戦う相手
よくよく考えると、マッツンも不憫な男だよなぁ。
カッちゃんがマッツンを推したのは、多分ただ単に目立ってほしかっただけだと思う。
でも戦う理由があるかと聞かれたら、しっかりあるんだよね。
領主という関係性よりも、深い関係性が。
そもそも彼は、僕のサポートとして神様に選ばれた存在だった。
本名が松平だからマッツンになったわけだけど、松平は徳川の前の名前になる。
秀吉と家康という名前だけでも、因縁めいた関係とも言えるだろう。
もしかしたらマッツンは、僕よりも秀吉と縁がありそうな気がする。
そこで僕は思ったのだが、マッツンと秀吉の縁というのは、僕が間に入ったから出来た縁なのだろうか?
神様は僕に、サポートとして転生者を送ると言って、マッツンがこの世界にやって来た。
じゃあ松平という名前だったのは、たまたまなのか?
それとも秀吉との縁がありそうな名前だから、選ばれたのか?
もし松平家康という名前がたまたまなのであれば、全く納得出来ないけど、渋々頷いていただろう。
だけど後者だったなら、それって僕とは関係無いところで選考されていたんじゃないか?
考えれば考えるほど、彼はこの世界に呼ばれるのが当然だったように思えるのだ。
同じ転生者でも、キルシェやヴラッドさんのような人も居る。
彼等はそれこそ、偶然転生してきたタイプだと思う。
だけどマッツンの場合は違う。
彼はどう足掻いても、この世界に来るのが決まっていた。
であれば、もしこの戦いが終わったら、彼の役目は何なのだろうか?
僕のサポートで来たというのであれば、秀吉によって不安定になったこの世界を、どうにかする為だと言える。
じゃあ秀吉を倒した後、彼はどうなる?
日本史で考えるのであれば、信長秀吉に続く、次代の天下人となる。
でもこの世界では、信長の子孫が生き延びて・・・ないな。
僕達が乗っ取っちゃった感じで良ければ、信長の子孫が治めている世界となる。
そうなると、秀吉も家康も出番が無い。
正直なところ、マッツンの役目というのが分からない。
神様は何故、彼を選んだのか。
平和になったら、彼はどうするつもりなのか。
マッツン、本気で魔王を目指すのか?
疑問は尽きないけど、願わくば敵対しない方向で考えたいな。
「どうしてアタシじゃ無いのよぉ〜!」
ベティが半ギレで、泣き始めた。
権六はそれを見てオロオロしているが、他は全く動じない。
僕も同じく無視していたのだが、何故反応しないのかと逆に僕をチラチラと見てくる辺り、確実に嘘泣きだと分かっていたからだ。
「もう良いでしょ」
「チッ!ムカつくわね。女の子に優しくしないと、アンタ等モテないわよ」
「だってベティ、女の子じゃないし」
「心は純真な乙女なのよ!」
「嘘泣きする奴は、純真じゃないから」
「さ〜て、陛下。どうして沖田殿にしたのかしら?」
コイツ、自分に不都合だからって無視しやがった。
まあ良い。
これで反対意見も言いづらくなっただろう。
「沖田にした理由か・・・。それは奴も、いや違うな。俺のせいだな」
「陛下のせい?」
ああ、この男はまた、自分で背負い込んで。
何が言いたいのか分かるけど、僕の口から言って良いものなのか。
するとそれを察した官兵衛が、ヨアヒムの気持ちを代弁し始める。
「陛下のせいではないですよ。全ては木下秀吉、あの男が元凶です」
「どういう意味かしら?」
「・・・分かりやすく言えば、陛下は洗脳されていたとはいえ、自分が命令して彼を害したと言いたいのですよ」
「沖田はさ、帝国に他の大陸から連れてこられた連中だ。それは皆も知ってると思う。そして沖田の仲間である壬生狼の連中は、帝国と僕達との戦いで全滅してしまった」
「それを言ったら、倒したのはアタシ達だけどね」
ベティの奴、余計な事を。
こちらも大きな被害を受けているのだ。
無抵抗で、やられたばかりでは居られないだろうに。
「オホン!しかし大元をたどれば、秀吉が命じたからです」
「違うな。俺が洗脳されなければ、こんな事にはならなかった。それはお前にも言える事だろう?」
ヨアヒムは官兵衛を見て言った。
彼の足が不自由な理由を、ヨアヒムは既に勘付いているみたいだ。
ちなみにこの件については、僕も言いたい事がある。
そもそも完全回復を使えば、今でも官兵衛の足は元に戻す事が出来る。
しかし彼は、それを固辞してきたのだ。
理由は自分への戒めだと言う。
僕にはそれが理解出来なかった。
戒めってさ、理不尽な暴力で怪我をして、その大怪我の傷痕を見て次は注意しようって考えだよ。
何処に戒める理由があるの?
おかしいでしょ。
だから僕は、さっさと治すべきだと思っていたのに、官兵衛はそれを良しとしなかった。
だが、今それは終わりを告げる。
「魔王様、足を治して下さい」
「へ?あ、ああ」
どうして急に?と思ったけど、このタイミングで治したのはかなり意味は大きい。
「オイラは・・・私は先に進む事にしました。陛下はどうですか?」
「む・・・う、うーん」
「貴方が罪の意識を持つ必要は無いのです。貴方を長年に渡り、操っていた人が居る。そして被害を受けた人達も、もう前を向いているんです」
「ちょっと待って。意味が分からないわ」
ベティが口を挟んできた。
でも当たり前と言えば当たり前だ。
官兵衛は未だに顔を隠しているし、何故ヨアヒムと大きな関係があるのか、分かっていないのだから。
でもそんなヨアヒムの背中を押したのは、突然現れた沖田だった。
「確かに貴方が近藤さんや僕達に命じて、魔王様達に攻撃を仕掛けさせた」
「沖田!?」
「でもそれは、官兵衛さんが言う通り、操られていたからでしょう?そりゃ仲間が死んだのは、悲しいですよ。でも魔族は弱肉強食の世界。死んだのは、近藤さん達が弱かったからに他ならないんですよね」
「しかし・・・」
「貴方と魔王様が僕を選んだのは、僕に近藤さん達の敵討ちをさせてくれようとしたからですよね」
ちなみに僕は、沖田の言う通りである。
僕は沖田の事を、マッツンと同様に間接的に人生を捻じ曲げられた一人だと思っている。
ヨアヒムが秀吉に洗脳されていなければ、別大陸に住んでいた沖田は仲間と共に暮らせていた。
でもそれは洗脳されてしまったヨアヒムが悪いのではなく、洗脳した方が悪いに決まっている。
だったらどちらを恨めば良いかと聞かれたら、まず間違いなく秀吉だろう。
「というわけだ。僕は沖田が、皆よりも相応しいんじゃないかと思っているわけだが」
「・・・俺も同じ意見だ」
僕の意見にヨアヒムが同意すると、領主達は天を仰いだ。
誰も選ばれなかった。
しかし理由を聞くと、納得せざるを得ないのだろう。
彼等はまだスッキリとしていないような表情だったが、それでも沖田が代表になる事を受け入れた。
これで五人の代表が決まった。
魔王である僕と、兄との決着が待っている慶次。
洗脳されていた事を倍返ししたいヨアヒムに、秀吉が居なければこの世界に来なかったマッツン。
そして同じく、秀吉達が命じなければ仲間は死ななかった沖田。
「さて、これで代表は決まったけど、次なる問題点もある」
「誰が誰と戦うか。問題はそこだよね」
慶次以外は、秀吉との因縁がある。
慶次は又左と戦うので問題無いのだが、他は違う。
「じゃあ僕は、余った人で良いです」
「沖田、そんなんで良いの?」
「誰が相手でも、斬りますから」
沖田が一言言っただけで、急に温度が数度下がったかのように寒さを感じた。
それだけやる気、と言うより斬る気なのだろう。
「他の希望者は?」
「じゃあ俺様が」
「俺は蜂須賀を選ぼう」
「オイ!俺様が先に」
「うるさいクソタヌキ」
「お前ぇぇぇ!!イケメンだからって、何言っても許されると思うなよおぉぉぉ!!」
うん、その辺は僕もマッツンに賛成だ。
でも、何故ヨアヒムが彼を選ぶのか。
ちょっと気になる。
「マッツン、理由を聞いてからでも遅くないよ」
「ぐぬぬ!仕方ない。寛大な俺様が」
「理由は教えない」
「ちょっとくらいは俺様の話を聞こうよ〜」
マッツンが凹み気味になってきた。
しかも教えてくれないときた。
「良いよ良いよ。じゃあ俺様は、この男にする!」
「どうして?」
「フッフッフ。理由は教えな〜い!」
クッ!
ヨアヒムと同じ事を言っているのに、妙にビンタしたい気持ちになってくる。
だが僕よ、抑えるんだ。
これでビンタして拗ねられても、後々面倒だからね。
「そうなると、全員決まりだね」
「そうだな」
「感謝するでござる」
慶次は沖田に感謝した。
沖田も本気の又左とは、ちょっとやってみたかった空気はあった。
でもまあ、そこは空気を読んでくれたみたいだな。
「まずは慶次。相手は当たり前だけど、又左と戦ってもらう」
「絶対に負けないでござる」
慶次は槍を力強く握りしめている。
だけど、この戦いだけはエキシビジョン扱いだろうね。
秀吉の話では、又左の洗脳は解けているような事を言っていたし。
おそらく又左が勝っても、慶次を殺そうとはしないだろうから。
「次に沖田。君は羽柴秀長と戦ってもらう」
「・・・そうですか」
ん?
ちょっと笑ったような気がするんだけど。
もしかして、秀長と戦うのを狙っていたのか?
「マッツン。良かったな、希望通りだぞ」
「ハッハッハ!俺様はコイツには絶対に勝つ!」
「ちなみにさ、もう一回聞くけど。どうして石田を選んだの?」
「なんだなんだ。俺様に興味津々なのか?仕方ないなぁ」
マッツンは満更でもないようで、僕に近づいて耳打ちしてきた。
どうやらヨアヒムには、聞かれなくないらしい。
「気付いてるか?石田だけ、召喚者なんだぜ」
「それくらい分かってるよ」
「他は皆、魔族なんだぜ」
何を当たり前な事を言ってくるんだ。
意味が分からずにいると、コイツの考えは見当違いな理由だった。
「魔族って強そうじゃん。でも石田はヒト族だろ。しかも見た目もムキムキじゃないし。アイツ、絶対弱いぜ」
「・・・そうね」
「だろ!お前もそう思うだろ!?」
「うん、まあ何でも良いや」
コイツ、やっぱり馬鹿だなあ。
ヒト族で唯一、秀吉配下で生き残っているんだ。
弱いはずないのに。
誰を選んでも、強さなんかそう変わらない。
それくらいは、分かってると思ったんだけどなぁ。
「そして俺は、蜂須賀だな」
「ちなみにもう一回理由を聞いても?」
ヨアヒムは少し悩んだ後、マッツンを見てから同じように僕に近づいてくる。
それを見たマッツンが、真っ赤な顔して真似すんなと叫んでいた。
「蜂須賀という男、長く帝国に滞在していて、定期的に城に来ていたのを思い出した。そしてあの男は、秀吉の代わりも務めていた。俺への洗脳をしていたのは、あの男だ」