コバの講義とお茶
解散した後、スカウトに向かったからそのまま放置していたロック。
翌朝になると燃え尽きて路上に座っていた。
コバと一緒に研究所へ連れて行き、昨日の出来事を聞いた。
何処にも居場所が無い。
城へ行くも相手にされない。
そしてオカマに追われる。
一晩でなかなかの時間を過ごした彼は、コバが逆にボディガードとしてスカウトをした。
そもそも街中に危険は無いので、ほとんど名目だけだったが。
居場所が出来た彼は、オカマに追われない事を祈りつつ、眠りに落ちた。
コバと二人になると、昨日の会議前に話をしようとしていた件を聞く事になった。
一言で言うなら、研究所に人手が欲しいという事だった。
研究や開発ではなく、量産を考慮した話だという。
僕はその意見を受け入れ、会議でその件を出すと約束した。
そして変態と変態の掛け合いで終了した会議の続きが、ようやく始まった。
ゴリアテを防衛責任者として立て、今後の編成を考えるという事で終わるはずだった。
しかし、そこで新たに話を切り出した男改めオカマが居た。
ベティはゴリアテには指揮権を渡さないと言う。
険悪な雰囲気になりそうだったが、理由を詳しく聞くとゴリアテも納得。
僕もその話には説得力があり、誰もがそれが正しいと思った。
一人だけを除いて。
「説明、必要ですか?」
意図している事が分からない男。
それは、僕の横で玉座という目立つポジションに座っていた。
「さて、説明は不要なので。次の話を・・・」
「ちょっ!ちょっと待ってよ!俺だけ仲間外れは嫌だー!分かりやすく説明を求む」
面倒だなぁ。
「兄さん、少年野球の監督をやるとするでしょ。その時、同時にやった事の無い少年サッカーの監督を同時に出来る?」
「出来るわけが無い」
「ゴリアテが野球で、ベティはサッカー。空からの行動なんか、専門の人じゃないと指示出せないって事」
「なんだよ。最初からそう言ってくれれば分かるのに」
だから、言わなくたって皆は分かったんだよ!
このバカチンが。
「とりあえず次の案件に移りたいんだけど。これ、コバからの依頼ね」
先程話した事を、皆に伝えた。
誰かコバの希望に沿う人や、やる気がある人が見つかるかどうか。
「うーん、緻密ですか」
「心当たりがある人とか、誰か思い当たる人居ないかな?自薦他薦問わないよ」
やはりそんな人、居ないのかもしれない。
しかし、一人だけ心当たりがあると手を挙げた人物が居た。
ゴリアテだった。
「魔王様の言う緻密がどれ程のものが分かりませんが、オーガの中で器用で繊細な男は居ます」
「オーガの中で!?俺、会った事あるかな?」
「ありますあります!むしろ、話してますよ」
話してる?
オーガだと、僕じゃなくて兄が話してる人の方が多い気がするな。
誰だろう。
「駄目だ!分かんね」
「意外ですね。キャプテンは認めてましたよ」
「分かった!ダビデだ!」
「ダビデ?オーグのお見合いの?」
認めてたってなると、唯一オーグを気に掛けていた彼しかいないと思われる。
違ってたら、僕じゃ分からない。
「正解です。オーガの中では非力でも、他の種族と比べれば頑丈です。緻密な作業も苦手としてないですし、もし暴発してもダビデなら耐えられるでしょう」
「条件に当てはまるって事か。ダビデの意思もあるから、拒否されなければ、是非助手にしてやってほしいな」
僕が先に答えたのが、気に入らなかったのかもしれない。
横からダビデのくせに繊細だと!?とか、小さな声で文句を言っているのが聞こえた。
「ゴリアテは半兵衛と一緒に、防衛隊の編成をしてくれ。半兵衛はゴリアテから、誰がどのような力を持っているか聞いて、ゴリアテに助言を頼む。それじゃ、今回は終わりという事で」
帝国と上野国連合軍が来るのは、もう少し先だろう。
ならば今のうちに、僕等もレベルアップを目指さなければならない。
「というわけで、昨日話した通りに別行動だね。僕はコバに教えを請うよ。あまり乗り気じゃないけど」
「俺はキャプテンストライクかな。変身時間の延長を目指してみる」
「それじゃ、また夜に会おう」
僕は研究所へコバを訪ねた。
研究所も本来は顔認証らしく、何故か人形も認証されていた。
後で確認すると、忍び込んだ時に映っていた防犯カメラから、顔を認証したらしい。
何気にやる事が早いと、ちょっと悔しい気持ちになった。
「うん?魔王であるか。今は所員の選別試験を行なっている。一時間したら、彼等と一緒に話を受けなさい」
話?
講義でもするのか?
一時間後、選抜試験に残った二十人と一緒に、少し大きな部屋へ移動した。
その部屋はすり鉢状になっていて、大きなスクリーンに加えて机と椅子が並んでいた。
まんま見た事ある感じだった。
「諸君、試験合格おめでとう。キミ達はこれからはこの・・・」
ドン!
シュタタッ!!
「ドクタァァァ!!」
クルッと回転
そして、段差でコケた。
「イテテ。・・・コバァァァ!!」
見事に静まり返っている。
誰も何が起きたのか分かっていない。
「んん!このドクターコバの研究所員として、働いてもらう事になる。まずは今回考えている、クリスタルを使用した武器について説明しよう」
約二時間経った。
そんな事も気付かなかった。
コバは講義を終えて、最後に所員達の仕事を説明した。
選ばれた所員達は満足そうな顔をしている。
コバの話を理解して、明日からの仕事が楽しみだと言いながら帰っていった。
全員が帰った後、僕は個人的に教わる事になっていた。
「どうだったであるか?」
「うん。めっちゃ分かり易かった。少し悔しいくらいに」
「悔しいとな?」
悔しいとは違うのかもしれない。
でもそれに近い感情だと思う。
「普通さ、天才って呼ばれる人は自分の中で解決しちゃって、人への説明とか下手くそってイメージなんだよね。それなのにコバの説明、正直めちゃくちゃ分かり易かったんだよ!」
「ハッハッハ!!当たり前なのである!」
ほら!
こうやって調子に乗るから嫌だったんだ。
でも事実だから仕方ない。
「一つだけ言っておこう。天才だからこそ、説明が下手な事はあり得ないのだ」
は?
何で?
「不思議そうな感じをしているの。人形の顔は変わらんが、雰囲気で分かるぞ」
これもまた自分が天才だからと、調子に乗って言っている。
うぅ〜、なんかムカつく。
「話を戻そう。まず天才だから説明が下手というよりは、口下手なだけだと思われる」
「口下手?」
「天才が思いついた事を、どうやって証明する?別に口にしなくても、パソコンを使って資料をまとめるでも良い。整理して凡人に分かりやすく要点をまとめなければ、誰も理解が出来ないだろう?」
「一理ある」
「これは天才に限った事ではない。学校の先生だって、予習くらいしているのと同じ事なのである。だから吾輩の研究は、吾輩が一番勉強しているのだから、誰よりも上手く説明出来る自信があるのである」
アレか?
自分の事は自分が一番理解しているってヤツか?
それにしても、脱線した話ですら聞き応えがあった。
「それにだな。天才は一を聞いて十を知るという。吾輩がトライクを分解して、魔力伝達の仕組みが分かったのは、まさにコレであるな」
「自分で言うなよ」
「それに対して凡人は、一を聞いて一を知れば良い方だ。二や三を聞いて一を知るレベルも居るだろう。しかし、それは教える側のやり方次第で、大きく変わる!」
「それは、予備校の人気講師と学校の新人教師みたいな感じ?」
「それだな。魔王はなかなか理解力がある方だから、楽で助かる」
おぉ!
天才に褒められると少し嬉しい。
って、何でコバに言われたくらいで、一喜一憂しなきゃならんのだ!
「吾輩も伊達に、色々な所で教えていなかったと答えておこう」
「何処かで講義をしていた経験があるって事ね。経験による裏付けって事か」
「そういう事である。では、知りたい事を教えるが良い」
そして僕はコバの講義を受講して、予想以上に話が面白くてやはり悔しい思いをするのだった。
何処でやるかな?
やっぱり誰も居ない所でやるのが、修行っぽくて良いだろう。
ただ、何をすれば良いのか分からない。
変身して筋トレ?
それとも走ってみる?
いやいや、そんな事しても筋力が付くだけだろう。
分からん。
悩んでいたその時、そこにやって来た奴等が俺の神経を逆撫でしまくった。
「お前、何してんだ?」
「お前等は何だ。デートか?ケェーッ!」
「そんな、デートだなんて・・・」
あーっ!
ホントなんつーの、俺の神経で琴でも弾いているんですか?
ビンビン跳ねまくってるんですか?
それくらいウザい空気を出してくれている。
「それで、本当に何してるんだ?」
「・・・特訓」
「何の?」
「変身した時の」
「何もしてないように見えたが」
「何して良いか分からないんだよ!」
蘭丸、昔みたいにぶん殴ってやろうか。
お前も特訓しろよ!
そんなんじゃ、いつまで経っても一人前になれないからな。
「変身した時とは、何をされたいんですか?」
俺はセリカに詳しい事情を話した。
魔力の消費が激しい事。
短時間しか変身出来ない事。
するとセリカは突拍子も無い事を言い出した。
「お茶を飲みましょう」
そこは長可さんが住んでいる家の近くだった。
いや、今は長可さんとセリカの二人暮らしだったかな?
結婚前から旦那居ないのに嫁姑が同居するって、あんまり聞かないけどね。
そして連れて行かれたのは、その家から五分足らずの場所だった。
周りはちょっとした竹林になっていて、近所には他の家すら無い。
そこには小さな小屋があった。
テレビとかで見た事がある、これぞ茶室って雰囲気だ。
「道具はお義母様に用意して頂きました」
「キャプテンが何やらお困りとお聞きしました。セリカさんの話によると、もしかしたら解決出来るのではと思いまして」
長可さんが綺麗な着物を着て、その小屋で待っていた。
というか、何故こんな事になった?
「まずはお茶を点てましょう」
「中へお入りください」
セリカに促されて話が勝手に進んでいくが、俺には大問題が待っていた。
「ちょっと待ってくれ!俺、茶道の礼儀も作法も知らないよ。そんなんでこんなちゃんとしたお茶なんか、飲んじゃ駄目じゃないのか?」
「確かに作法は大事です。でも、相手に対して礼儀さえ持っていれば、そこまで拘りませんよ」
軽く微笑む二人に俺は断る術も無く、流れで茶室へと入っていく事になった。
「蘭丸!貴方はキチンとしないと、一人前に認めませんよ」
顔が綺麗だから鬼の形相とは言わないが、それでもちょっと怖かった。
蘭丸ザマァ!
「では、今回は私が点てます」
そう言って長可さんが茶碗に抹茶を入れた。
なんかよく分からんヤツで茶碗の中を掻き回す。
ん?
こういうお茶って泡立てるんじゃないの?
思ってたのとちょっと違う。
見た事無いから意外と興味深くて、気付いたら完成していたらしい。
「お前が最後に全部飲め」
小声で蘭丸が教えてくれた。
どうやら順番に飲むらしい。
コレ、知ってるぞ。
結構なお手前で、って言うヤツだ。
アレ?
言わなかった。
俺も言うのかと少し期待したのだが。
そんな事を考えてると、俺の前に茶碗が来た。
抹茶とか、あんまり好きじゃないんだよなぁ。
アイスとかでも好んで食べないし。
長可さんに悪いから、美味い!って言わないといけないけど。
どっちみち、美味いかなんか素人の俺には分からん!
ええぃ!南無三!
「あ、美味い」