選別
結局のところ、人というのはほとんど変わらない。
秀吉は自分可愛さに、この世界を変えようとしていた。
それが本当か嘘か分からないけど、僕の言葉に黙ってしまったんだ。
図星だったんだろう。
でも秀吉を擁護するわけじゃないけど、それの何処が悪いのか。
ハッキリ言って僕だって、考えている事の大半は変わりないと思っている。
僕と兄は、この世界で過ごしやすいようにする為に、魔王となった。
ハクトに手伝ってもらってご飯も現代風にアレンジして、魔法の力でエアコンや冷蔵庫みたいな物も作り出した。
建物に関してはそこまで困っていなかったけど、やはり生活環境は大きく変えたと自負している。
これはまさに、僕達の自分可愛さゆえの行動だった。
でも大きな違いもある。
それは誰かを犠牲にして成り立つものじゃなく、誰かも一緒に快適に出来る為の行動という点だ。
言ってしまえば、秀吉は自分の事しか考えていない。
秀長や石田達は、彼の経験に共感して手伝っていたに過ぎない。
いざとなれば秀吉は、誰でも使い捨てられるだろう。
僕も自分の事を最優先に考えるけど、他人に迷惑をかけているつもりは無い。
あ、ちょっと訂正。
長可さんには、かなり迷惑かけていたかもしれない。
僕のやりたい事をする為に、裏でかなり頑張ってくれたと思う。
彼女には本当に感謝しています。
話を元に戻そう。
要は僕も秀吉も、あまり変わらないという話だ。
加えて言えば、マッツンなんか秀吉並みに酷いと思う。
アレこそ自分本位な考え方の権化だろう。
ただし彼も、自分が楽しみつつ周りも楽しませている。
自分可愛さに行動するのは、悪くないんだよ。
ただ、その中に周りも幸せに出来るか出来ないか。
それだけの差だと思う。
秀吉が魔王になっても、独裁者にはならないとは思う。
だけど急な増税とかやりそうなタイプに見える。
自分可愛さで行動するのは、そこまで間違っているとは思わない。
でもやっぱり、程度の差というのが一番大きいんじゃないかな。
「なるほど。間違っていないですね」
「官兵衛、無事だったか」
城に居た連中はどうやって戻ってきたのかと、未だに困惑している。
官兵衛はマッツンの力ではないと聞いていたようで、すぐに外部によるものだと判断したらしい。
「アンデッドの大軍は、確かに厳しいです。しかし魔王様の力が半減する方が、更に厳しい」
「やっぱり後から、いちゃもんつけられたくないからね」
アンデッドは駄目で僕はOKなんて言ったら、確実に後から反則だと言われかねない。
「ところでこの人は?」
「神様」
「はい!?以前と見た目が違うような」
フフフ、官兵衛が驚く姿を見るのは珍しい。
ちょっと得した気分になれた。
「見た目なんて飾りですから」
偉い人にはそれが分からないとでも言いたげだな。
だけどイッシーや官兵衛も、ちょっと同意している。
まあ素性を隠している連中からしたら、そうなるよね。
「おっと!早いですね。向こうは既に決まったみたいですよ」
「えっ!?あ、本当だ」
何も無い空の一部が、黒い円で塗り潰されたようになった。
するとその中から、小さな紙が落ちてきたのだ。
それに書いてあったのは、秀吉達の代表五人の名前だった。
「それでは私は、そろそろ帰らせてもらいますね」
「もう帰るんですか?」
「そうです。それと光属性の彼女にも、私から謝罪しておきますから」
「彼女?ああ、リュミエールか」
「こちらの独断で、この戦いに介入してしまいましたからね。戦争から精鋭による代表戦になってしまいましたし、彼女の楽しみも奪ってしまったかもしれませんから」
楽しみって。
戦争を眺めるのが趣味とか言ったら、ドン引きだけど。
「それともう一つ。介入ついでに言っておきますね」
「何ですか?」
「彼等と戦う人を選ぶなら、因果が深い人にしましょう。これもルールのうちの一つとします」
いきなりルール追加!?
でもまあ、そんな人は沢山居そうだけど。
「それでは私はこれで」
神様は杖をトンと軽く突くと、瞬きをした瞬間には居なくなっていた。
因果と言われても、ちょっと困るんだけど。
「とりあえず、皆と話し合おうか」
「というわけで、戦う人を五人に絞りたいと思います」
まさかの神様介入に、彼等はまだ混乱している。
闇の世界から戻ってきた人の中で、すんなりと状況を受け入れたのは、神様と会っているハクトと蘭丸。
そして官兵衛に太田。
他は転生してきたマッツンくらいだった。
「因果って何だ?」
「え?えーと」
「原因と結果ですね。要は関係が深い。そう考えると良いでしょう」
官兵衛の補足で、マッツンも頷く。
そして我先にと手を挙げたのは、領主達だった。
「奴は長浜の領主だった。同じ領主である私達が、最善ではないですか?」
「それを言ったら官兵衛さんなんか、殺されかけてるけどな」
「しかし官兵衛殿は戦えない。やはり我々が」
「ちょっと待ってほしいでござる!この戦い、拙者は必ず入れてほしいでござるよ」
領主達の間に割って入る慶次。
不満そうな領主達だが、僕は慶次の意見に賛成だった。
その理由は単純に、彼以上に関係が深い人を知らないからだ。
「どうして慶次殿が入るのだ?」
「まず相手の代表の名前を、見てほしいでござる」
そういえば慶次は僕と一緒に居たから見てるけど、皆には秀吉とその精鋭としか伝えていなかった。
僕はテーブルの上に、秀吉から送られてきた紙を置いた。
「・・・アイツ、何してんのよ!?」
「何故、彼の名前が載っているのだ!?」
「前田殿ですと!?」
ベティや一益、長秀達は驚いている。
僕と慶次は話を聞いていたので、なんとなく受け入れてはいる。
彼等からしたら、裏切者に見えるのだろう。
しかし秀吉の洗脳という理由もあるので、複雑そうな表情を浮かべていた。
「兄上とは拙者が戦う。因果という意味では、拙者以外に当てはまる者は存在しないでござるよ」
「僕も慶次に関しては賛成だ。又左と戦うなら、慶次か僕しか居ないと思う」
「で、では他の三人は私達から」
「それに関しても、少しお待ちいただきたい」
「ん?ギュンター!?」
ムッちゃんを連れて現れたギュンター。
彼の魂胆は、ムッちゃんを代表に入れようというものだろう。
ただ問題は領主達は納得しないし、それに彼等と比べると秀吉との因果関係は薄い。
「タケシ殿は強い。それは認めます。しかし秀吉との関係性は薄いと思いますよ」
「柴田殿の言う通り。ワシは上野国を滅ぼされている。その点ではかなり深いと思っておる」
「それを言ったら、アタシの越中だって同じよ」
「越前も似たようなものですね」
「その点で考えると、丹羽殿の若狭国は・・・」
領主達の言い分を聞いていると、確かに若狭国は戦火から免れている。
一時的に奪われたが、大きな被害は唯一受けていない。
これは長秀を差し置いて、三人が選ばれるか?
「ちょっと待って下さい。私はタケシを、推薦しに来たわけじゃない」
「それでは何をしに来たのかね?」
「私が推薦をしたいと思うのは」
「推薦ではない。立候補だ」
「ヨアヒム!?」
突然江戸城に現れた男。
それは帝国の王、ヨアヒムだった。
しかし神様との話から、まだ半日も経っていない。
どうやって来たんだ?
「私が帝国へ定時連絡で今回の話をしたところ、陛下が名乗り出ました」
「いやいやいや!何故ヨアヒム殿が出てくる!?」
領主達は一斉に慌て始めた。
「それでは私から、プレゼンさせていただこう」
ヨアヒムは騒ぐ領主達に我関せずという感じで、マイペースに話を始める。
しかもこういう事に慣れているのか、説明も上手いな。
サラリーマンだったのかな?
それともヨアヒムになってからの知識か?
「まず先に言わせてもらうと、領主である方々は奴と同じ領主であるという以外で、関係はあるのか?深い関係だと言うのであれば、まずその理由を教えてほしい」
「だからワシは、上野国を滅ぼされている」
「アタシも同じよ」
「越前国はずっと攻められていた」
「若狭国は一時的に奪われました」
ヨアヒムは彼等の話に耳を傾けた。
その上で彼は、自らの話を始めた。
「では私もさせていただきましょう。私は十年以上も洗脳されて父を追放し、自分の意志と関係無く王位を簒奪。挙句魔族に戦争を仕掛けて、危うく国を滅ぼすところだった」
・・・改めて聞くと、凄い話だな。
洗脳されている期間も長いが、やらされた事の内容が誰よりも重い。
皆も僕と同意見だからか、誰も反論出来ないみたいだ。
「ハッキリ言おう。私は魔王よりも秀吉と因果は深い。前田殿は兄上との関係もある。私もそれは否定しないし、参加するべきだ」
「感謝するでござる」
「そしてこの中に、秀吉と私より因果があると自負する者が居るなら、是非言ってほしい」
ぶっきらぼうな顔で顔を背ける一益や、目を閉じて受け入れる長秀など、反応はバラバラだけど、異論は無いらしい。
「では私は参加させてもらおう」
「ちょっと待ってほしい!陛下は戦えるのか?」
おっと、ここで一益からの待ったコールだ。
だけど彼等は知らないようだな。
「ヨアヒムの魔法は、かなり強力だよ。応用力で言えば、僕の魔法よりも上かもしれない」
「そんなにですか!?」
もっと言ってしまえば、戦闘に関してだけなら創造魔法よりも強い可能性もある。
それに身体強化も使えて剣も扱えるし、遠近両方バランスが取れているんだよね。
微妙な事を言うと、僕だけで戦ったら負けそうなレベルだし・・・。
「三人目は決定でよろしいかと」
「僕からも異論は無いよ。それにしても、国を空けてこっちに来て良かったの?」
「それに関しては、お前の有能な影武者を借りたからな」
「まさか、ラビを!?」
最近は諜報活動も出来ないから、一緒に避難していると聞いたのだが。
知らないところで仕事してたのね。
「あと二人、それは私達の中から決めますよね?」
流石に領主から誰も選ばないというのは、どうなんだろう。
皆やる気なんだけど、ここでまた乱入者が現れた。
「ちょっと待ってもらっても良いかな?」
「カッちゃん、何しに来たのよ?まさか、アナタまで立候補するとは言わないわよね?」
まさかの乱入者は、カッちゃんこと本多忠勝だった。
しかし彼は顔の前で、手を横に振った。
立候補ではないらしい。
そして彼の後ろには、酒瓶を持ってあんまりやる気無さそうな男が一人。
「俺はマッツンを推薦しに来たんだけど。マッツンなら影魔法にも対応出来るし、悪くないと思うんだよね。どうかな?」




