最後の一人
言われてみれば、そんなに縁は深くないか。
神様の提案により、秀吉達との戦いは少数による団体戦に決まった。
ちなみにこれは、双方にメリットがあると思われる。
まず僕達には、負傷者や死亡者を減らせるというメリットだ。
秀吉達がアンデッドを使役するのと違い、こちらは生身の者達が主力になる。
いくらこちらが強くても、死なない奴等を相手に数の暴力に屈する事も少なくない。
疲れ知らずのアンデッドとは違い、こっちの体力は有限だからね。
ムッちゃんという体力オバケも居るけれど、あんなのが普通だとは言えない。
そして秀吉達のメリットは、主力の差が無くなるという点だろう。
向こうは藤堂や加藤、福島等も戦死している。
こちらも太田にゴリアテ、ベティやタツザマが負傷しているが、戦いまでには流れた血の量も元に戻り、おそらくは前線復帰出来るレベルにある。
主力の数だけで言えば、明らかにこちらが有利だろう。
だが五人しか選べないとなれば、その数も意味を為さない。
数の差ではこちらが不利かもしれないが、戦力の差ではこちらが有利。
その有利不利を平均化させたのが、今回の代表戦になるのだろう。
そして僕達には神様から、ある縛りが設けられた。
それが秀吉達と因果がある人を選ぶ事。
領主達は一斉に名乗りを挙げたけど、言われてみると彼等って、元々そんなに仲が良くないんだよね。
越前と越中は帝国が近くて、上野や長浜、若狭とも遠かったし。
上野国や若狭国は長浜に武器や薬を卸していたみたいだけど、ヒト族との戦争で洗脳とか色々と状況が変わって、ほとんど関わらなくなっていた。
本当に協力関係にあったなら、それでも手を取り合って助け合いをしていたはずなんだ。
それをしなかった時点で、僕の中ではちょっとなあという気持ちが大きい。
同じ領主だからといって、秀吉と仲が良かったかと聞かれたら、皆そうでもないと言うと思う。
むしろ都市を滅ぼされただの攻撃されただの、そんな恨み節だけだろう。
そんなのは程度の問題で、誰もが恨みを持っているんだよね。
それに領主という意味で一番因果関係にあるのは、テンジになってしまうし。
意外な人物の方が、縁が深かったりするんだよなと、ヨアヒムの話を聞いてつくづく思ってしまった。
「マッツンは無いな」
「マッツンは無いわ」
「マッツンは違うと思います」
「私も同意です」
なんと、領主全員からマッツンは違うという意見でまとまっていた。
おそらく本人もカッちゃんに無理矢理連れてこられただけで、そう思っていたんだろう。
しかし揃って否定されると、イラッとしてしまうのも分かる。
マッツンにも反骨精神はあるし、カッちゃんの後ろに隠れていたのに、今の言葉で前に出てきた。
「俺が無いだと?バカ野郎!俺様を誰だと思っていやがる。俺様は、天下無敵の万里小路一夜様だぁぞぉ!?」
歌舞伎の見栄をしてみせるマッツン。
カッちゃんは拍手しているけど、理由にはなっていない。
「さて、候補選びを続けましょうか」
「ちょちょちょ!ちょっと待ってよぉ。一応本当の事を言うからさぁ」
マッツンに背を向けて話し合おうとしていた領主達だったが、本当の事という言葉が彼等を振り向かせた。
「どういう意味かしら?」
「秀吉と縁が深い人が、選ばれるってんだろ?それなら俺様も入るって事だよ」
「何故?そもそもマッツンは、秀吉とは関係無いじゃない」
ベティはマッツンに捲し立てるように否定するが、マッツンはそれを聞き流している。
そしてベティが言い終えた後、自分の核心を突いた話をし始めた。
「秀吉との関係と言って良いのか分からんけど、そもそも俺様は、魔王をサポートする為に転生をさせられたんだ」
「ててて転生!?マッツンって転生者だったの!?」
「知らなかったの?あ、俺様カッちゃん達にしか言ってなかったかも」
「初耳だわい!」
「知らないわよ!」
まあマッツン自体、領主達との関わりは薄かったしな。
知らないのも無理はない。
ただゴブリン達は、マッツンが転生者だと知った上で、王だと認めていたらしい。
それは僕も知らなかった事実だった。
「要は俺様、この世界をどうにかする為に転生したわけだ。そうなると秀吉の悪事が、俺の転生の理由って話だよな?」
珍しいな。
マッツンの言っている事に、間違いはない。
彼も間接的ではあるが、秀吉の被害者であり領主達よりも因果という意味ではかなり深い。
そもそも秀吉が悪事を働かなければ、僕のサポートとしてこの世界に転生すらしてこなかったのだから。
「魔王様はこの事実、知っていたのですか?」
官兵衛はマッツンが嘘を言っているのではと、少し疑っているようだ。
まあ酒を飲む為にちょこちょこ嘘吐いてたから、疑われるのは仕方ない。
でも、この話は本当なんだよね。
「知っていた。隠していたわけじゃないけど、本人が言わなければ、言う必要は無いと思っていたから」
「なるほど。それでは確認します。四人目の候補者は、マッツン殿でよろしいですか?」
「う、うーむ・・・」
「その話を聞いたら、仕方ないわよね」
苦々しい顔ではあるが、マッツンも領主達から認められた。
するとカッちゃんが、マッツンの横で盛り上がった。
「やったぜマッツン!流石は俺達の王様だ」
「ハッハッハ!流石は俺様だな。・・・ん?もしかして俺、秀吉達と戦う事になってないか?」
「おめでとう。君は四人目の代表者だ。うんうん、本当に馬鹿だなぁ」
僕は満面の笑みで彼の両手を握ると、マッツンは自分がやらかした事に気付く。
しかし時すでに遅し。
皆から認められた時点で、今更辞退は出来ない。
「ハ、ハハハ。やっちまったなぁ。まあ良いか」
「良いのでござるか?」
「皆から選ばれたんだ。やるだけやってやるぜ」
やる気を見せるマッツンだが、懸念も残っている。
実は僕達、マッツンの力というものをあまり知らない。
秀吉を一時的に追い詰めたのは見ていたが、今回城と共に閉じ込められた際は、マッツンの力だけでは無理だったと聞いている。
それで代表に選んで、良いのだろうか?
「マッツンについて、どう思う?」
「分かりません。ハッキリ申しますと、マッツン殿だけはずっと未知数なんですよね」
「それは本人の力が?」
「それもありますが、ゴブリン達も一緒です。マッツンの命令が無ければ、彼等はほぼ動きません。そのマッツンが気まぐれなので、ゴブリン達を戦力として数えられなかったんですよね」
言われてみれば確かに。
今でこそ協力的になったマッツンだけど、出会った当初はゴブリンの強さにばかり目が入った。
しかしカッちゃんの危機を見て覚醒したマッツンは、確かに彼等の王様として相応しくなった気もしている。
ゴブリン達の代表として戦うなら、活躍してくれないとも言い切れないか?
「とりあえずマッツン殿に関しては、もう少し様子を見ましょう。それよりも、最後の一人を決めるのが先決です」
「確かに。そうなると、残りは領主達から選ぶべきか?」
でもマッツンの理由を考えると、間接的に強制召喚された連中も、被害者とも言い切れない。
彼等は秀吉に操られたヨアヒムによって、この世界に召喚されたわけだ。
であれば、全員が秀吉の被害者とも言えなくはない。
ただし理由としては、ちょっと弱い気もするんだよなぁ。
「少し私から良いか?」
ヨアヒムが挙手すると、彼はある提案をした。
それは推薦する人は居ないかという話だった。
「皆が自薦する中で、この者は秀吉と因果が深いという人物を選んでみないか?そうする事で誰が秀吉と因縁があるか、見えてくる気がするのだが」
「良いね。僕も賛成だ。それに既に選ばれた代表からして、ベティや権六達から選ぶ必要も無い。皆がコイツだと思う奴を、選ぶべきじゃないかな」
領主以外からも選ばれる。
それを聞いた四人の顔に、焦りが見えた。
ヨアヒムの意見に僕が賛成した事により、彼等は推薦する者を考え始める。
自分が選べない中で、誰が秀吉と因縁深いのか。
しかし領主からは一人は選出させたい。
話し合いが出来ない中でそれを考えるのは、なかなかの難題のようだ。
「皆悩んでいるが、お前はもう考えているのか?」
「なんとなくだけど、彼が良いかなとは思ってる」
「ほう?では後で、それが誰なのか聞かせてもらおう」
ヨアヒムは楽しみだと言わんばかりに、悪い笑みを浮かべる。
「どうだ、決まったか?」
考え込んでいた領主達が、ようやく決めたと顔を上げる。
「では、誰が誰を推薦したのか分かるように、紙に推薦する者と自分の名を書いてくれ」
なるほど。
無記名投票だと、自分の名前を書き込む可能性もある。
この方法なら分からんでもないな。
ちなみにこの投票、テンジを抜いた領主以外に既に決まっている代表者も書いている。
だから紙は、全部で八枚あった。
「それではオイラが発表します」
官兵衛が紙を一枚、広げた。
「まず一人目、柴田様推薦。滝川様」
「ワシか!感謝しますぞ」
満面の笑みを浮かべる一益。
権六も笑みで返しているが、内心は複雑そうだな。
「二枚目、佐々様推薦。丹羽様」
ちょっと予想外だったかな。
ベティなら、権六とか推すと思ってたんだけど。
長秀も冷静そうな顔しているけど、口元が少しニヤけている。
「滝川様推薦。佐々様。丹羽様推薦、柴田様」
「領主達は全員、バラバラに推薦してるのか」
「そうなりますね」
誰かしらが重複するかと思ったんけど、全員が全員違う人を推薦してしまったらしい。
こうなると、領主以外の推薦が大きな意味を為してくる。
「ここからは代表者による推薦です。まず慶次殿」
慶次の推薦か。
彼は一益に、世話になっていた時期があるからなぁ。
「蘭丸殿」
「は?どうして蘭丸!?」
予想外の名前に驚いた僕だが、慶次はその理由を説明してくれた。
「まず拙者が考えたのは、秀吉以外の者との因果でござる。その中で猫田、蜂須賀との因果と考えると、能登村から一緒だったハクトを考えたでござるよ。しかしハクトは、戦闘向きではない。だったらハクトと共に居た蘭丸が、蜂須賀と関係が深いと思ったでござるよ」
「なるほどね」
そういう観点から考えたのか。
これは予想外だった。
「次にマッツン殿。・・・無記名」
「おい」
ヨアヒムがキレ気味にマッツンに詰め寄ろうとしたが、彼は慌てて言い訳を始める。
「ちょっと待ってよ!俺様、秀吉と誰が因縁があるとか知らないから。なんか責任重大っぽいし、適当には書けないなと思ったから、何も書かなかったんだよ」
早口で説明するマッツン。
今の理由を聞いて納得したのか、ヨアヒムは元の位置に戻る。
「残るは魔王様とヨアヒム陛下の二枚ですか。最後ですので、両方見ましょう。・・・え?」
「どうした?」
「まさか二人とも、同じ方の名前を書いているとは思わなかったので」
何!?
ヨアヒムは僕と顔を見合わせると、向こうも予想外といった表情だった。
「誰だ?」
「お二人が選んだ人物。それは沖田殿です」