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特訓

 やっぱり運命というものはあるのかな。


 最後の代表は、沖田に決まった。

 当初は沖田が居なかったので、後日にしようかと思っていたのだが。

 都合良く全員が集まったので、僕達は誰が誰と戦うのかというのを決めさせてもらった。

 ちなみにこれは決定事項ではない。

 だって相手が誰かなんて、向こうの出方次第で分からないから。

 しかし神様はこう言っていた。

 因果がある人を選べと。

 決定権は無いけれど、おそらく自ずとそうなるんじゃないかと、僕は予想している。

 僕と秀吉は置いといて、誰が誰と戦いたいのかという点で、既に数奇な縁で繋がっている気がした。


 希望した相手の名前を挙げているのだから、当然だと思う人も居るかもしれない。

 でも僕は、マッツンが希望した相手の名を聞いて、なんとなくそう思った。

 マッツンが希望した石田だけど、関係性は薄いとも言える。

 だが史実は違う。

 徳川家康と石田三成と聞けば分かるはずだ。

 関ヶ原で東西に分かれ、天下分け目の戦い。

 マッツンの希望理由は残念に思えたけど、もしかしたらそれは関係無く相手に石田を選ぶのは、決まっていたんじゃないか?

 秀吉側にも、神様が説明をしに行っているはず。

 因果の話をしているとしたら、向こうも僕達の事が頭の中にあるはず。

 下手したら向こうは、こっちから誰が出てくるのか予想出来ているんじゃないか?

 僕と慶次以外にも、もしかしたらヨアヒムとマッツン、そして沖田が出てくると勘付いているんじゃないか?

 僕はなんとなく、そんな気がしてならないのだ。


 神様は、自分は全能じゃないみたいな事を言っていた。

 でもおそらく、こうなるんじゃないかというのは分かっていたと思う。

 もしくは因果という言葉を使って、そう仕向けたのかな?

 信用出来なければ神様の話を無視して、ムッちゃんとか強い人を出すのもアリだった。

 何度連絡しても返事すらしてくれなかったし、返事をくれなかった理由を知らなければ、そうしてたかも。

 全能じゃなくても、予知は出来そう。

 僕達と秀吉が戦って、この世界の未来が決まる。

 僕達はある意味、神様の掌の上で踊らされているのかもしれない。










 ヨアヒムの告白を聞いた僕だが、驚きは無かった。

 なんとなくそんな気がしたから。


 今にして思えば、猫田さんは能登村や海津町に滞在しているより、外に居る時間の方が長かった。

 僕と初めて会った時は、たまたまだったのかもしれない。

 帝国へのスパイ活動で長く滞在していたけど、それもヨアヒムの洗脳を定期的に行う為だと考えると、しっくり来てしまった。



「猫田さんを恨んでる?」


「猫田、蜂須賀の事だな。そうだな、恨んでいるに決まっている。もし秀吉と蜂須賀の二人が居なければ、俺は父と普通の親子関係を築けたと思う」


 バスティとの関係か。

 確かにヨアヒムと彼の関係は、途中から歪になってしまった。

 亡骸も悲しい出来事で失ってしまったし、彼の心が歪むのも無理はない。

 ヨアヒムが自らの力で洗脳を解きかけたあの短い時間が、二人にとって幸せな時だったと思われる。

 それを秀吉達に壊されたのだから、恨んでいないわけがないか。



「逆にお前に問うが、お前は蜂須賀を赦す気なのか?」


「僕は・・・」


 どうなんだろう?

 僕自身、猫田さんと旅をした事もある。

 影魔法を教わったし、僕の中では少し無愛想だけど、良いおじさんというイメージだった。

 おそらくハクトや蘭丸だって、同じだと思う。

 心の底から敵かと思えるかと聞かれたら、否と答えるだろう。



「お前の気持ちが揺らいでいるのは分かった。しかし俺には、奴が赦せる相手ではない。悪いが命を取る事も、俺は辞さないからな」


「・・・そうだね。敵なんだから仕方ない。それに秀吉と一番長い付き合いがあるみたいだし、手加減なんてしてたら負けちゃうかもしれないからね」


「すまんな」


 ヨアヒムは一言僕に謝ると、外に出ていった。



「それじゃ、神様にこちらの代表について連絡しておくよ」








 神様から連絡が来た。

 十日後の朝、関ヶ原の中央にて代表戦を開始するという連絡があった。

 ちなみに先鋒から大将まで居るが、別に三勝した方が勝ちというわけではないらしい。

 勝敗は相手の気持ちを折るまで、続くという事だった。

 完膚なきまで叩きのめせという、ある意味ルール無用の戦いとも言える。



「十日ですか」


「微妙な時間だよね」


「でも、向こうから手を出しては来ないと思います」


 僕が心配していたのは、秀吉による闇討ちである。

 代表になった人物は、向こうにも知れ渡った。

 十日後に戦えないように、代表に対して何かをしてくる。

 特にマッツン辺りは隙だらけだし、やろうと思えば出来そうな気がした。

 だけど官兵衛は、その心配は無いと言った。



「もし襲えば、誰がやったかは明らかです」


「言われてみれば確かに。秀吉ならそんなバレバレの手は、使ってこないか」


 秀吉も馬鹿じゃないからな。

 自ら疑いをかけられて、神様から罰として不戦敗にさせられる。

 万が一だけど、そうならないとも言い切れない。



「幸いこちらでは、代表に怪我人も居ません。後は万全を期すだけかと」


「そうだな」


 万全を期す。

 その為に僕達は、更なるパワーアップを目指している。



 まず沖田だが、今回はイッシーをスパーリングパートナーとして選んでいる。

 その理由は、秀長がどのような相手なのか不明だからだ。

 僕達が知っているのは、奴がネクロマンサーという特殊な能力を持っていて、アンデッドを大量に使役するという事だけだった。

 だから多種多様なアンデッドと戦わされる事を沖田は想定し、色々な武器を扱えて尚且つ一流の腕を持つイッシーを、その相手に相応しいと判断したようだった。



 次に慶次だが、彼もかなりの強敵に声を掛けていた。

 それは東国無双と呼ばれていた、本多忠勝ことカッちゃんである。

 まあ呼ばれたのは史実の本多忠勝だけど、竹槍でもとんでもない強さを発揮するカッちゃんだ。

 槍を持って本気でやれば、それこそ慶次や又左を凌駕する力を持っている気もする。

 しかし又左も、ある意味リミッターをかけていたと思えなくもない。

 慶次と違い、個としての強さに蓋をしていた。

 一人の武人としてより、一人の武将として強くなろうとしていた気がする。

 それも魔王の片腕として、兵を率いて勝とうという気持ちが、そうさせていたんだと思う。

 でも本当は慶次と同様に、個としての強さにこだわっていたんじゃないだろうか?

 それを洗脳されて僕というしがらみが無くなったから、我を取り戻したようにも思えるのだ。

 まあこれは、全て僕の頭の中での考えだけどね。


 いつか又左は、僕に・・・というより兄に挑んでくる。

 でもその前に、慶次との決着をつけるべきだろう。



 そしてマッツンだが、なんと予想外に少しは特訓をしていた。

 その相手は、ハクトと蘭丸である。

 まあマッツンなので、おもいきりスパルタとはいかないが、それでも二人から色々と魔法について教わっているようだ。

 マッツンは光魔法においては、とんでもない力を発揮している。

 光魔法と呼べるシロモノなのかも怪しいが、魔法が使えるようになったのは確かだ。

 その為、他の魔法も使えるようになったんじゃないかというのが、マッツンの考えだった。

 その予想は的中しており、覚えは悪いが魔法を使えるようになっていた。

 まあ難しいのは、優しく教えないと拗ねてやる気を失くすという点だろう。

 そういう意味では、ハクトが講師役で良かったと思っている。



 最後にヨアヒムだが、彼は彼でとんでもない相手を指名していた。

 その相手というのが、今回代表から外された領主四人である。

 柴田勝家の力と丹羽長秀の技。

 佐々成政のスピードに滝川一益の多彩な攻撃。

 蜂須賀小六の戦闘力は、未知数である。

 影魔法が使える以外の知識は無く、後手に回っている。

 その為にヨアヒムは、どのような攻撃でも対応出来るように、彼等を相手にする事にしていた。

 一つだけ懸念があるとするなら魔法による攻撃だが、ヨアヒムは魔法においては負けないという自信があるようだ。

 ちょっと怖いのは、ヨアヒムが領主達と剣技で渡り合えるようになったら、僕達よりも強くなるんじゃないかという心配がある。

 また敵にならない事を、祈るばかりである。



 ちなみに僕は、いや僕達と言った方が正しいかな。

 僕達は別々に、対秀吉の特訓をしている。

 その相手というのが、僕はお市。

 そして兄は、ムッちゃんとの模擬戦をしている。

 まず僕の方だが、お市の吹雪を闇魔法に照らし合わせて対策している。

 彼女は秀吉と戦っているし、闇魔法がどんなものなのかを知っている。

 魔法は全く違うが、それに近いものを吹雪で使ってもらい、黒い物体や広範囲攻撃への対応を覚えられるように頑張っている。


 そして兄はというと、接近戦最強のムッちゃんとの戦いに明け暮れていた。

 秀吉相手に接近戦は必要なのか?

 そう思うかもしれないが、秀吉の魔力量は僕達よりも上かもしれない。

 となると、それを身体強化に全振りしてくるような事があれば、それはもうムッちゃんクラスの強さに匹敵すると考えられたからだった。

 それと僕達は秀吉が、武器を使って戦っている姿を見ていない。

 だから彼は接近戦をしてくるとしても、ムッちゃんのような素手での戦いがメインになるんじゃないかと予想された。



「むぎょえぇぇぇ!!」


「あばばばば!!」


 広範囲に吹雪いてきたら、この人形の姿じゃあ避けられるわけないじゃんか。

 寒さを感じない事だけは、幸いだけど。

 でも知らぬ間に動きが鈍くなっているから、それもそれであまり良くないのかもしれない。



「このバカ力め。と思ったのに、技まで冴えてる。斬りかかったら受け流されて、逆に腕を極められて投げられるとか。どうしろってんだ」


「・・・苦労してるね」


「お前こそ、左半分凍ってるぞ」


 ムッちゃんに投げられた兄は、ボロボロに汚れていた。

 よく見ると擦り傷だらけだ。



「プッ!ダサいな」


「半分凍ってる奴に、言われたかないわ!」


「うっさい!だったらお市と戦ってみろ。兄さんなら何も出来ずに、全身氷漬けにされるからな」


「お前こそムッちゃんの相手してみろよ。人形の頭なんか、軽々吹き飛ばされるだろうけどな」


 ぐぬぬ!

 言わせておけば。

 ・・・でも事実だから、やめておこう。

 向こうも同じ事に気付いたみたいだ。



「ハァ、キツイなぁ」


「ハァ、マジでキツイ」


 疲れたというより、精神的にキツイ。

 ため息をしていた僕達だったが、そんな姿を見ていた彼等は、僕達を許さなかった。








「ヘイヘイ、ケンちゃん。そんな事じゃあベルトは巻けないぞ」

「妾の前でため息が出るなんて、随分と余裕があるではないか。ならばその精神まで、凍らせてやるとしようかのう」

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