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変人4

 ビンタをしても怯まない。

 この男、ハクトや蘭丸を見てすぐに勧誘を始めた。

 ラビですら高評価を得て、僕の立場は急降下。

 気付けば右ストレートをお見舞いしていた。

 しかしパンチも彼には効かず、その道に進めば?と言われる始末。

 なかなかの変人だった。


 そんな彼は芸能事務所の社長だったらしい。

 だからこそハクト達に目を付けたのだろう。

 こんな面倒な男だからか、メイドや兵士に声を掛けまくって苦情が出たようだ。

 そして戦力外からカプセル行き。

 という事は戦力になっていたという事だ。


 彼は佐藤以外には負けないと豪語した。

 蘭丸はその挑発に乗り手合わせしたが、結果は敗北。

 意外な事になかなか強かった。

 見た目に似合わず、合気道を習得しているらしい。

 芸能事務所でも役に立っていたらしく、こんな世界でも通用するみたいだ。

 ただし、接近しないと駄目なので、魔法で遠距離からチクチクやる人や、僕みたいに詠唱しないで使える人には滅法弱い。

 少しだけ魔法を使っただけで、彼はすぐに降参した。

 そして彼は、本題を切り出す。

 アイドルを目指さないかと。





「アイドル?」


 この世界にそんな人、存在するのか?

 そもそもテレビも映画も無いのに、知名度だって上げるのに一苦労だろう。


「あいどるって何だ?」


 二人は聞き慣れない言葉に、首を傾げている。

 知らない時点で、この世界にアイドルは居ないのだろう。

 もしかしたら、帝国や王国には居るかもしれないけど。

 というより、何て説明するんだ?


「アイドルというのはね、例えばキミ達なら憧れの存在かな?女の子はこんなカッコイイ男の子が居るんだ!男の子なら、あんな人達になりたい!そういう気持ちにさせてくれる人の事を、アイドルと呼ぶんだよ」


 おぉ!

 流石は芸能事務所の社長だ。

 この世界でも分かりやすい説明だと思われる。


「なるほどね。でも、俺達より前田兄弟や佐藤さんの方が憧れないか?」


「それは強さにおいて憧れるって意味でしょ?違う違う!アイドルは身近な存在であり、その人達の特別になる存在なんだよ。強いだけだと、尊敬はされても憧れられる人は少ないと思う。強いと守られてる感はあっても、寄り添ってくれてる感は無い。その点キミ達は、人々の心の支えにもなれると思うんだよね」


 うーん。

 よくもまあ、そこまで舌が回るものだ。

 確かにこの二人ならアイドルとしてやっていける気もしないでもない。

 過去に海津町では、キャーキャー言われていたわけだし。

 やろうと思えば、出来ると思う。

 ただ!

 何か面白くない。

 何でこの二人だけなんだよ!

 魔王の顔、悪くないぞ?

 ほら、美少年枠で僕を入れるのもアリだと思うんだが?


「何故二人なんですか?マオくんとかラビさんも、入れれば良いじゃないですか」


 良いぞ!

 その調子だ!


「うーん。彼等かぁ。双子じゃないよね?それなのに同じ顔はおかしいでしょ。それにこっちの彼は、本当の自分を曝け出してない。もし全てを見せてくれるなら、分からなくもないんだけど」


「それは申し訳ないですが、お断りします。職務に差し支えますので」


「そうだよねぇ。本職に影響があったら、問題だもんなぁ」


 ラビが断ったなら、僕だけでも良いじゃない?

 そこはどうなのよ?


「ちなみに残りの彼だけど。何だろうね。影が薄いというか、何か物足りないというか。主役って感じじゃないんだよね。めちゃくちゃ上手いバックダンサーみたいな?」


「バックダンサーって・・・」


 確かにバックダンサーも大切だけどさ。

 魔王がバックダンサーってどうなの?

 この二人だけを主役扱いして、僕なんか見ないでしょ。

 そんなのつまらないじゃないか!


【だったら、お前もメンバーの一員になってしまえばいい】


 そんな方法あるなら、是非ともお願いしたいよ!


【フッフッフ。俺はさっきから考えていた。どうせ選ばれないと思ったからな!自分で言ってて少し悲しいが、それは受け入れるしかない。そこで俺が考えたもの。それは、バンドだ!】


 ば、バンド!?


【バンドなら二人がボーカルだとしても、ギターやベース。ドラムとかキーボードにも注目される。これなら俺達にも出番があるんじゃないか!?】


 素晴らしい!

 何というアイディアを出すんだ!

 これは是非ともやるしかないね。


「ちょっと待てい!」


「いきなり大声出してどうした?」


 バックダンサーで凹んでいた後、急に大声出したもんだから驚かれてしまった。

 しかしそんな事はどうでもいい。


「そのアイドル計画を、更に発展させようじゃないか!」


「ほぅ?」


 やはり社長としては気になっているようだな。

 この世界にバンドなんか無いだろう。

 故に新鮮さも加わって、目立つ事間違い無し!

 僕の作戦にハマるが良い!





「バンド?」


「そう!ハクトや蘭丸をメインにしたバンドだ。ギターやベースを別に準備して、彼等がボーカル。二人以外にもそれなりに良さげなメンバーを準備すれば、それはそれで人気が出るだろう」


 そしてそのメンバーに、僕が入れば良いのだ!

 フハハハ!!

 完璧!

 完璧な作戦だ!


「さっきから聞き慣れない言葉ばかりだが、結局俺達は何をするんだ?」


「そうだね。森くんは歌が主になるかな。そこのラーメンくんも同じだね」


「僕の名前はハクトです!因幡白兎!ラーメンくんはやめてほしいな」


「ハクトくんか!名前までビジュアル系だね。素晴らしいよ」


「名前はマオくんが付けてくれたんですよ」


「そう!僕が付けた。だからハクトを使うなら、ジャーマネである僕に通してもらわないと」


 別にマネージャーでも何でもないけど、メンバーに入る為には使える物は何でも使うさ。


「森くんは本名でも良いけど、芸名使う?」


「芸名?源氏名みたいな感じか?蘭丸じゃ駄目なのか?」


「蘭丸!キミ、蘭丸って呼ばれているの!?」


「そうだけど」


「エクセレント!マーベラス!ジーザス!」


 適当に英語並べてるだけのような気もするが。

 突っ込んだら負けな気がするから、何も言わないでおこう。


「ハクトくんに蘭丸くん。キミ達は僕の事務所の宝だ!これから世界をキミ達色に染めようじゃあないか!」


「いやいや、困りますなぁ。二人とも僕が担当しているから。僕を通してもらわないと」


「分かりました。その話は後程という事で。ところでバンド形式という話だけど、まあまあ面白そうだね」


 意外と好感触!?

 これは本当にメンバー入り出来る可能性あるよ!


「良いかな?此処は長浜にある小さな城だ。しかし安土や若狭に行けば、また違う魔族も居るんだよ。それこそ安土には、多種多様な種族が待っている。オーガ、リザードマン、小人族にミノタウロス。二人だけに限定しないで、メンバーを一考するのもアリなんじゃないかな?」


「意外性を狙って、小人族のドラマーにリザードマンのベースとか。コレは売れるぞぉ!」


「ちなみにほら。今目の前に、唯一無二の存在が居ますよ?職業魔王の珍しい人物が、貴方の目の前に居ますよ?」


「そうだね。チビッコギタリストも面白そうだ」


「僕、ギター弾けない」


「じゃあドラムとかキーボードは?」


「・・・今から練習する」


「問題外かなぁ」


 そういえば、僕は何にも楽器とか弾けない。

 兄さんは?


【無理だな。シンバルとかトライアングルなら出来そう】


 それはバンドというより、小学校の発表会に近そうな雰囲気なんだけど。


【ちょっと待て!でも他の連中だって、楽器なんか触った事無いんじゃないか?それならスタートラインは一緒だろ】


 そういえば!

 それなら僕達が今から練習しても、間に合う可能性もあるわけだ。

 これはイケる予感がしてきた。


「とりあえずバンドメンバー探しは、まだ保留にしておこう。この二人も含めて、長浜でやらなきゃいけない事が残っているから」


「こっちの都合だし、それは全然構わないけど。此処でやらなきゃいけない事っていうのは?」


 コイツに話していいものなのか?

 裏切る可能性は・・・無さそうな気がする。

 ハクト達の件が保留な限り、敵にはならないだろう。


「長浜の領主に対して、下剋上を起こした奴がいるんだが。ソイツが誰だか分からない。今、その領主が目を覚ますのを待っているところだ」


「それで、その下剋上を起こした相手を捕まえて、どうするの?」


「その後は帝国との繋がりと、ドワーフ達と関係しているのかどうかを確認したい」


 もしかしたら、長浜での謀反を起こした奴とドワーフは、関係が無い可能性がある。

 別々に帝国と繋がっているという話もあり得るのだ。


「ドワーフねぇ。彼処も色々と揉めてるみたいだね。俺っちも一度護衛で行ったけど、鍛治師が言う事を聞かないみたいだよ?」


「何だ!?その情報は!」


 完全に初耳だ。

 これは僕等だけじゃ処理しきれない話だと思う。


「ハクト、ドランさん呼んできてくれる?急ぎで」


「分かった!」





「鍛治師が言う事を聞かない?」


「このおっさん、ロックが行ったら揉めてたらしい」


「ドワーフの方ですか。はじめまして、岩間です。ロックと呼んでください」


 営業みたいな挨拶だな。

 まあチャラい感じで話をされるよりは、信用出来るけど。


「それでロック殿。先程の話を詳しく聞かせてもらえるか?」


「ドワーフ達の街、上野国でしたか?少し前に、帝国へミスリルを運ぶ仕事を請け負いまして。その時の話です」


「それで鍛治師達は何故、言う事を聞かないというのです?」


「一言で言うならば、休養の要求ですね。ミスリル製の武具を帝国に渡す為、本来なら交代制のところを全員で行っていたようです」


 なるほど。

 休日返上で仕事した分、代休をくれという事か。

 当たり前の要求じゃないのか?


「それを領主が許さなかったと?」


「その通りです」


「やはりうちの領主は、おかしくなっているようですな。本来なら事故が起きる事を、一番に激怒する方なのです。それを真逆の事を行うなど、今までならあり得ませんよ」


 洗脳確定か。

 精神魔法なら解ける気がするけど、会う頃にはどんな性格になっているのやら。


「ちなみに反発した鍛治師達はどうなったの?」


「牢獄送りでしたな。アレは見てて、気持ちの良いものじゃなかった。俺っちも小さいながらも社長という立場。それなりに滝川一益の気持ちは分からなくもないけど、あの裁定は理不尽だと思ったよ」


 理不尽か。

 僕の命令とかに対して、皆はどう思っているんだろう?

 極力出来る事をお願いしている感じだけど、たまに命令になる。

 やっぱりこんなチビッコに命令されるのは、気分が悪いのだろうか?

 僕も気を付けよう。


「ところで、この方はどうされるので?」


「どうされるとは?」


「小林殿のように、安土へと向かわれるのですか?でも、これ以上は人員を割くのは難しいですよ」


「俺っち、此処で待っててもいいよ」


 うーん。

 難しい判断だな。

 この人が何か行動を起こしたら、抑えられる人がおそらく三人。

 前田兄弟と佐藤さんだけだ。

 しかしこの三人の誰かを置いていくとなると、かなりの戦力ダウン。

 かと言って連れて行った先で、何もさせないのも微妙だし。


「随分と悩んでるな」


「あの人の扱いで困ってるんだよ」


 蘭丸に思っている事を話すと、簡単だと言い出した。

 どうするつもりなのか?





「ロック!アンタのやりたい事を手伝ってもいい。だからアンタも、俺達の事を手伝ってくれ」

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