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秀吉の世界

 人生に見切りをつけていなければ、そりゃ目的もあるに決まってる。


 秀吉は自分が閉じ込めた官兵衛やマッツン達に、会いに行った。

 目的は僕だったのだが、彼等が素直に教えるわけもなく、一悶着あったようだ。

 まあ気持ちは嬉しいよね。

 勝てるか勝てないか分からなくても、僕の為に行動をしてくれたんだから。

 無茶はしないでほしいと思うけど、その反面嬉しさはある。


 そんな秀吉だけど、僕に会いに来た理由が分からない。

 そもそも秀吉は、明らかに僕を嫌っている。

 彼の言動から神様を憎んでいるのは明白であり、その神様に寵愛を受けていると勘違いしていた。

 この戦いが始まる前なら、話し合いをしようと言ってくるのも理解出来る。

 だけどお互いに、引くに引けないところまで来てしまっているのだ。

 秀吉は若い福島を筆頭に、M博士という重要な役割を持つ人も戦死しているし、加藤や藤堂のような戦闘以外でも活躍する人物を失っている。

 僕達だって、仲間である又左が未だに洗脳されたままである。

 それこそ秀吉は、いざとなれば又左の命を盾にする事だって出来るのだ。

 それに太田やゴリアテ達は、多くの同胞を失っている。

 お互いに被害が大きくなってしまった中、今更引くに引けない感はある。

 話し合いをしたいと言われても、オーガやミノタウロスの命を考えると、はいそうですかと即答する気にもなれない。

 それは向こうも、分かっているはずなんだよね。


 それでも秀吉がやって来たという事は、そんな双方の失った命よりも大切な何かがあると、なんとなく勘繰ってしまった。

 そして今、目の前に居る秀吉から、とんでもない事を聞かされたのだが。

 常人では到底理解出来ない内容だった。







 耳を疑った。

 秀吉は単純に、神様に喧嘩を売りたいのだ。

 やっぱりおかしいと思ったんだ。


 だって考えてみてほしい。

 もし自分の人生が嫌気がさしていたら、自ら命を断つ方法もある。

 それをしない時点で何かしらの目的はあるとしても、普通であれば反骨精神から幸せな人生を送ろうとか、そういう方向に考えるのが普通だと思うんだよ。

 なのに彼は、それをしなかった。

 変な話、秀吉の魔法使いとしての力があれば、明らかに良い人生を送ろうと思えば送れるんじゃないだろうか?


 そもそも帝国が魔族に喧嘩を売ったのも、秀吉の命令によるものだった。

 秀吉は自ら、自分達魔族を追い詰めるような行為をしたと言って良い。

 それは秀吉が、自ら魔王になりたいという目的だと聞いたのだが。

 どうやら秀吉は、元々こっちが本来の目的だったのかもしれない。



「それって、この闇の世界と何の関係があるんだ?」


「あの世界は、元々神の箱庭に過ぎない。海と大地を創り、山を立てて人というモルモットを配置する。その先に何が起きるのか、見ているだけだったら私も納得は出来た」


「モルモットでも?」


「そうだ。モルモットと言えど、一生懸命に生きる意味はある。だが神は、それすら踏み躙った。遊び感覚で我々の人生を弄ぶ為、様々な事をしたよ。その一人が私だ」


 秀吉は自分の過去を語った。



 元々は僕達と同じ日本の人間であり、この世界に転生する際、特殊な能力として魔法を覚えられるようになりたいと願ったらしい。

 しかしこの世界で魔法を覚えるのは、ある意味一般的だった。

 彼は転生者としての特典を、無駄にしたのだ。

 そして希望をしていない、ネズミ族への転生をさせられたというものだった。

 挙げ句の果てに秀吉のポジションを希望したにも関わらず、日本と違い信長の血筋が延々と魔王を継ぐ為、彼が魔王になる事は無かった。


 話を聞く限り、確かに嫌がらせにしては酷過ぎる気もする。

 だけどだからといって神様に嫌がらせをするのは、無謀なんじゃないか?

 それよりも自分の幸せの為に動いた方が、その労力も報われる気がするんだけどな。


 それに微妙な事を言えば、秀吉は既に目的を果たしているとも言える。



「一つだけ教えてあげるよ。まず神様への嫌がらせと言ったけど、秀吉は既に達成していると言っても過言じゃないから」


「何ですと?」


「秀吉が帝国を利用して行っていた、異世界召喚。日本人を大量に呼び出した行為だけど、それによってこの世界のバランスは崩れたらしいから。嫌がらせにはなってるよね」


「なっ!し、知らなかった・・・」


 思わぬ事実を突きつけられ、初めて秀吉が驚く顔を見る事が出来た気がする。

 多分これは芝居ではなく、本気で驚いているんだろう。

 この話を知っているのは、僕くらいだろうからね。

 もしかしたらマッツンも聞いているかもしれないが、多分とっくに忘れていると思われる。



「で、嫌がらせをする為に、僕達もあの世界に行けと?」


「違いますよ。魔王、貴方とはしっかりと決着をつけさせていただく。その前にさっきも言った通り、これ以上彼等に被害を出したくないのでね。先に案内させてもらったというわけですよ」


「彼等は確実に危害は加えられないと、考えて良いのかな?」


「そうなりますね。そして貴方を倒した後、私は王国や騎士王国、更に帝国も同じ世界へと案内するつもりです」


 ちょっと待て。

 連合が入っていないのは何故だ?



【そんなの簡単だろ。リュミエールには逆らえないから、連合はパスって事だ】


 あぁ、納得。

 いや、リュミエールがGOサインを出せば、連合も同じように闇の世界行きかな。


 でも他の国まで迎え入れるには、ちょっと疑問もある。



「闇の世界に行ったのは、まだ江戸城と大坂城付近だけ?」


「そうですね」


「じゃあおかしくない?この面積に他の国が入る余地なんて、全く無いでしょ」


 おそらく長浜や若狭、そして越前くらいの魔族領なら入ると思う。

 安土や上野国は滅亡とは言いたくないけど、今では滅んだと同意だ。

 越中国も大木が倒されて、今や都市としての機能は無い。

 だからその三都市くらいしか、大きな魔族領は残っていないだろう。


 そしてこの三都市と比べると、国というのははるかに広い。

 明らかにこの更地に入るとは思えないのだ。


 だけど秀吉は、全く動揺を見せていない。



「それに関しては、世界を広げている最中ですからね。いずれ迎え入れられるくらいの余裕は、生まれますよ」


 広げている最中?

 あっ!



「石田か!」


「流石は魔王、答えにたどり着くのが早いですね」


【なんだなんだ?どういう意味だ?】


 兄さんは覚えてない?

 沖田達が潜入した時、とても広い部屋とか空間があったって。

 石田の能力を使えば、空間は更に拡張出来る。

 そして彼はこの戦いに、姿を見せていない。



【居たな、そんな奴。そうか、奴はこの戦いにおいて、ずっと闇の世界を広げていたって事だな】


 僕の勘だったけど、秀吉の反応からして間違っていないと思う。



「私はね、いずれこの世界を空にしようと思っています。誰も居ない箱庭を見て、奴が何を思うのか。楽しみで仕方ない」


 性格が捻じ曲がっているなぁ。

 あまり他人の事を言える方ではないけど、僕はここまで粘着質じゃないぞ。



「それで、どうして僕とは決着がつけたいんだ?」


「それは秘密です」


 納得出来ないな。

 僕に協力を求めてくるなら、まだ分かる。

 魔王としての能力もあるし、本当に神様が間違っているなら、僕だって協力するのもやぶさかではない。

 なのに彼は、最初から一切それを求めてこなかった。

 やはり魔王になりたいという願望が、まだあるからなのだろうか?

 もしかして、僕だけがこの世界に取り残したいのか!?



「やらせはせん!やらせはせんよ!」


「何がです?」


「僕をこの世界に、一人だけ取り残したいんだろう?」


 秀吉は口を開いたまま、ポンと手を叩いた。



「それ、良いですね」


「し、しまったぁ!自分で自分の首を絞めてしまったか」


「まあそれは、後々考えようと思います。それで本題です」


 秀吉は慶次を見ると、手を差し出した。



「慶次殿、貴方には闇の世界に来てもらいたい」


「ハッ!お断りでござるな」


 やはり又左の件で根に持っているっぽい。

 即答で強く拒否している。



「お兄さんと会わせてあげますが?」


「会わせるのではない。洗脳を解くでござる」


「彼は半分、洗脳が解けてますよ」


「え?」


「私の同胞だという考えは、半分解けています。彼が貴方達と敵対しているのは、半分は彼の意志です」


「嘘だ!」


「わざわざ嘘を言うメリット、私にはありませんけどね」


 秀吉は話を聞こうとしない慶次に、お手上げといったポーズを取った。


 確かに嘘をつくなら、良いですよと言った方が早い。

 その一言を言えば、慶次は秀吉についていくんだから。


 だけどなんとなく、今の言葉に納得出来る気もする。

 又左はイッシー達と右軍で対峙した際、戦闘は行ったが大きな被害を出さなかった。

 今になってみれば、その戦闘を確かめるかのように半日過ごしていたようにも思える。



「慶次、秀吉は嘘を吐いていないと思う」


「だったらどうして!?」


「僕の、というよりは兄の話だけど。又左は僕達と、本気で戦ってみたかったんじゃないか?」


「意味が分からないでござる。いつでも模擬戦で戦えるでござるよ」


「違う。命のやり取りも考えられる、実戦という意味でだよ」


「命のやり取り・・・」


 模擬戦ではある程度追い詰めたら、そこで終わりと言える。

 でも実戦となると、窮地に追い込まれてからの実力というものもある。

 おそらく又左は、それを僕達相手に実感したかったんじゃないか?

 そしてその考えは、元々は慶次が求めていたものとも言えた。



「能登町からずっと出なかった又左だけど、慶次とは血が繋がっているだろう?本当は彼も、それを求めていたんじゃないか?」


「なるほど。理解出来たでござる」


 慶次は僕の説明を聞いて、納得が出来たらしい。

 すると秀吉は、慶次に向かってある提案をした。



「慶次殿が求めるなら、又左殿との戦いをセッティングしても良い」


「何?」


「さっきも言ったけど、闇の世界は拡張しています。私としては二人が戦う場をセッティングするくらいは、余裕で出来ますよ」


「・・・分かった。魔王様、すまぬが拙者、兄上と決着をつけてくるでござる」


「分かった。慶次がそれを希望するなら、僕はそれで良いよ」


 慶次は秀吉の下へ行くと、彼の作り出した真っ黒な板に入っていった。



「魔王様、とりあえず今日はこれで」


「僕と一対一で戦うつもりなんだよね?」


「そうです。神に愛された貴方を倒して、私は闇の世界の魔王になる」


 秀吉が啖呵を切ると、僕と秀吉にある声が頭に響いた。



「闇の世界ですか。なかなか面白い事を考えますね」


「誰だ!?」


「誰だって、知らないの?」


 僕はこの声に聞き覚えがある。

 いや、確かあの人は、姿形が変えられるんだったな。








「姿は見せてくれないんですか?それとも秀吉に申し訳なくて、見せられないんですか?ねえ、出てきて下さいよ。神様」

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