混ぜるな危険
安土へ戻ってくると、色々な物が様変わりしていた。
門は都市となった安土に合わせて大きくなり、街の中も変わっている。
そしてその大半が、ドクターコバの手によるモノだと発覚した。
帰還した遠征隊を解散させた後、上野国の動向を知らせるべく、主だった者を城へと集めた。
城へとやって来ると、僕達は驚愕する事となった。
城門は顔認証で開き、高い天井の城内はエレベーターで地下から最上階まで行ける。
玉座の間だけは特別みたいだが、これは便利だ。
皆が集まりドランと半兵衛を紹介した。
すると座っている玉座の肘掛けに、小さなモニターを発見する。
そこに映し出された化け物。
もとい胸筋の凄いオカマ。
それが鳥人族のトップである佐々成政だった。
自称ベティと名乗る佐々成政を巻き込み、会議は本題へと入った。
安土が狙われている。
ズンタッタ達とドラン、共に同士討ちの可能性がある両者に不参加でも良いと確認したが、その決断は戦うという返事だった。
そして佐々成政も厄介事だと言いつつ、参加を表明した。
丹羽長秀の魔族連合の話が大きかったと、この時に改めて知ったのだった。
そんな時、エレベーターが上がって来た。
中から現れた男。
それは・・・
「帰ってもらえ」
「おい!誰がこの城を改造したと思ってる!」
見た目は某夢の国を思わせる洋風の城なのに、お前が勝手にハイテク化させまくっただけだろ。
そんな威張るんじゃないよ。
「私がお相手しましょう」
ゴリアテが立ち上がり、コバの目の前まで向かっていった。
「お?コノヤロ!デカイからって吾輩は屈しないぞ!」
「コバ殿。今は重大な会議の最中です。どうかお引き取りを。言葉で分かっていただけなければ・・・」
「お?やるのか?お?ヘイヘイ!」
へっぴり腰でファイティングポーズを取ったコバ。
ため息を吐きながらゴリアテが前へ出る。
「え?ちょっ!?待って。本当に待って。今、どうしようか考えるから」
明らかに挙動不審になったコバは、唸りながら考え込んでいた。
結局ゴリアテに、白衣の首根っこを掴まれてエレベーターの方へと連れて行かれる。
「あっ!ちょっと聞いて!」
「だから会議の最中だと・・・」
「戦の準備なら、新しい物考えてるから」
むむ!?
聞き捨てならないな。
「コバも参加させるか」
「よろしいのですか!?」
「良いんじゃね?武器か何かの案があるみたいだし。下手にヘソ曲げられるよりか、此処で聞いておいた方が良いだろ」
兄も似たような考えみたいだ。
それに反して長可さんもゴリアテも、微妙に反対っぽい。
コイツ、安土に来て何しでかしたんだ?
普通ならこんな対応、されないと思うんだけど。
「ハッハッハ!それでこそ魔王!それでは吾輩も失礼して。む?」
「あら?」
どうやら座ろうとした場所が、ベティと被ったようだ。
椅子に手を掛けてお互い見合う二人。
シュタタン!
タッタカ!
「ドクタァァァ!!」
パーン!
「コバァァァ!!」
決まった。
そう言ってるかのようなドヤ顔を見せるコバ。
キュッ!
キュキュッ!
ターン!
「ベティよおぉん!!」
「なんだと!?」
スィースィー
シュッ!
「ドクタァァァ!!」
ドーン!
「コバァァァ!!」
シュッ!
シュッシュタタン!
トーン
「ベティよおぉん!!」
僕達は何を見せられているんだ。
このやりとりを既に五回以上見ている。
周りの連中は既に固まって動く人は居ない。
「ん?あっ!」
ヤバイ!
半兵衛の顔が真っ青だ!
この意味不明な行動に脳がパンク寸前っぽい。
こんなのを理解しようとするなんて・・・。
コイツ等は、凡人どころか天才には危険だという事が証明されてしまった。
「半兵衛、半兵衛!戻ってこい!甘い物を食べて脳を活性化させろ!」
隣に座っていたドランが、口の中に無理矢理お菓子を突っ込んだ。
口が動いているから、完全に壊れたわけではないらしい。
「はっ!?私は帰ってきたのでしょうか?」
その言い方だと、危うく違う世界に行くところだったのでは・・・。
「半兵衛よ。アイツ等を理解しようとしたら駄目だ。絶対にやめておけ」
「藤吉郎様の考えが理解出来ないのは、自分でも分かっているのです。しかしながら、このような方々がいらっしゃるとは。まだまだ私は未熟だと悟りました」
馬鹿と天才紙一重とはたまに聞くが、これは違うと僕は思う。
「お、おぬし。やりおるな」
「フフン。貴方こそなかなかやるわね」
何が?
何を?
全く分からない。
「良いわ。この席は貴方に譲る。アタシは貴方の隣に座る事にするわ」
「吾輩、譲ってもらったとは思わぬぞ?」
「それは気持ち。貴方の素晴らしさに、アタシが突き動かされたの」
「そうか。感謝する」
ようやくこの訳の分からない出来事が終わったか。
これで本題に入れる。
「それじゃそろそろ・・・」
「いや、無理だろ。ゴリアテとかズンタッタとか、白目剥いてるからな。あの長可さんですら、顔を伏せてしまってるし」
長可さんは小刻みに震えていた。
これ、笑いを堪えて顔を見せないようにしてると思えるんだけど。
「・・・解散!」
その夜、僕達は初めて城で寝る事になった。
その部屋は、何十畳もあるような広い畳の部屋だった。
「これまた、人形用に準備されてるんだな」
「そうだね。僕はてっきり、人形を立て掛けるスタンドでも準備されてるかと思ったんだけど」
「並んで布団が敷いてあるとは」
こうやって二人並んで寝るのは、いつ以来ぶりだろう?
同じ家に住んでいても、部屋は別々。
この世界に来てからは、同じ身体を使っていても、やっぱりそれはちょっと違う。
「小学生の頃以来か?」
「中学二年くらいでしょ」
同じ事を考えていたらしい。
やっぱり兄弟なんだと、少しだけ照れ臭い感じがした。
「でもこの広さは、修学旅行の大部屋を二人で寝てる気分だな」
「分かる。僕達だけで寝るなら、六畳の部屋に布団二枚で十分なんだけどね」
他愛もない話が、とても久しぶりに感じる。
この二人だけ空間が、そうさせているんだろう。
でも、そんな話だけでは終わらなかった。
「話変わるけどさ、なんか戻りづらくなったと思わない?」
「色々な人を巻き込んでるしな。本当ならハクトと蘭丸の三人。加えて太田くらいで、魂の欠片を探す旅をするだけだったのに」
「この先、どうなるんだろう?」
「戦争か。知ってる連中が死ぬのは嫌だな」
死ぬか。
僕達も死んだようなものなんだろうけど。
こうやって別の身体とはいえ、生きていられるのは運が良いんだろうな。
「死なないように。死なせないように頑張るしかないよね」
「死なせないように、ね。その考えが傲慢だと言われないくらい、強くならないと駄目だな。明日からまた変身の練習して、長時間変身出来るように頑張るか!」
「僕もコバに色々と教わろう。変な奴だけど、頭は良いし」
「やれる事は精一杯やって、頑張って生きよう!」
「それが一番だね。明日また皆で話し合って、最善の策を考えよう」
話をしていて、何処で寝落ちしたのかは分からない。
気付いたら朝だった。
横を見ると、そこには畳んである布団があった。
どうやら先に起きて、何処かへ行ってしまったらしい。
僕も起きて散歩でもしてみよう。
そういえば城の隣、あの建物の中では何をしているんだろう。
コバが勝手に作ったのは分かっている。
突貫工事っぽく、明らかに造りが雑だ。
ま、こんな朝から音を立てて作業しているとも思えない。
今なら覗いても問題無いと思う。
「むむ!侵入者であるか!?」
普通に入口から入ればバレると思い、通気口として使われてた場所から侵入を試みた。
人形の姿だからね。
簡単に入れたのだが、こっそり行動したつもりが普通に見つかってしまった。
「動く人形!?昨日もあったなぁ。良い研究材料に・・・」
「やめんか!僕だ!」
「うん?魔王?この人形は研究材料にしては駄目なのか?」
「駄目に決まってるだろ!」
危うくバラされて、魂の欠片だけにされるところだった。
この姿だと魔法も大して強くないし、下手したらコバにやられるかもしれないからな。
「それで、何をしに此処へ?」
「散歩がてら、この建物が何なのか見学って感じかな。しかし朝早くから頑張るなぁ」
「吾輩、気になる事は調べてからじゃないと睡眠は取らない故。本当に駄目なら、勝手に倒れるだけだから問題無い」
倒れるだけって。
それが一番問題だろうが。
「ところで今は何をしているんだ?」
「昨日も言ったが、新しい武器の準備である」
そういえば、そんな事を言っていた。
エレベーターや顔認証の城門は、確実にコイツが作ったと分かっている。
だけど、他には何があるのか気になった。
「武器ってどんなの?」
「今回はクリスタルを使った物を、考えているのである」
「クリスタル?そんなの持ってたのか?」
「数少ない貴重な物を、分けてもらったからな」
よくそんな物を分けてもらえたものだ。
エレベーターとか城門の効果が大きかったのか?
「まず最初に、魔王が言っていた洗濯機や冷蔵庫のような生活製品を試作したのだ。冷蔵庫は水魔法や氷魔法の影響もあり、不要だと判断した。しかし洗濯機は好評だったのである!」
「洗濯機、本当に作ったのか!?」
「吾輩の手に掛かれば、それくらいは簡単なのである。トライクを分解して、魔力伝達の仕組みを理解。それに合わせて、魔力を注ぐと回るドラム式洗濯機を作ったのだ!」
マジかー。
コイツ、本当に凄いんだな。
「ちなみに炊飯器は作るつもりは無い」
「何故だ?」
「吾輩、初めて目の前で竃で炊いたご飯を頂いたのだが、その美味さに感動したのである。だから炊飯器は要らん」
「自己満足の世界じゃねーか!」
「世の奥様方に自由な時間を与える。これは素晴らしいと思う。そして吾輩は、洗濯機を開発してそれを与えた。だが!時間が掛かるからこそ、感謝出来る事もあるのである」
それっぽい事を言っているが、ただ自分が竃で炊いたご飯を食べたいだけだな。
「話が変わるが魔王よ。アレを見よ」
「アレ?」
窓から外を指差す方向を見ると、金髪の見た事のある男が路上に座っていた。
「アレは吾輩と同じく、カプセルに入っていた男ではないのかな?」
「朝からあんな所に座り込んで、何してるんだ?」
二人で外に出て、彼の元へと歩いていった。
すると僕等を見たものの、特に反応は無い。
そういえば人形姿だから、僕だと気付かないのだろう。
でも以前、魂が日本人だと叫んでるだか呼んでいるだか言ってたような?
見た目だけじゃなく、中身で判断しているような気がしたんだけどな。
「魔王。どうするのだ?このおっさん、死んだ魚の目とまでは行かぬが、釣り堀で長く暮らした魚の目をしておるぞ」
「その例え、よく分からないんだけど」
でもコイツ、昨日解散した直後に居なくなったんだよな。
おそらく安土を見て回って、スカウトしに行ったんだろうと思ってはいたんだけど。
朝から真っ白に燃え尽きたように座ってるのは、何か意味があるのだろうか?
「話し掛けなくて良いのか?」
「なんか話し掛けづらいんだよ。何でこんな姿になってるのか分からないし」
「ならば吾輩が聞いてやろう」
おぉ!
日本人嫌いだと言っていたのに、自ら動くなんて。
少しはコバも変わったのかな?
「おいそこの汚いおっさん。そんな所で何をしている」
「聞き方ぁぁ!!」
しかしその声に反応したロックは、僕等を見てこう言った。
「俺っち、置いていかれて行く場所が無いんです。仕事を・・・仕事をくだせぇ!」