変人
エネルギー抽出をしているカプセルが三つ。
その中には日本人と思われる人影が見えた。
何故助けないんだ?
そう聞いたところ、間違った方法で中の人が死んだら、責任が取れないという話だった。
誰も分からないじゃないか。
そう思っていたが、実は一人だけ思い当たる人物が居た。
初めての脱走者だと思われる男、斎田だ。
彼は帝国に滞在していた頃、研究の手伝いをしていたと言っていた。
連絡を取ってみると、やはりやり方を知っていた。
教わった方法で助け出すと、三人のうち一人は既に亡くなっていた。
しかし、二人は助けたのだ。
それだけでも価値があると思われる。
一夜城に運ばれた二人だったが、身体に異常は見当たらなかった。
外傷があるわけでもなく、病気をしている様子も無い。
むしろ秀吉の方が、危険な状態だったくらいだ。
そんな折、一人がとうとう目を覚ました。
覚ましたは良いが、暴れているとの事。
急ぎ二人が寝ていた寝室へと足を運んだ。
扉を開き、軽い自己紹介をすると、彼はこう言った。
プロフェッサーKと。
プロフェッサーKって何だ?
教授?
医者か研究者?
「反応が無いな。分かった。もう一度言おう。今度は本気だ!吾輩の名は!」
シュバっ!
「プロ!」
シュババッ!
「フェッサー!」
シュタシュタダーン!!
「ケエェェェ!!!」
抑えていた二人に僕と案内した男。
そして後ろで待機していた佐藤さん。
全員が目を点にした。
彼は自己紹介をするのに、戦隊ヒーローのようなポーズを取っていた。
ハッキリ言って、何がしたいのか分からない。
「おや?まだ分からないのか?分かった。今一度、今度は全力の本気で」
「分かった!もう良い!もう良いよ!」
何故こんな事を、もう一度見なきゃならんのだ。
断固阻止である。
「気を取り直していこう。貴方の名前は?」
「だからプロフェッサーKだと言っている」
「違うだろ!ちゃんとした名前があるだろ!」
「ちゃんとした名前?」
コイツ、かなりイラっとする。
そもそも日本人が自己紹介で、プロフェッサーって名乗る事自体がおかしいだろうが!
「本名だよ!本名。Kだから、か行だろ。片山とか木下とか、そんな感じか?」
「だからプロフェッサー・・・」
バキッ!
後ろを振り向くと、佐藤さんが扉をぶっ叩いて壊していた。
「小林です」
めっちゃ日本人じゃねーか!
落ち着いて話を聞く為に、見張りをしていた者達には離れてもらった。
これなら彼も、少しは本当の事を話しやすくなるのでは。
そんな配慮があるんだけど、必要あったかな?
「さて、小林さん」
「小林高宏です」
「なるほど。じゃあハッキリと言いましょう。後ろの人は佐藤さん。貴方と同じ日本人だ」
「何!?」
「どうも、佐藤です」
「ちなみに僕は阿久野。見た目はこんなだけど、中身は日本人ね」
「何だって!す・・・」
「す?」
「素晴らしい!見た目は魔族で中身が日本人なんて!何という研究材料。もしもし?貴方の身体、弄くり回して良いですか?」
気持ち悪い!
両手の指をクネクネと動かして、段々と近付いてくる。
これは、変人だ!
「来るな!キモい!」
「はんむらび!」
あまりに堪えきれなくなり、手を出してしまった。
左手で頬にビンタをしてしまい、ベッドから落ちてしまった。
「な!?ぶったね!」
「ご、ごめんなさい!」
「親父にも、ぶ!」
何故か右手が勝手に動いた。
【すまん。何故か頭に来てしまって、手が出てしまった】
そういう事か。
仕方ない。
ごめんなさいって謝った直後に、引っ叩くという暴挙だったが、許してくれるだろう。
「ごめん」
「二度もぶった!おやあっが!」
今度は僕達じゃない。
後ろから佐藤さんが、ゲンコツを落としたのだ。
「なんというか、ムカつく」
「あの、真面目な話なんですけど。私ね、一応色々と開発とか携わってるので。頭が商売道具なので。そう簡単に手を上げないでもらえると助かります」
キャラが変わってしまった。
「ところで小林さん」
「Kと呼んでください」
「小林さん」
「K」
「おい小林」
「ケエェェェ!!!」
ゴン!
「痛い・・・」
涙目で頭を押さえる小林。
何故だか分からないが、この人にはさん付けで呼ぶ気にはなれなかった。
【それ分かってるじゃん。ただウザキャラだからだって、気付いてるじゃん】
黙らっしゃい!
そういうのは言わないが吉なの!
「ところで小林。何故Kに拘るんだ?」
「吾輩、過去を捨てたので。この世界では小林ではなく、Kとして生きていくと決めたからである」
その喋り方もイラっとさせられるが、顔を見る限り真面目に言っているのは分かる。
過去に何かあったというのは、それだけで明白だ。
「無理強いしてまで聞こうとは思わないよ。でも、アンタが帝国で何をしていたかは、ちゃんと話してほしい。ついでに、この横で寝ている人の事も」
「横で寝ている男は、正直何も知らないな。吾輩よりも後に入れられたんじゃないか?」
一瞥しただけだが、興味も無いのかすぐに目を逸らした。
嘘をついている感じはしない。
本当に知らないのだろう。
「そして帝国で私がしていた仕事。それは、カプセルの製造とエネルギーの抽出だ」
「ハァ!?」
何を言っているんだ?
製造と抽出をしていた人物が、何故そのカプセルに入れられなくてはならない。
普通に考えれば、ありえない話だと思うのだが。
「魔王の反応はよく分かる。何故カプセルに入っていたか、だろう?それは吾輩が、帝国の、いや王子の命令に背いたからだな」
「王子の命令か。何を言われて断ったの?」
「魔族を道具に変換しろ、と言われてね。正直、日本人はどうでもいいと思った。しかし魔族は駄目だ。まだ研究していないからな」
「それは、研究材料として魔族を道具にするのは勿体ないと感じたという事か?」
「という名目で断った」
ん?
その言い草だと、実情は違う?
「吾輩が見た魔族は、エルフ達だった。エルフは皆、帝国の人間に何かをされて、命令に背けないようにされていた。しかし会話は出来た。吾輩はこの世界の見た事の無い種族と出会い、その心は踊ったのだ。キミ達は獣人やドワーフ達と会って、何か心に感じなかったか?」
「そう言われるとね」
「あぁ」
僕も佐藤さんも、その言葉には反対しなかった。
僕はハクトや蘭丸達が親友だし、兄なんか太田を鍛え上げている。
佐藤さんは又左とかなり仲が良い。
見ていない所で、親友になっていてもおかしくないくらいだ。
「簡単に言おう。日本人は嫌いだが、魔族は好きだ。彼等の話は興味深い。純粋だしな。吾輩が担当した者は無碍に扱わなかったからか、とてもフレンドリーだったぞ。だから助けたいと思った」
「物凄く単純な理由だな。自分で頭が良いという割には、そんな理由で上の命令に背くのは、頭の良い人間がやる事じゃないんじゃない?」
「ハッハッハ!単純明快で結構!あの王子の思考は、日本人の利益しか求めない連中と似ている。利益が出れば、人が壊れようが関係無いって考えなんだよ」
なんかもう、日本人というよりは人間嫌いの部類に入っている気がする。
魔族とは仲良くしたいけど、ヒト族なんかどうなっていい。
そう言っているのが、言葉の節々から垣間見える。
「でもお前は、そんな事言っておいてやってる事は同じじゃないか。あのカプセルに日本人を入れて、利益を得ている。何が違うんだ?」
佐藤さんの指摘はもっともだ。
日本人を犠牲にしてエネルギーにしている時点で、コイツに文句は言えない。
「それは奴等が勝手に始めた事だ。元々あのカプセルは、日本人を入れる為に作った物じゃない。魔物を入れる為に作ったんだ」
「何だって!?」
「魔物をエネルギーに変換する事が出来れば、周囲の安全とエネルギーを作り出す事で一石二鳥になれる。そういう考えがあったのだ。しかし効率が悪かった。例えばクリスタルにエネルギーを満タンに補充しようとすると、魔物が五十体必要と言われている」
「それが日本人だったら?」
「一人でクリスタル四つだ」
全然違うじゃねーか!
日本人一人で魔物二百体と同エネルギー。
楽してエネルギーを稼ぎたいなら、日本人を選んでもおかしくないか。
「さっきも言ったが、吾輩は日本人が嫌いだ。だから別に止めるつもりも無かった。それだけだ」
「質問良い?」
「何だ?」
「さっきから日本人って連呼してるけど、外国人なら別に良いのか?」
それは僕も思った。
何故日本人限定なのか。
佐藤さん、微妙に聞きにくかった事をストレートに聞いてくれて、ありがとう。
「別に日本人だけではないぞ?だけど、欧米人はボディタッチが多くて良い。たまに胸が腕に当たったりすると、嬉しくなる」
「・・・ムッツリか」
「ムッツリですね」
このエロ野郎が!
僕にもその外国人、紹介してください!
話を聞く限りあのカプセルも、日本人を犠牲にする目的で作り出したわけではないのは分かった。
それに魔族に対して、忌避感があるとも思えない。
むしろ友好的な印象を持った。
だからこそ、今この場で聞いておかなくてはならない。
「小林さんは、今後どうするつもり?」
「だからKと呼べと・・・。そうだな。どうするか」
僕の真面目な口調に、自分も真剣に答えなくてはならないと分かってくれたらしい。
「アンタ、こっちで知り合いとか居るのか?」
「知り合い?特には居ないな。別に仲良しこよしで、仕事をしていたわけではないし。強いて言えば、ヒト族なら一人だけ。キャメルという帝国軍人とは、少し話をしたな」
キャメル?
何処かで聞いたような?
「キャメルって、もしかして城作りの名人か?」
「そんな事は知らん。召喚された子供を渡して以来、彼とは会っていないしな。噂だと帝国を裏切ったと聞いているが」
「ビビディか!!」
「おぉ、そんな名前だったはず。魔王は知っているのか?」
キャメルって言われたから、最初は全然分からんかったけど。
佐藤さんは覚えていたようだ。
なるほど。
コイツがチカを引き渡した研究者だったか。
世間とは狭いというか、奇縁というか。
「コバ、お前こっちに来いよ」
「こ、コバ!?」
「阿久野くんの所なら、魔族も大勢居る。それに魔族を助けたいんだろ?だったら魔王と共に行動した方が、確実じゃないか?」
「う、うーむ。正論ではあるな」
佐藤さんが勝手に話を進めてしまったが、それはそれで好都合。
帝国に戻るというなら対処するつもりだったが、考え込んだ時点でそれは無いと思った。
それなら彼の意思を尊重したい。
だから敢えて誘わなかったんだけど。
「僕はどっちでも構わない。自分がやりたい事を、自分で考えて決めてくれ。ただし、日本人に危害を加えるような事をするなら、お前を敵として扱うぞ」
「別に召喚者とは敵対しているわけではない。嫌いな奴は嫌いだが、人間全部がそうじゃないくらいは吾輩でも分かっているさ」
人間嫌いではあるが、人間不信ではないって感じかな。
真面目に話している分には、マトモに受け答えしてくれるし。
悪い奴ではない。
「一つ聞きたい」
「何?」
「魔王は魔族を助ける為に戦っているのか?」
難しい質問だな。
その通りとも言えなくもないけど、魂を取り戻すのが第一目標とも言えるし。
【まどろっこしいな!結果的に助けるんだから、そうだって言っても良いだろ?】
だって、コイツだって真面目に聞いてきているんだ。
そんないい加減な気持ちで答えるのは悪いだろう?
【じゃあこう言え。魔族もヒト族も俺も助ける】
なんじゃそりゃ!
【魔王なんだ。それくらい強欲だって文句無いだろ】
そんな適当な返事でいいのかな。
【俺達は魔王なんだ。それくらい言ったって許される】
分かった。
「魔族を助けるのは当たり前だな。だが、ヒト族も助ける。困ってる連中は極力助ける。僕は魔王だからな。我儘だとは言わせない」
「なっ!?」
「別に良いでしょ?それくらい」
「阿久野くん、それは・・・出来なくもないのか?」
二人とも絶句してるけど、キルシェ達を見捨てるつもりもない。
それなら最初から、助ける方向で考えた方が良いのだ。
「魔王とは強欲なのだな。本当に中身が日本人なのか?いや、日本人だからこそ強欲なんだ」
「強欲で悪いか?」
「いや、そんな欲なら別に良いんじゃないか?しかし、それは険しい道だろう。だからこそ、この吾輩がお前の手助けをしようではないか!」
「コバ!」
コバが右手を差し出してきた。
僕も右手を差し出そうとすると、またあの号泣野郎が登場だ。
「お、お前ぇぇぇ!!!良い奴じゃないかあぁぁ!!!」
ドン引きのコバは彼を無視し、こう言った。
「帝国で活躍したプロフェッサーKはもう居ない。今から吾輩は、ドクターコバだ!!」