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黒幕の言い分

 半兵衛の案は、秀吉を安全に運ぶ為だった。

 特にスフィンクスには拘りがあるわけではない。

 という事だったので、腕相撲ゲーム型の車椅子に変更した。


 安全性を考慮して、ミスリルも混ぜた高品質な外装となった。

 大仏の顔した人形が、腕相撲しようと挑発してくるゲーム。

 その中には秀吉が入っているという。

 こんな意外性に気付く奴など、そうそう居ないだろう。

 ネズミ族も最初は訝しげだったが、内部やアクセルでの移動手段を見て、彼等も満足したようだった。

 そんな車椅子の名は、どすこい大仏くん一号。


 ダサいと言われつつも秀吉に見せた後、ネズミ族を使って無理矢理に入れた。

 今思えば監禁に近い。

 敵の首謀者と同じ事をしている。

 しかも入れた直後、別に今は入れなくても良いのでは?という結論になった。


 不機嫌な秀吉に話を振ってみたが、先代との関係について語ってくれた。

 やはり聞いていた通りだった。

 しかしそれはネズミ族の安全を考えれば、当然の行動でもあったと思われる。


 いよいよ長浜の城下町に着いた。

 秀吉にはどすこい大仏くん一号に入ってもらい、安土から魔王がやって来た事を装う。

 城門前までやって来た僕は、居ない城主を呼んだみた。

 敵さんの反応は如何に?





「これで迎え入れてくれるんでしょうか?」


「どうだろね?入れてくれれば、運が良い程度の考えだけど」


 あんな幼稚園児や低学年の小学生のような呼び掛け、普通なら門前払いだけど。

 もっと言えば、不審者として扱われてもおかしくない。

 ただし、名乗った名前が魔王だ。

 下手な扱いをして本物だったら、彼等は不敬を働いた事にもなる。

 それをどう考えているか。

 結構相手からしたら、面倒な事をしたなと自分でも思った。


「門番が慌ててますね。当たり前だけど」


「だよなぁ。だって魔王の対応なんか、門番が決めていい事じゃないだろ」


「少し可哀想だね」


 半兵衛達が言いたい放題言ってるが、まあ分からんでもない。

 門番の一人が急ぎ城内に入っていったが、残りの一人の心細そうな顔が、そう思わせている要因だろう。



「あ、誰か連れてきた」


 門番に続き出てきたのは、少し小太りの男だった。

 肩で息をしているくらいいっぱいいっぱいだが、僕達の前に来る時には落ち着いた様子で出迎えてくれた。


「魔王様の御一行様でございますか?」


「そうだ」


 僕の代わりに蘭丸が対応している。

 多分、誰が魔王か向こうは分かっていない。

 此方側からわざわざ、情報を与えない作戦だ。

 小太りの男は一行の面々を見渡し、テンジ達を見つけた時に顔を顰めた。

 どうやら本当に、あまり良く思われていないらしい。


「少々お聞きしたいのですが、何故あのような者達をお連れに?」


「あの方達とは長浜で知り合い、この領土での案内を頼んでいる。とても丁寧で満足しているが、何か問題でも?」


 嫌な顔をしていたのを見てたんだろう。

 蘭丸はわざと威圧的な態度を取っている。

 良いぞ!

 蘭丸!


「そうですか?魔王様のお姿を見られても本当に信用していただけるとは、思えませんがね。その点においてテンジ殿達は、信頼に値する方々でしたが」


「そんな事はございません!我々の方がもっと・・・」


「秀吉はいつ来るの?」


「何だと!?このガキ、藤吉郎様を呼び捨てに!」


 ほらね。

 魔王の事を知らないからこうなるんだよ。

 意地悪そうな顔をした蘭丸が、間髪入れずに言葉を発する。


「魔王様をガキ呼ばわりですか。全く信用出来ませんな。総責任者を呼んでもらいたい。領主である木下殿を」


 その言葉に顔面蒼白になる男。

 門番は巻き込まれたくないからか、聞いていないフリをしている。


「おい、何固まってるんだ。早くしろよ」


「誠に申し訳ありません!少々お待ちを!」


 門番二人とも連れて中へ行ってしまった。

 城門は完全に空いているが、門番が一人も居ない。

 これはどうなの?


「魔王様は性格が悪いですね。あんな小者を虐めても、仕方ないでしょうに」


 どすこい大仏くん一号の中から、秀吉がそんな事を言ってくる。

 換気用の穴から、外の声は丸聞こえのようだ。


「誰も居なくなったけど、どうする?入っちゃう?」


「そのまま入りましょう。下手をすると、中で戦力を固めている可能性もありますから」


「城主がそう言うんだから、別に問題無いよね?じゃあ入っちゃおう!」





 勝手に入ったは良いが、何処へ向かえばいいんだ?

 玉座の間にでも行けばいいのか?


「藤吉郎様。何処へ向かうとよろしいでしょう?」


「広間だ。話を聞く限り帝国の軍人が多数城内に居たら、それは誰かが指示を出して迎え入れたという証拠だ。だからヒト族を探せ」


 なるほどね。

 テンジは秀吉の指示で、真っ直ぐ広間へと向かう。

 後ろを付いていくと、不穏な空気が漂ってきた。


「二階から誰かの視線を感じるんだけど。見える人居る?」


「おや?魔法使いが複数居るでござるな」


 慶次が確認してくれたようだ。

 そういえばコイツと会ったのは、この城だった。

 正確にはあまり美味くない料理屋だったけど。

 慶次も多少はこの城の中に詳しいのかも。

 上を見ても人が居る様子が無いのに、複数居るって言ってるくらいだし。

 何処か隠れる場所があるのだろう。



「魔王様!何故勝手に中へ入られているのです!?」


 さっきの小太りの男が、門番ではない男を二人連れて城門へ向かってきていたようだ。

 すれ違わずに鉢合わせした形となった。


「この城の責任者から、入っていいって許可をもらったから」


「責任者?私はそのような事を一言も言っておりませんが?」


 そう言ったのは、長身痩躯の目が鋭い男だった。

 筋肉質ではないので、ヒョロガリと言った印象だ。

 もう一人はネズミ族に似合わず、物凄い筋肉質だった。

 こっちが軍務長官だろう。


「アンタが秀吉?」


「藤吉郎様は病床に伏せっておられる。だから私が代理として城主を担っている」


「病気なんだ。それは仕方ない」



 小声でどすこい大仏くん一号に声を掛けた。


「コイツがアナトリー?」


「そうです。軍務長官のガンバスも見えますね」


 なるほど。

 敵のツートップがお出迎えしてくれたという事か。



「それに何故奴等のような異端の、ネズミとも言えない連中を一緒に入れているのです」


「失礼な奴だな。僕達をせっかく案内してくれたのに、お前が偉そうに言う権利は無いだろ?所詮は代理なんだから」


 ちょっとイラッとしたので、煽ってみた。

 案の定、顔を赤くして怒っている。

 コイツ、プライドの塊かもね。

 他人から命令されてもやらないか、言われる前に全て終わらせて何も言わせないタイプだな。


「私は正式に代理として認められている!むしろ貴方が魔王だという方が、怪しいではないか!」


 初対面ならそう思うのは当たり前だけど、それを口にしたら駄目だよね。

 付け入る隙を与えているようなものだ。


「我が主を愚弄するのか!?」


 いつの間に横に立っていた又左が、犬歯を剥き出しで怒っている。


「失礼だが、貴方は?」


「私の名は前田又左衛門利家。此処からはるか南の能登を治めている」


「前田!?あの槍で有名な前田家の!?」


「私はこの方に忠誠を誓っているが、私の目が曇っているとでも言っておられるのか!?」


 又左もこうやって見るとカッコいいぞ!

 やっぱり前田家は凄いと実感した。


「流石は兄上!男前でござる!」


 後ろからのヤジが無ければ、と言い直しておこう。

 前田家、お互いにちょっとブラコン入ってるのが微妙な点だと思う。


「なるほど。魔王様を疑った事、心より陳謝致します」


「じゃあ秀吉が伏せっているなら、見舞いだけして帰ろうか」


「見舞い!?」


「だって、会わずに帰るのもどうかと思うし。僕と少数だけなら、別に問題無いと思うけど」


「ちょっ!ちょっと、ちょーっと待ってください!」


 慌ててる慌ててる。

 見舞いする相手、どうするんだろうね?


「病が移るとマズイのでは?」


「大丈夫。抗菌仕様のマスクもあるよ」


「今は寝ておられるので」


「顔だけ見て帰るよ」


「・・・そうですか」


 どうしようもなくなったのか、諦めて迎え入れるようだ。

 どうするのか分からないけど。





 奥へと向かっていると、二人が前で何かを話しているのが見えた。

 そして軍務長官のガンバスが、二階をチラ見している。


「これは、何かして来そうだね」


 蘭丸に小声で話し掛けると、すぐさま動きがあった。

 火球が二階から僕目掛けて飛んで来たのだ。


「危ない!」


 別に危なくはなかった。

 弾く術は沢山あったのだが、そこに割って入ったのは秀吉だった。

 というよりも、慶次がどすこい大仏くん一号でカバーしたのだった。


「慶次殿!それはちょっと!」


 テンジが慌てているが、当たり前だと思う。

 ミスリルを混ぜているとはいえ、完全に防げるわけじゃないし。


「おのれ!小癪な!」


 ガンバスが悔しそうに叫ぶと、奥にある扉から大勢の兵士が出てきた。

 やはり先程待たされている時に、兵の準備をしていたという事だ。


「小僧を殺せ!殺した者は、軍務部の部長の座が待っているぞ!」


 部長という言葉に踊らされ、突撃してくる兵士達。

 数の上では此方は二十人も居ない。

 相手が強気に出るのも間違ってはいないのだ。


「正体を現したな!下剋上など企ておって!」


「上を目指す事の何が悪い。貴様だって藤吉郎様の元に居てもどうしようもないから、魔王様に取り立ててもらうのであろう?」


 あらら。

 まさか敵に言い当てられるとは思ってなかったからか、テンジは反論出来なかった。

 仕方ないから、助け舟を出してあげよう。


「でも、やり方が違うよね。テンジは僕達に尽くして、信頼を勝ち取ったわけだ。その点、アンタはどうなのかな?上野国へ向かおうとした所を、背後から襲っただけでしょ?上を目指すと言っても、同じにしちゃあいけないと思うけどなぁ」


「ガキが知った口を!信長の役に立ったというだけで領土を与えられ、それを受け継いだだけの男にずっと仕えろというのか!?」


「じゃあそれを誰かに訴えたの?自分の方が優れているから、領主をやらせろ。もしくはもっとやりがいのある仕事をやらせろとかさ。何も言わずに自分が思った事が正しいと勝手に行動を起こしたでしょ?」


「そんな訴えをして、誰が聞いてくれるというのだ?」


「それは領民に言わないと。自分が領主になったら、秀吉よりも上手く出来ますよって。そもそも領主になったら何がしたいの?そういう奴ほど不満が出て、今度は魔王が悪いとか言うんでしょ?」


 言いたい事をボロクソ言ってやった。

 何やら震えているけど、怒っているのかな?


「ふざけるなよ!お前みたいな魔王に生まれて何も苦労してない奴に、私達の事が分かるわけないだろう!それにこのような不満を持った奴は、ごまんといる。その不満に耳を傾けない奴等が、私達にどうこう言う資格など無い!」


「分からんね。だってお前と僕は別人なんだから。それに不満に耳を傾けない?聞こえるように言ってから言いなさいよ。どうせ陰口のように裏で言って、直接は言ってないんじゃない?自分が正しいとは思ってないけど、それでもお前よりはマシな事してると思ってるよ」


「減らず口を。どちらが正しいかなど、結果が示してくれるだろう」


「圧倒的有利な状況でそれを言っても、あんまり説得力無いけどね」


 向こうも言いたい事を言ったからか、そのまま兵を前に出して安全な場所へと下がっていった。



 うーむ、言っている事も分からんでもない。

 確かに領主って、親から引き継いでるだけみたいな印象だ。

 ロクでもない子供だった場合って、どうなんだろう?

 それを考えると、奴の言う通り不満が溜まる連中も出るだろうね。

 でも、秀吉が無能な領主とは思えない。

 コイツの場合は、ただの自分勝手なだけだな。


「あの野郎・・・許さん!」


「えっ?」


 何故か慶次がブチ切れている。

 何か言われてムカついた事があったのだろうか?


「逃げるなぁぁ!!!」


 怒鳴りながら、持っていたある物を捻った。


「うおあぁぁぁぁ!!!」





「藤吉郎様ぁぁぁ!!!」

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