謀反人は誰だ
ハクトと蘭丸の二人をアイドルにする。
それは分からなくもなかった。
元々人気のあった二人だ。
しかし!
魔王が居るのに二人だけはないでしょう。
というわけでさりげなく、本当にさりげなくアピールをしたのだが。
バックダンサーと言われてしまいました。
納得のいかない僕は、次なる一手を打ち込んだ。
二人をメインボーカルに据えた、バンドである。
これなら楽器を担当すれば、スポットを浴びる事もあるはず。
ロックにバンドの件を話してみると、予想に反して乗り気であった。
この調子なら、メンバー入りも夢じゃない!
しかし考えが甘かった。
楽器が弾けないのを忘れていた。
今から練習すると言ったら問題外という扱われ方をしたが、楽器なんか皆やった事無いだろう。
おそらくは遅れて練習しても何とかなると思われる。
だからこの話は、安土へ行くまで一旦中断した。
そんなロックは、なんと滝川一益と会った事があると言う。
しかしそれは、あまり良い印象を持たなかったようだ。
滝川一益は命令を聞かない鍛治師達を、牢獄送りにしたと言っている。
やはり早めに上野国へ向かいたい。
そんな事を考えていたのだが、ロックの扱いに困っていた。
悩んでいると蘭丸は、ロックに向かって相互協力を申し出たのだった。
「そんなんでやってくれるの!?手伝うよ〜。謀反人を投げればいいんでしょ?任せて!」
悩むまでもなく、即答だった。
しかも自分で首謀者を倒す事になっている。
「ほらな。簡単だったろ」
悩んだ僕が馬鹿みたいじゃない?
そんな風に思わせる態度だった。
「じゃ、今から行っちゃう?その何とかって場所。すぐに捕まえちゃおうよ」
「だから、相手が誰だか分からないんだって!領主の秀吉が目を覚まして、その首謀者の名前を聞かないと駄目なんだよ。誤認逮捕とか、最悪だろ?」
「なるほど。じゃあ、俺っちはそれまで何をしてれば良いのかな?」
「楽器の練習でもしてれば?」
「それもそうだね。はい、よろしく」
ん?
よろしく?
両手を前に出して、何かを要求している感じだけど。
「楽器は?」
「忘れてた!」
そうか!
楽器も作らないといけないのか。
全く分からん。
スマホで調べるしかないな。
「こんな感じ?」
「こんな魔法あるんだねぇ。これは初めてみるよ」
そりゃ創造魔法は魔王しか使えないらしいからね。
初めてなのも仕方がない。
「何か違うな。弦も何かの糸だし、ギターとベースの大きさもそんなに変わらない。音は・・・まあ良いか。ドラムは大丈夫そうだね」
駄目出しされた弦楽器二つは、手直ししてみた。
大きさと弦も変更し、ロックから問題無しという判断が出たのでこれでOKだ。
「それで、アンプは?」
「アンプ?」
「ギターとベースのアンプ」
「何それ?」
あぁもう!
バンドって色々必要な物が多いな。
今更ながら、バンドって始めるのに大変なんだなと思った。
「俺の〜指では〜Fのコードが〜抑えられなかった〜」
「お前、とんでもなく音痴だな」
こんにちは。
校歌斉唱を口パクにしてくれと懇願された男。
どうも阿久野です。
「キミはボーカルは絶対無理だね。コーラスもやめてね」
「失敬だな。練習すればマトモになるかもしれないのに」
誰か歌が上手い人に教われば、変わるかもしれないし。
そんな人と出会うのを、期待して待っていよう。
「それと比べてハクトくん!キミは本当に素晴らしい逸材だよ!」
ハクトは猛烈に褒められていた。
風呂に入った時とか料理を作っている時、たまに歌っているのを聞いた事がある。
プロ並とは言わないけど、普通に上手かったのは覚えている。
発声練習とかしたら、もっと上手くなるのかもね。
「俺はこのギターとかいうのが気に入ったかな」
蘭丸はギターを持って普通に弾いている。
何故そんな物が弾けるかというと、このおっさんのせいだった。
「俺っちこう見えて、メジャーデビューした事のあるプロミュージシャンだったんだよね。レコード会社と契約はしたけど、全然売れなかったわ。アハハハ!!」
パートはギターだったけど、少しはドラムやキーボードも出来るという。
その為、俺達は彼から全ての楽器を教わっていたのだった。
「蘭丸くんは覚えが早いね。コード進行も分かっているし、そのうちオリジナルの曲とか作れちゃいそうだね」
「そ、そうかな?」
おぅおぅ!
嬉しそうにしやがって!
二人揃って褒められてるけど、俺だって新しい楽器にチャレンジしてるんだぜ!
「キミはまずこれで、リズム感を養う事から始めようか」
手渡されたのは、カスタネットだった。
「ハイ、トン、カッ!トン、カッ!トンカッカッ!」
手拍子に合わせて、カスタネットとペダルを踏む練習だった。
「リズム感は悪くないね。歌は絶望的だけど」
一言多いわ!
(まさか兄さんの方が向いてるとね。僕はバンドでは、マネージャーしか出来ないかも)
任せとけ!
たまに友達の家で、太鼓のゲームやってないからな。
「それじゃ、練習再開しようか」
バンドの練習を始めて一週間。
とうとうこの時が来た。
「藤吉郎様が目を覚ましました」
急ぎ秀吉が寝ている部屋を訪ねると、多くのネズミ族に囲まれていた。
「やっと起きたか」
人ゴミをかき分けてベッドの前に着くと、彼は微妙に嫌そうな顔をしていた。
「そうかテンジ。お前達が助けてくれたのか」
「その通りでございます。我が主、いや藤吉郎様」
「私はお前達を遠ざけていたのに、異変に気付いたのがそんはお前達だとは。皮肉なものだな」
上半身を起こし、顔を上げる秀吉。
少しひ弱そうには見えるが、それは寝たきりだったからかもしれない。
僕が見たネズミ族の中では、イケメンの部類に入ると思う。
「しかし、よく私が捕らえられていると分かったな」
「そこはこの二人のおかげです」
僕と半兵衛が前へと押し出される。
「お前は確か、アルジャーノンと言ったか?」
「はい。皆は竹中半兵衛と呼びますが、アルジャーノンでございます」
「半兵衛か。そしてもう一人は、見た事のない顔だが?」
「僕は阿久野、阿久野真王だ。仲の良い連中は、マオって呼んでるかな。今代の魔王でもあるけどね」
「マオ?魔王?」
怪訝な顔をして、僕を凝視する。
「先代に子供は居なかったのでは?」
「先代の子供ではないから。創造魔法は使えるけどね」
そう言って、目の前でネズミの像を作ってみせた。
途端に驚いた顔を見せるが、腑に落ちたのか納得していた。
「なるほど。貴方が魔族を集めて、都を作っているという魔王でしたか」
「長浜まで話が来てるんだね」
「我が領土は貿易都市ですよ?商人が持ち込む情報は、すぐに入ります」
それもそうだ。
でも、その頃には捕まっていたんじゃないのかな?
まあ知ってるんなら別にどっちでもいいか。
「魔王様かこの都市に現れた理由。ドワーフですね?」
「ご名答。滝川一益に会いに行って捕まったって聞いたけど?」
「そこまでご存知でしたか。滝川殿が乱心して、帝国などと手を組んだと聞きました。そうなると領土が隣り合っている長浜は、必ず侵攻対象になるでしょう。そうなる前に、彼の本心を聞きたかったのですが・・・」
「その前に下剋上に遭ったと」
小さく頷き、彼はまた背もたれに身体を預けた。
まだ無理しない方が良い。
周りの連中を下げ、テンジを筆頭に主要な人物だけを残した。
「誰が首謀者か分かっているのですか?」
テンジからしたら、その名前が知りたい。
そしてこの事件を解決して、安土への手土産にしたいという考えなのだろう。
ハッキリ言って、秀吉を助けなくても迎え入れるつもりだけど。
「私を捕らえた奴か。それはだな・・・」
「それは?」
長い沈黙が続く。
秀吉の奴、溜めるなぁ。
何処ぞのクイズ番組の司会みたいだ。
「名前が出てこない!」
「何だよそれ!」
流石にこの答えにはツッコミを入れた。
出てこないって忘れたって事だろう?
名前を忘れるような奴が、重臣なわけないか。
「名前が出てこなくとも、職種なら分かるのでは?」
「それだよ!何してたか分かれば、自ずと名前も出てくるでしょ」
「職種ですか。何だっけ?」
おい。
コイツ本当に大丈夫か?
秀吉ってもっと頭脳派じゃなかったっけ?
「主に何に携わっていたか、分かりますか?」
「アレだ。財務管理だったはずだ」
財務管理って事は、結構重要な立場じゃないか。
何故それを忘れる!
「財務管理ですと財務局ですね。局長、副局長に加えて、財務課長などが居るはずですが。それなりに人数が多いですね」
「情報がこれだけだと、特定は難しいという事か」
「残念ながら・・・」
「いえ、そうとも限りません」
その声は、半兵衛!
振り返ると半兵衛は、バナナを食べていた。
コイツ、かなり図太くなったな。
領主の前でバナナ食いながら、話に参加しているんだから。
「おそらくは元々目立たない人物なのでしょう。藤吉郎様の目に止まらない人物です」
「そんな人物居るのか?」
「私の考えが正しければ、一人だけ。関税管理部の部長、アナトリー殿ですね」
誰だか知らない人だけど、テンジや秀吉の顔を覗くと、思い出したような感じだ。
「アナトリー!まさか彼奴が!?」
「でもソイツが首謀者だとして、何故長浜城に帝国兵が滞在出来るんだ?」
蘭丸の疑問はもっともだ。
僕もその辺が気になっている。
「貿易による関税管理をしているなら、その税金を誤魔化して懐に入れる事も可能なのでは?その金で軍務長官を買収していれば、帝国兵を招き入れてもお咎め無しになっていてもおかしくないかと」
「もしそうなら、軍務長官もグルだよね。そうすると、城の兵の大半は敵?」
「可能性はありますな」
半兵衛の答えから、大半は敵かもしれないと思われる。
だけど、秀吉が本当の事を言ったら?
謀反を起こした事を知らずに協力している連中だって居るだろう。
少しでも寝返れば、戦う相手は少なくて済む。
「秀吉が動けるようになるのは、いつ頃になる?」
「まさか城まで連れていかれるおつもりですか!?」
「戦いには参加させないよ?ただ、本当の事を皆の前で語ってもらいたい。お前達に今命令しているのは、謀反人だってね。そうすれば何も知らずに職務に全うしていた連中は、此方側へ付く可能性だってあるだろう?」
「私も賛成です。藤吉郎様が出てくれば、奴等も動揺します。軍務長官と言っても、全てを掌握しているとは思えませんから」
僕の勘では、半分前後は寝返ると思っている。
三分の一以上が寝返れば、おそらくは数の上でも優勢になる。
この前のようなゴーレムが出てこない限り、劣勢になる事は無いだろう。
「外傷に関しては問題無いと思われます。しかし体力的には未だ衰弱しているので、あまり身体を動かされるのは推奨出来ません」
医者だと思われる男は、反対の立場のようだ。
身体を動かさなければ良いなら、アレ作ろう。
【アレ?】
座ったままでも移動出来る、車椅子。
レバーを動かすと、進んだり曲がったり出来るタイプを考えている。
それに加えてサスペンションとか装着しちゃって、ショック耐性まであれば文句は無いだろう。
【めちゃくちゃ高そうな車椅子だな】
ちなみに電気ではなく魔力で動かすので、魔動車椅子になるのかな?
「というのを考えているのだが、これなら問題無さそうかな?」
「実物を見ていないので分かりませんが、魔王様の仰る通りなら、大丈夫かと」
「よし。それなら早々に作るから、明日にでも向かっちゃおうか?」
「お待ちください!」
やはり早過ぎたか?
半兵衛からストップが掛かった。
秀吉の事を案じているのかと思いきや、何やら違う相談があるようだ。
「ん?こんなの作るの?何で?」
「飛び道具対策と偽装ですね」
「理由は分かった。それでこのスフィンクス像、秀吉は着てくれるのかね?」