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大軍の相手

 負けたー!

 負けてしまったー!


 又左と太田の戦いは、又左の勝利に終わった。

 流石に沖田や長谷部が居る手前、冷静さを保ったよ。

 でも内心では、負けるとは思わなかった。

 沖田が嫌な予感がする的な感じで言ってたから、少しは気にはしていたんだけど。

 それでも又左と太田では、実力に差があると思っていた。

 おそらく又左が目覚めた野性というのが、太田と相性が悪かったのかもしれない。


 そもそも弱点が見えるって、ズルくないか?

 とはいえ又左の話を聞く限り、まだそこまで扱いきれていないっぽい。

 又左はなんとなく光って見えたくらいの言い方なのだが、沖田くらい使いこなしていると、その光はもっと収束されて、ハッキリとここが弱点だと見えるようになるという話だった。

 おそらく太田は暴走しかけていたから、防御が疎かになっていていたんじゃないかな。

 そう考えれば、又左に光って見えた場所が大きかった理由も、なんとなく分かる。

 もし僕の考えが正しければ、太田は逆転勝ちしていたかもしれない。

 暴走しかけていなければ、逆に目覚めたばかりの又左の疲労の方が、先に限界を迎えたと思われるからだ。

 肉体的には太田が厳しかったけど、精神的には又左が限界だった。

 そう考えると、意外と紙一重だったとも言えなくもない。

 まあ全ては机上の空論だけど。


 何はともあれ、太田は負けてしまった。

 僕も又左が太田を指名した際に、納得して送り出したんだ。

 それはもう仕方ない。

 それに負けたと言っても、太田は瀕死の重傷を負ったわけでも、身体の一部が欠損したわけでもないからね。

 ただ純粋に又左と戦って、負けてしまったのだ。

 しかし負けてしまったが、取り返せたモノもある。

 負けた太田に、肩を貸して戻ってきてくれたんだ。

 言いたい事はあるけど、今は言わないでおいた方が良い。

 慶次に誤解も解かないといけないし、奴も色々と忙しいだろう。

 優秀な男が戻ってきた。

 それだけで良いじゃないか。

 と言いたいところだけど、やっぱり初戦敗北はちょっと痛いなぁ。








「次は僕が行きますよ」


 沖田は自ら立候補した。

 僕が秀吉とやるとすれば、残りは三人。

 沖田とマッツン、それとヨアヒムだ。

 しかしマッツンはまだ、ゴブリン達と何かの特訓をしていた。

 その為、彼は次戦には参加出来ないと報告は受けていた。

 となると、沖田とヨアヒムになるわけだが。

 沖田が立候補した事で、ヨアヒムが何かしらの反応を見せると思ったのだが。



「良いぞ。自ら行きたいという男を止めるほど、俺は野暮じゃない」


「ありがとうございます」


 すんなりと決まってしまった。

 しかし、沖田が急に自分から行きたいと言い出すなんて。

 どんな心境の変化だ。



「ワガママ言ってすいません」


「いや!そういう意味で見ていたんじゃないんだけどね」


 人形の姿だから、視線なんか分からないと思ったんだけど。

 意外にも沖田は、僕が見ていた事に気付いた。



「急に立候補したから、ちょっと驚いただけだよ」


「・・・なんとなくですけど、僕が行くべきだと思ったんですよ」


 なんとなく、ねぇ。

 戦うべき相手が分かっているのかな?

 もしかして、これも因果に導かれているのかもしれない。

 だからヨアヒムも、簡単に引いたとも言える。



「少しお待ち下さい」


 官兵衛が沖田を呼び止めた。

 沖田は次戦に出るのを止められたのかと、少し嫌なそうな顔をしている。

 だが官兵衛も苦笑いで、そうではないと言った。



「沖田くんにはちょっと荷物になりますが、渡したい物があります」


 物と言っている割に、官兵衛は何も持っていない。

 沖田もそれを不思議に思っているようだ。



「外に用意してありますので」


 僕達は外に出ると、リヤカーが用意されていた。

 その荷台には、剣や太刀が何本も載っている。



「これは?」


「沖田くんは太田殿以上に、長時間戦うかもしれません。おそらく途中で、剣が折れる可能性もあります。なので予備用として、用意しておきました」


「官兵衛、予備用って言ってるけど、コレ結構な業物じゃないか?」


 僕に剣の良さは分からない。

 カッコイイから見た目だけ判断は出来るが、実用性の面では良いモノなのかは分からないんだよね。

 でも兄は違う。

 剣を持つようになったからか、それとも歴代魔王との特訓で覚えたのか。

 それなりに見る目が養われたようだ。

 その兄が、この剣は良いモノだと言っている。

 兄の事だから節穴かと思ったけど、どうやら沖田から見てもなかなかのモノらしい。



「こんなに良いんですか?」


「長さや握りが合うかは分かりません。でもあって困る物ではないでしょう?」


「官兵衛さん・・・」


「ここまで来ると、策など役に立ちませんからね。沖田くんの勝利を願うなら、オイラの出来る事をしたまでですよ」


 感無量といった表情を見せる沖田。

 確かに代表戦となると、官兵衛の頭脳も活躍する場が限定される。

 と言っても、沖田がこれだけの武器が必要になる相手だと、官兵衛は予想していたのだから、既に凄いんだけどね。



「官兵衛さん、僕はどう戦うと良いですか?」


「・・・あくまでもオイラの予想ですよ?」


「お願いします」


 官兵衛は沖田に、自分の考えを教えてみせた。

 沖田は時折り頷きながら、官兵衛の説明に耳を傾ける。



「分かりました」


「沖田くんには、厳しい戦いになると思います。でも沖田くんなら、勝てますから」


「ありがとうございます!」


 官兵衛は力強く拳を握ると、沖田に向けた。

 沖田は拳と拳を合わせると、リヤカーを牽いて戦場へと向かっていった。








 後ろ姿が妙に哀愁がある。

 リヤカーを牽くその姿は、廃品回収でもしているかのようだが、沖田はそれを途中で置いていった。



「どうして持っていかないんだ?」


「敵の前まで持っていけば、逆に利用されかねませんから」


「なるほど。途中に置いていくのは、そういう理由か」


 まあ官兵衛の言う通りだろうな。

 向こうからは、黒い人の波が見えている。

 人とはもう呼べないシロモノかもしれないけど、中には剣も扱える奴も居るだろう。



「でもさ、わざわざ剣を取りに戻るのか?そんな事してたら後ろから追ってきて、結局リヤカーの周りを囲まれる気がするんだけど」


「それに関しては、魔王様が協力してくれました」


「フッフッフ。それくらいは僕も分かっているよ」


 沖田にはどう動けば良いのか、官兵衛とも相談して決めてある。

 ちょっとぶっつけ本番だけど、やらないよりはマシだろう。



「相手は予想通り。あとは沖田くん次第です」









「お前が相手か」


「沖田だったな。私が相手では不服かな?」


「いや、願ってもない。むしろ好都合だというもの」


 沖田は秀吉側から出てきた相手が秀長だと分かり、やっぱりなと納得していた。



「これが因果か」


「何か言ったかな?」


「関係の深い者と戦う。本当にそうなんだなと、感心しただけですよ」


「私と関係が深い?全く身に覚えが無いのだが」


 秀長の言葉に、耳がピクリと動く沖田。

 すると珍しく、感情を強く表に出した。



「近藤さん達を操っていたのは誰だ!」


「ああ、そういう意味。それを言ってしまうと、私はほとんどの人と関係が深くなるがね。それに壬生狼と言ったか。思ったより戦力にならず、困ったものだよ」


「死人を侮辱するとは。やはりお前は、必ず殺す!」


 剣を抜いた沖田は、そのまま秀長に斬りかかる。

 しかしその剣は、とあるアンデッドにより防がれた。



「何だ?槍の穂先?」


「さて、沖田くん。私の所にやって来れたら、相手をしてあげよう」


 空を飛ぶ何本かの穂先に、翻弄される沖田。

 その間秀長は、悠々と後方へ下がっていった。







 数分襲ってくる穂先を弾きながら、様子を見ていた沖田。

 すると沖田は、穂先はある程度の決まった動きしか出来ない事に勘付いた。

 そして一定のルートを飛んでくる穂先を叩き落とすと、そのまま地面へと埋めるように蹴り込んだ。



「軽いな。うん、もう動かない」


 しばらく穂先が地面から出てこない事を確認すると、沖田はこれからが本番だとアンデッドの大軍を前にして、気持ちを改めた。



 アンデッドの大軍は、多種多様な種族で埋め尽くされている。

 ヒト族も居れば、魔族も魔物も居る。

 厄介なのは、魔族の一部と魔物である。

 特に空を飛べる魔族と魔物は剣が届かず、一方的に攻撃をされている始末だった。



「なるほど。これは確かに長時間になりそうです」


 ただ単に襲ってくるだけのアンデッドなら、露払いをするように簡単にあしらう事は出来る。

 しかし秀長側も、今回ばかりは出し惜しみをしてこなかった。



 代表戦になった時点で、アンデッドは秀長の能力で操れる武器という扱いになっている。

 アンデッドを残しておいても、戦えないのなら意味は無い。

 その為有力な鳥人族のアンデッドや、地底を進むメメゾのアンデッド。

 魔法が使えるエルフやドワーフのアンデッドに、身体能力の高い獣人族。

 更に特殊な能力も使えるアンデッドなど、秀吉を守る為に残しておいた強力な連中も総動員しているのだった。



「チッ!意外と早かった」


 横から剣を叩かれると、微かに曲がり使い物にならなくなってしまった。

 最後にアンデッドの頭に突き刺して、曲がった剣を蹴り飛ばして捨てる沖田。

 武器が無く爪を伸ばして戦うものの、このままでは危険だとアンデッドの囲いから抜け出して、一旦後方へ下がった。



「っと!本当に飛んできた」


 沖田は山なりに剣が飛んでくるのを見ると、自分とは離れた所に落ちたのを確認する。

 理由は分からないが、これは便利だ。

 武器が無くなる心配が無くなった。

 沖田は武器を壊さないように、丁寧に戦おうと考えていたが、これなら全力でやれると確信した。








「な、何だぁ!?」


 兄が素っ頓狂な声を上げている。

 理由は分かる。

 武器を捨てて後方へ戻った沖田の方に、リヤカーから勝手に剣が飛んでいったからだ。



「ありゃどうなってるんだ?魔法?」


「え?魔王様の仕業じゃないんですか?」


「俺じゃないよ!お前か?」


 兄と官兵衛は困惑している。

 まあ兄には内緒で話を進めたからな。

 それでも本人からは、ある意味快諾されているので、強制ではない。



「お前、何したんだよ?」


「簡単だよ。ガイストをリヤカーに潜り込ませたんだ」


「ガイストって、こんな離れても動かせるのか!?」






「最初は駄目だったんだけど、気付くとその距離が伸びていたんだよね。足りなかったら僕だけ戦場に近付こうと思ってたけど、案外なんとかなるもんだ」

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