鳥人族の長
半兵衛が安土へ来る。
それは誰もが予想しなかった出来事だった。
テンジも惜しむその頭脳。
嬉しい誤算だった。
今後の話をする為にドランの元を訪ねると、ラビと話をしていた。
どうやら上野国は、何処かに侵攻しようとしている節があるらしい。
しかもその場所は、安土が有力だという話だった。
予想と違う展開にはなったが、これを機に一度安土へ戻る事を決意する。
そしてその一団にはドラン達ドワーフも加わる事になった。
長浜を去る事になったので、最後に秀吉に挨拶に行った。
特に他愛もない話をして終えたのだが、ここで又左が不穏な事を言い出す。
結論として、天才の言う事は分からないという事で収まった。
長浜を出発してしばらく、安土へ戻る事をツムジに連絡をした。
すると大きな出来事として、二点ほどあった。
一つは引き入れた召喚者、ドクターコバのおかげで城の完成が間近だという事。
一つは鳥人族の長が来訪しているという事。
ツムジの話を聞く限り、とても気になる人物だった。
ようやく安土が見える所まで戻ってきた。
すると其処にはとてつもなく大きな城があった。
長浜よりも若狭よりも大きい、魔王の城だった。
しかし僕は見逃さない。
城の横に、前回戻った時には無かった建物がある事を。
何だあの建物?
城と比べると小さく見えるけど、実際はかなりの大きさなんじゃないか?
「私達が旅立つ時、あんな物作る予定ありましたっけ?」
又左でも不思議に思っている。
やはり記憶に無いようだ。
「とにかく、戻って見た方が早そうだ」
久しぶりの安土は、門も大きく変わっていた。
片側には綺麗な紋様が施され、片側には何故か大きな字で魔王と書かれている。
魔王の字に意味はあるのだろうか?
門に近付くと、帰ってきたのが分かっていたらしい。
何も言わずに門が開いた。
「おかえりなさいませ!」
門番が大勢整列している。
種族もオーガに獣人、驚いた事に小人族まで居た。
後で聞いた話だが、小人族は門番としてではなく、安土へ入る際の手続きや事務を担当しているらしい。
確かにそういう仕事は、小人族の方が適していそうだ。
「長旅お疲れさまでした。新たに安土へ来られた方々がいらっしゃるようですね」
長可さんがドラン達ドワーフと半兵衛達ネズミ族を見て、案内を頼んでいる。
この辺の仕事はやっぱり早い。
「城、外からでも見えたよ。凄く大きいね」
「ビビディ殿が人生最後の傑作だと、大きく語っております。しかしそれに相応しい城だと、自他共に認めていますよ」
城作りの名人がそこまで言うんだ。
相当凄い建物なんだろう。
ただ、長可さんのその後の言葉が不吉だった。
「しかし魔王様が引き入れたという方。あの方が来られてから、城の中は大きく変えられてしまいまして」
「どういう事?」
「便利な面もあるのですが、よく分からない物が多数増えております」
コバが色々と改造しているという事か。
よく分からないという言葉に不安を感じる。
「もしかして、城の横にある大きな建物も?」
彼等は無言で頷いた。
なるほど。
コバの差し金か。
「それと魔王様。もうそろそろ解散してもよろしいのでは?」
「ん?そうだね。ドワーフとネズミ族は安土見て回りたいだろうし。ハクトと蘭丸は帰りたいだろうからね」
「ですって。蘭丸、お出迎えですよ?」
なぬ!?
振り返ると、ソワソワしながら周りを見渡していた蘭丸が居た。
「お、おかえりなさい蘭丸さん」
「た、ただいま!」
人ゴミの中から綺麗な着物を着たセリカが現れた。
僕の背からは見えなかったが、蘭丸にはそれが発見出来たらしい。
わざとらしく見渡していたのは、照れ隠しか。
クソ!
リア充め!
【ケェーッ!爆散しろよ!】
「魔王様にもお迎えが来てますよ」
「何だって!?」
何処の女の子かな?
ソワソワしながら探してみたが、僕は見えてしまった。
嬉しくない。
「魔王様ぁぁ!!この太田牛一!その帰りを一日千秋の思いでお待ちしておりましたぞぉぉ!!」
その怒号にも間違えられそうな大声は、周りの人の視線を集めるには簡単だった。
やめて。
本当にやめて。
抱き上げないでください。
「男臭いから離してください」
「何故に敬語!?」
そこにビビディとチカが現れた。
チカの雰囲気が少し違う?
「おかえりなさい魔王様」
「ただいま」
なんか落ち着いた雰囲気になっていた。
子供っぽさが無くなったという感じかな。
「魔王様。とうとう城が完成しました」
「ありがとうビビディ。戻る途中からでも、大きく見えたよ」
誇らしげに語るビビディの横には、嬉しそうに笑うチカが居る。
平和だなぁと実感出来るのだが、それももうすぐ壊されるかもしれない。
ドワーフと帝国の連合軍がこの地に侵攻して来るかもしれないからだ。
「ズンタッタとビビディ、それに主だった連中を城へ呼んでくれ」
「マジで凄いなオイ!」
勝手に開く城門を見て、僕は叫んでしまった。
城門はなんと顔認証で、門番要らずのハイテクドア。
小人族の一人がシステム管理をしていた。
ドクターコバ曰く、小人族と妖精族はコンピューターの扱いを覚えるのが早いらしい。
当の本人達も、弱肉強食の世界で新たに活躍出来る場が増えたと大喜びだった。
コバ自身も鼻高々で自慢してきたが・・・。
「ほえ〜、天井高っ!」
「此方にエレベーターがありますので、最上階から地下まで行く事が出来ます」
案内をしてくれるスイフトは、今や城の管理責任者になっていた。
玉座の間にだけは鍵が必要らしく、今後は鍵持ちを複数人選ぶ事になるらしい。
候補者は長可さんと又左、それとアウラールやゴリアテになっている。
ズンタッタとビビディにも持たせて良いと思うのだが、本人達が固辞したとの事。
やはり自分達の主君は、あくまでも帝国の王にあるからとの事だった。
「凄いな。豪華過ぎて少し気が引けるよ」
【俺達、あんな所に座るの?ちょっと驚きだわ。ん?玉座の横に何かある?】
何だろう?
遠くて見えないな。
「玉座の横に小さな箱みたいなの見えるけど、アレは?」
「アレは魔王様の人形用の玉座です」
「人形用の玉座!?」
まさかの答えに、何て答えて良いか分からなかった。
【二人で座ってみる?】
そうだね。
この城なら安全だし、人形のままでも大丈夫かもね。
「魔王様、全員揃いました」
「うむ、苦しゅうない」
「苦しゅうないじゃないよ!」
「少しくらい良いじゃない!俺、普段は皆と喋らないんだから」
兄がアホな発言で、いきなり場の雰囲気を壊してくれた。
せっかく初めて集まったのに、もう少し厳かな雰囲気を出したかったわ。
「ごめんね。変な入り方をして」
「いえ、それよりも我々を集められたのは何か理由があるのではないでしょうか?」
「それなんだけど・・・」
僕等は長浜で起きた事を話した。
そして滝川一益の居る上野国が、戦力を集めて怪しい動きをしている事も。
「なるほど。それで彼等は此方へ助力してくれるという訳ですな」
「自己紹介が遅れました。ドワーフのドランと申します」
「私はアルジャーノン。皆からは竹中半兵衛と呼ばれております」
「あのぅ、ところでこれは一体?」
そういえば二人には説明してなかったかな。
というわけで、僕達の事情を話した。
「なるほど。砦攻略で変身されたのは此方の方で、普段は人形の魔王様が表に出ていると?」
「半兵衛は本当に凄いな。そこまで分かるのは、太田と又左くらいだったんだけど」
「私には何が何だか・・・」
ドランは気不味そうにしているが、普通はその反応だから気にしないでほしい。
そして二人の紹介が終わった所で、今後の対策に入ろうとした。
すると、インターホンの音が聞こえた。
玉座の肘掛けの横にある小さなモニターが光る。
「こんな所にインターホンのモニターがあるのか。マメに拘ってるな」
「つーかさ、これ誰?」
モニターに映るのは全く見た事の無い人物。
距離感が間違っているからか、胸元の筋肉がドアップで見える。
「このボタン押せば、話せるっぽいかな?」
「もしもーし!」
「あら?これから聞こえるのかしら?どうも〜佐々で〜す!」
僕はその姿を見て固まった。
そして兄も固まった。
「返事が無いわね。どういう事かしら?」
「え?あっ!えーと、誰?」
「佐々よぉん!遠く越中富山から魔王様に会いにき・た・の!」
ブツン!
僕達は何も言わずにモニターを消した。
ふう、何か悪夢を見たようだ。
胸筋が凄い男が化粧して、女言葉を使う。
明らかにオカマだ。
「よろしいのですか?」
「駄目なの?」
「いや、あの方も越中国という都市の領主をしておりますが」
「マジかよ!アレが領主ってその越中なんたらって所、大丈夫なの?」
兄が余計な心配をしているが、少しだけ僕もそう思った。
何故あんなのが領主になれたんだ?
「失礼な子ねぇ。でもそこが、か・わ・うぃ・うぃ!」
「のわあぁぁぁ!!!」
僕達の後ろから、さっき聞こえた声がする。
僕達は咄嗟に立ち上がり振り返った。
「は?飛んでる?」
「何を言ってるの?当たり前じゃないの」
当たり前?
「魔王様。此方が越中国の領主で鳥人族の長、佐々成政殿です」
遠慮気味に長可さんが紹介してくれた。
「なにいぃぃぃ!!」
「佐々成政よ。ベティって呼んでね?」
呼ばねーよ!
「あのさ、これから重大な話をしているんだよね。流石に領主と言えど、部外者はちょっと・・・」
「あらやだ!そうなの!?じゃあベティちゃんも一緒に聞いちゃ駄目?」
「うーん、駄目かな?」
「いや、良いぞ!」
何故許可を出す!
兄さん、何を考えているんだ!?
「ただし聞いたら最後。ベティにも手伝ってもらう」
「別に良いわよ!」
良いのかよ!
「じゃあ本題だ」
「ちょっと待って!」
「何だよ!」
「アタシ、魔王様を紹介されてないわ」
そういえばそうね。
もう投げやりでも良いかなと思えてきた。
「俺、魔王」
「僕も魔王」
「二人とも魔王。これで良いか?」
「良いわけ・・・なくはないか。とりま、二人とも魔王様って事ね!」
すんなりと受け入れてくれるのね。
まあそっちの方が早くて助かるけど。
「それじゃ本当に本題だ」
「簡単に言うと、安土がドワーフ達の居る上野国と帝国の連合軍に狙われてる。まだ確実じゃないけどな」
「何ですと!?大事ではないですか!」
ゴリアテが興奮して立ち上がった。
また筋肉が大きくなったような気がする。
「おそらくって話だけど。半兵衛はどう思う?」
「十中八九、安土が狙いでしょう。魔王様が大々的に自分が正当なる魔王だと宣言しました。そうなると帝国は面白くない。安土に居る魔王様を潰す為に、おそらくは安土の軍事力を知りたいのではと推測します」
「帝国ではない!ヨアヒム王子がしている事だ!」
ビビディが立ち上がり反論する。
半兵衛はその点を謝罪し、ビビディも落ち着きを取り戻した。
「さて、問題はここからだ。まずはズンタッタとビビディ。お前達は戦わない方が良いんじゃないか?」
「それは、同じ帝国軍人の同士討ちを懸念しての事ですか?」
「そうだ。来るのが王子派だとしても、同じ国の軍人同士が戦うのはどうなのかなと思うんだが」
「構いませんよ。奴等は目先の欲に目が眩んだ俗物です。別に仲間だとは思っていません」
理性的なズンタッタはすぐに同士討ちの事に気付いたが、ビビディが凄い。
王子派なんか敵だと言わんばかりに、殺しても構わないと言っている。
「それじゃアレか。ドワーフ達も同じだよな?」
「我々も同じ気持ちですね。ヒト族の方々がこのように言っているのに、我々だけ手を汚さないのは、ドワーフとしての沽券にも関わります。それこそ我等が領主、滝川一益様に笑われてしまう」
両者とも戦う気はあるという事か。
ならば、軍の編成もそのように考えて良さそうだ。
「あら、本当に厄介事だったわね」
「聞いたからには手伝ってもらうからな」
「どちらにしても丹羽ちゃんから話は聞いてるもの。アタシ達がどれだけ役に立つか、お見せするわ」
手伝ってくれるなら助かるな。
兄は巻き込んだもの勝ちみたいな考えだったみたいだけど、丹羽長秀の連合の話が色々と出回っているみたいだ。
それなら、最初から話に参加してもらって正解だった。
チーン!
「ええぃ!離せ!」
「だから今は重大な会議中でして!」
「吾輩を誰だと思っている!」
シュバッ!
スパパーン!
「ドクタァァァ!!」
キュキュッ!
スターン!
「コバァァ!!」
「帰ってもらえ」