秀吉、長浜へ戻る
ロックに芸能活動の代わりに協力を頼んでみると、二つ返事でOKという答えが戻ってきた。
しばらくする事は無いので、楽器の練習が主だったが。
楽器の練習、それは始める前から難しい案件だった。
まず楽器が無い。
作ってみたものの、詳しく知らないから微妙に違うと言われる始末。
そして完成された楽器でようやく練習を始めたが、難しい。
その時の気持ちを歌で表現したところ、音痴認定をされる事に。
ハクトや蘭丸は、歌とかギターが上手いって言われてるのに。
そんな兄はカスタネット・・・。
悲しい。
楽器練習をしていると、とうとう秀吉が目を覚ました。
テンジ達を見て微妙な顔をしていたが、助けられた事に関しては感謝しているようだった。
助けられた主な要因に、半兵衛と僕の事を紹介すると、これまた魔王の件で怪訝な顔をされてしまう。
そして本題の首謀者を尋ねると、誰だか名前が出てこないと言う。
頭脳派と聞いていたのだが、そんな事無いのか?
そんな状況も、半兵衛の推理から相手が特定出来た。
しかもおそらくは軍務に関わる者も敵方に居る為、城の兵の大半は敵として戦わなくてはならないという話だった。
半兵衛は新たな策を思いついたが、それには秀吉の協力が必要だった。
現地まで秀吉を連れて行く。
その案に乗った僕は、車椅子を作ろうとしたのだが、そこに半兵衛の秀吉を守る新しい装備も提案されたのだった。
「何でスフィンクス?」
「それが何かは分かりませんが、藤吉郎様が猫の格好をするはずが無い。という心理を突いた作戦です」
つまりはスフィンクス像にする必要は無いという事だ。
それこそディスカウントショップで売っているような、馬ヅラや大仏の被り物でも、問題無いのだろう。
「猫に限らず、誰だか分からなければ良い?」
「そうですね。それなら問題無いかと」
うーん。
それならば車椅子も、もう少し変えてみよう。
思い切って身体も守れるような仕組みにすれば、安全に運べるし。
【何か良い案があるのか?】
まだ思いつかない。
箱型にして運ぶのもアリだけど、それだと何か運んでますっていうのがバレバレなんだよね。
何か無いかなぁ。
【身体が守れれば何でも良いんだろ?だったらアレは?あのゲーセンとかにある腕相撲とかのヤツ】
あー、なんか見た事ある気がする。
腕相撲の格好して、相手の強さが選べるヤツでしょ?
横綱にすると力士になって、一番弱いとひ弱そうな人だったような。
別に腕相撲に拘る必要も無いけど、意外性はありそうかも。
【秀吉には中で座っててもらえば良いわけだし、何なら腕相撲出来るようにしたって良い。とにかく、秀吉が中に居るとは思わなければ良いんだから】
それもそうか。
よし!
ゲーセンにある、腕相撲ゲーム型車椅子にしよう!
「フッフッフ。我ながら面白い物を思いついてしまった!半兵衛よ、待っているが良い!」
外観は・・・そうだな。
意外性に走って大仏にしよう。
顔は大仏で、腕相撲をしようと挑発する感じにして。
魔法や弓矢、銃などの狙撃に備えてミスリルで加工。
秀吉の体調面を考慮して、中の居住性を重視する為に、クッションとサスペンションには気を使おうかな。
あまり重いと運びづらいから、トライクの応用でアクセルも付けちゃおう。
捻ったら走り出す感じにすれば、重さも感じずに前へ進めるだろう。
「か、完成だ!」
「こ、これが藤吉郎様を運ぶ為の・・・車椅子?」
テンジは首を捻りながら、何処に車椅子要素があるのか疑問に感じている。
「そこだよ!車椅子に見せない、この完璧なカモフラージュ。我ながら、良い物を作ってしまった」
「中はどのようになっているんですか?ほうほう。これは快適そうな椅子ですな」
椅子も少し拘り、ソファー型にしてある。リクライニングまで出来るから、寝る事も可能だ。
「しかし、大き過ぎて運ぶのが大変な気がしますが」
「それはこれを捻ると・・・」
「面白い!なるほど。魔力を握った部分から吸い上げて、動力にしているのですか」
ネズミ族の連中は、体調不良の秀吉を運ぶ事に対して懸念を持っていたが、この車椅子でその心配も解消したようだ。
「試作型車椅子。どすこい大仏くん一号だ!」
「うわぁ。めっちゃダサい名前」
僕のネーミングセンスにケチを付けるだと!?
誰だ!
「俺っち、それは無いわと思うよ?」
「じゃあお前なら何て付けるんだよ!」
これでダサかったら、ボロクソ言ってやるからな。
「いや、普通に車椅子で良くない?というより、もはや車椅子じゃないよね?電動じゃなさそうだけど、アクセル付いてる車椅子なんか聞いた事無いし」
「・・・確かに。もう車って呼んだ方が分かりやすいかも」
なっ!?
佐藤さんまで、このおっさんの味方になるだって!?
「じゃあ良いよ!試作型自動車、どすこい大仏くん一号に変更するよ!」
「・・・本人がそれで良いなら、別に何も言わないけどさ」
「私、これに入るんですか?」
戸惑いを隠さない秀吉は、どすこい大仏くん一号に入る事を躊躇っていた。
「快適だよ〜。めっちゃ乗り心地良いよ〜。はよ入れ!」
「ちょっ!」
ネズミ族の連中に指示を出し、秀吉を担ぎ上げて中へと入れた。
「お前達!まずは私に聞いてから運ぶべきだろう!?」
「すいません、藤吉郎様。我々は魔王様に忠誠を誓ったのです。あの方は我々を全て受け入れてくれました。異端と言われ住みづらい長浜よりも、必要としてくれた魔王様について行くと決めたのです」
此方へ視線をやる秀吉だったが、別に問題は無いはず。
本人達の意向を優先しただけだ。
「何か不満がありそうだね。でも、自分が異端だと言って疎外したんでしょ?だったらそれを僕が受け入れても、問題無いよね?」
大きく深呼吸した後、真っ直ぐ目を見て言ってきた。
「そうですね。私の行いが、彼等を追い詰めたのかもしれないです。本当なら実力主義で、彼等を受け入れるべきだったのに」
「その通りだね。彼等はとても優れていたよ。もう少し心を広く持って見ていれば、こんな事にはならなかったと思うよ?本人の意向次第だから、秀吉が慰留するのは僕は構わない。ただし、強制するのは僕はあまり好きじゃないな」
「今からでも誠心誠意、話をしてみようと思います」
「全て終わってからにしてね?というわけで、閉めまーす!」
何か聞こえたけど、今はどすこい大仏くん一号を出発させる事が先決だ。
扉も閉めたし、これで準備万端。
「行くかね?長浜城へ」
一応は車椅子扱いだし、ずっと押してるのも辛い。
長浜城へはキャリアカーで運ぶ事にした。
「あの〜、ちょっとよろしいでしょうか?」
「何か?」
ネズミ族の一人が、申し訳なさそうに何かを聞きたがっていた。
「藤吉郎様は、今は降りていただいてもよろしいのでは?」
「・・・それもそうね!」
よくよく考えると、車載しているのと変わらない。
わざわざどすこい大仏くん一号の中で、一人待っている必要も無かった。
扉を開けると、かなり不機嫌な秀吉が出てきた。
「私が同じ事を言おうとしたら、何も聞かずに閉めるから!」
「何か言おうとしてたのって、この事だったのね」
アハハと笑って誤魔化したが、その視線は痛かった。
申し訳ないと謝ったが、どうやら僕はあまり信用されてないみたいだ。
軽く無視されてしまった。
とりあえずは体調面を考慮して、あまり振動が来ないキャリアカーに乗ってもらった。
「ところで今の軍務長官は誰だ?あの仕事は持ち回りだったはずだが」
「持ち回り?何故そんな面倒な事をしてるのかな?」
一人に決めて任せた方が、仕事が安定する気がするけど。
「簡単な事です。対抗派閥を作らないと堕落しますから。それに極論ですが、無能な奴を出した派閥は周りから非難を浴びます。段々と縮小していって、無能は淘汰されるという事です」
んー、厳しい世界だ。
まあどの世界も変わらないのかもしれないけど。
切磋琢磨する相手が居なければ、現状維持に走る人も居るしね。
「財務局も局長だけじゃなく、他の部署もそうすれば良かったな。今にして思えば関税も、年に一回定率で決めてしまえば、着服などという事は起きなかったかもしれない」
「でもさ、それをするにはやっぱり人員が必要じゃない?全ての品々に対しての関税を、秀吉一人で決めるなんて無理でしょ。正直なところ今回の問題は、財務局のトップ。つまり局長が着服に気付かなかった事が一番の問題なんじゃない?」
着服って言ってるけど、ポケットマネーから出してる可能性も無きにしもあらずだけどね。
何か副業していたら、めちゃめちゃ稼いでる可能性もあるし。
この世界は日本じゃないんだから、公務員が副業してたって問題無いからね。
「今代の魔王様は、なかなか頭の回転が早いようで。脳筋だった先代とは大違いですな」
「先代とは反りが合わなかったと聞いたけど?」
「そうですね。あの方は力がある者にしか、興味を示しませんでしたから。我々のようなネズミ族は、おそらく雑兵としか考えていなかったと思います。ネズミ族にはネズミ族の戦い方があるので、あの方の考えには賛同出来ませんでした」
「それで先代の起こした帝国との戦には、参加しなかったと?」
「その通りです。結果からして、私がした事は間違っていなかったと思っております」
自信満々に言い切ったな。
確かに領主として皆の安全を考える身ならば、間違った事はしてないのかも。
「しかしテンジ達にした事を考えると、私も先代の魔王様の事をとやかく言える立場ではありませんがね」
「依怙贔屓というものは、誰の中にでもあるものだよ。僕だってあるし」
「ほう?少し気になりますね」
「僕はやっぱり巨乳派なんだよね。美乳なら良いけど、微乳はちょっとね」
「・・・聞いた私が馬鹿でした」
少しは気を紛らわせようとしただけなのに。
呆れられてしまったようだ。
頭の固い人だなぁ。
「ところで、城まではこのまま乗り物に乗ったまま行かれるのですか?」
「いや、今回は僕が長浜へ訪ねてきた事にしよう。テンジに案内してもらった事にして、ネズミ族は少数。そして前田兄弟やハクト、蘭丸に佐藤さんという、多種族が来たという事を前面に押し出す」
「なるほど。ネズミ族の、しかも異端の連中が大勢で押し掛けると、何事かという事にもなりますからね」
「秀吉はやっぱり頭の回転早いね。流石は信長の片腕として仕えていた者の末裔だと思うよ」
お世辞抜きでそう思う。
戦に関しては半兵衛の方が凄いかもしれない。
だけど内政業務の事も含めると、秀吉の方が回転は早いんじゃないかな?
しかも半兵衛と違って、魔法を使っているわけでもなさそうだし。
「そろそろ長浜の城下町に到着します」
「テンジは僕と一緒にトライクで城門前まで。秀吉はそろそろ、どすこい大仏くん一号に入ってもらおう。姿を見られると困るのでね」
「仕方ないですね。承知しました」
仕方ないと言われたが、渋々入る事に了承してくれた。
というか、そんなに嫌かな?
結構居心地悪くないと思うけど。
「又左と慶次、これ持って行って」
「これは?」
「少しだけミスリル配合して、強度が上がってるから。以前よりも簡単に折れたりする事は無いはずだよ」
二人に渡した槍は、カスタネットの練習の合間に試しに作っておいたものだ。
今の二人には、組み立て型と内臓型の同じ物を一組ずつ渡した。
得意分野が違うから、もしかしたら今後はどちらかしか渡さなくなる気もしている。
「さて、魔王が領主不在で来たら、彼等は何て言うのかな?」
「しかし魔王様。何という名目になされるので?」
そんなものは適当だ。
だから城門前で少し揶揄ってみよう。
門番より少し離れた所でトライクを止め、僕は大きな声で叫んだ。
「秀吉くーん!魔王が来たよー!あーそーぼー!」