが消えた先から、またトライク軍が前進してくるのを見て、彼等は乱戦を覚悟するのだった。
戻ってきたキャノンボールは、僕の予想外の人物達が乗っていた。
「小人族が乗ってるのか!?」
「あのサイズだとネズミ族の一部の連中か、小人族くらいしか乗れんのだ」
コバの説明に戻ってきたキャノンボールを見て、その小ささに驚いた。
多分、妖精族も一部は乗れる気がする。
しかしまあ、ここまでよく小型化出来たものだ。
コバの技術力の高さが窺える乗り物だな。
「キャノンボールは、攻撃よりもその硬度を重視した乗り物だ。スピードも捨ててとにかく突き進めるように、トルクを高めにしてギアチェンジは出来ない。そして横からは使い捨て用の刃が用意してある」
使い捨ての刃?
カッターの刃みたいな感じかな?
「数に限りがあるが、元々は一撃離脱を考えて作った乗り物だ。そんなに武装は必要無い。ただし、そのサイズ故に先程見えたように止めようとする輩が出てくる。その場合は、こうだ!」
指をピストルの形にして、バァン!と撃つポーズをするコバ。
ノリが良い人なら倒れてくれるだろう。
そう、僕の後ろに居る兄のように。
「や〜ら〜れ〜た〜」
「遊ぶんじゃない!」
「ずっと気を張ってても、疲れるだけだぞ」
その通りだと思う。
だけど、この男は全然気を張っていない。
自分が戦わないから、話半分にしか聞いていないと思われる。
「トライク軍が前進始めました」
「ヒャッハー!槍だー!槍を食らえ〜!」
「帝国は消毒だー!」
「おらぁ!手を出してみろぉ!切り刻むゾォ!?」
明らかにパワーアップした雑魚軍団。
キャリアカーから槍や剣を突き刺し、帝国兵を屠っていった。
「な、何だよ!?魔族ってこんな獰猛だったか!?」
「こえぇ!こえぇよおぉぉ!!」
「その槍は・・・やめて!やめてくだされぇぇ!!」
混乱した帝国兵は武器を振り回してトライクやキャリアカーを狙った。
遠くからは弓矢が飛んできている。
しかしほとんどが当たっていなかった。
理由は、キャリアカーに乗っている魔法使いの魔力壁だ。
ほとんどの攻撃を弾き、此方は一方的に攻撃する。
それは前線で戦う帝国兵の心を折るには十分だった。
多くの死傷者を出した帝国軍に対し、魔族の被害は二桁程だった。
運悪く死亡した者も出てしまったが、やはりこれは戦争だ。
仕方ないとは言え、そう簡単にやり切れる事じゃない。
「今日はこの調子なら、一方的に戦力を減らせそうですね」
そんな事を言ったからか、事態が一変する出来事が起きた。
「ミスリル装備の兵を多数確認。前線へ向かっています」