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偽魔王とコバのプライド

 兄はセリカ達に誘われて、長可さんが点てたお茶を飲んだ。

 茶室で他愛もないお茶の知識を披露され、気付けば半日も経っていた。

 セリカがお茶に誘った理由は、茶室での時間の流れについて説明したかったからだという。

 変身の延長に役に立つかは分からないが、役に立つのではと思ったらしい。


 ヒントを得た兄は、その後に蘭丸の現在の住まいへ足を運んだ。

 あまりに酷いその家を見かねて、創造魔法で家を建ててあげようとした。

 その結果が、自分の作った家の倒壊と、蘭丸が頑張って作った家の破壊だった。

 蘭丸は家を失い、本当のホームレスになりかけた。

 そこに現れたベティ。

 助け舟か泥舟か。

 蘭丸は彼?彼女?に連れて行かれてしまった。


 翌朝、兄はセリカに教わった事を参考に、変身を試みた。

 結果は成功。

 集中力の問題もあるだろうが、概ね課題はクリアといった感じだった。

 そこへ再び現れたオカマ。

 ベティは兄に、もっと目立てとダメ出しをする。

 理由を聞くと納得は出来たが、芸術面やファッションに鈍い兄は、全てを丸投げにした。





「アナタ、そういうのは悩んででも自分で決めるものよ」


 やっぱり駄目か。

 コイツならこういう事を、嬉々として選んでくれそうな気もしたんだけど。


「俺、自分で服装とか選ぶの苦手なんだよ。どの色が合うとか、自分では分からないし」


「別に似合わなくてもイイの。とにかく自分の気持ちが大事。アナタの気分が昂揚する色とか無いの?」


「昂揚?それって太田が血を見ると、興奮して暴走するのと同じ感じ?」


「太田が誰だか知らないけど、まあ似たようなモンよ。分かりやすく言えば、好きな色でイイのよ」


 好きな色ねぇ。

 白は好きだが、他は何だろう?

 緑と赤かな。

 カップラーメン両方好きだし。


「分かった。弟と話してちょっと変更してみる」


「イイのよ。気持ちって結構大事。それを今度、教えてあげるわ。じゃね〜」


 言う事を言った奴は、空を飛んで行ってしまった。

 しかも相当速い。


「気持ちが大事。覚えておこう」





 最近の習慣として、僕はコバの所に入り浸る日々が続いていた。

 研究所の外で魔法を試して、分からない事があればコバにすぐ聞きに行く。

 この繰り返しで、僕の出来る事はかなり多くなった。

 以前は人形の姿だとほとんど魔法は使えなかった。

 しかし今は、元の姿と変わらず使える。


 問題は、やはり威力や効果が低い事くらいか。

 大きな壁を作るにも、元の姿の半分くらいしか作れない。

 そして時間も掛かる。

 それをコバに話したところ、半分の魂なら半分が妥当なのでは?という答えが返ってきた。

 という事は、僕本来の力はコレくらいなのか?

 兄と同じ身体を使ってるから、倍以上の力を発揮している?

 それとも前魔王の身体が特別?

 考えるとキリがない。


「今の魔王はレベルを上げる時なのである。ラスボスがレベルをカンストしてみろ。人間の勇者がカンストしたって、元のステータスが違うのだから差が広がるぞ?」


 コバの言っていた事は、ゲームをやってないと分からない説明だった。

 多分兄なら、日本語でよろしくと言われて終わりだ。


 そんな時を過ごしていると、コバが驚愕する事になる事件が起きた。





「一度ご飯食べに、城へ戻ろうかな。今日は肉と野菜たっぷりのカレーらしいよ」


「さてと、吾輩も行くとするか」


 最近、城のご飯のバラエティーが本当に増えた。

 ラーメンはお店で食べる方が美味く感じるから、敢えて外してある。

 しかしカレーは別だ。

 俗に言う、お店のカレーと家のカレーは違う。

 家のカレーは各家庭の味がある。

 僕はそれに拘り、家のカレーを作ってもらっている。

 ちなみにズンタッタ達にも好評だ。

 帝国のカレーとは違う、日本式のカレー。

 最初はコレはカレーではないと憤っていたが、食べたら掌をコロッと返しやがった。


 そんな家カレー、コバが必ず食べに来る。

 他人の家のカレーって、合う合わないがあると思うんだけど。

 コバはそれが合う方だったようだ。


「早く向かうのである。キャプテンが先に居ると、肉が減るのである」


「僕も身体に戻って食べたいから、まだだとありがたい」


「コバ、俺の事そんな風に見てたのか」


 後ろを振り返ると、兄が一人で歩いていた。

 今は変身の特訓を一人でしている。

 変身後の格好を、頼まれて少しだけカラーバリエーションを増やしたのだが、それだけで何故かパワーアップしているらしい。


「一緒に歩いてるなら、まだ肉も残ってるね。」



「えっ!?」


 城門の前へ移動すると、驚いた声を上げる門番。

 その顔は狐につままれたような感じだ。

 顔認証で門が開いていく。


 三人で食堂へ向かうと、やはりすれ違う者達全員が、兄を見て反応をしていた。

 声を上げる者。

 荷物を落とす者。

 顔を凝視し過ぎて、柱へぶつかる者。


「なぁ、俺の顔って何か汚れてたりする?」


「いや、普通だと思うけど」


「いつもと変わらぬ顔であるな」



 食堂に着くと、これまた同じ反応を示す食堂のおばちゃん。

 流石に気になって、何事なのか聞いてみた。


「キャプテン、さっき食べたばかりですよね?」


 は?

 僕達は一緒に歩いてきた。

 兄は腹減った連呼しているくらいだ。

 食べたのに食べてないみたいに、ボケるにはまだ早い。


「俺、大盛で肉多めね。それとニンジン要らないよ」


「やっぱり!さっき全く同じ事を言って、食べていかれましたよ。もうお腹減ったんですか?」


「どういう事?」





 僕は元の身体に戻り、食事を堪能した。

 人形姿は食事が不要とはいえ、腹が減る感覚は残るのだ。

 満足して人形に戻ると、また一人変な事を言う衛兵が現れる。


「ん?んん!?魔王様、さっき玉座の間に居ませんでしたっけ?」


「食堂でカレー食ってたけど?」


「さっき玉座に座って、色々とボタン押してたのを見掛けたんですけど。見間違えるわけないしなぁ」


「おい、どういう事だ?」


「あ・・・」


 ピンと来てしまった。

 というか、この城のセキュリティの根幹を揺るがす事態だと思う。



 三人で玉座の間へ向かうと、そこには魔王が座っていた。


「魔王が二人!?双子だったのであるか?」


「そんなわけないでしょうよ!」


 僕は本気なのかボケなのか分からないコバの言葉に、ツッコミを入れた。

 そして彼はボタンから手を離し、立ち上がってこう言った。


「僕が一番魔王を演じれるんだ!」


「おい!本物よりオーラ出すのやめろ!」


 爽やかな笑顔でキラッという感じのオーラを出す偽魔王。


「お久しぶりです。魔王様」


「ラビは何かの報告?」


「帝国と上野国が動きました。此方へ攻めてきます」


 やっぱりというか、やっとというか。

 とにかくこれで新しい力を試せると、二人して気を引き締めた。

 そこに一人だけ、別の事に囚われた男が居る。


「べ、別人!?」





「という事は、城門の顔認証システムも問題無く、誰からも疑われずに城へ入ったと?」


「そうですね。どうやって入っていいのかわかりませんでしたが、勝手に開きました」


「・・・吾輩の顔認証システムよりも、此奴の変装の方が凄いのか」


 コバは自分が組み上げたシステムがラビに破られ、大きくショックを受けたようだ。

 珍しく声のトーンが低い。


「網膜認証と指紋認証も組み入れて、万全を期すのである!」


 そこまで行くと、三代目の大泥棒クラスじゃないと無理な気がするけど。

 ラビなら破る気もしないでもない。


「わざわざ城に入るのに、そこまで面倒だろ」


「駄目なのである!この城はビビディと吾輩の力の結晶。魔王を守る盾でもある。それを簡単に破られたのでは、吾輩のプライドが許さん!」


「う、うーん。そこまで言うなら・・・」


 流石の兄もコバの迫力に押された。

 改善点が分かっただけ、良しとしよう。


「それじゃ、ちょっとラビの話を皆で聞こう」






 前回より大きな部屋に、以前と同じ面子が集まっている。

 しかし更に人数は増えていた。

 今回は防衛という事で、前責任者の又左と弟の慶次。

 そして若狭に行った時に活躍したイッシー(仮)に、召喚者で力もある佐藤さんと太田も追加。

 最後に新しい武器開発を担当しているコバと、その護衛役にロックが加えた面子が、今回の会議に参加している。


「多いな・・・」


 目の前に座っている人達を見た、率直な感想だった。



「じゃあラビ、よろしく」


「はい。まず帝国と上野国から攻めてくる人数ですが、おそらく五万は超えると思われます」


「そんなに多いの!?」


「帝国と滝川様のどちらが警戒しているのか分かりませんが、帝国側の人数だけで約四万は超えます」


 それって、完全に潰しに掛かってきてるよな。

 安土が魔族の都市の中でも、かなり重要だと思われてるって考えで合ってるかな?


「そして上野国へ潜入した際に知った事なのですが、今回帝国側は強者三人を筆頭に、召喚者をかなり動員しているようです。その強者は将軍並みの扱いでして、Aクラスと呼ばれています」


 Aクラス?

 初めて聞く言葉だな。


「この中で一番最後まで帝国に居たのは、ロックだっけ?」


「お、俺っち!?」


 全員の視線が集まったせいで、慌てて姿勢を正していた。


「そのAクラスの話は知ってるの?」


「知ってるけど、相手が誰かまでは知らないよ」


「私も誰かまでは確認出来ませんでした」


「そもそも、そのクラス分けは何だ?俺が帝国に居た頃は、そんなもの無かったぞ?」


 イッシー(仮)はその話を知らないらしい。

 佐藤さんも横で頷いている。

 という事は、最近出来たシステム?


「あー、じゃあ俺っちが知ってる事を話すね。まずクラスにはAクラスからEクラスまである。さっきこの人が言った通り、Aクラスは将軍並みの扱いを受けるエリートさんだ。帝国の中でも、相当良い暮らししてると思う」


 そういえばセリカが、実力で家とか買えるみたいな事言ってた。

 そうするとAクラスの連中は、大金持ちって事か。


「先にDクラスの話をしておくと、これは召喚されたばかりの連中の事を指す。だから実力未知数で、これからクラス分けされる研修生ってところだ」


「それは、前田さんと戦った頃の俺みたいなもんか」


 佐藤さんが、多分自分の帝国での扱いだと言っている。

 まだ実力未知数の扱いだったけど、実際だとどのクラスだか分からないな。


「そしてCは戦闘に参加出来る最低限の連中。ちなみに長可さんとこの蘭丸くんの嫁さん、セリカちゃんだけど、このクラスに入るね」


「あの子も入っていたのですね」


「話を聞くと諜報活動がメインだったみたいだから、Bには上がりづらかったと思うよ?」


 戦闘が主に評価対象になるなら、セリカにはキツかったのかも。

 それでも殺し合いしないで済んだのだから、僕は彼女は幸せだと思う。


「それでBクラス。これは一番多い。ちなみに俺っちもBクラスだった。Bクラスの中で上位なのか下位なのかは分からなかったけど、実力差はあるかな」


 ほぼ一般兵士の扱いっぽい。

 多分上の方だと、小隊長とかやってるんだろう。


「ちなみにBクラスの人数は千人以上だよ」


「は?帝国ってそんなに召喚してるの!?」


 Bクラスでそれだけ居るなら、全員で倍近くは居るんじゃないか?


「なあ、Bクラスの連中って、どんな連中が多いんだ?例えばボクサーとか、お前の合気道とか」


「流石はキャプテン、良い所突くね。でも俺っちもそこまで把握してないけど、やっぱり運動経験者や格闘技経験者が多いよ。変わった人だと、自衛隊や傭兵経験者も居るし」


「流石に最後の二つは戦いたくないな・・・。俺達じゃあ役不足だろう」


「そうですね。自衛隊とか傭兵の人達が銃なんか持ってたら、ボクシングやってても勝てる気しないかな」


 イッシー(仮)と佐藤さんは、その二人にはドン引きだった。

 ロックも自分で話しておいて、俺っちも逃げると言っている。

 というより、僕は微妙に最後に残ったEが気になった。


「残ったEは何?」


「あ〜、Eクラスは何というか・・・」


 歯切れの悪い言い方をしている。

 さっさと言えば良いのに。


「ハッキリ言えば良いのである!」


「コバは知ってるの?」


「知らん!だが分かる」


 自信満々に言ってるから知ってそうなのに、知らんって。

 でも分かるのも凄い。





「Eは使えない連中の事である。要はカプセル行き。一番下のE、もしくはエネルギーのEである!」

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