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ジェスチャー

 沖田の気持ちも、分からなくもないんだよね。


 沖田は官兵衛の忠告を無視して、そのまま秀長の下へと向かう事を選択した。

 官兵衛の忠告とは武器の交換についてだったのだが、仕方ない気もするんだよ。

 そもそも沖田の使っている武器は、言ってしまえばメインではなく予備として使うような武器である。

 今や僕達は、皆がクリスタルを内蔵した武器を持っている。

 沖田は当初、武器にはこだわらないようにしていたみたいだが、万が一を考えて予備の武器にクリスタルを内蔵させてみた。

 それを使用してからというもの、やはり必要だと気付いたらしい。

 だからメインで扱う剣と爪は、アンデッドに使用するのではなく秀長に残しておこうという作戦だった。

 だから昌幸達が作った予備用の武器を大量に用意したのだが、沖田はそれを取りに戻らなかったのだ。


 でもね、僕も沖田と同じ気持ちなんだよね。

 ハッキリ言って、面倒だから。

 だったら最初から、もっと持ち歩けば良いじゃないと思うかもしれない。

 でも剣を何本も持ち歩くと、どうなるか分かる?

 ガチャガチャと音を立てて、夜戦による隠密行動が無意味になるんだよね。

 今回の作戦は、夜闇に紛れてアンデッドとの戦いを極力回避し、秀長の下にたどり着こうというわけだ。

 しかしアンデッドを倒す為に武器を持てば、秀長にバレてしまう。

 それじゃあ結局、本末転倒でしょ。

 だから武器を取りに戻らず、最短距離で駆け抜ける。

 沖田はそれを選択したのだが、結局武器は駄目になってしまった。

 とはいえさっきも言ったけど、僕は沖田の判断を支持するかな。

 やっぱり面倒だし、今回は失敗してしまったけど、それはたまたまという可能性もある。

 失敗するかもしれないなら、それは選択するなと言う人も居るだろう。

 でもやっぱり、夜の間に秀長を倒さないといけないという問題点が大きい。

 それを踏まえると、戻ってる時間が勿体無い気がするんだよね。

 あくまでも僕の感想だけどね。


 まあ他にも、微妙な事も考えてたんだけど。

 アンデッドは面倒だから、クリスタル内蔵の武器を大量に使用して、先に始末すれば良かったんじゃないかな。

 だけど後から言われたのは、倒しても復活するアンデッドに、クリスタルを大量使用するのは勿体無いとの事。

 それに代表戦と言ったが、万が一を考えると皆の分の武器も残しておきたい。

 だから結局、今回の作戦が最善だったという話だった。









 沖田は夜目が利く。

 月明かりも無い真っ暗な中でも、リヤカーがどうやって来たのか見えていた。

 そしてコレが突然現れたのは、魔王の新しい武器が勝手に動き、リヤカーを牽いてきたからだった。



「ガイストと呼んでいたっけ。魔王様が操っているのかな?」


 ガイストはリヤカーから右手を放し、横に振る。

 見えているのか分からないが、沖田と会話が出来ないガイストは、身振り・・・ではなく手振りで相手に気持ちを伝えるしか方法は無かった。

 だが前述したように、沖田は夜でも見えている。

 その為ガイストが手を横に振った事で、魔王が操っているわけではないと知った。



「魔王様じゃない?となると、どうやってこの場所に・・・。まさかこの腕、魔王様と関係無く意志がある?」


 ビクッと動くガイスト。

 すると右手の人差し指と親指で、小さな丸を作った。



「凄いな!まさか何も命令せずとも動くなんて。しかし助かった。いや、助かりましたと言った方が良いのかな?」


 沖田はリヤカーから剣を取ると、辺りに居たアンデッドを蹴散らしてみせる。

 斬れ味が落ちていない武器を手にした沖田は、気持ちがとても楽になっていた。



「本当にありがとうございます。え?気にするな?」


 ガイストは肩をポンと叩くと、親指を立てる。

 そして人差し指で奥の方を指差すと、リヤカーを牽き始めた。



「一緒に来てくれるんですか?助かります」


 沖田は物言わぬ手にお礼を言い、そのまま秀長の下へと向かっていった。









「マジか」


「どうされました?」


「ガイストの奴、リヤカー牽いて森の中に入っていったらしい」


 長谷部は驚いているが、官兵衛は素っ気無い感じだ。

 もしかして、こうなる事を予想していた?



「官兵衛の中では想定内って感じだな。でもさ、俺気になる点があるんだけど」


「何?」


「ガイストって何処まで行けるの?森の中を突き進んでいくけど、秀長が居る辺りまで届くの?」


 ・・・そういえばそうだったあぁぁぁ!!

 なんとなく一キロくらいは余裕だと思っていたけど、秀長が何処に居るのか分からない。

 もし大坂城手前くらいまで下がっていたら、ガイストは先に進めなくなるんじゃないのか?



「官兵衛」


「・・・魔王様、検証されました?」


 官兵衛も想定外だった!

 マズイな。

 沖田はガイストと秀長の所まで、一緒に行けると思ってるかもしれないけど、もしかしたら途中で行けなくなるかもしれない。

 ガイスト曰く、限界距離が来るとロープが足りなくなったみたいに引っ張られるという話だが。



「ど、どうする?」


「本人に確認をするのはどうでしょう」


 本人というと、ガイストかな。

 沖田にも電話を持たせているけど、ここで鳴らしたら絶対にダメなヤツだし。



『聞こえている。我の限界距離という話だが』


 どうなの?



『正直なところ、我にも分からん』


「おいおい、自分の事だろう」


 しまった。

 声に出してしまった。

 官兵衛と長谷部がビックリしている。



『それはそちらにも同じ事が言えるのだが。分からないのか?』


 分かりません。



『駄目だな。とりあえずこの男に、我に限界距離がある事を伝えようと思う』


 助かるよ。







「何か用かな?」


 走る沖田の横に並んだガイスト。

 すると左手で、止まれというジェスチャーをする。

 理解した沖田は、周りにアンデッドが近くに居ない所で立ち止まった。



『立ち止まったな。よし、我のジェスチャーで伝えよう』


 ガイストはロープを引くようなジェスチャーを見せ、自分の限界距離があるという事を伝える。

 すると沖田は大きく頷いた。



「なるほど。分かったよ」


『おぉ!流石は魔王から期待されている男。頭も良いようだ』


「象の鼻は長いから、踏まないように気を付けようね」


『ちっが〜う!』


 両手を横に勢いよく振るガイスト。

 沖田は首を傾げる。



「違うの?」


 頷くように指を曲げると、ガイストは再びジェスチャーをする。



「今度こそ分かったよ!」


『やっと伝わったか』


 肉体が無いので疲れないはずなのだが、妙に疲労を感じるガイスト。

 生前のように思わずため息を吐きそうになると、その感情が久しぶりだというのに気付く。



「大きな皿に盛られたチャーハンを、全部平らげた官兵衛さん」


『分かった。諦めよう』


 ガイストはもう良いやと、リヤカーに手を掛けて再び進み始める。










「うん、なるほどね」


「どうでしたか?」


「諦めたみたいよ」


 ハッキリ言って、無理な話だったんだよ。

 喋れもしないガイストが、明かりも無い真っ暗な中でジェスチャーで伝えるとか。

 こんなのに時間を掛けてたら、逆にアンデッドに囲まれちゃうと思う。

 だが官兵衛は、そんな僕の考えを軽々と打ち砕いた。



「どうしてです?」


「ジェスチャーをしても、沖田には伝わらなかったらしい。やっぱり喋れないと難しいよ」


「いやいや!どうしてそんな事を」


「それ以外、どうやって伝える方法があるのさ」


「地面に文字を書けば良かったと思うんですけど」


 ・・・どうしてそれに気付かなかった!

 僕は馬鹿なのか?

 一番最初に思いつくべき事じゃないか。



「でも立ち止まっていなければ、難しいですよね」


 立ち止まってました。

 ジェスチャーしてるくらいだからね。



「ガイスト殿に文字が書けないかもしれないですし」


 書けますね。

 ガイストはオバケというより幽霊だし。

 元々人間みたいだから、確実に書けると思う。



「今からでも遅くありません。もう一度伝えた方が」


「・・・いや、遅かったみたいよ」


「まさか、アンデッドに囲まれました?」


「アンデッドじゃなくて、本命が見つかったらしい」









「見つけた!」


 おそらく秀長だろう。

 沖田は真っ暗な中で、ほんの少しだけ明るい場所を見つけた。

 そこは黒い幕で覆われており、風で少し捲られた幕の隙間から、明かりが少しだけ漏れたのを見逃さなかったから分かった場所だった。

 それこそ数メートルまで近付いてようやく分かる、それくらい遮光性に優れていた。



『まさかこんな所にあるとは。我も全く気付かなかった。しかしこの男なら、不意を突いて敵を倒せるはず。やれ!』


 沖田は黒い幕の前で、剣を抜いて身構えた。

 動かない沖田だが、その手には力が入っている。

 数分の間、一切動かなかった沖田だったが、とうとう覚悟を決めた。

 こちらから攻める。

 沖田の雰囲気が変わり、ガイストもいよいよだと勘付く。

 沖田が動いた。

 そう思われた瞬間、黒い幕の内側から刃が伸びてくる。



「チッ!」


 沖田は舌打ちしながら、後ろへ飛び退いた。

 バレていた。

 それが分かると、沖田も持っていた武器を黒い幕へとぶん投げる。



「武器を投げ捨てるか。バカだな」


 黒い幕の内側から、冷静な声が聞こえてくる。

 沖田は爪を伸ばして、声がした辺りを大きく切り裂いた。

 中から現れたのは、沖田が探していた男。

 のはずだった。



「・・・誰だ?」


 沖田は目を細めると、目の前の男を観察するように眺める。

 姿は羽柴秀長に似ている。

 しかし雰囲気は、まるで違う。



 羽柴秀長はネクロマンサーであり、剣士という感じではない。

 だが沖田の目の前に居る人物は、槍を持っている。

 そして彼が醸し出す雰囲気は、明らかに歴戦を戦い抜いたようだった。



「影武者ですか?」


「違うな」


「羽柴秀長本人ですか。しかしそれはおかしい。貴方からは強者だという雰囲気が、立っているだけで分かりますよ」


「強者か・・・。既に死んでいるんだがな」


 死んでいる?

 沖田は一瞬その意味を考えると、突然目の前に何かが飛んできた。



「ガイストさん!?」


 目の前に来たと思ったら、大きく後ろへ飛んでいく。

 それは何かに弾かれたようだった。



「まさか、羽柴秀長の攻撃か!?」


「今のは何だ?腕が飛んできた?」


 沖田は気付いた。

 男の手の槍の位置が違っている。



「まさか、僕が気付かない突き!?貴方、本当に誰なんです!?」







「魔王様と共に帝国に殴り込み、その時に死んだんだがな。何故か黄泉から呼び戻されたらしい。ん?俺の名前か?俺は能登村の前田だ」

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