壊れた意識
竜巻に巻き込まれると、死んでしまうのか?
福島はベティカッちゃんコンビの攻撃により、とうとう倒されてしまった。
その攻撃というのが、福島を竜巻の中に捕らえた後、カッちゃんの竹槍で深手を負わせて、竜巻で起きた雷に打たれて死んだという事になっている。
というのも、ベティの狙いは元々違ったらしい。
彼は竜巻を起こして、福島の日本号の刃を巻き上げて、それで切り刻むというのが本来の狙いだった。
だけど、そうはならなかった。
当たり前だよね。
だって福島の日本号の刃を利用しようとしていたけど、それを具現化するもしないも、福島のさじ加減ひとつだから。
自分の身に日本号の刃が危険だと分かれば、そりゃ刃を消すのが当たり前だし。
普段のベティなら、それくらい分かっていたと思う。
でもあの時のベティは、体力的に余裕が無かった。
傷は無くとも貧血に近い状態だし、深く考えられなかったんじゃなかろうか。
それと二人にとって予想外だったのは、多分雷の存在だろう。
積乱雲が発生すると、竜巻と一緒に雷も起きやすい。
そして雷が起きれば、金属製の物や高い物に落ちやすくなる。
それはベティの持っていた双剣だって、例外ではない。
となると、ベティにも雷が落ちていた可能性とあったという事になる。
運が良かったのは、福島がその前に槍を使おうとした点だろう。
彼がアホみたいに槍を竜巻の中で使おうとしなければ、下手をすると雷がベティに先に落ちていてもおかしくなかった。
体力的にも辛かったからか、福島の首を刎ねた直後に竜巻を収束させたのが、ベティの命を救ったとも言える。
福島による日本号の刃が消え去り、代わりに予想外に発生した雷が福島に当たった。
微妙な事を言えば、ベティの勘違いが福島を倒したと言っても過言ではない。
それでも倒した事には変わりないし、偶然とも言い切れない。
とはいえ、本人達にそれを伝えるのは、野暮というものだろう。
しばらく内緒にしておいて、何かベティへの嫌がらせというタイミングで、この話を暴露してやろうと思う。
彼がこの話を聞いて、どんな顔をするのか楽しみだな。
「タケシねぇ。まあ実力は認めるけど、カッちゃんが言うほどかしら?」
「ベティとは戦闘スタイルが違うからな。それにさっきも言ったが、本気で戦う姿を滅多に見せないし。そう思うのも無理はない」
「そんな事言ってるけど、カッちゃんはタケシの本気を見た事あるの?」
本気を見せない男の本気など、いつ見るというのか。
ベティは図星を突いたと笑みを浮かべているが、彼は違っていた。
「あるぞ」
「何時よ?」
「それは俺と・・・いや、内緒かな」
「途中でやめるなんて、嫌な性格してるわね。まあ良いわ」
タケシが強いのは知っている。
更に本多が認めるくらい、レベルが高かったというだけ。
タケシは鳥人族ではないし、空も飛べない。
ベティの中では他種族の強者という認識しかなく、特に深く理解しようという考えは無かった。
「そのタケシでも、苦戦する相手ねぇ」
「俺達二人だけだったら、負けていたかもしれないな」
「冗談!カッちゃんが本気を出していれば、勝てたでしょうに」
ベティは本多の実力を高く買っている。
だから福島の相手は、彼一人でも実際は出来たのではないかと考えていた。
だが本多の考えは違った。
もし福島に対して自分一人で相手をしたとしても、失礼ながら平野の相手をベティがこなせるとは思っていなかった。
それくらい平野という男は異質であると、本多はタケシとの戦いを見ていて感じていた。
「腕六本に頭三つ。あの姿は人外としか言えないな。ベティなら勝てると思うか?」
「どうかしら。苦戦はする気がするけど」
空も飛ぶし、頭も腕も増える。
ハッキリ言って、不気味以外の何者でもない。
ベティは苦戦する気がすると言ったが、実際には相手にしたくないというのが本音だった。
だからこうも思っていた。
タケシには、何が何でも勝ってもらわないと困ると。
「動くぞ」
「そろそろ決着がつくはずね」
やっぱり腕が六本もあるのは面倒だな。
ただ理由は分からないけど、何故か向こうの動きが単調になっている気がする。
俺が倒せない事に、焦りを感じているのか。
それとも時間制限でもあるのか。
「殺さなくちゃ殺さなくちゃ殺さなくちゃ・・・。殺さないと、僕が殺されるから!」
「ヒト型の決戦兵器でも、乗りそうな言い方だな」
「僕は死なない。貴方を殺すから!」
「うーむ」
会話が成り立たなくなってきた。
いよいよ何かに追い詰められているような、そんな気迫も感じる。
「ん?」
竜巻?
あの中で戦っているのか。
魔法かな?
アレはちょっと、俺もやられたら厳しい。
俺は空飛べないし、竜巻に巻き込まれたら死ぬって聞くし。
「竜巻か」
ギクッ!
もしかして彼も、アレが目に入っちゃった?
まさか、竜巻なんか起こせないよな。
「竜巻・・・積乱雲を発生させて、地上から雲へ上昇気流を起こす。積乱雲の影響から雷も発生しやすい」
「え・・・」
あれれ〜?
おかしいなぁ。
さっきまで切羽詰まった鬼気迫る雰囲気だったのに、急に冷静な科学者みたいな性格になっちゃったんだけど。
「起きろ竜巻!タケシを呑み込め!」
「マジかよおぉぉぉ!!!」
ちょ、ちょっと。
ダイヤモンドって重いかな?
コレを掴んでいれば、吹き飛ばされないかもしれない。
「無駄だ!」
「ですよねえぇぇぇ!!?」
俺を囲んでいたダイヤモンドにしがみついてみたものの、それごと空に巻き上げられてしまった。
大きな岩とか木々も巻き上げられ、たまに俺にぶつかってくる。
ハッキリ言って、俺じゃなかったら死んでるからね。
超回復があるから痛いだけで済んでるけど、普通の人なら骨折レベルじゃ済まないよ。
「雷も発生しろ。そしてタケシに落ちろ!」
「サンダアァァァ!!?」
あばばばば!!
コレは死ねる。
普通なら死ねる。
雷に打たれて死ななかったら、人は何かに覚醒すると聞いた事がある。
俺も何かに覚醒するのだろうか?
「う、動かなくなったか?タケシ、討ち取ったり!」
高らかに勝利を宣言する平野。
鬼気迫る表情が和らぐと、竜巻を消して俺へと近付いてくる。
身体は雷で焼け焦げちゃったし、まだ回復出来ない。
「待てよ。タケシの能力を甘くみてはいけない。確実なる勝利の為に、頭と心臓には銀の弾丸を撃ち込まないと」
何故に銀の弾丸?
聞いた事があるな。
何かの弱点が銀だった気がする。
ニンニクが苦手で、心臓に杭を打たれると死んじゃう奴。
「トドメだ」
「思い出した!吸血鬼だ!」
「生きてるのかよ!」
思わず上半身を起こして、その答えが何だったのか言ってしまった。
いや〜殺される直前に思い出したからか、ちょっと気分良いな。
「死に損ないが!う・・・」
うん?
何か様子がおかしいぞ。
「こ、殺してやる!」
「腕が溶けてる。何が起こってるんだ?」
「お前はあぁぁぁ!!」
語彙力も無くなってしまっているな。
よく見ると頭も一つに戻ってるし、腕も二本になった。
ダイヤモンドの鎧を着て筋肉質で身体が大きいままだけど、バケモノから人間には戻った感はある。
「化けの皮が剥がれた?」
「うぅ、頭が痛い・・・」
もしかして、向こうも限界がやって来たのか?
今がチャンスだろう。
「ムッちゃん!頭だ、頭を狙え。考える力さえ無くなれば、想像なんて出来なくなる。確実に仕留めるんだ!」
「想像の力か。分かった」
平野は頭を抱えて、うずくまってしまった。
おそらく頭が、堪えられないくらい痛いんだろう。
俺がジリジリと近付いても、反応すらしてくれない。
「平野、今終わらせてやる」
「嫌だ。死にたくない。だから僕は!」
「あ?」
まだ剣を作り出す力はあるのか。
何十もの剣が、腹に突き刺さった。
だけど特殊な能力があるわけじゃない。
ただの剣で刺されたくらいじゃ、痛いだけで俺は止められない。
ここで正拳突きをしても、頭蓋骨にダメージが入るだけで、逃げられる可能性もある。
コウちゃんの言葉通りなら、内部から破壊しなくてはいけない。
だとすると、狙うならコレか。
筋力に頼ってはいけない。
勁を身体に巡らせて、身体から発する。
「・・・発勁!」
右手で触れた平野の頭から、内部へと勁が巡っていく。
「死に、たくない・・・」
目や耳から血が流れると、鼻や口からも出血する。
平野は目を見開いたまま、前のめりに倒れた。
「俺の勝ちかな」
タケシはしばらく、平野の横に座り込んでいた。
さっきと同じ轍は踏まない。
トドメを刺したと勘違いして去った結果、ベティ達を危険に追いやってしまった。
だから今度こそ見逃しはしないと、見張っていたのだ。
「タケシちゃん、お疲れさま」
「ベティさんか。俺の早とちりのせいで、悪かったね」
「倒したんだから良いのよ。それよりも、今度は偽者じゃない?」
あ、言われてみればそうか。
今度は逃がさないと見張っていたけど、身体に触れてはいないから、本人か偽者か分からないや。
「本人で合っているだろう」
カッちゃんが先に首筋に手を当てると、それが人形などではない事を確認した。
「今度こそ、本当の勝利だ」
「・・・負けてしまいましたね」
秀長は気まずい空気の中、口を開いた。
秀吉は無表情のまま、それに答える。
「平野は洗脳が失敗だった」
「しかし洗脳しなければ、あそこまで戦えなかったのでは?」
「洗脳をした事で、奴の思考能力を圧迫したのだろう。それに殺す事にばかり重きを置いて、自分の身を守る事と板挟みになってしまった」
「それで途中から、動きが鈍くなったのですね」
秀吉が自ら失敗だと認めてくれたおかげで、秀長の気持ちは軽くなった。
しかし平野という主力を失ったのは大きい。
「勿体なかったな」
「平野を大事に育て過ぎた気もします。もう少し対人経験も、積ませるべきでした」
「大事に育てたから、頭も柔らかく知識も豊富になったのだと思うのだが」
「頭が柔らかくとも、戦いに活かせたかと言われたら・・・」
秀吉と秀長は、反省点を語っていく。
そんな中、秀吉が会話を途切れさせた。
「どうされました?」
「やめよう。平野を失ったのは大きい。だが奴は、大きな貢献をしてくれた」
「貢献?」
「そうだ。奴はタケシの弱点を教えてくれた。それは奴が出てくる前に、別の場所に隔離すれば問題無いという事だ」