変人2
プロフェッサーK。
幾度となく自分でそう名乗る男、小林。
あまりにしつこく自称プロフェッサーを名乗るものだから、何度も手を出してしまった。
申し訳ないとも思ったり思わなかったりしたが、手を出し過ぎた結果、口調が変わったりした。
何故か頑なに、プロフェッサーである事に拘る小林。
その理由は日本での過去を捨てたからだと言った。
プライバシーにも関わる事だ。
過去の事は詳しくは聞かなかったが、帝国でしてきた事は話してもらった。
一番驚いたのは、このエネルギーを抽出するカプセルを作ったのが、入っていた当の本人だという事だ。
しかも入れられた理由も、王子の命令に背いた事が原因らしい。
その命令とは、魔族を道具に変換する事。
そして彼はそれに反対したという事。
彼の中では、魔族は手を差し伸べるべき隣人だった。
日本人は嫌いだが、魔族は友好的に接する。
それが彼の行動理念だ。
そしてもう一つ驚いた事がある。
あのカプセルの用途が、元々は魔物に対して使うはずだったという事だ。
彼の言葉から嘘ではないと判断した僕達は、これから先どうするのかを尋ねた。
すると、逆に質問が返ってきた。
魔族を助けるのか。
僕は悩んだ末に、魔族もヒト族も困っている人なら助けるという結論に至る。
彼はこう言った。
大変そうだから手伝う。
そしてプロフェッサーの名を捨て、新たにドクターコバとして生きると言ってのけた。
少し考えてしまったが、どちらにしろ小林じゃないか!
何だよ、ドクターコバって。
風水でもやるの?
「この世界で生きたプロフェッサーKは死んだ。そして今、ドクターコバが誕生したのだ!」
「何故、急にプロフェッサーからドクターになったんだ?」
「語呂が良いからだ!」
やはりコイツは頭がおかしい。
つーか、佐藤さんから言われたコバって呼び方。
ただ単に気に入っただけじゃないのか?
「そう、吾輩の名は!」
シュバッ!
「ドクタァァァァ」
パンパーン!
「コバァ!!」
バーン!!
「・・・」
これ、毎回やるのかな?
「ん?反応が無いな。では、違うパターンで」
「いや!分かってる!この世界にドクターコバが誕生したんだ。それくらいでやめにしないと、帝国にまでその名が広まってしまう」
「流石は魔王。分かっている」
分かんねーよ!
大体、何のポーズかも分からねーから!
【え?そうなの?】
知ってるの!?
【プロフェッサーの時は、かなり前の戦隊モノのピンクだった気がする】
何で知ってるんだよ!
今から何年か前だと、もう十年くらい前になるのか?
【そんな前になるかな?ちなみにドクターコバは、俺が高一の時にやってた時の戦隊で、イエローの女の子だ】
く、詳しいな。
そこに驚きを感じるよ。
【前にも言ったけど、練習前に見てたんだ。俺は戦隊モノよりあっちのヒーローが好きだったけど。コバは戦隊モノの方が好きなんだろうな】
なるほど。
それは良い事を聞いた。
「コバは戦隊モノ好きなの?」
「好きである!バッタの方も好きだけど、ピンクとかイエローが可愛いから、やっぱり戦隊モノが一番好きなのである!」
本当だ。
言った通りの反応だった。
「プロフェッサーがピンクで、ドクターはイエロー?」
それを言った瞬間、ガバッと身体を掴まれた。
その目は真剣そのもの。
「知っているのか!?」
「あ、兄が見てたみたいでね。ちょっとは分かる程度だよ?」
「同志!」
コバのハグは、少し苦しかった。
それほど嬉しかったのか、ペラペラと話を始める。
しかし僕には、その話があまり分からない。
【コイツの話、聞いてると凄く分かるわ。本当に好きなんだなぁ】
そこで共感しなくても・・・。
今度じっくりと二人で話していいから、今日はやめてもらおう。
「ところで聞きたいんだが。コバは帝国で主に何を担当していたんだ?」
「カプセル開発以外なら、魔法と科学の融合だな。と言っても、魔法が分かる奴がエルフしか居なかった。話は聞いたが、自然に使っているのもあって説明が難しくてね。ほとんど進まなかった」
魔法と科学の融合ねえ。
そんな事出来たら、日本どころか地球上でトップに立てるだろうよ。
「結局は帝国、王子が痺れを切らした。魔族を切り刻んで、魔力の根源を探せとな。そして根源を科学と掛け合わせて、新たな武器を作れという話になった。ま、断ったんで頓挫したはずだけど。顔真っ赤にしてお前なんか要らんと言われて、後は知っての通りだな」
魔力の根源を探す?
心臓?
脳?
それとも血液の中に流れてたりする?
そもそもそんな物あるのか?
考えても分からないか。
「ちなみに吾輩の第二案は、魔力で動く道具を作成する事だったんだが。それは即却下された。魔族が強化されるだけで、ヒト族にメリットが無いというクソみたいな理由だったがな」
「それ良いじゃない!別に戦争の道具を作れと言ってるわけじゃないし。魔力で動く生活用品でも作ってよ。それこそ洗濯機とか炊飯器とか。脱穀機とかも全自動であると便利だな」
「そんな物なら魔力の変換理論さえ分かれば、すぐに作れそうだけど」
変換理論か。
それなら僕が教えられる気がする。
というより、コバにトライク見せた方が早いかな?
「こ、これは良い物だ!」
トライクを間近で見て、興奮するコバ。
これなら魔力変換の見本になると思う。
「一台、分解用に貰っても良いかな?」
「それは構わない。むしろ改良を加えてほしいかも。例えば外装をFRPとかウレタンに変更とか、もっと軽くて硬い素材に変更とか」
「うむ、それならミスリルも少し頂きたい。配合して新たな素材を作るのも面白そうだ」
新しい素材とな?
なかなか凄い事を言う。
日本に無かった素材だし、弄くり回したいという気持ちは分からなくもない。
「ちょっと良いか?」
「佐藤さん?」
「魔力の変換の前に、普通のバイクとかも作れたりする?」
「普通のバイクであるか?作れなくもないが、燃料はどうするつもりなのだ?」
「前に、油田があるって話をしてた気がするんだけど」
そういえば、そんな事言われたな。
何処にあるかは知らないけど。
なるほど。
それを使って、自分達でも行動出来るようになりたいって事かな。
佐藤さんとかイッシー(仮)、それにズンタッタ達帝国組はトライクが運転出来ない。
魔力が足りないからだが、ガソリンを燃料にすれば、それも解消されるってわけか。
「油田があっても精製技術が無ければ、あまり意味が無いのだが。どうせだから、車も作るとしよう」
「そっちのが助かる」
「うむ。日本車のような立派な物は作れないから、その辺は覚悟しておいてくれ。それよりも、魔族との共同作業。こっちの方が楽しみだぁ」
何が楽しいのかは分からないけど、夢見心地で想像が膨らんでいるようだ。
科学者が仲間になるか。
協力してくれるなら、こんなに頼もしい奴も居ない。
所詮は学生のにわか仕込みより、ちゃんとした専門家の方が圧倒的に良い物が作れそうだし。
僕も時間が許す限り、この人に色々と教わろう。
創造魔法で作れる物が、増えそうだ。
【俺は無理だぁ!絶対に寝る】
その辺は考慮してあるよ。
戦隊モノとかで出てくるような物とか、作れないか聞いてみよう。
【なぬっ!?それは興味深い!俺もそんな授業なら、寝ないで楽しく聞けそうだ】
僕達もまだまだ、強くなる伸び代があるって事だね。
「それでは吾輩、安土へと向かうとしよう。森長可殿に、この手紙を渡せば良いのだな?」
「そうだね・・・」
この人、本当に凄い。
バラしたトライクから、自分でも運転出来るように改良。
しかもバイクの乗り方が分からないという事で、車のようなハンドルとアクセルに作り替えてしまった。
ちなみに燃料は、ネズミ族が持っていた数少ないクリスタルらしい。
腕の立つネズミ族を二人ほど乗せて、三人で向かう事になった。
「・・・魔王は理系の学生だったか?なかなか観点が素晴らしいと思うぞ。吾輩、お主のような部下が欲しかったな」
「それは嬉しいね。僕もコバみたいな人に教わりたい事が沢山あるから、安土に戻ったら色々と教えてくれると助かる。じゃあ、気をつけて向かってくれ。向こうには先に連絡付けておくから、変な事をしない限りは安心だよ」
「向こうで科学に興味ある者を見つけて、手伝ってもらうとしよう。魔王よ、また会おう」
そう言い残し、コバは改良型トライク、というよりほぼ車に乗って去っていった。
プロフェッサーK改めドクターコバは、安土へと旅立った。
しかし肝心の秀吉は、未だに目覚めない。
グレゴルから黒幕の名前を聞く前に倒してしまった為、当の本人に聞くのが一番早かったのだ。
相手が誰だか分からない限り、長浜城へ向かっても意味が無い。
焦ったい時間を過ごす中、もう一人の日本人が目覚めるのだった。
「カプセルの中に入っていた者が目覚めました」
「そうか。今から行く」
どんな人だったかな?
コバの印象が強過ぎて、忘れてしまっていた。
「金髪のおっさんですよ」
「あ!そうそう!無精髭が似合うワイルド系な人だったわ」
ヤンチャ系で正直あまり得意ではないタイプの見た目だった。
会わなくて良いなら、別に無理して行こうとは思わないんだけど。
彼もまた、何か情報を持っているとも限らない。
それを考えると、会わざるを得ないのだ。
部屋の前に着いたが、コバのように暴れている様子は無い。
むしろ静かだった。
「入るよ」
「ま、また魔族!」
あれ?
見た目に反して挙動不審だな。
何というか、ビビってる?
「こんにちは。初めまして。貴方の名前を聞いてもいいかな?」
「名前を聞いて、どうするんですか!?」
「どうするって、名前知らないと呼びづらいでしょ?」
「そ、それだけ?何かされたりはしない?」
「何かって何?食べちゃうぞーみたいな?」
「ヒイィィィ!!やっぱり魔族は人間を食べるのか!!俺っち食べても美味く無いからな!自分で言うのもアレだけど、不摂生の塊だからな!」
見た目と裏腹に、超ビビリだったようだ。
この様子だと、戦力外認定でカプセル行きだったんだろう。
そんな気がする。
【軽くイラっとするタイプだな。俺ならぶん殴っちゃいそう】
やめて。
ビビってるのに更に引いちゃうから、それはやめて。
「人間なんか食べないよ。うちらだって、ラーメンとかカレー食べるし」
「ラーメンだって!?インスタント?」
「インスタントは使ってない。作り方も知らないし」
「久しぶりに食べたいなぁ」
さっきまでのビビリは何処へ行ったのか?
ラーメンという単語を聞いただけで、平静に戻ったようだ。
「別に作る事も出来るけど」
「本当ですか!?是非お願いします!あ、俺っちは岩間。岩間大介。友達は俺っちの事、ロックって呼んでるから。よろしくぅ!」
あ、コバとは違うイラっとする系かもしれない。
チャラい感じがプンプンしてきた。
苦手というか、嫌いな部類になるのかな。
ぶっちゃけ見捨てたい。
「僕は阿久野。真の王と書いてマオ。阿久野真王だ。魔王をしている」
「ま、魔王様!?こんな子供が?」
「本物だからな。俺もぶん殴られてるし」
「あら?日本人の方ですか?」
「俺は佐藤。阿久野くんに助けられて、今では手伝っている」
へー、ほー、ふーん。
その反応は、理解しているのかしていないのか。
判断に困る返事だった。
「魔王様は、もしかして日本人?」
「おっ!?何故分かった?」
「俺っちの魂が、同じソウルを感じたんだよね」
「あ、そう」
言い回しがウザい。
何というか、胡散臭い芸能事務所のスカウトみたいな感じ?
「キミからもとても良いソウルを感じるんだ。どうだ!俺っちと世界を目指さないか?」
指をクネクネと動かしながら、近付いてくる。
「き、気持ち悪い!」
「ぐふっ!」