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エルフの町へお引越し

「坊主、大丈夫か?」


 膝から崩れ落ちた俺は、アマゾネスもとい女エルフの戦士さんに脇を抱えられ起こされた。

 ぶつかった弾みで怪我でもしたのかと心配したのだろう。

 その顔はとても綺麗で、見とれてしまうほどだ。

 顔だけ見ていれば、もう求婚するレベルである。


【何故・・・何故こんなにムキムキなんだよぉぉぉぉ!!!】


 兄はそう言い残すと、拗ねたように入れ替わった。




「・・・だ、大丈夫です。ぶつかってごめんなさい!」


 顔を見ると照れるというか凹むというか、喜びと悲しみの間で変な顔になりそうだったから、うつむき加減で返事をした。

 本当に綺麗な人だな。


「ん?お前・・・ダークエルフ?まあいいか。元気なことは良いことだ。友達も来たし、遊んできな!」


 そう言い残して、彼女は去っていった。

 振り返ると、急に審判を放り出してBダッシュした俺を追って走ってきた因幡くんが手を振っている。


「阿久野く~ん!先生が怒ってるよ~」


 聞かなかった事にしたい・・・。




 先生にひとしきり怒られて野球を終えた後、因幡くんと一緒に帰宅の途についていた。

 彼はイケメンになったというのに、未だに人見知りだ。

 周りの女子の人気は断トツでトップなのだが、直接好きだと口に出して言われてないせいか、陰口を言われているのだと思っている。

 見ればバレバレの好意なのに。

 何度か教えたのだが、慰めはいいよと、逆にこじらせてしまった。

 彼に幸せは訪れるのだろうか。


 そんな事を考えながら歩いていると、前から猫田さんが走ってきた。

 どうやら村長である前田さんのお使いらしい。


「猫田さん、どうしたんですか?」


「阿久野くん、君を探してたんだ。ちょっと来てもらってもいいかな?」


 猫田さんは因幡くんに目をやりながら、そう言ってきた。

 因幡くんには聞かれたくないのかな?

 そういう隠し事を因幡くんにすると、またこじらせそうだし。


「それは構わないですけど、因幡くんも一緒でも大丈夫ですか?」


「え!?うーん、いい・・・のかな?駄目なら別室に案内されるだろうし、じゃあ一緒に行こうか?」


 というわけで、巻き込み決定。

 なんか一人で行くと、厄介な事になりそうな気もするんだよね。



 村長宅に到着した後、以前案内された和室とは別の部屋に案内された。

 その部屋には前田さんとさっきぶつかった人が、テーブルをはさんで向かい合って椅子に座っていた。


「お友達も連れてきたんですね。この際だから、身近に一人くらい知っている人を作っておくのもいいでしょう」


 どうやら因幡くんは、このまま参加でいいらしい。

 僕達二人は、左右に前田さんと女エルフの戦士さんを見る形で椅子に座った。


「さて村長、聞きたい事があるんですが」


「分かってます。その前に阿久野くん。例の魔法、見せてもらっていいですか?」


 例のって事は、創生魔法の事だろう。

 立ち上がり周りを見たが、何を作ればいいのか分からなかったので、座っていた椅子を前田さんに似た彫刻にしてみた。


「これは!?無詠唱・・・じゃないな!まさか!?」


「阿久野くん、これは!?」


 そういえば因幡くんにも見せた事無かったな。

 前田さんからはあまり知られないようにって言われてたから、基本的に独りの時にしか練習してなかったかもしれない。


「ご覧の通り、創生魔法です。彼は森の中、独りで生活していました。そこを猫田が見つけ、私達の村に来てもらったのです」


「村長!創生魔法を使えるという事は、魔王の血筋だぞ!何故、黙っていた!」


「彼は創生魔法を使えますが、本人は親の顔も知らないし、魔王ではないと言っているのです」


 僕は魔王ではない。身体は魔王だけど、中身は違うからね。

 何か言われても、間違ってないと言い張ろう。


「そんな子供の言っている事を真に受けるのか!これは能登村だけでなく、魔族全体の問題だぞ!?」


 魔族全体と来たか。

 僕等はただ魂を探しに来ただけなのに、随分と大事だな。

 ちょっとポーカーフェイスが崩れそうで怖い。


「とりあえず落ち着いてください。何故彼を紹介したと思っているのです。私達は貴方達エルフに、彼の存在を隠し通す事も出来たのですよ?」


「む!?それもそうだ。驚きのあまり、我を失ってしまったようです。申し訳ない」


 ムキムキマッチョの怒号は、男女関係なく迫力があるね。

 横に座っている因幡くんは、既にオーバーヒートしている。


「私から見ても、彼は魔王の血筋に間違いないと思っている。だが本人は頑なに認めない」


「そうですね。魔王の子ではないです」


 しれっと釘を刺す。

 魔族全体の問題とか言われて、変に担ぎ上げられても困るんだよ。


「ほらね。しかし、この村だけの問題にするには、事が大きい。それに彼は既に、四属性の魔法に関しては大人並。身体強化に関しては、大人以上の力を持っています。そこで魔法の知識に関しては魔族随一のエルフ、あなた方に彼の事を任せたいのです」


 前田さんはそう言って、僕等の方に目をやった。

 というか、エルフってやっぱり魔法の方が得意なんだ!

 この戦士団が異常なんだ!


 ピクッ


【私の事を呼んだかね?】


 うん、呼んでない。

 分かっている。言いたい事は分かっているよ。


【分かっているならいい。しかし、真面目な話どうするよ?この村での生活にも慣れたのに、引っ越すのか?】


 うーん、たしかにここでの生活はとても快適だけど。

 でも僕達の本来の目的は、魂の欠片を見つける事。

 強くなる為に、やっぱり魔法の知識は必要だよ。


【まあそうだよなぁ。俺には多分使えないだろうけど、お前が使えるようになれば全然違うもんな】


 と言いつつ、本来のエルフを見てみたい!というのも嘘ではない。

 というか知らない間に、話が進んでいた。


「そこで彼に関してなんですが、受け入れる際にら元々エルフの町に住んでいたという事にしていただきたい!」


「・・・帝国に変に疑われない為ですか?」


「そうです。彼が来てから、帝国もこちらの方に勢力を伸ばしつつあります。このまま帝国が迫ってくれば、この能登村だけでは彼を庇いきれなくなる!」


 帝国の話は村で全く聞かなかったが、こんな所まで攻めてきているのか。

 やはり僕等の魂の欠片のせいもあるのだろうか・・・。


「なるほど。そこでここより堅固なエルフの町に預けるというわけですね。それに魔法の才能もあるのなら、一石二鳥。断る理由はありませんね」


「では、引き受けてくださいますな!?」


「勿論です。もし彼が帝国に奴隷として連れていかれたら、どんな目に遭うか」


 どうやら本人の意向は無視らしい。

 それほど切羽詰まった状況なのだろうか?


「ま、待って下さい!僕も、僕も一緒に連れてってもらえませんか?」


 おおっと!さっきまで完全フリーズしてた因幡くんが、急に再起動したぞ。

 創生魔法とか魔王とか、完全にキャパオーバーで目の前グルグルだったのに。


「どうして一緒に行きたいのだ?」


「僕は身体強化が下手な代わりに、四属性の魔法が獣人の中では得意です。だからエルフの町で勉強させてください。彼に、阿久野くんにはいつもお世話になっているんです。だから僕も、彼にお返しがしたい!彼の為に何かやりたい!」


 そんな事を思っていたなんて・・・。

 因幡くん、ぼかぁちょっと感動したよ!

 イケメン爆ぜろ!とか、このモテモテ野郎!とか思ってゴメンね。


「家族には話をしてあるのかね?もし了承を得ずに連れていくとなると、問題だからね」


「今から許可をもらってきます!」


 因幡くんはそう言い残して走って行ってしまった。

 あんなに熱い因幡くんは初めてだ。

 普段からあれだけ話せたらもっと友達も・・・って、そしたらついてくる理由も無いか。


「あの子も連れて行ってやってもらえますか?何かとやる気もあるので、留学生のような形で」


「因幡くんは僕達の中でも、魔法は得意です。きっと、凄い獣人になれるはずです」


「親が了承してくれるなら、特に問題は無いと思います。住居も二人で同じ家にすれば済む話ですし」


 行き当たりばったりの交渉だったのに、意外とすんなり受け入れてもらえた。

 知らない町に一人で行くよりかは、ありがたいかもしれない。


 一時間後、因幡くんは親を説得し戻ってきた。

 エルフの村へ勉強しに行くという理由から、何とか納得してもらえたとの事。

 あとは一人ではなく、僕が一緒だという事も大きかったらしい。

 因幡一家とはたまに会うけど、そこまで信用されているとは想像もしなかった。



 そうして僕達は、能登村からエルフの町へお引越しする事になった。

 とはいうものの、そこまでは遠くないじゃないか!

 歩いて二日、予想外の近さだ。

 山は越えるものの、身体強化して走れば一日かからずに到着出来る距離だ。


【おい!町の人達はエルフさんなのか!?】


 流石にまだ町中は見えないって。

 もう少しで着くから、先に代わっておこうか?


【いや、心の傷が癒えてないからやめておこう・・・】


 綺麗なお姉さまの立派な大胸筋が、よほどショックだったのだろう。

 戦士団に連れられて町に入った僕等は、第一エルフを発見した。

 ん?戦士団はエルフじゃないのかって?

 彼女達はアマゾネスです。

 否エルフ!!

 口に出したらベアハッグで潰されそうだけど・・・。


 そしてエルフはやはり予想した人物だった。

 長身痩躯な身体に、エルフという名に相応しい美形な顔作り。

 男性も女性もやはり美形なのだが、女エルフの戦士はその中でも美形だったみたいだ。

 ムキムキマッチョじゃなければ、おそらく求婚の嵐であっただろう。


【行くかね?あの作戦を・・・】


 やるというのかね?

 あれれ~?おかしいな~?皆とはぐれちゃった~作戦を!

 今回エルフ達を見た僕は、兄ではなく僕がやる事にしたのだ!

 少しずつ戦士団から離れ、迷子のフリをして女エルフに体当たりという名のボディタッチ。

 大胸筋が発達しているという巨乳を抜かせば、そこまで大きな人は見当たらない。

 フニョンがいいところだろう。

 意を決して、いざ桃源郷へ!

 食らえ!僕のボディアタック。

 アンド、ソフトタッチライトハンド。


 フニョン!

 という柔らかなソレ。

 モフモフ感があってなかなかに良い触り心地だ。


「阿久野くん、僕の耳を弄るのやめてもらっていい?」


「ノオォォォォウ!!ちっがうよ!何してくれちゃったんだよ!」


 なんと、後ろから因幡の野郎がついてきていやがった。

 急に方向転換してぶつかる作戦が、因幡くんにぶつかるというハメに。

 後ろが見えてないという事が、逆にアダになってしまった。

 ちくしょおぉぉぉぉ!!!!

 またしても作戦失敗だ!

 そんな騒ぎを起こしていると、周囲には人だかりが。

 そして信じられない出来事が・・・。


「あら?ウサギの獣人のキミ。可愛い顔してるわね。お姉さんと一緒にお茶でもしない?」


 なあにぃぃぃ!?やっちまったなあ。

 これが世に逆ナンというヤツか!

 そして因幡くんは、能登村ではされなかった、初の好意的な言葉に驚きを隠せていない。


「え?あ、あう、えーと・・・」


 テンパっているその姿が母性本能をくすぐるのか、彼は抱きつかれながら、


「何この子可愛い!時間あるなら一緒に行きましょ!」


 と腕を組まれて歩いて行ってしまった。

 母性本能なら、見た目は子供の僕の方がくすぐると思うんだけど。

 何この敗北感。



 そして僕は独りになり、作戦どころか本当に迷子になった。




 エルフ、ちょっと嫌いになりそうです。

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