変人3
ドクターコバはヒーローオタクだった。
まさかあのポーズが戦隊モノのパクリだったとは。
そして兄の言っていた事をポロッと口にしたが為に、コバに同志として認められたのだった。
そんな彼が帝国で研究していたのは、魔法と科学の融合。
捕虜となっていたエルフの協力を得て研究を重ねたのだが、結果やはり上手くいかなかったようだ。
結果が出ない研究に王子は次なる策を講じたが、コバはそれに反発。
その話から魔力の根源を探すという興味深い話が出たが、あるのか無いのか分からない代物らしい。
代わりに出した彼の第二案は、これはかなり素晴らしい案だった。
僕は彼にその研究を託した。
彼のような人物は、よくよく考えると周りに居なかった。
創造魔法の発展にも助けになりそうだし、とても貴重な存在かもしれない。
彼の有能さは、研究材料として渡したトライクを改良した事で、証明された。
そして彼は、魔族との共同研究に胸を躍らせ、安土へと旅立って行った。
秀吉の回復を待つ間、残りの一人である日本人が目を覚ます。
金髪の無精髭のおっさんである自称ロックは、これまた胡散臭い男だった。
魔族にオドオドしていたと思ったら、魂のソウルが何とかと言い始める。
そんな彼が気持ち悪くて、コバに続き引っ叩く事になってしまった。
「あ、ごめん」
「・・・良い。とてもソウルフルなビンタだ!」
そんなビンタ、したつもりはない。
というより聞いた事も無い。
「良いよ!キミ、俺っちと一緒に世界を目指そうぜ!」
「世界って何よ?天下統一したいって事?」
「天下統一?何それ?」
話が噛み合わない。
コイツは何を言っているんだ?
混乱している僕を他所に、ハクトがラーメンを持ってきた。
「出来たよー」
「なっ!?何だと!?」
フフフ。
ラーメンに驚いているようだな。
これぞまさしく、僕とハクトの努力の結晶なのだよ!
「キミ!俺っちと一緒に世界を目指さないか!?いや、目指すんだ!」
「え?」
「えっ!?」
ラーメンよりもハクトが目的だと!?
それよりもちょっとムカつくのが、僕を誘った時よりも押しが強い。
「世界って何を目指すの?というより早く食べないと、伸びますよ?」
「そ、そうだね。・・・美味い!なんと料理まで上手とは、これは二度美味しいぞぉ」
ズルズルとラーメンを啜りながら、グフフと笑うキモい男。
「いや〜イイ!ホントにキミ、カワウィウィねぇ〜。そのルックスに声も合ってる。これはもう、天下取ったな」
「だから何のだよ!」
「あ、そこのキミ、キャメラとかないの?キャメラとか。ねもっ!」
あまりにムカついて、またビンタしてしまった。
鼻から麺が出ている。
しかしそんな事にへこたれない彼は、まだハクトへの勧誘を諦めない。
そこに蘭丸が、ラビと共に調査報告に現れた。
「なぁにぃぃぃ!!此処は宝の宝庫か!?」
「何だこのおっさんは?」
「おぉぉぉ!!!彼とは違う少し渋い声か。ちょっと並んでみて。ふむふむ。イイネェ。僕の魂がシャウトし過ぎて、喉が潰れたよ」
じゃあホントの喉も潰してやろうか?
ぜんっぜん人の話を聞かない奴だな。
「な、なあ。気持ち悪いんだけど、どうすればいい?」
「うーん、キミは何か隠しているねぇ。光っているのだけど、何というかメッキ?でもそのメッキを剥がした先には、光り輝くダイヤモンドがある気がしないでもないんだよなぁ」
なんとラビまで勧誘している。
僕と同じ顔なのに、評価が段違いで高い。
何なんだ一体・・・。
「いえいえ、私なんて・・・。こんな感じですか?」
「ふおぉぉぉぉ!!!良いよ良いよ!キミの中のダイヤ、俺っちが磨いちゃうしかないかあぁぁ!?」
「おい、僕の顔でその可愛らしいポーズをやめろ!・・・こんな感じ?」
「あ、マネージャーさん?彼等は何処かの事務所に入ってるのかな?」
「誰がマネージャーだ!!」
思いきり右ストレートを左頬に叩き込んだ。
兄ではないが、なかなか吹っ飛んでくれたよ。
少しだけ気分が晴れた。
「ふむ。キミは良いストレートを持っているね。そっちの道に進みたまえ」
「佐藤さあぁぁぁん!!!」
駄目だ。
完全におちょくられてる気がする。
佐藤さんに泣きついた僕だったが、彼は苦笑いを浮かべ引いていた。
「すまないね。職業柄、光っている人物を見掛けると声を掛けずにいられなくてね。あ、俺っちの仕事は芸能事務所の社長ね。クッソ小さい弱小事務所だけど」
アハハと笑いながら自分の事務所を弱小だと言っているが、少し悲しそうだ。
「それで、岩間さんは何でこの世界に?何かネガティブな事あったんでしょ?芸能事務所だから、事務所の子に手を出してバレたとかでしょ。しかも未成年。それを週刊誌にすっぱ抜かれて、炎上した。多分そうだ。そうに決まってる」
「失敬だなキミは。その通りだけども」
「本当なのかよ!」
「冗談だよ。簡単な話だ。手塩にかけていた子が引き抜かれたってだけ。それでもって訳の分からんグループに入れられてた。没個性の塊になってたのを見て凹んでたら、この世界に呼ばれたってわけ」
うーん、少し可哀想な気もする。
要は裏切られたって事だろう。
【その割には元気だな】
そう言われると確かに。
ハクトと蘭丸を見つけて、テンション上がってるからかな?
「それでロック殿。貴方は何故、あのカプセルの中に入れられていたのですか?」
「弱いからでしょ?」
「これまた失敬な!キミはもう少し、敬う気持ちを持った方が良いな」
「じゃあアンタも僕を敬わないと。魔王だからね?」
「それで、何故あんなのに入ってただっけ?」
おい!
人の事を棚に上げてスルーしやがった。
ご都合主義な奴だな。
「それはだね、ウザがられたからかな?」
「ウザがられた?どうせ可愛い侍女とかイケメンな兵士に、スカウトして回ったんじゃないの?」
「キミは本当に俺っちの行動を見ているかのようだな。その通りだ」
「で、冗談だって言うんだろ?」
「いや、本当にそれをやっていた」
「やってたのかよ!」
異世界に来てまでスカウトとか。
ブレないにも程がある。
「ちょっと歳上だけど、メイド長のロールさんが良い感じなのよ」
「ロールさん気になるけど、次の話に行って」
「まあさっき言った通りで、色々と追いかけ回していたら苦情が上に行っちゃってね。戦力外という扱いに格下げになってカプセル行き」
ちょっと待て。
戦力外扱いになる前は、戦力として扱われてた?
コイツ、戦えるのか?
「ロック殿が戦力外になる前は、何をさせていたので?」
ナイスだ蘭丸!
それ聞きたかったけど、聞いたら負けだと思ってた。
「普通に兵士だよ。魔族の町とか行ったし、戦いもしたし。ただ俺っち、平和主義者だからね。怪我人は出さないのよ」
「怪我人を出さない?自分が怪我するかもしれないのに?」
「その辺の連中には負けないのよ。一応これでも強いから。多分そこの佐藤くん以外には、負けないと思うよ?」
「ナメた事を言ってくれる!」
蘭丸の空気が変わった。
まああの言い方だと、僕でも馬鹿にされてる気がするし。
仕方ない。
ちょっとした模擬戦やるか。
一夜城を出て、目の前の草原にやって来た。
此処なら誰にも邪魔にならないだろう。
「アンタが言った通り、俺は敬う気持ちを持ってアンタと接したつもりだ。だがアンタは、俺達の事を敬うつもりなんか無いよな?別に敬ってほしいとは思わないが、助けられたのなら最低限の節度というものを持つべきじゃないのか?」
「それは確かにそうだ。助けてくれてありがとう。あのカプセルから出してくれた事には、本当に感謝しています。でも、俺っちより弱いのはホントだと思うけど?」
助けられた事には素直に頭を下げた。
しかし、その後の見下したような態度は変わらない。
余程自信があるのだろうか?
「別に俺は、自分が強いとは思っていないさ。佐藤殿や前田兄弟のような、化け物染みた強さも無いし」
「俺、化け物扱いなのか・・・。ちょっとショック」
佐藤さんはガックリ肩を落とした。
強いって言われてるんだから、別に落ち込む必要も無いと思うけど。
「俺っちだって強くないよ。帝国には俺っちなんか一捻りに出来る人外が、何人も居るからね」
聞き捨てならん情報だな。
後で少し聞いておこう。
「イケメンくん、えーと・・・」
「森成利だ!」
「じゃあ森くん。どうぞ」
蘭丸は手に持った槍を構え、ジワジワと間合いを詰めていく。
いきなり突撃しなかったのは、相手が何を得意としているか、分からなかったからだ。
「来ないの?」
「うるさいな!」
煽られていると取ったのか、不機嫌に答える蘭丸。
勢い任せにそのまま槍を連続で突いた。
軽々と避けられると、段々と接近してくるロック。
「そんな感情任せに振るっていたら、何が狙いかバレてしまうよ?」
引き手で戻る槍に合わせ、自らも近付いていく。
その距離は既に一メートルを切っていた。
「それじゃ、これは危険だから」
「は?」
槍を持つ手を握られたと思ったら、身体が反転。
視界が逆さまになり、地面へと転がる蘭丸。
痛みも無く、何をされたか分からない。
しかし、転がされた事と槍が手元から無くなったのは事実だった。
「これで終わりで良いかな?」
「良いんじゃない?アンタの手も読めたし。でも、冷静なら蘭丸でも勝てたと思うけど」
冷静なら魔法を使って動きを限定して、槍で攻撃も出来たはず。
頭に血が上って冷静さを欠いた時点で、負けだったのかもしれない。
「うーん。納得は行かないけど、負けは負けだ」
「佐藤さんも戦ってみる?」
「いや〜、あんまり投げを主体とするのとはやりたくないかな。掴まれたら終わりって印象だし」
「達人だと、掴まなくても投げられるんじゃなかったかな?」
確かそんな事聞いた事あるけど。
間違ってたらごめんなさい。
「蘭丸くんがあんな簡単に投げられちゃうんじゃ、僕じゃお話にならないね。でもあの人、一つ間違ってるよ」
「俺っち何か間違った?」
「佐藤さんに勝てないなら、マオくんにも勝てないよ」
「へぇ、そうなの?」
ちょっとだけ意外そうな顔をしたロック。
でもそこまで興味は無さそうだ。
「そうね。アンタじゃ僕にも兄にも勝てないと思うよ」
「その理由は?」
「掴めないから?」
そう言うと、何も言わずに彼の四方を壁で塞いだ。
「なっ!?あちゃ〜、詠唱破棄だっけ?使える人初めて見たよ。もしかして火の魔法も使えるのかな?」
「それは勿論使えますよ」
「丸焼きにされるか燻製にされるか、お好みでという感じかな。参りました!降参です」
潔く負けを認めた彼は、壁の中で両手を上げていた。
平和主義というか、あんまり戦いたくないのは本当なのかもしれない。
壁を元に戻すと、苦笑いしながら近付いてきた。
「あんな事されたら、俺っちじゃ対応不可だね。帝国に居た頃に敵対しなくて本当に良かったよ」
「ところでその合気道。どうしたの?」
「実家の近くに道場があってね。子供の頃からずっと習っていたんだ。事務所を開いてからも役に立ったし」
芸能事務所に合気道が役に立つ?
全く接点が見えてこない。
「不思議そうだね?簡単だよ。護身術として事務所の子に教えていただけさ」
「なるほど!それは確かに役に立ってる」
この世の中、握手会やら何やらで不特定多数の人と会う機会が多い。
何かあったらと考えると、こういうのを覚えておいて損はないはず。
理に適ってると思った。
「それで、本題に戻っていいかな?」
「本題?」
「キミ達二人、アイドルやってみない?」