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帰還

 ゴーレムは大して強くなかった。

 両手に剣を持ち、砦のゴーレムよりは上位版だと分かっていたが、慶次の一撃で手首が砕かれるくらいの強さだ。

 グレゴルの支援魔法がどれだけ強力だったかを示した結果となり、三人の攻撃に脆くも崩れ去るゴーレム。


 アナトリーとガンバスはそれを見て慌てたが、援軍が来るから守備に徹しろと言う。

 そして援軍が誰なのか話を持ち出したその時、アナトリーのこめかみは撃ち抜かれた。

 アナトリーが始末されたのを悟ったガンバスは投降しようとするも、同じように撃たれて死んだ。


 ようやくと自分の城に戻った秀吉。

 今まで行動をしてこなかった部下達が殺到してくる。

 しかし秀吉は非情な一言を言って、その場を凍り付かせた。

 そんな役立たずの代わりに声を掛けたのは、テンジだった。


 テンジは秀吉に全権を委任され、長浜の領主代理になる事となった。

 その決意には、同じような異端視された者達がもし安土へ行った後にまた虐げられるのでは?という配慮があった。

 そして彼は領主代理としてではなく、友人としてドランの助力をして欲しいと頼んできた。

 その心意気に僕は、安土からの援軍を出すと約束した。

 それでも上野国と比べると数は劣勢。

 そんな事を考えていると、ある人物が声を掛けてきた。





「半兵衛?」


「私は安土へ行きます」


 なんと!

 テンジ達の頭脳、片腕として活躍した半兵衛がこっちに来てくれるとは思わなかった。

 それこそテンジが手放さないと思っていたからだ。


「半兵衛が自分で決めたのです」


「魔王様には大変お世話になりました。それこそ私の魔法は短時間しか使えないと思っていたのに、改善方法まで示していただきました。それならば私は魔王様の為に、この力を発揮したいと思います」


「テンジは良いのか?」


「出来る事ならば、やはり残ってもらいたいという気持ちです。魔王様が自分達で話し合って決めろと言われたのに、限られた者達には駄目と言えるはずもありませんので」


 やはり半兵衛を手放すのは痛いようだ。

 半兵衛なら秀吉並みに仕事をこなしそうだしな。

 しかしこれは嬉しい誤算。

 秀吉が惜しむ顔が浮かぶというものだな。


「半兵衛が安土へ行くという事なのは分かった。あとはドラン達にも話を聞こうと思う。上野国へ向かうなら、足並み揃えた方が良いしね」





 テンジは城の大きな一室を、ドワーフ達に貸し与えていた。

 そしてドランには個室が与えられ、主だった者達にも少数の部屋が与えられていた。

 テンジに案内されドランを訪ねると、彼はラビと話をしていた。


「上野国の様子は?」


「相変わらず帝国兵が多く、街の様子も戦時下のような姿に」


「なるほど。何処かに侵攻するつもりかもしれないな」


 ラビは上野国へ行き、中を探っていたらしい。

 扉を開けた途端にいきなり物騒な話を聞いた訳だが、何処に攻めようというのだろう。


「その話は本当なのか?」


「魔王様。おそらくはそうなるかと。帝国兵が多く集まっているなら、そこで武器を受け取り何処かへ攻める算段になっていると思われます」


「攻めるなら何処だと思う?」


「長浜の可能性は低いと思われます。アナトリー達を始末したなら、木下殿が奪われた事は向こうにも伝わっているはず。それに此処には今、魔王様達が居るのも知れたと思われます」


 アナトリーとガンバスを撃ち抜いたのは、多分帝国の人間だろう。

 そうすると、あの場に居た連中は誰か知れ渡っている可能性が高い。

 ゴーレムを破壊出来る三人と魔王。

 おそらくはこの辺りの情報が入っているはず。


「そうなると、他には何処を攻めるか。王国は多分無いし、あるとしたら柴田勝家の所?」


「彼処はクリスタルの産地ですからな。可能性は無くはないです。しかし・・・」


「それよりも可能性が高い所があると?」


 そんな場所あるかな?


【そんなん決まってるだろ。安土だ】


 あ、なるほど。

 なるほどじゃない!


「安土か!?」


「おそらく一番可能性が高く、現実味があるのは安土かと・・・」


 マジか!

 防衛は任せられると言って又左も来ちゃってるけど、今はどうなっているのやら。

 ゴリアテとか太田が居ればそんなに問題無い気もするけど、この前の銃が気になる。

 火縄銃とは違って威力があるなら、オーガやミノタウロスでも危ないだろう。


「一旦戻るか!上野国へはすぐに行けないし。何より安土から援軍を呼ぶのに、安土がやられたら話にならない」


「それならば私達も行きましょう。上野国へ共に行ってもらうのに、此処で待っているだけでは示しがつきませんからな」



 ドラン達も安土へ向かうという事なので、トライク量産をする為に少し時間を貰った。

 しかしそこはドワーフ。

 鉱石に詳しく鉄以外の物も集まったので、今回は色々とバリエーションが豊富になった。






 一週間後、ようやく皆が乗れるだけのトライクとキャリアカーが揃った。

 ちなみに言うまでもなく、前田兄弟はキャリアカーである。


「そろそろ出発しよう。僕達は秀吉に挨拶をしてくるから、皆は準備をしておいてくれ」



 僕は又左とドランを連れて、秀吉が療養しているという城の離れにやって来た。


「これは魔王様。そろそろ長浜を離れられるのですか?」


「一度安土に戻るよ。体調はどうかな?」


「体力は戻ってきてはいるのですが、その分魔力がまだ半分に満たないですね。体力回復に注いでいるので、仕方ないのですが」


「テンジ達の事、上手くやったな」


「いやいや!誠意を込めて頼んだだけです」


 そうは言っても実際に引き留めるのに成功している。

 秀吉はその辺、抜かりないなと思った。


「本当はアルジャーノンも残ってもらいたかったのですが。本人は安土へ向かうと希望したので、渋々諦めましたよ」


「半兵衛はテンジと一緒に残ると思ったんだけどね。お互いに半兵衛の選択は予想外だったんじゃない?」


「天才の考える事は、凡人には分かりませんな」


 そう言うとお互いに笑いながら、別れの握手をした。


「次会う時は、元気になってると良いな。それじゃ、体調に気を付けて!」


「魔王様もお気を付けてください。帝国がどのような行動を取るか分かりませんから」


 僕達は手を振り、秀吉の元を後にした。





「意外と元気でしたね」


「そうか?」


 又左の一言には少しトゲがあった。


「アレだけ元気なら、テンジ殿を代理に仕立て上げなくても良かったのでは?」


「そういう事か。それは有益な人材を持っていかれたくないって気持ちもあるんじゃないか?」


「そうでしょうか?私には、魔王様の戦力を増強させたくないという風に見えましたが」


 僕の戦力を増やしたくない?

 何故そんな事を考えるんだ?

 丹羽長秀の発案で、魔族は連合を組む事になっている。

 僕が戦力を増やす事は、現状滝川一益以外には利はあっても損はないと思うんだが。


「私の考え過ぎだと思います。テンジ殿達への扱いがあまりに掌返しで、ちょっと不信感があったのかもしれません」


「その辺は僕も思わなくもないけど。そこは長浜って大きな都市の領主だ。使える者は迎え入れるって考えに変わったんじゃないのかな?」


「ドラン殿はどう思われる?」


 いきなり話を振られたドランは、少し考えた後に自分の考えを口にした。


「木下藤吉郎秀吉と言えば、あの初代魔王信長様の片腕です。半兵衛殿も凄いですが、やはりあの方は我々とは少し考え方が違うというか。先の事を見据えたからこそ、テンジ殿を迎え入れたと思います」


 確かに頭の回転は速かったと思う。

 さっきは自分を凡人と言っていたが、明らかに天才の部類に入るだろう。


「考えが分からないというのは、少し怖いところがありますね」


 又左の一言には、僕もドランも反対は無かった。





「それじゃ、テンジも頑張って!」


「ありがとうございます。ドラン殿の事、よろしくお願いします」


 テンジは最後までドランの事を気に掛けていた。

 なんというか、異種族の友情みたいなものを感じる。


【それは俺達だって一緒だろう?ハクトに蘭丸、半兵衛は、皆種族が違うんだから】


 それもそうか。

 今にして思えば、自分達と共感出来る所があるから、手助けしたくなるのかもしれない。


「安土へ帰ろう」





 長浜を離れてしばらくしてから、僕は安土へ連絡を入れた。

 勿論連絡する相手はツムジだ。


「元気にしてたか?」


「あら、魔王様。アタシは元気ですわ」


 ですわ?


「チカと一緒にお勉強している感じかな?」


「チカさんは今、長可さんの元で大人の淑女となるべく励んでおりますわよ」


 おりますわよ?


【なんか気持ち悪いな】


「気持ち悪いって何よ!」


 あ、そういえばツムジはどちらが入れ替わっても関係無く、声が聞こえているんだった。

 虎の尾を踏んだね。


【虎じゃなくてグリフォンだったけどな】


「上手い事言った気になってんじゃないわよ!」


 これは手厳しい。


「それで、変わった事はあったか?」


「お客さん来てるわ。鳥人族の長って人がね」


「は?そんな連絡して来なかったじゃないか!」


「本人の意向よ。魔王様が帰ってくるまで、安土を楽しむんだって。ラーメンは沢山食べると、太るから駄目って言ってた」


 何だその若い女性みたいな言い方は。

 どんな奴が来てるんだろ。


「男だよな?」


「男・・・じゃないかな?」


 何故言い切らない。

 物凄く気になってきた。


「今戻ってる途中だから。帰ったら会うと言っておいてくれ」


「分かったわ。それとお城だけど、完成間近だから。魔王様が引き入れた、あの訳の分からない男。あの人が手伝ったら早かったわよ」


 コバが早々に役に立ったようだな。

 ん?

 そういえば、コバじゃなくてもう一人居たような?


「思い出してくれたかな?」


「おおぅ!」


 顔を横から出してきた男。

 それは今まで存在を忘れていたロックだった。


「俺っち、ずっと一緒に行動はしてたんだよ?だけど怪しいって言われて、魔王様の近くに行けなかったんだよね。その代わり、ハクトくんや蘭丸くんとはずっと話をしてたけどね」


 そういえばあの二人とも最近会ってない。

 会ってない間に、コイツの相手をしていたのか。


「蘭丸くんは近々安土に戻るって聞いて、ソワソワし始めてたけど」


 む!?

 それはセリカと会えるからだな。


「奴は許せんのですよ。リア充爆ぜろ!」


「彼には婚約者が居るんだっけ?まあそんな事は些細な事だし、俺っちは気にしないけどね」


 自分の所のアイドルに彼女が居ても気にしないの?

 それ、芸能事務所としては致命的だと思うのだけど。


「そんな事より、安土へ行くのが楽しみでしょうがない!どんなダイヤの原石が待っているのかな〜?」


 浮かれたおっさんを見ていても面白くない。

 やはりハクトと蘭丸に任せて、僕は別の事をしよう。





 やっと戻ってきた。

 少し見慣れた風景に、見慣れない建物。

 それは大きな都市の中にある、大きな城だった。


「完成してるっぽいな」


「アレが魔王様の住む事になる城、安土城ですか。本当に大きいですね。長浜の城よりも大きいのでは?」


 又左は若狭へ行っていないから、彼方とは比べられない。

 しかし外から見た感じ、長浜城よりも大きい事は明らかだった。


「早く行きましょう!城下町も大きく様変わりしているようです。楽しみですな!」


「アレが安土。本当に大きい・・・」


 前田兄弟も興奮していた。

 しかしそれよりも気になる点も発見。





「城の横に、前回無かった建物があるんだけど。何だアレ?」

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