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不砕

 ムッちゃんが怒るところって、初めて見たかもしれない。


 平野によって重傷を負ったベティだったが、彼はマッツンの嫌な予感が的中したおかげで助かる事が出来た。

 普段はふざける事が多いマッツンだけど、今回はかなり真剣だった。

 その理由はなんとなく分かる。

 おそらく秀吉の魔法で何処かに飛ばされていた時に、ベティ達とも仲良くなったからだろう。

 今までならゴブリンにしか興味を持たなかったマッツンだけど、その範囲が広くなったというべきなのか。

 まあ他の人とも仲良くなるのは良い事だし、別に文句は無い。


 だけどよく分からないのは、ムッちゃんの方だ。

 彼は僕とは仲が良いが、鳥人族であるベティなんかは特に仲が良いわけではない。

 ベティ達の方は弱肉強食の考えが残っているからか、ムッちゃんが僕と仲が良い事に何も言わないんだけど。

 でもそのムッちゃんがベティがやられた事に対して、感情的になるとは思わなかったんだよね。

 任された事に対する責任感というものかもしれないけど、それでも彼は帝国の人間だ。

 そこまで大きな責任を感じる必要は、無いとも言える。

 確かに軍事においては大将だから、責任を負わなくてはならない。

 それでもこの作戦は、ある意味僕達がお願いして参戦してもらってるわけで、ムッちゃんにはそこまで責任は無い。

 そう考えると、彼は性格としてベティがやられた事に責任を感じ、尚且つ怒りを感じたと言える。

 その怒りは平野に対してなのか、それとも無責任にその場を離れた自分に対してなのかは分からない。

 だけどこれだけは言える。

 馬鹿だけど、やっぱりムッちゃんは良い人だったと。


 ヨアヒムの洗脳が解けた時、帝国とはわだかまりが無いと示す為に祭りを開くつもりだった。

 ムッちゃんやベティ達の関係を見ていると、そんな事をしなくても既にわだかまりなんか無いのかもしれないと思い知らされた気がする。









 ダイヤモンドというより、水晶のような石で蓋をされたタケシは、上を見上げた。

 平野が蓋をする前に何かを言っていた気がしたが、それに返答する間も無く突然目の前が強烈な光で包まれる。

 その瞬間、自分の身体をとてつもない熱さを感じた。


 強烈な光のせいで、目がやられてしまった。

 目は開けられず指を動かそうとするものの、感覚が無い。

 指が消し飛んだか?

 足を動かそうとすると、何かに接着されたようにどうも動きが鈍かった。



「何がどうなっているんだ?」


「・・・んだ!」


 誰かが叫ぶ声が聞こえる。

 しかし全面を塞がれているからか、聞き取りづらい。



「・・・!」


 ダメだ。

 更に聞こえなくなった。

 何が問題なんだ?



 ん?

 突然暗くなったような・・・。



「光を遮るんだ!」


「聞こえた!」


 コウちゃんの声だった。

 どういう事だろう?

 暗くなった気がしたけど、ようやく目が開けられるようになってきた。



「うわっ!何だコレ!?」


 身体が溶けてる!

 目が開かなかったのも瞼が溶けてたからだし、指と足が動かなかったのも、溶けて周りとくっついてたからだ。

 そっか。

 超回復のせいで溶けてる最中に回復していたから、こんな風になってたのかもしれない。

 今はコウちゃんが、ダイヤモンドに土でも被せたのかな?



「邪魔をするな!」


 平野のキレている声が聞こえる。

 多分平野の力で、この土もすぐに弾き飛ばされるだろう。

 だったらその前に、このダイヤモンドを土で覆うように汚す必要があるな。



「・・・自分でやりたいとは思わないけど、コレが一番手っ取り早いかな」


 俺は自ら左手首を切り落とすと、左手を振り回した。



「んぎぎ!めちゃくちゃ痛い・・・」


 ちょっとすると、急に周りが明るくなった。

 土が吹き飛ばされたのだろう。



「な、何だこれは!?」


 ハハ。

 平野の奴、驚いてやがる。

 まさか自分で手を切り落として、その血で周囲を覆うなんて、考えもしなかったろうな。



「クソッ!内側の汚れだから、落とすに落とせないじゃないか!」


 フゥ、アイツが困ってる間に、ちょっと休憩。

 手首も繋がったし、指も動く。

 そろそろ本気で脱出だな。

 ・・・でもこんなに大きいのは、そう簡単に壊したくないかも。



「こっちなら壊さずに済むかな?」


 蓋をされているだけで、こっちはくっついていない気がするんだよね。

 だから、こうすれば!

 俺は真上に拳を突き出した。



「うん、届かない!」


 ダイヤモンドのせいで屈折しているから、何処が天井なのか分からなかった。

 真っ赤になっていても、よく見えないし。

 誰かに見られてたら、ちょっとカッコ悪かったな。

 ただ上に拳を突き出して、何のポーズしてんの?って感じだったし。

 危ない危ない。



「だったらおもいきり、ジャーンプ!!」


「何!?」


 予想通りだったな。

 簡単に外れたわ。



「脱出成功」


「よくやった、ムッちゃん!」


 声の方を見ると、コウちゃんが手を振っている。

 俺も拳を向けて応じると、平野の怒りがこっちまで伝わってきた。



「タァケェシイィィィィ!!」


「こういうダサい手を使わないと、俺には勝てないってか?来いよ」


「殺してやる!」


 目が血走ってやがる。

 この短時間で、よくもまあこんなに性格が変わるものだ。

 薬でもキメたのかな?



「お前は絶対に殺す」


 へぇ、まだ接近戦を挑む勇気はあったのか。

 急降下してくると、俺の目の前で着地した。



「俺を殺すと言っても、どうするつもり?」


「さっきは手が足りなかった。だから今度は、手を増やす!」


「ファッ!?」


 さっきも四本腕だったけど、今度は六本まで増えている。

 コレ、何だっけ?

 あー、あの神様の名前が出てこないな。



「阿修羅みたいだ」


「そう!それだよ!」


 流石はコウちゃん。

 俺が分からない事を、すぐに教えてくれる男。

 魔王様は伊達じゃないね。



「ククク。阿修羅と言うのなら、コチラも増やしてみましょうか」


「うげっ!本物だと気持ち悪いな」


 阿修羅と言ったからか、頭まで三個に増えてしまった。

 阿修羅像は木彫りだったり銅像だったりしたから、まだ分かるんだけど。

 生身の身体で同じモノを見ると、生々しくて本当に気持ち悪く見える。



「・・・なるほど。コレはなかなか良い考えだったのかもしれないな」


 気持ち悪くて微妙なんだが、そうも言ってられない。

 しかも今回は、六本全て剣にしている。

 どうやら接近戦オンリーで、俺に挑むつもりらしい。

 武器を振りながら、歩いて近付いてくる。



「ふむ、バランスは僕が取れば良いのか」


 何言ってんだ?

 独り言か?

 わざわざ待っている理由も無い。

 今度こそ、コイツをしっかりと倒す!



「俺から行くぞ!ハッ!」


 まずは六本の腕の様子を見たい。

 威力よりもスピード重視で考えて、高速で突きを繰り出してみた。

 ただし狙いは、全て急所と呼ばれている所だけだ。



「はっ、ほっ、ふっ」


 な、何だコイツ。

 リズムを取りながら、三個の頭で音楽でも奏でるように息を吐いてくる。

 しかも六本の腕はちゃんとそれに合わせて動いていて、慌てる様子も無い。

 確かに俺は佐藤さんやベティさん達に比べたら、スピードは遅い方だけど。

 それでもめちゃくちゃ遅いってワケじゃ、ないんだけどなぁ。



「だったら威力重視だ!フン、せいや!」


 ハンドスピードで勝てないなら、一撃に込める。

 腰を落として、右拳に重さを乗せて突き出した。



「フン!」


「マジか。ちょっと驚きだわ」


 平野は六本の腕を全て重ねて、剣を盾にして俺の右拳を防いでみせた。

 全ての剣はへし折れ、平野も吹き飛んだようには見えたんだけど、どうやら防ぎきれないと感じたのか、自分から飛んだみたいだ。



「やはり普通の剣では無理か。ならば」


「その感じは、ダイヤモンド?」


「そうだ」


 俺は一度距離を取る為、後ろへ飛んだ。

 そして振り返ってみると、まだ俺の血で真っ赤になったあの物体が残っている事が分かった。

 ・・・フッフッフ。

 ダイヤモンドが増えた!



「もう一度聞くけど、キミを倒したらそれは俺がもらうよ?」


「倒せるなら構わない。欲に塗れた俗物など、神と化した僕の前では敵ではないけどね」


 自分を神とか言っている。

 ん?

 阿修羅って神様だったっけ?

 だったら間違ってないのか。



「だったらその武器、まずはへし折らせてもらうよ」


「それはどうかな?」


 俺が右ストレートを打ち込むと、平野はそれを左腕の一本が剣を使って防いだ。

 すると上の剣がグイッと俺の腕を下へ叩き落とすと、バランスを崩したところに右腕の三本の剣が、俺の首を狙ってきた。



「でも甘いね」


 バランスを崩した俺は右手を地面に着くと、その勢いを利用して左回し蹴りを入れた。

 あわよくば、剣を叩き折る。

 俺はそれくらいの気持ちだったのだが、思った以上に厄介なようだ。

 逆に俺のスネが折れたような音が聞こえ、痛みで顔を歪めた。



「甘かったのはそっちみたいだな」


「そうでもないよ。俺は超回復があるから」


 そのまま前転で距離を取ると、折れたスネの痛みは引いていた。

 地面を軽く蹴るのを見た平野は、ちょっと目を細めている。



「面倒だなって思った?」


「首をへし折るか、刎ねてしまえば死ぬだろう。問題無い」


「そうですか。やれるものならやってみろ!」


 俺は再度、同じように連打から入り、右拳による正拳突きを狙った。

 向こうも俺が同じ攻撃を繰り出している事に気付いたのか、全く同じ動作で防いでいる。

 ただ違うのは、今度は正拳突きだけで終わるのではなく、追撃の一手を用意している点だろう。

 どうせさっきと同じなら、後ろに飛ぶはずだ。

 だからそのまま、前に出れば良いだけの話。

 腰を落として、右拳を前に出す。



「せいっ!って、またかよ!」


 今度は正拳突きを力で抑え込もうと、六本の腕が急に太くなった。

 だけど武器の方は・・・。



「お、折れない?フグッ!」


 峰打ちされた?

 剣で斬られたかと思ったのだが、俺はそのまま勢いよく吹き飛ばされてしまった。

 剣というより、木刀みたいな感覚だ。



「イタタタ。それ、剣じゃないじゃん」


「剣もある」


 よく見ると、刃があるのと無いのがある。

 使い分けてるのか。

 しかし、よく頭がこんがらがらないな。



「よく使いこなせるなと考えているだろう?」


「えっと、まあそうね」


「お前達がヒントをくれたんだ。考える頭が三つあれば、腕は二本ずつ扱う事を考えれば良い。要は分担だよ」


 なるほど。

 足は別としても、そりゃ頭が三つあればそれくらいは出来るか。

 ホント、バケモノみたいになっちゃったな。

 魔族よりも、よっぽどバケモノじゃないか。



「それと、さっきの正拳突きを受けて分かった」


「何が?」







「たとえ世界チャンピオンだろうと、コレは折れない。いくらタケシでも、ダイヤモンドは砕けないんだと確信したよ」

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