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太田と又左

 どちらが強いのか?


 又左の願望は、太田との戦いにあった。

 最強だと思う人と戦いたい。

 又左にとってそれは、太田だったのだろう。

 僕としては、ムッちゃんの方が強いかなと思っているんだけど。

 もしくは本当に強いのは、ヨアヒムではないかとも考えていたりする。

 まあヨアヒムは置いといたとして、太田とムッちゃんのどちらが強いかという話だ。

 そもそもムッちゃんは、世界チャンピオンである。

 それも立ち技メインの、ストライカーと呼ばれるタイプだろう。

 寝技や組み技が得意なタイプをグラップラーと呼ぶが、それはプロレスを覚えてようやく使うようになったと聞いている。

 そして僕が知る限り、ムッちゃんは不器用だ。

 とんでもなくゲームが下手なのは、単純にそれが理由だと思っている。

 しかし反復練習が苦にならない性格から、ムッちゃんは練習の鬼となる事が出来た。

 ハッキリ言って、天才ではない。

 もし天才と言うのなら、それは努力の天才と言えるだろう。


 それに対して太田だが、こちらもムッちゃんと似ていると思われる。

 そもそも僕達が出会ったのも、天の岩戸を想像させるような場所に閉じ籠り、ひたすら字の練習をしていたのだ。

 それもこれも、太田牛一という人物が信長公記という物を書き上げたから、自分も魔王について書きたいという願いからだった。

 考えてみてよ。

 太田は先代の魔王であるロベルトさんには、見捨てられているんだよね。

 次の魔王である僕と、たまたま出会ったから良かったものの、もしあの時太田を無視して先に進んでいたら、コイツは餓死もしくは衰弱死していた可能性が高かった。

 要は運が良かったのだ。

 そんな太田も、努力を積み重ねていくタイプだ。

 今でも習字の練習は欠かしていないようだし、センカクに教わった事も、未だに続けているらしい。

 愚直というのが似合う男。

 それが太田だと思う。


 努力の天才ムッちゃんと、愚直に突き進む太田。

 確かにどちらが強いのか気になるが、その一角に又左は挑むのか。

 頭を使わせて戦えば、二人よりも明らかに又左なんだけどなぁ。

 又左もその辺りに気付いていると思うし、結果がどうなるのかは分からないな。







 強くなる為に。

 太田は又左に対する気持ちを、改めた。


 魔王を窮地に追い込むような行為は、決して許される事ではない。

 この戦いの結果如何では、魔王の未来は暗くなってしまう。

 しかし又左の言葉を聞く限り、魔王を心から裏切っているとは思えなかった。

 ただただ強い相手と戦い、更に自分がその男よりも強いと証明したい。

 又左の言動から、その気持ちが嘘ではないという事だけは信じられた。



「又左殿、強くなりたいという気持ちは分からなくもないです。ワタクシだって、早く真王公記を書きたいという願いがありますから」


「太田殿」


 二人は見つめ合うと、お互いの熱い気持ちを理解し合う。

 江戸城からそれを見ていた魔王は、身震いをした。







「マジかよ」


「どうしたの?」


「太田の奴、真王公記とかいうのを書きたいらしいぞ」


「・・・忘れていると思ったけど、ずっと秘めていたんだなぁ」


 信長公記と同じならば、後世に残っていく読み物となる。

 信長公記ですらある事無い事書かれていたという話なのに、太田の目線からだと僕達はとんでもない聖人扱いされそうで怖い。







「俺の気持ちは譲れない」


「ワタクシも魔王様を勝たせるという使命があります」


「強い太田殿に勝って、俺は最強に近付く!」


「その気持ちに応える為にも、本気で叩き潰させていただく!」


 太田が大きくバルディッシュを振りかぶった。

 地面に強く叩きつけると、そのまま力任せに地面を抉る。



「吹き飛びなさい!」


 地面が爆発したように、土石が又左へと飛んでいく。

 又左は長槍をその場に落とすと、背中の槍に持ち替えて目の前で回した。



「甘いな」


 回転させた槍で土石を防ぐ又左だったが、それは誘いだった。

 突進してくる太田の発見が遅れると、又左は瞬時に左足で踏ん張り、右足で長槍を蹴った。



「ぬおっ!?」


 まさかメインの武器である長槍を手放すだけでなく、蹴り飛ばすとは思わなかった太田。

 僅かに反応が遅れ、慌てて身体をよじった。

 そこに慶次は追い打ちとばかりに、槍で太田の両肩と喉元を狙った。



「くっ!」


「太田殿、本気を出すと言っておいて、それか!?」


 後手に回った太田は、又左の攻撃を防ぐのに手一杯である。

 段々と腕や肩に擦り傷が増えていくと、又左の猛攻は更に激しさを増した。

 そこで太田は、バルディッシュを手放すという暴挙に出る。



「何を!?」


「掴みましたぞ」


 わざと二の腕に槍を刺されると、力を入れて引き抜けないようにする太田。

 又左は押しても引いてもビクともしなくなった槍を諦め、腰の剣を抜いて接近戦に持ち込もうとする。

 だが太田の一歩が、それを阻んだ。



「捕まえました!」


「うっ!」


「どんなに技術を磨こうとも、ワタクシの力の前に屈する。フンッ!」


「ぐあぁぁぁ!!」


 又左を抱き締めるように捕まえた太田は、鯖折りを仕掛ける。

 太田の力の前に、又左は顔を紅潮させて耐え続けている。



「降参しますか?」


「だ、誰がするものか。それにまだ、手が無いわけじゃない」


 又左は一瞬脱力する。

 すると太田は、又左の身体を何故か落としそうになった。

 その瞬間、ポケットから小さなナイフを取り出した又左は、太田の手の甲を斬りつけた。



「っ!」


「まだ戦いは終わらないだろう?」


 切れた手の甲は、力を込めるとすぐに血が止まった。

 それを見た又左は、内心でバケモノ扱いする。



「しかし、よくもまあそんな多彩に武器を扱いますね。イッシー殿のようですよ」


「抜かせ。俺はあんな器用ではないさ。あくまでも扱えそうな物を、厳選して持っているだけに過ぎないよ」


「なるほど。では槍以上に長く、そして大きい鎚のような物も扱えないと判断しても、良さそうですね」


「さあ、それはどうかな?」


 太田の口車に乗り、少し喋り過ぎた。

 又左は顔には出さないが、失敗したと心の中で自分の顔を殴った。



「下手な手加減をすると、危険ですね。魔王様の為にも、そろそろ決めさせていただきます」


 バルディッシュを拾うと、太田は身体に力を込めていく。

 それを見た又左は、むざむざ見ているだけではないと、長槍を拾って太田へと高速で突き続ける。

 それをバルディッシュで防ぐ太田。

 すると又左は、太田の様子が変わった事に気付いた。



「・・・ひと回り大きくなった?」


「ブハァ!まだまだ!」


 身体全体に赤みを帯び、大きくなる太田の身体。

 彼はそれが、太田の暴走の前兆に近い事を知っていた。



「やらせはしない」


 長槍による攻撃が厳しいのなら、全てを駆使して止める。

 太田はバルディッシュで攻撃を防ぐが、その場から動かない。

 それを見抜くと、又左は長槍で太田の足下を狙った。



「甘いですよ!」


 バルディッシュで長槍を叩き落とす太田。

 しかし又左は、そのまま長槍を地面に突き刺した。



「なんですと!?」


 長槍を地面に刺したまま、前へと走る又左。

 そのしなりを利用して、棒高跳びの要領で太田の背後へと回った。



「今は動けないんだろう?」


「しまった!」


 腰の剣を抜くと、太田の腹を突き刺した。

 と思われたのだが、又左の剣が太田の身体に刺さらない。



「な、何だ?」


「間一髪でしたが、間に合いましたね」


「クソッ!」


 剣を納め、距離を取る又左。

 すると動かなかった太田が、後ろに振り返った。



「又左殿、ワタクシが暴走を制御した結果、何に重きを置いたと思いますか?」


「なるほど。その硬さか」


「流石は又左殿。ワタクシと同じく魔王様の片腕だけあって、すぐに気付きましたね」


「そうか。魔王様を守る盾となる為、防御力を重視したんだな?」


「そこまで分かっていましたか。でも、それだけじゃないんですよ」


 又左は一瞬、嫌な予感が過ぎった。

 更に後ろへ下がると、立っていた場所に手斧が突き刺さっていた。



「なっ!?」


「勘が良いですね。このように、筋力にも振り分けられるようになりました」


「チッ!本当にバケモノじゃないか」


 投げつけた手斧で、この威力である。

 もし全力でバルディッシュを振り下ろしてきたら、長槍ごと圧殺されかねない。



「更に、こんな事も出来るようになりました」


「速い!」


 バルディッシュを又左に向かって放り投げると、太田の姿が見当たらなくなった。

 すると右側から強い圧力を感じ、咄嗟に剣で防ぐ又左。

 そこには手斧を二刀流で持ちながら、とんでもないスピードで襲い掛かってくる太田が居た。



「す、凄いな。タツザマ殿、いや佐藤殿に近い戦い方だ」


「その通りですよ。ワタクシは貴方達の鍛錬を、ずっと見てきました。何年も、そう何年も見てきたんです」


 又左と慶次、佐藤の戦いは、安土では毎日見る事が出来た。

 蘭丸やハクトは槍の鍛錬の為に、彼等を参考にしていたくらいだ。

 その姿を遠くから、太田も見ていたのだ。



「ワタクシとは、縁が無い戦い方だと思っていました。しかし、見るだけでも対策として考えるくらいは出来ます。だから見学をしていたのですが、まさかこんな形で役に立つとは思いませんでしたよ」


「えらくペラペラと喋るじゃないか」


 太田の戦い方は、佐藤を参考にしている。

 しかし本家に敵うほどのレベルではない。

 毎日佐藤と戦ってきた又左である。

 戦い慣れた相手に近いとあって、力押しされてきた時と比べると、冷静さを一気に取り戻す事が出来た。



「太田殿」


「何ですか?」


「悪いがそれは、俺には通用しないよ」


「ガハッ!」


 又左の拳が、太田の鳩尾に入った。

 剣で手斧を捌きつつ、彼の攻撃を読んでいた又左。

 所詮は紛い物。

 太田の攻撃には決まったパターンがあり、それは佐藤の攻撃とは比べるまでもなく、ワンパターンだった。



「ど、どうして・・・」


「簡単だ。佐藤殿の言葉を借りるなら、太田殿はパワーファイター。佐藤殿のようなアウトボクサーとは違う。どんなに真似をしようとも、やはり粗は目立つんだよ」


「なるほど。ワタクシは長所を、自ら消してしまったというわけですな。ならば!」


 太田は筋力に力を振り分けると、又左にロングフックをお見舞いする。

 又左は剣で防いだものの、その圧倒的なパワーで大きく吹き飛んだ。

 だがその刃に全力でパンチを叩き込んだ太田の手は、大きく抉れていた。



「その手では、バルディッシュは握れないんじゃないか?」


「問題ありませんよ。太田、ヒーリング」


 バルディッシュのクリスタルが光ると、みるみるうちに太田の手が回復していく。



「まさか、クリスタルに攻撃ではなく回復魔法を封じていたとは」







「ワタクシの長所はこの身体です。ならばそれを長く活かす為と考えたら、回復の方が良いと思ったんですよ。そして又左殿、ワタクシの拳を食らって痺れた手は、治りましたか?」

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