鎮圧
何を思ったのか、激怒した慶次は自分の持っている物で敵を攻撃する事を決めた。
アクセルを全開にして敵に突っ込んで行く。
敵を巻き込みながら直進したが、やはり最後は壁に激突してしまった。
めげない慶次は曲がる術を習得して、敵の攻撃を避けながら轢いていく。
その攻撃方法は慶次のツボに入った。
高笑いしながら、彼は敵をどんどんと倒していったのだった。
しかしその動きにも慣れてきた敵側も馬鹿ではない。
どすこい大仏くん一号はとうとう被弾をし始める。
大仏くんの頭は火球の熱で変わり、腕相撲をする姿勢で出していた腕はプランプランになっていた。
正直、笑える姿である。
満を辞して槍を取り出した慶次は、大仏くんに乗りながら槍を振るった。
その結果が見事な横転だった。
テンジが慌てて中に居た人物を助けに行ったが、中から出てきたのは物凄く顔色の悪い秀吉だった。
最低限の仕事として、領主の言葉を伝えた秀吉。
激しい嘔吐を繰り返し、彼は力尽きた。
彼の言葉に騙されていた事を知った兵達は、此方側へと寝返る。
そしてアナトリー達の秘密兵器、ゴーレムが再び僕達の前に立ち塞がる。
砦に配備されていた物より強そうな印象だったが、慶次はそれに向かって槍を突き出した。
余裕の笑みを浮かべるアナトリーとガンバス。
砦のゴーレムに苦戦した事は、既に耳に入っていた。
彼等が操るゴーレムは、更に強化されている。
だからこその余裕だった。
しかし、その余裕もすぐに無くなる事となる。
慶次の先制攻撃がゴーレムに命中した。
「えっ?」
「なんだとぉぉぉ!!」
何処を狙ったのか分からないが、内蔵型の槍が伸びて左手首辺りに当たった。
その瞬間、手首を穿ったのだ。
辛うじて繋がっている手首は、左手を振り上げた時に脆くも崩れた。
「あ、兄上?弱くないですか?」
「動きも遅い。何故だ!?」
「・・・あっ!」
「佐藤殿は何か分かったのか!?」
弱くて困惑している二人を他所に、佐藤さんは何かに気付いたようだ。
僕からしたら、やっと気付いたかといった感じだが。
「二人とも思い出せ!あの時は何故あんなに速く、硬かったのかを」
「何故?」
「あっ!グレゴルの魔法か!?」
佐藤さんの言葉にようやく気付いた二人は、嬉しさ半分残念半分のような顔をしていた。
そういえばリベンジとか言ってたもんな。
弱くても微妙なんだろう。
「ちくしょう!新しい槍の強さが分からないではないか!」
「兄上。こうなったら奴等で試しましょう!」
「二人ともその辺にして、さっさとあのガラクタ倒そう」
佐藤さんがさっさと倒そうと言ったからか、三人で一気にゴリ押ししていった。
数分後には、見るも無残な鉱石の山が落ちている。
結論から言えば、グレゴルの支援魔法が強力だっただけで、ゴーレム自体は三人にとって敵ではなかったのだ。
「ば、馬鹿な!この短時間でゴーレムを倒すなんてあり得ないだろ!?」
「ガンバス殿!?まさかコレしかないとは言わないよな?」
驚きのあまり目を見開くガンバスに、あっけなく倒されたアナトリーは秘密兵器が別だと信じていた。
しかし現実は無情。
ゴーレムは一体のみしか用意されていなかった。
「お、お前達!守れ!とにかく守れば援軍が来る!」
「援軍?何処から来るんだ?」
「決まっているだろ!て・・・」
アナトリーが何かを言おうとした瞬間、聞いた事のある音が聞こえた。
僕は秀吉を守るように、創造魔法で鉄壁を作り出す。
前線の三人は音がした方を向き、警戒していた。
「銃声だと!?アナトリー殿?アナトリー殿!?」
その弾はアナトリーこめかみを貫いていた。
何もわからずに崩れ去るアナトリー。
その姿は既に事切れている。
「どうする?アナトリー失ってお前は何をする?」
「ヒイィィィ!!投降する!た、たしゅけ!」
再び鳴り響く銃声。
しかも今度は違う場所からだ。
警戒を強めていた三人も、これには驚いていた。
結局、二人とも一発で仕留められてしまった。
「口封じかな?多分もう出てこないと思う」
「そうですね。おそらくは」
半兵衛も同じ意見だという話なので、相当の人数を銃声がした場所へ派遣した。
しかし予想通りというべきか、そこには誰も居ない。
「帝国の人間・・・だよな?」
「火薬の臭いはします。しかし火縄銃の臭いではありません。どのような武器を用いたのか、まだ不明です」
火薬の臭いはするけれど、火縄銃ではない。
普通に考えると、新しい銃って事になるかな。
帝国が召喚者を使って新しい銃を作っていても、おかしくないか。
ドクターコバみたいな連中が何人も居たら、そりゃこれくらいは作れそうだし。
「抵抗していた連中も、二人が死んだ事で最後は投降しました」
「・・・ようやく、我が城に戻る事が出来た」
感無量といった気分なのだろう。
秀吉は目を閉じながら呟いた。
「そういえば、帝国の人間が居たっていう証拠はあった?」
「言われた場所を調べたのですが、既にもぬけの殻でした。証拠と言われるような物も見つからず、立証するのは難しいかと」
報告してくれた兵にお礼を言い、僕は半兵衛に聞いてみた。
「だいぶ前に離れたものと推測します。理由はヒト族が大勢見つからない場所まで移動するには、馬を使う以外に方法はありません。そう考えると彼等は砦が陥落した直後に、この城から出たものと思われます」
「いや、馬じゃなくても足はある」
「そんな物ありますか?」
「多分、車を作ったんだ。ドクターコバなら作れたし、作れる人がまだ帝国に居てもおかしくない」
それを考えると、随分と近代化が進んでいるような気もする。
魔法に対抗する為か、かなり現代っぽい道具を作っているようだ。
「警戒しないといけないかもね」
玉座の間に入り正面の大きな椅子に座った秀吉は、軽くため息を吐いた。
周りを見渡して、変わった様子が無いか確認する。
「何も変わっていないか」
「藤吉郎様!」
大人数の文官や武官が我先にと、玉座の間へ殺到してきた。
無事で何よりとか信じていただの、色々と言いたい放題だった。
しかし秀吉も分かっていた。
彼等は助けに来なかった事を。
「文官連中はまだ良いよね。領主不在を悟らせないくらいに、通常通り業務をこなしていたんだから。でも武官は・・・」
そう。
武官はアナトリーとガンバスに言いくるめられて、結局は謀反を起こされた後に何もしていなかったのだ。
秀吉を助ける事も無く、言いなりとなって帝国兵を城へ迎え入れた。
彼等の中で秀吉を助け出そうと考えたのは、テンジ達異端と呼ばれた者達だけだった。
「お前達の事は追って沙汰を出す」
その言葉に凍り付いた連中だったが、僕からしたらそんなに心配しなくても大丈夫だとは思うけど。
ここで大量解雇となった場合、執政に差し支えるからだ。
軍務に携わる者を全員解雇すれば、それはそれで長浜の防衛に影響が出る。
それに力を持った軍人が多く仕事を失えば、それだけ治安も悪くなるだろう。
文官にしても同じだ。
おそらくは給料カットが無難な落とし所だと思われる。
「それとテンジ。少し時間を貰いたい」
「話って何だったの?」
「それがその・・・」
何だ、歯切れが悪いな。
そんなに言いにくい事なのか?
「藤吉郎様はまだ体調が優れないから、代官として政を執り行わないかと言われました」
それは、事実上の社長代理みたいなものだった。
「凄いじゃん!何て答えたの?」
「それは、ちょっと考えさせてくれと」
「えっ!?そんな好条件をすぐ飲まなかったの!?」
「私は!私は安土へ行くと思ってましたので。今更こんな条件を出されても、どうして良いのか分からんのです」
そういえばそうだった。
僕は彼等の能力を見込んで、安土へ来いと勧誘したんだった。
秀吉には無理矢理引き留めるのはやめてくれと言ったが、まさかこんな好条件を突き出してくるとは。
流石としか言えないな。
「テンジ達のやりたい方を選べばいいよ。別に全員が全員、安土へ行きたいとも考えてたわけじゃないだろうし。だから皆で話し合って決めて」
「承知しました」
ちょっと偉そうな事言ったけど、やっぱり来て欲しいとは思ってるんだよね。
彼等の能力は安土に居る連中とは少し違うし。
「お待たせしました」
「どう?皆と話せた?」
今回の件、秀吉からの誘いの話は、誰にも聞かれないように前回まで使っていた隠れ家で話し合ったらしい。
秀吉本人がそんな事をするとは思えないが、部下の連中が誘いを断る事に、また誘いに乗る事にもあまり賛成していない場合がある。
断った場合、領主の頼みを断るのかとキレるパターン。
乗った場合は、自分の役職を失って逆恨みするパターン。
誰が残って誰が出ていくか。
それ次第で仕事に影響を及ぼす連中も居るのだ。
特に今回、武官はそうなる事がかなり予想される。
秀吉を助けたという結果もあり、代わりに軍務に携わる事が出来ると実力が示しているからだ。
無論、安土へ行ってもそれなりに活躍出来ると保証しておこう。
「はい。約半数が残る事を決断しました」
多いな。
やっぱり来てくれって、こっちも勧誘するべきだった。
後悔先に立たずだと、今更ながら思う事になるとは。
「勿論、魔王様と共に安土へ向かう連中もおります」
「そうか。それでテンジ、お前はどうするんだ?」
「私も残る事を決めました。最初に誘って頂いた時は、本当に心が震えたのです。しかし、こうも思いました。我々全員が長浜から出てしまった場合、残った異端だと言われる者達の居場所はあるのか?我々が居なくなった事で、逆に虐げられる対象とならないのか?そんな事を思ってしまったのです」
なるほど。
自分達が抑制力にもなり、他の異端視される者達の希望にもなれるという事か。
それはそれで良い選択をしたと思える。
「だから今回、文武官両方とも均等に残ると決めました。しかし魔王様から勧誘されて、藤吉郎様から慰留をお願いされる。まさかこんな贅沢な悩みを持てる日が来るとは。我々全員、やはり魔王様には感謝しきれません」
「自分達の実力を示しただけさ。秀吉ももっと早く知ってれば、こんな事にはならなかったと思うけどね」
「それでも本当に、本当にありがとうございました!」
テンジは大きく頭を下げて、僕に感謝の言葉を述べた。
嬉しいような恥ずかしいような気持ちだが、やっぱり本音は来て欲しかったという気持ちがある。
本人が決めた事だから何も言えないが、これからは秀吉の片腕として頑張ってもらいたい。
「ところでこの隠れ家で思い出したんだけど。ドラン達は今後どうするの?」
「ドワーフの方達は城へ移ってもらいます。藤吉郎様にも話を通してありますが、今後はドラン殿達を全面的に支援して、上野国へ向かう事になりそうです」
「滝川一益の洗脳を解くと?」
「出来ればそれが希望です。最悪を想定しないわけではありませんが・・・」
最悪とは、領主滝川一益を殺すという事だ。
本人の意向とはいえ、やはり殺すには惜しい人物だと言える。
どうせなら救出して、その鍛治の腕を僕達にも奮ってほしいんだけど。
「ドラン殿の話では、早めに上野国へ向かいたいとの事なのですが。やはり長浜もまだ混乱しておりまして。藤吉郎様は静養に入られ、私も今後は全権委任されて藤吉郎様の仕事を引き継ぎます。だから動くにも動けないのが現状です」
「安土から軍を派遣して欲しいと?」
「無理は承知でお願いします。ドラン殿は盟友です。私としても助力したいのです」
ドランが不在の所を選んでこの話を切り出すのは、そういう訳か。
友の為に力になりたい。
良い事じゃないか!
「よし、それは任せておけ!誰が来るか分からないけど、出来る限りの戦力は連れてこよう。まあそれでも数の上では劣勢だと思うけど。どうやって攻めるか考えないといけないな」
「そういう事ならば、私の出番ですね」




