チャラおっさんとマイペース研究者
コバが会議に乱入して来た。
ゴリアテの手で追い出される寸前、意味深な事を言った。
新しい武器を考えている。
興味を持った僕達は、コバの会議参加を認めた。
それが地獄の始まりだった。
「ドクタァァァ!!コバァァァ!!」
「ベティよおぉん!!」
幾度となく続くこのやり取り。
会議の参加者の大半は意識を失った。
そして半兵衛は、危うく違う世界へ旅立つところだった。
無限に感じたその時間も、とうとう終わりを告げる。
ベティこと佐々成政は、コバに席を譲る事で解決したのだ。
二人の事は解決したものの、他の参加者の精神は復帰不可能だった。
結局その日の会議は、意味不明なやり取りを見せられただけで、解散となった。
翌朝、目が覚めた僕は、外の散歩に出掛けた。
目的はコバが作った建物だ。
何かを研究していると思うのだが、気になったので潜入してみようと考えた。
通気口からすぐに入れたものの、コバにすぐに発見されてしまう。
しかし現在開発途中の武器を教えてもらい、満足していた。
すると外に誰かが居るとコバは言う。
それは昨日一緒に安土へ来た、ロックの姿だった。
コバが何をしているのか尋ねると、ロックは言った。
置いていかれて居場所が無いと。
忘れてた。
初めてこの都市にやって来たロック。
家も無ければお金も無い。
そりゃ朝まで路上生活になるわな。
「すまん。存在を忘れてた」
「存在を忘れてた!?俺っち死人と変わらない!?ん?魔王様の気配?」
今更気付いたのか。
というより、やはりコイツも僕だと分かるらしい。
魂がなんちゃらは、伊達じゃないという事か。
「あの、とりあえずご飯食べたい・・・」
「魔王よ。流石に召喚者に対してこの扱いは酷いのではないか?吾輩には召喚者に酷い事をしたら、敵とみなすぞ!などと語っておったのに」
「うぅ・・・。それを言われると返す言葉もございません」
くそ〜、コバに諭されるとは思わなかった。
ちなみにロックは今、茶漬けを口の中にかけ込んでいる。
昨日のコバの残したご飯を、お茶でぶっかけただけなのだが。
二人に聞くと帝国には、茶漬けが無いらしい。
コメ食文化はあるものの、たまにこういった日本の食事だ!っていう物が無いという。
「美味かった!生き返った。本当にありがとう」
「うむ。年下の吾輩にもちゃんとお礼を言う。このおっさん、なかなか素晴らしい人物だと思うぞ?」
「だったらおっさんとか言うなよ」
「心は十代だぜ!ベイベー!」
「やっぱりそうでもないのである」
チャラおっさんとマイペース吾輩野郎。
どっちもどっちだと思うが、それは言わぬが吉だと思った。
「それで、昨日は何してたんだ?」
「解散した後は街の散策とスカウトだね。とにかく面白い人材には声を掛けまくったさ」
やっぱり予想通りの行動だったか。
しかしその後が何故、あんな燃え尽きた姿になったのか。
興味がある。
「夕方も過ぎて、そろそろおしまいかなと思った頃。俺っち気付いたんだよね。何処行けば良いんだろうって」
「城には行かなかったのか?」
「行ったけど、誰も居ないし城門は開く気配無いし。インターホンは18時過ぎると鳴らないらしい」
自分の家なのに初めて知った。
夜になると鳴らないって、それ欠陥なんじゃないか?
「子供は夜になったら、寝るのが仕事なのである」
「お前の仕業か!」
そこまで子供じゃないわ!
中身はアラサーだからな!
「その後、どうにかして城の人に連絡しようと門を叩いてたら、警備員に追いかけられて逃げたさ」
「何で逃げるんだよ!説明すれば良かったじゃないか」
「オーガが金棒持って怒鳴りながら来るんだよ!?俺っちじゃなくてもアレは逃げるって!」
うーん。
想像すると怖いな。
警備関連も、少し見直しが必要かもしれない。
「どうにか逃げた俺っちは、腹が減って他の人を頼ろうと思った」
「おぉ、それはマトモな考えだな」
「誰も家が分からなかった」
・・・うんまあ、そうだよね。
初めて来て半日。
当たり前だわ。
「仕方なく、暗くて人通りの少ない所で座ってたら、とんでもない化け物に追いかけられて・・・」
「化け物!?」
「大きな翼が生えた化け物だった。俺っちより大きくて、物凄く怖かったんだよ!!」
翼が生えた化け物か。
ツムジ・・・は、まだ小さいし可愛い部類だろう。
それとも会ってなかった間に大きくなったかな?
そもそもアイツは喋れるし、そんな怖い事言わないか。
「ふむ。ベティであるか」
「あぁ、そんな事言ってたかもしれない」
「アイツかよぉぉ!!」
「捕まったら食われる!そう思ったら、自分が何処を走っているのか分からないくらいに、逃げたんだよね」
食われるの意味がどっちにも取れるのは、気にしちゃいけないんだろう。
「疲れ切った俺っちは、暗がりに居たらまた襲われると思ったんだ。だから他人から目に付きやすい所で、朝まで警戒しながら彼処に座ってたって訳さ」
話を聞くと、一晩でまあ随分と凝縮された夜を過ごしたものだ。
彼にも住まいを用意しなくちゃいけないんだけど。
そういうの、僕が勝手に決めて良いのか分からないんだよなぁ。
「もう安心して寝たいんだよ・・・」
「ふむ。ちょっと聞くがおっさんよ。アンタ強いのか?」
「強いかって聞かれたら、まあ弱くはないと思うけど」
コバはこっちに視線を送ってきた。
蘭丸よりかは強いから、まあ弱くはないかな。
それを考えて、僕は無言で頷いた。
「分かった。おっさんは吾輩の研究所に住むと良い」
「えっ!?」
これには僕もビックリだ。
日本人嫌いどころか、おそらく性格的にも嫌いそうなタイプなのに。
本人も驚きを隠せていない。
「勘違いするな。タダでとは言わん。吾輩の専属ボディガードとして働けと言っておるのだ。とは言っても、この街に危険は無いだろうがな。何処ぞのスパイでも来たら、分からんでもないがな」
「なるほど。それは良い考えだ」
「でも俺っち、芸能プロダクションとしての仕事もしたいし・・・」
「このバカタレ!さっき言ったではないか。この街に危険は無いと。だから普段は何してようが関係無い。夜間は何があるか分からんから、研究所と吾輩の警備を極力してもらいたいとは思っている」
そうすると、夜以外はほとんど自由って事か。
「ん?夜は家に居るけど、昼間は自由って。それ、無職と変わらなくない?」
「違うよ!俺っちも家に金入れるから!」
「家って誰に渡すんだよ!」
とにかく、ロックの居場所が出来たって事で。
「すぐにイビキをかきおったわ」
研究所の一室にロックを連れて行くと、オカマに追われないと安心したのか、すぐに寝たらしい。
「もうちょっとしたら、昨日の続きで会議をやるけど。コバはどうする?昨日、何か言いたかったんじゃないの?」
「そういえばそうだった!」
今更思い出したか。
「吾輩、研究所の所員が欲しいのである」
「それ、必要なの?」
「疑っているな?必要である。というよりは、魔王達魔族の為である」
どういう事だ?
僕達の為と言われると、真面目に聞くしかない。
「良いか?研究や開発は吾輩一人でも出来る。しかし、量産には人手が必要なのである。吾輩が今開発している、クリスタルを使った武器も、一人で作るとなるとおそらく片手分しか無理だろう。しかしそれが五人、十人になれば?」
「もっと量産出来ると?」
言い分としては分からんでもない。
でも懸念材料もある。
「それ、情報漏洩の危険もあるんじゃないの?」
「・・・無いとは言い切れん。しかし!吾輩は彼等が欲に溺れて、そんな事をするとは思っていないのである!」
まさか、此処まで魔族に対して信頼があるとは思わなかった。
何が彼をそこまで心酔させるのだろう?
未だによく分からん。
「それに本当に核心的な部分は、流石にブラックボックスにするのである。武器だからな。鹵獲される心配だって考えているつもりだ」
「そこまで考えているのなら、僕は特に反対しない。今日の会議で皆に伝えておくよ。ちなみにこんな人材が良いって希望は?」
「まずは知識。それと器用さ。それと魔力が緻密に操れる者が居ると助かるのであるな」
「前の二つは分かるけど、最後の魔力を緻密に操るっていうのは?」
「簡単なのである。開発した物の実験を頼みたい。いきなり多くの魔力を注ぎ込むと、暴発する恐れが考えられる。しかし緻密に少しずつ操れるなら、その危険も少なくて済む」
魔族の危険を考慮しての事か。
やっぱりコイツ、変だけど良い奴だと再認識した。
「じゃあその希望も伝えておく。その開発途中の武器が完成したら、また声を掛けてくれ」
「任せるのであるな。何故なら吾輩は」
シュビッ!
シュタタッ!
パーン!
「ドクタァァァ!!」
キュキュッ!
ターン!
「コバ・・・!!」
パタン。
「おい!途中で扉を閉めるな!」
昨日と同じ部屋、同じ時間に昨日と同じ面子が集まった。
一人だけ来ていないが、既に用事を済ませたので特に問題は無い。
「昨日の続きだけれども、何処まで話したっけ?」
安土が狙われているところまで、だったかな?
とは言ったものの、此方からする事は何も無い。
主にする事と言えば、監視網を広げて警戒を厳にする事くらいだ。
普段より少しだけ防衛隊を多くして、いざ接近を確認したら全員戦闘配備と言ったところだろう。
「えーと、防衛任務のトップは誰になるのかな?また元に戻るの?」
「元に戻るというと、又左返り咲き?」
うーん、それはどうなんだろう。
この前の戦いを見る限り、前線で暴れさせた方が仕事している気もするんだよなぁ。
「俺としてはゴリアテのままで良いと思う。俺達が居ない間にこなしてたし、佐々じゃなくてベティが来た時も、対応はちゃんとしてたみたいだからな。今更又左に戻したって、下の連中は誰の命令を聞けば良いか、混乱するだけだろ」
「私も賛成です。ゴリアテ殿の事は何一つ分かりませんが、話を聞く限り魔王様からの信頼も厚いようです。それならば、今のままの方がよろしいのではないでしょうか」
兄に続いて半兵衛までゴリアテ続行派か。
特に誰も反対意見無いし、このまま進めてしまおう。
「反対意見も無いようだし、このまま安土防衛の責任者はゴリアテ続行という事で」
「全力を尽くす所存です」
ゴリアテが立ち上がり、僕達に向かって礼をする。
あー、会議なんてあんまりした事無いから、この後どうすればいいか分からないんだけど。
誰か終わりって宣言してくれないかな?
「他に何かある奴はいるか?」
「はぁい!」
出たな化け物!
もといロックの精神を疲弊させたオカマよ。
「アタシ達も防衛に当たるけど、指揮権は渡さなくても良いわよね?」
「それは、ゴリアテ達とは別行動を取る。そういう事で良いのか?」
「別にアナタの指揮を疑っているわけではないのよ?ただ、私達の戦い方を知らないアナタには、少し難しいと思っただけ」
「それは暗に、俺の指揮能力を疑っていると言っているように聞こえるのだが?」
むむむ!
少し空気が張り詰めてきた。
ちょっと二人の間に険悪な雰囲気が流れているぞ。
でも、そこはベティが軽く流した。
「そうじゃないの。アナタ、空から俯瞰して物事が見える?」
「いや、それは無理だが」
「だからね、アタシ達はそれが出来るの。分かりやすく言えば、何処かが危機に陥ったとしても、遠く安土に居るアナタには情報が来るのが遅いでしょ?アタシ達には空からそれが分かるのよ。言っている事が分かったかしら?」
「なるほど。そういう事ですか」
遊撃部隊及び、救援部隊ってところかな。
ベティ達鳥人族は、空から危険な場所へ飛んで行って、そこを支援する。
また物資が足りなくなれば、そこへ空輸も出来るって感じだろう。
飛行機もヘリも見た事無いこの世界で、空を制する。
戦闘能力はどんなものだか分からないけど、それだけでかなりの優位には立てそうだ。
鳥人族やるなぁ!
「すいません。よく分からないので説明お願いします」