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真実

 彼は何になりたいのだろうか?


 秀吉は僕と慶次に、何が狙いなのかを話し始めた。

 まず最初に言っておく。

 秀吉は魔王になりたいのか。

 それとも神になりたいのか。

 彼の求めているものは、神様への嫌がらせだと言う。

 この世界は神様の箱庭で、様々な事が自由に操れるらしい。

 秀吉も人生を操られたうちの一人みたいだけど、それで神様を恨むまでは分かる。

 でもその神様に勝とうという気持ちを、長年持ち続けていたのには驚いた。

 そして長年の成果とも言うべきなのか。

 彼はこの世界を見捨てようとしている。

 それも彼の特殊な魔法?

 能力?

 よく分からないが、闇の中に広がる空間を使って、そこを新しい世界にしようというのが彼の目的らしい。

 しかし疑問もある。

 その世界で人は、本当に生きていけるのか?

 そして闇しかない空間で、食べ物は作れるのか?

 おそらくだけど、そういうのは実験済みだろう。

 じゃないと彼等を、空間内に招き入れた意味が無い。

 どのような作物が作れるのかは分からないが、動物や魔物も増やせば肉だって食べられる。

 僕の中で唯一出来るのか怪しいと思うのが、海や川、そして湖のような場所だ。

 水魔法を使えば水は飲めるが、魚や生物はそれ等が無いと生きていく事は出来ない。

 それも秀吉は作れるのだろうか?


 色々と疑問もある秀吉の計画だけど、彼は何がしたいのか分からない。

 そもそも神様と関わりたくないのであれば、自分達だけで闇の世界に住めば良かったのだ。

 嫌がらせの為とはいえ、他人を多人数巻き込むというのは、自己満足に過ぎない。

 自己満足という意味で言えば、彼はこの空間を作り出した人物でもある。

 ある意味神様とやっている事は、同じなんだよね。

 言ってしまえば神の箱庭ならぬ、秀吉の箱庭と言っても過言じゃない。


 嫌がらせの為と言っていても、同じ事をしている。

 そして他人を巻き込んだ時点で、反発されるのは目に見えている。

 秀吉って商売が関係している貿易都市の領主だったから、お金とか扱っていて現実的な考えを持っていると思っていた。

 だけどこの行動から鑑みるに、彼は夢想家の一面の方が大きいような気がした。








「か、神だと!?」


 秀吉は物凄い形相になった。

 ネズミ族だけど、鬼の形相と言っても良い。

 僕でも分かるくらい、怒りが表に出ていた。



「別に隠れていませんよ」


 後ろから声がすると、神様は普通に立っていた。

 しかし僕が過去に抱いた印象とは違い、今回は青年っぽい姿をしていた。

 秀吉も同様の印象だったのか、目を細めている。



「誰ですか?」


「神様だけど」


「私が知っている神とは別人、いや別の神ですよ」


「神様は姿を変えられるんだ。その人の頭の中にある印象が、そのまま反映されるらしいけど」


 僕の話を聞いて、みるみるうちに再び怒りが湧いてきたのだろう。

 有無を言う暇を与える間も無く、秀吉は魔法をぶちかました。



「ちょ、ちょっと!」


「うるさい!死ね!」


「うわあぁぁぁ!!」


 神様は秀吉の魔法に、逃げ惑っている。

 神様って思ったより弱いのか?



「やめなさい!やめなさいって!」


「どの口がやめろと言うか!死ね!」


「私は真実を教える為に、やって来たんですよ!?」


「真実?」


 神様の一言に、秀吉の火水風土といった様々な魔法が止まった。

 大きくため息を吐いた神様は、秀吉の目を見ながら事の始まりを話し始める。









「色々と大変でしたよ。阿久野くんの連絡にも、返事が出来ないくらいにね」


「ほう?連絡を取ろうとしていたんですね」


 ちょっと!

 僕に怒りの矛先が向きかけている。

 そういう思わせぶりな発言は、本当にやめてほしい。



「秀吉から、神様にやられた事を聞いたからね。だから確認をしようと思ったんだ。そしたら連絡が取れないし、てっきり逃げたのかと思ってたよ」


「そんな事しませんよ!」


 秀吉達にしてきた仕打ちが、バレたから逃げた。

 あり得ないだろうと思っていたが、どうやら真実は違うらしい。



「まず最初に、こちらを見て下さい」


 神様は右手を空に向けると、小さなビジョンが浮かび上がった。

 そこには全く見知らぬ人物が、映し出されている。

 見た感じ詐欺師のような、あまり良い印象ではない。



「ゴルァ!テメェ、何勝手に見とるんじゃ!殺すぞ、ボケェ!」


 口悪いな・・・。

 誰だよコイツ。



「早く釈放せんかい!」


「・・・けた」


 ん?

 秀吉が何か呟いたような。

 しかも何か嬉しそうな顔をしている。



「黙りなさい!」


「おいコラ。お前に俺を裁く権利が、あると思ってんのか!?」


「ありますよ。私も上から命令されて、捕まえたんですから」


「チッ!使えない」


 神様に悪態を吐いた後、座り込むガラの悪い男。

 するとそのビジョンに、秀吉が手を触れる。



「ん?汚ねえ手で触るなよ」


「うるさい」


 秀吉が極大の火魔法を、無詠唱でぶちかました。



「オイィィィィ!!何してくれてんの!?」


「コイツだ!コイツが私の人生を、めちゃくちゃにしたんだ!」


「え?」


「コイツが神を騙った、クソ野郎なんだよ!」


 マジか!







「死ね!死ね!」


 秀吉はとにかく、魔法をぶちかましている。

 だが画面の向こうに魔法は届いているものの、悲鳴は一切聞こえてこない。

 むしろ笑い声が聞こえてきている。



「ワハハ!暇潰しにはなるから、もっとやって良いぞ」


「この!死ね!」


「無駄ですよ。仮にも相手は神。普通の魔法なんて、聞きませんから」


「クソッ!失礼、ところで貴方はいったい?」


 ようやく秀吉は、神様の事を見た。

 すると神様は、秀吉に落ち着くように促し、作り出した椅子に座るようにと要求する。

 僕も同じように椅子が用意され、先に座ると秀吉も渋々座ってきた。



「これでよろしいですか?」


「はい、ありがとうございます。先程の質問ですが、自己紹介がまだでしたね。私はこの世界を担当する、神です」


「嘘だ!私が知っている神は」


「あの男ですね」


 画面の向こうを睨みながら、頷く秀吉。

 すると神様は、もう一度自己紹介をやり直した。



「言い直しましょう。私はこの世界を担当している、現職の神です」


「現職?まさか!?」


「そうです。彼は私の前の担当者。前任の神です」


「な、何だって!?」


 秀吉は二人の顔を見比べる。

 全く似ている要素は無く、明らかに現職の方が人が良さそうだった。



「阿久野くんは、私の話を知ってますよね?」


「話って何ですか?」


「覚えていないんですか?私が阿久野くんと出会った時の話ですよ」


 ・・・ヤバイ。

 全然覚えていない。



「その顔は、全く覚えていませんね・・・。私、あの時何と言っていたか、覚えていませんか?」


「身体は治しておく?」


「それも言いましたけど。もっと私の事ですよ。もう!」


 ちょっと顔が良い青年が怒ったところで、僕にメリットは無い。

 これが可愛い女神様なら、おぉ!ってなるんだけどね。



「私はこの世界に来たばかりの、新人だと言ったでしょう」


「あっ!」


 思い出したわ。

 確かにそんな事を言っていた。

 使えないなぁと思っていたけど、それでも神様だったなと感心した記憶がある。



「もしかして、魔王が知っている神は?」


「私が担当したので、私ですね」


 秀吉は天を仰いだ。

 今までの僕への行為が、八つ当たりだったと分かったからだろう。



「それでは元日本人の木下さん。貴方に真実を話しましょう」








 秀吉は息を呑んで黙った。

 まさか神様が出てくるとは思わず、しかもそれが自分が知らない人物だった。

 何が何だか分からなくなった彼は、おとなしく話を聞く気になったようだ。



「まず貴方が受けた行為は、やはりあの男の過失です。その点については、謝罪します」


 神様が頭を下げると、秀吉は目を閉じてその言葉を噛み締めた。

 秀吉は目を開けると、神様に対して質問をした。

 そしてその質問の返答を機に、話は進んでいく。



「過失だと認めましたよね。では私に対して、それ相応の対価を払ってもらえるのですか?」


「それは無いです」


「何故ですか?私は四百年以上もの永い時間、苦しみに苦しんだんです。それともあの男の過失は、自分とは関係無い。だから謝罪の言葉だけで、済ませるというつもりですか?」


「前任とはいえ、神の過失は変わりありません。しかし貴方には、それを持ってしてもあり余る罪がある」


「罪だって!?私が何をしたと言うんです!?」


 秀吉は怒りを露わにしながら、立ち上がった。

 過失を認めておきながら、何もしないというのはあり得ない。

 だが神様は、秀吉の目を見てポツリと一言呟いた。



「異世界召喚」


「なっ!?」


「異世界召喚の事実を、知っていますか?」


「し、知らない」


「嘘言うなよ。僕が教えたじゃないか」


「覚えていない!」


 秀吉の奴、しらばっくれる気だな。

 でも映画やドラマでは、知らないと言ったところで大抵はバレるだけなんだけどなぁ。



「じゃあ教えてあげましょう。異世界召喚を無闇に行うと、世界のバランスが崩れます。そして貴方は、この世界を崩壊する一歩手前まで追い込んだ張本人です」


「そ、それがどうしたと言うんです!?だからと言って、私への過失は消えませんよ」


「さっきも言ったでしょう。あり余る罪で、帳消しになったんです。むしろ、神罰が降らないだけマシだと思って下さい」


 食らわないんかい!

 どうせだから頭に雷の一つや二つ、ドカンと落としてくれても良いのに。



「それと貴方、阿久野くんに感謝しなさい」


「は?何故私が、魔王に感謝をする理由があるんです?」


「彼は帝国を止めた人物です。異世界召喚の回数が減ったおかげで、この世界は崩壊を免れました。もし崩壊すると決まっていたら、貴方には神罰どころか未来永劫の苦痛が待っていましたから」


 恐ろしや。

 未来永劫の苦痛とか、死ぬ事すら許されない感じだろうな。

 地獄ですら千年苦しめば、脱する事が出来ると聞くのに。

 地獄すらも生ぬるいんだろう。



「それにもう一つ。貴方が彼に謝罪しなければならない事が、ありますよね」


「安土を炎上させ、仲間を殺した件ですか?それなら私だって、多くの同胞を失っていますよ」


「そんな事言ったらお前が自己満足の為に、帝国に戦争を仕向けさせなければ、こんな事になってなかったはずなんだけど」


 ハッキリ言って、秀吉は自分本位が過ぎる。

 確かに同情出来なくもないけど、他人の人生を狂わせても関係無いって考えは、前神と同じ考えに近いからね。



「その件ではないです」


 違うんかい!

 ちょっと真面目に文句言いそうになってしまった。



「では、何だと言うんです?」







「知ってましたか?彼は貴方が異世界召喚を行い過ぎたせいで、この世界に来たんですよ。時空が歪んで強制的にこの世界にやって来た。いわば彼は、貴方の被害者です」

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